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第二章

アビゲールの本気

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マリアベルは今年は領地に帰れなかったので年越しは修道院の女神の像の前で過ごした。

クラレンスの領地から、ウレクラの花束と女神の聖水が届けられ、女神像に捧げられた。

「女神様、今年は色々な事が起こりました。

折角の縁付けていただいたのに切ってしまいました。すみません。

私はこのまま、走り続けてもよいのでしょうか?
ちょっと不安になりました。
来年は女性保護団体の設立を致しとうございます。
見守っていて下さい。」

神殿の鐘が鳴り出した。そろそろ年が明ける

ウトウトとしていた私の頭の中に何かが聞こえた。


~~~~~~~~~~~ 

この国は妾の国じゃ、
妾の愛すべき国じゃ、、、、

、、、、、、、、

、、、、、、、、、、、、、

、、、、!、、、、! 、、、





、、、、、、、、、、

、、、、、••••••

全く駄犬であったな、すまぬ•••


~~~~~~~~~~~~~~



目が覚めた。

駄犬?、誰かそう言ったかしら???

また今年も、眠ってしまったわ。
女神様に、お会いしたかったのに•••


「お嬢様、年が明けましたよ!
今回は女神様にお会い出来ましたか?」

「また寝ちゃったのよー! ねえ?、誰か犬飼ってる? 」

「お嬢様、また寝ぼけているんですか?」

何だか、毎年、ガブリエルに、同じ事言われている気がした。


****************


その日の朝、私の元に朗報が伝えられた。

「マスグレープ伯爵が謝罪してきた」

父とクレイ大臣が連れ立って報告にきたのだ。



マスグレープ伯爵夫人はこの事実を知らなかったのだ。
パーティーに出れば、人に避けられ、
人に会えば、遠回しに嫌味を言われ、
お茶会にも呼ばれなくなった。

夫人は自力で原因を探し当てた。

夫が友人の結婚パーティーで、その妻となる娘と王妹でもある母親を侮辱した。

そして、稀代の悪女アイラ•クロスリー を今でも崇拝して止まない事、を突き止めた。

夫の目を覚まさせようと、友人のつてを頼み、知り合いの商人より 証拠となる [噂の絵と手紙] を入手し、夫に突き付けた。

そして、裁判所から提示された賠償金の倍の金額を、和解金としてクラレンスに支払う意向を示したのだった。

マスグレープ伯爵夫人は敬虔な女神の使徒であった。
夫が、不道徳な女にうつつを抜かして、女神の降りられた娘と、高貴なる王族の姫を侮辱した事は、到底許せない事であったのだ。

こうして、マリアベルの [名誉毀損事件] は全て和解で幕を閉じた。


*****************


多額の賠償金を元手にマリアベルは [女性保護団体] の設立を急いだ。

三月末で本年度の申請が終わる。
出来れば今期中に団体設立を議会で承認して貰いたかった。

その為に、クレイ卿は息子達と一緒に事務所を設立して、息子達にマリアベルの仕事を下請けさせたのだ。




[ 女性の尊厳を守る会 ]
多くの協賛人の中に紛れて、“ビング商会” という名が下の方に存在していた。
これは、ビング•クロスリーが設立した個人商会である


       ~~~~~~~~~~


マリアベルが忙しく動いているなか、失意のウーラノスの元に、フレディとアビゲールが訪問していた。

「 アニキ••• 」

「フレディ、もう言ってくれるな。済んだ事だ。」

「そういう問題じゃないだろ! 
俺は真実が知りたいんだ。アニキともあろう者が•••、どうしてアイツらにマリーが罵られてるのを放っておいたんだよぉ~
本当は、何か訳があったんだろ?」

「••••面目無い、、、
あの時は本当にアイツらの声が聞こえていなかったんだ。情け無い。
昼過ぎに起きて、クレイ卿が書類を持って来るまで、マリアベル様がお帰りになった事さえ気が付かなかったのだ、」


「そんな事があるかよ!!!

“ いつ何時、何かあるか分からない、
いつも、耳を澄ませ、空気を察しろ “ 

そう言っていたのは、他ならぬアニキだろう。

尊敬してたのに、、、
アニキならマリーを任せられると思ってたのに•••• 」

フレディは悔しさで手が震えた。


「 ドゥラーク卿、わたくしの質問にお答えしていただけますか?」

いつもホワンとしているアビゲールが、キリリとした面持ちで言った。

「 百歩譲って、聴こえなかった事は仕方ないたとします。
しかし、その日は結婚の日、何故、夫婦の寝室へ行かれませんでしたの?
行っていれば、会話でその様な事があったとわかったはずです。」

