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Part2 Rasidensy Days of the Southern Hospital
Chapter_03.ナース東風平(こちんだ)、一騎討ち!(3)多恵子、マギー師長とぶつかる~勉、恋に落ちる
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At the Southern Hospital, Nakagusuku Village, Okinawa; from July 16 to 17, 1999.
The narrator of this story is Tsutomu Uema.
それから半月ほど経ったある日、事件は起きた。
僕はいつものごとく夕刻の回診を終え、当直に就こうとしていた。当直勤務の前に、美樹先生に頼まれた書類を抱えて整形外科病棟のドクター控室に向かっていた時のことだ
ナースステーションのあたりから、なにやら言い争う声がする。
“Taeko, why did you tell him about that? He got angry and complained a lot.”
(多恵子、なぜ彼にあんなこと言ったの? 彼、怒ってさんざん不満を述べたわ)
“That make no sense! I just told him just you told. I didn’t change anything.”
(全く理解できないです。私は師長がおっしゃったとおり伝えました、何も変えずに)
何があったんだ?
僕はナースステーションへと向かった。近づいてみると、マギーと多恵子がなにやら言い合っている。びっくりした。今まで、外国人スタッフ同士が言い合っているのは何度が見たことがあるが、外国人と日本人の組み合わせなんて初めてだ。
……ていうか多恵子、お前、英語で勝負するわけ? マギーにとんでもないこと言わなきゃいいけど。
僕はちょっと心配になって、マギーの後方からそっと近づいた。多恵子がムキになって反論している顔が正面からよく見える。
「多恵子、ちょっと落ち着いて」
粟国さんが多恵子をなだめようとしている。でも多恵子の表情は固い。
「里香、あたし、納得できない。あたし、間違ってない」
「多恵子!」
マギーが再び口火を切った。
“But he told me you said he can go down to the lobby.”
(だけど、彼はあなたがロビーに行ってもいいって言ったって)
“I didn’t say that! He misunderstood. I only told him that he can smoke in the smoking area. I also asked him to let us know when he gose down there.”
(そうは言ってません! 彼の勘違いです。私は彼に、喫煙エリアなら喫煙できますとだけ告げました。同時に、そこへ向かう時には私たちに知らせて、ともお願いしています)
ははーん、なるほど。やっと僕にも事態が飲み込めた。ヘビースモーカーの患者さん、村上さんの話だ。また勝手にロビーに降りてったんだ。
多恵子は村上さんに、
「喫煙所での喫煙は許可が出ていますが、一階の喫煙ロビーに行くときはスタッフに連絡してくださいね」
と言った。でも村上さんは都合のいい部分だけ納得して、ナースに何も告げずに降りてったんだな。よくある話だよ。
“You have to pay attention to what you say, Taeko. He doesn’t think it’s his fault. ”
(あなたは自らの言動に注意を払うべきです、多恵子。彼は自分の落ち度とは思ってないですよ)
マギーの言葉に、どうしても納得できなかったのだろう。多恵子は僕を思いっきり睨みつけた。もちろん、彼女が睨んでいたのはマギーの方だったのだろうけど、マギーの後ろにいた僕にはそう感じられた。多恵子はものすごい形相でこちらを睨みつけたまま、両手でテーブルを思いっきり、バシンッと叩いて、叫んだ。
“Well, it’s not my fault! I know what I said!”
(いいえ、私のせいではありません! 私は自分の言動をきちんと把握しています!)
その瞬間、僕は心臓を何かで打ち抜かれたような衝撃を覚えた。
すべての時間が、止まった。
両手に抱えていた書類が、ドサドサッと大きな音を立てて床に落ちた。
気がつくと、ナースステーションの言い争いが途切れ、スタッフ全員が僕を見ていた。僕は恐縮して、頭を下げながら思わずこう言った。
“S, sorry. Please continue.”
(す、すみません。どうぞ続けて下さい)
書類を拾いながら、情けなくなった。ああ、俺って、すっげー間抜け。
“O.K., O.K.”
(わかったわ)
そういうが早いか、マギーは多恵子の肩をポンと叩くと、そのままナースステーションから立ち去ってしまった。
「……マギー?」
他のナースたちが口々に多恵子を誉めそやしている。
「多恵子、すごい! 英語で師長を言い負かした!」
「多恵子さんすごい! こんなのはじめて見た!」
でも、多恵子はうつむいている。
「あたし、悪いことしたのかも」
「どうして? 多恵子の言い分、正しいよ。あれは村上さんが悪い」
「そうですよ。あたしたち、何度も注意したし」
でも多恵子は首を振り、力なく答えた。
「ううん、たとえ、あたしが正しくても、ちょっと言いすぎた。マギーに謝ってくる」
そして彼女はナースステーションを飛び出し、マギーの後を追った。僕は書類を抱え、多恵子の後姿をただ茫然と見送っていた。
そして、次の日から、僕は、明らかにおかしくなった。
いや、言い直そう。正確にはその当直の夜からだ。たいして忙しくもなかったのに、僕は一睡も出来なかった。ナースステーションで多恵子がテーブルを叩くあの様子が何度となくよみがえってきて、うなされていたのだ。
朝の回診の時刻になってしまった。
僕は反射的に整形外科病棟へ向かった。歩を進めるにつれ、ナースステーションの喧騒が聞こえてくる。
「おはよう多恵子。昨日、あれからどうだった?」
「うん、マギーとゆっくり話し合えた。 すっきりした」
「へー、多恵子さんって律儀だね」
「師長って仕事も大変だよね。あたし、もうちょっと心をこう、広くもたなくっちゃね」
僕は気づかれないようにそこを通り過ぎようとしたが、両眼の視力が1.5の多恵子が僕を見逃すはずはない。
「Good morning ! 上間先生、当直お疲れさま!」
多恵子の大声に僕はびくんと全身を震わせた。
「え? あ、あ、ども」
「どうしたの?」
とにかく、僕は毅然と振舞おうとした。が、言葉はしどろもどろだ。
「いや、別に、何も」
ちょうどよいタイミングで、僕らの視線の先にマギーが現れた。多恵子は僕を置いてマギーに駆け寄った。
“Good morning, Taeko.”