「 イヤ、その、、、
マリアベル様はまだ、お若く、、、
私としては、暫くは白い結婚として、、、」

「 白い結婚でも、新婚初夜は夫婦は同じ寝室を使う、それは常識です。
マリアベル様と相談して、そうお決めになったのですか?
ドゥラーク卿、貴方の御一存でしょうか? 」

「 その、、私がそう決めた、、、」


ピシ、ピシ、ガタン、ガタガタ

屋敷が揺れた

アビゲールの周りに風が起こった。
木々が台風の時のように窓や建物を打ち付けている。

「 マリアベル様はご結婚に際し、何か、とてもお悩みになっておりました。
それは、見ていても気の毒な程に•••
それでも、ご自分で納得されてのご結婚でした。


わたくしもノートを読ませていただきましたが••••• 


それよりも、ドゥラーク様、わたくしが問いたいのは貴方様の態度です。

目も合わせてくれず
エスコートの時も手を取ってくれず
話掛けても会話をしてくれず

これはどう言う事なのですか!!!」

“ガシャン” 
窓が割れ、多数の木の枝が室内に勢いよく突っ込んで来た。

「 貴方様はそれで良いかもしれません。
しかし、貴方は、マリアベル様のお気持ちを考えて見た事がありますか???

婚約者に手も取って貰えず、、、1人取り残された、あの方の、寂しい気持ちが想像出来ますか?」

アビゲールの周りは竜巻が取り巻き、家具が浮きあがってクルクルと回っていた。
そして、室内には多数の木の枝が、まるで矢を放ったようにドカ、ドカ、と差し込んで来た。

「わたくしのマリアベル様を傷付けた、その報いを、、、思い知るがいい!」

アビゲールがそう言った途端、

庭よりシュルシュルと薔薇の蔓が伸びてきてウーラノスを巻き上げグイグイと締め付けた。

「 アビー、それ以上はダメだ! アニキが死んでしまう」

フレディが止めに入った

ウーラノスの身体には血が滲んでいる。

しかしウーラノスは言った
「 殺してくれ、このまま、死なせてくれ•••
もう、生きてる価値も無い 」

その言葉を聞いたフレディは、怒って薔薇の蔓を切りウーラノスを救出した。

「 何言ってんだよ! 俺のアビーを殺人者にする気か!!!
自分が辛いからって、、、、
死にたいなら自分で死ねよ! 」

((ガッツン)) フレディは剣をウーラノスの目の前に刺した。

「 最低だな 」


アビゲールは肩で息をしていた。

テーブルにかろうじて残っていた紅茶を飲み干し、気を鎮め言った

「 わたくしは謝りません。
損害は弁償いたしますので、ウッドフィールドまで金額をご連絡ください。」

そして、アビゲールらしからぬ大声を出した。

「 何が、国内最強の騎士ですか!マリアベル様を守る?

身体を守っても、心を守れないなら、守ったとはいえません。

心あっての身体です。

殿方達は、何か勘違いしております!!!

わたくし達女性にだって、心があるのです!!!!! 」

アビゲールはそう言い放ち、割れた窓より外に出た。

彼女は、詩を口ずさみながらクルクルと回り、大地に口付けをした。

風は止み、庭の木々は元の大きさに戻り、薔薇の蔓はシュルシュルと縮んでいった。

「 ちょっと、やり過ぎてしまったようですわ」

屋敷はハリケーンが通り過ぎたように
外壁に無数の穴が空き、窓は割れ、庭にはボコボコと、穴があいていた。

フレディを見上げて、アビゲールは真っ赤になりそう言った

「 いい薬になっただろう。俺たちのマリーを泣かした罰だ。
アビーは良くやってくれたよ!」

フレディはアビゲールの頭を撫でた。


「 アニキ、以前はマリーの事をとても可愛がっていたのに、、、
なんで急に変わっちゃったんだ?

マリーは何一つ、変わっちゃいないのに•••
いつもと同じマリーなのに•••
ちょっと背が伸びただけなのに•••

変わったのはアニキだよ!」



フレディはアビゲールの手を取り、2人仲良く帰って行った。


放心状態のウーラノス。

「、、、変わったのは俺なのか?
姫は、変わっていないのか? 何も、、」




ウーラノスの頭の中に、突如、マリアベルの笑顔が浮かんだ

ねえ、ウーラノス様!
あのね、ウーラノス様!
それでね、ウーラノス様!




ウーラノスは、いつもマリアベルが話しかけてくれていた事を思い出した。

「ハハハ、なんで俺、話さなかったんだろう•••
折角、姫が、話し掛けてくれてたのに•••
馬鹿だなぁ•••、本当に大馬鹿野郎だ!」

俺が、自分の気持ちを制御出来なかったばかりに、、、
マリアベル様を傷付けた、辛い思いをさせてしまった。

ウーラノスは、何故マリアベルが、いつも暗い顔をしていたのか、その訳にやっと気が付いたのであった。













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