(おはよう、多恵子)
“Good morning, Maggie. Did you sleep well ?”
(マギー、おはようございます。よくお休みになりましたか)
僕はそんな多恵子の姿を、遠くからぼーっと眺めていた。
「上間先生」
振り向くと、向こうから美樹先生が歩いてくる。
「美樹先生、おはようございます」
「何ぼーっとしてたの?」
僕は話題をすりかえた。
「あ、今日のカンファですけど、美樹先生が担当ですよね?」
「今日は私だけど、来週から上間先生にも受け持ってもらうわよ」
「どうも自信がないんです。患者さんの症状を簡潔に最初の十秒間で表現するってのが」
「私だって最初からできたわけじゃないんだから。応援するわ」
「はい、できれば添削お願いします」
「もちろん、喜んで」
美樹先生はそう言いながら僕の顔を怪訝そうに覗き込んだ。
「今日の上間先生、なんか元気ないわねぇ」
「そ、そうですか?」
「悪魔に魂を奪われましたって顔」
「は、はあ……」
僕は咳払いをしてみた。
「夏風邪かな? うがいしてきます」
そそくさとその場を去ると、僕は洗面所へと向かった。蛇口をひねり、流れ出た水でうがいをし、顔を洗った。
そして僕は鏡に写った自分の顔を見つめた。
悪魔に魂を奪われた顔、ねぇ。
ああ、いかん、いかん。もっと気を引き締めなくては!
顔を両手で挟んでバシバシ叩き、洗面所を後にした。
でも、戻ってきて、僕は確信した。やっぱり、そうだ。
僕の目は絶えず、多恵子を探していた。
そして、病棟に来るたび、僕は、ナースステーションを、廊下を、階段を、一つ一つの病室にいたるまでなぞるように視線を這わせ、多恵子がいないことを確認すると妙に安心を覚えた。仕事に集中し、彼女の姿を脳裏から追い払って、良きドクターであろうと努めた。
でも、胸の奥には穴が開いていて、彼女の姿を求めて絶えずピューピューと悲しい音を立てていた。
もしも、彼女の姿を見つけたとしよう。そうさ、すぐにわかる。彼女は僕の目に今までとは全然違う輝きを帯びて映ったから。僕の目は彼女に吸い寄せられ、彼女の声以外は耳に入らなくなる。だけど、そこから呼び起こされる感情はうれしさではない。むしろ、切なさだった。
どうして、今まで気がつかなかったのか。
どうして、今まで何もしてこなかったのか。
何も知らない彼女はもちろん人懐っこく話しかけてくれるけど、そのたびに僕の心は揺すぶられ、まともな返事すらできない。お互いを知って二十年以上も経つのに、僕にできることはただ彼女の姿を遠くから眺めることだけだ。
間違いない。この人だ。この人なんだ。僕がずっと探していたのは。
僕は十代の少年のように眠れぬ日々を過ごし、彼女の幻を追い続けた。
どこまでも続く高く凛とした冬の星空のように僕の心は果てなく広がり、胸がギューッと締め付けられ、とてつもない孤独が僕を襲った。
どうすればいいのか、僕にはもうわからなかった。
次章へTo be continued.
The narrator of this story is Tsutomu Uema.
それから半月ほど経ったある日、事件は起きた。
僕はいつものごとく夕刻の回診を終え、当直に就こうとしていた。当直勤務の前に、美樹先生に頼まれた書類を抱えて整形外科病棟のドクター控室に向かっていた時のことだ
ナースステーションのあたりから、なにやら言い争う声がする。
“Taeko, why did you tell him about that? He got angry and complained a lot.”
(多恵子、なぜ彼にあんなこと言ったの? 彼、怒ってさんざん不満を述べたわ)
“That make no sense! I just told him just you told. I didn’t change anything.”
(全く理解できないです。私は師長がおっしゃったとおり伝えました、何も変えずに)
何があったんだ?
僕はナースステーションへと向かった。近づいてみると、マギーと多恵子がなにやら言い合っている。びっくりした。今まで、外国人スタッフ同士が言い合っているのは何度が見たことがあるが、外国人と日本人の組み合わせなんて初めてだ。
……ていうか多恵子、お前、英語で勝負するわけ? マギーにとんでもないこと言わなきゃいいけど。
僕はちょっと心配になって、マギーの後方からそっと近づいた。多恵子がムキになって反論している顔が正面からよく見える。
「多恵子、ちょっと落ち着いて」
粟国さんが多恵子をなだめようとしている。でも多恵子の表情は固い。
「里香、あたし、納得できない。あたし、間違ってない」
「多恵子!」
マギーが再び口火を切った。
“But he told me you said he can go down to the lobby.”
(だけど、彼はあなたがロビーに行ってもいいって言ったって)
“I didn’t say that! He misunderstood. I only told him that he can smoke in the smoking area. I also asked him to let us know when he gose down there.”
(そうは言ってません! 彼の勘違いです。私は彼に、喫煙エリアなら喫煙できますとだけ告げました。同時に、そこへ向かう時には私たちに知らせて、ともお願いしています)
ははーん、なるほど。やっと僕にも事態が飲み込めた。ヘビースモーカーの患者さん、村上さんの話だ。また勝手にロビーに降りてったんだ。
多恵子は村上さんに、
「喫煙所での喫煙は許可が出ていますが、一階の喫煙ロビーに行くときはスタッフに連絡してくださいね」
と言った。でも村上さんは都合のいい部分だけ納得して、ナースに何も告げずに降りてったんだな。よくある話だよ。
“You have to pay attention to what you say, Taeko. He doesn’t think it’s his fault. ”
(あなたは自らの言動に注意を払うべきです、多恵子。彼は自分の落ち度とは思ってないですよ)
マギーの言葉に、どうしても納得できなかったのだろう。多恵子は僕を思いっきり睨みつけた。もちろん、彼女が睨んでいたのはマギーの方だったのだろうけど、マギーの後ろにいた僕にはそう感じられた。多恵子はものすごい形相でこちらを睨みつけたまま、両手でテーブルを思いっきり、バシンッと叩いて、叫んだ。
“Well, it’s not my fault! I know what I said!”
(いいえ、私のせいではありません! 私は自分の言動をきちんと把握しています!)
その瞬間、僕は心臓を何かで打ち抜かれたような衝撃を覚えた。
すべての時間が、止まった。
両手に抱えていた書類が、ドサドサッと大きな音を立てて床に落ちた。
気がつくと、ナースステーションの言い争いが途切れ、スタッフ全員が僕を見ていた。僕は恐縮して、頭を下げながら思わずこう言った。
“S, sorry. Please continue.”
(す、すみません。どうぞ続けて下さい)
書類を拾いながら、情けなくなった。ああ、俺って、すっげー間抜け。
“O.K., O.K.”
(わかったわ)
そういうが早いか、マギーは多恵子の肩をポンと叩くと、そのままナースステーションから立ち去ってしまった。
「……マギー?」
他のナースたちが口々に多恵子を誉めそやしている。
「多恵子、すごい! 英語で師長を言い負かした!」
「多恵子さんすごい! こんなのはじめて見た!」
でも、多恵子はうつむいている。
「あたし、悪いことしたのかも」
「どうして? 多恵子の言い分、正しいよ。あれは村上さんが悪い」
「そうですよ。あたしたち、何度も注意したし」
でも多恵子は首を振り、力なく答えた。
「ううん、たとえ、あたしが正しくても、ちょっと言いすぎた。マギーに謝ってくる」
そして彼女はナースステーションを飛び出し、マギーの後を追った。僕は書類を抱え、多恵子の後姿をただ茫然と見送っていた。
そして、次の日から、僕は、明らかにおかしくなった。
いや、言い直そう。正確にはその当直の夜からだ。たいして忙しくもなかったのに、僕は一睡も出来なかった。ナースステーションで多恵子がテーブルを叩くあの様子が何度となくよみがえってきて、うなされていたのだ。
朝の回診の時刻になってしまった。
僕は反射的に整形外科病棟へ向かった。歩を進めるにつれ、ナースステーションの喧騒が聞こえてくる。
「おはよう多恵子。昨日、あれからどうだった?」
「うん、マギーとゆっくり話し合えた。 すっきりした」
「へー、多恵子さんって律儀だね」
「師長って仕事も大変だよね。あたし、もうちょっと心をこう、広くもたなくっちゃね」
僕は気づかれないようにそこを通り過ぎようとしたが、両眼の視力が1.5の多恵子が僕を見逃すはずはない。
「Good morning ! 上間先生、当直お疲れさま!」
多恵子の大声に僕はびくんと全身を震わせた。
「え? あ、あ、ども」
「どうしたの?」
とにかく、僕は毅然と振舞おうとした。が、言葉はしどろもどろだ。
「いや、別に、何も」
ちょうどよいタイミングで、僕らの視線の先にマギーが現れた。多恵子は僕を置いてマギーに駆け寄った。
“Good morning, Taeko.”
(おはよう、多恵子)
“Good morning, Maggie. Did you sleep well ?”
(マギー、おはようございます。よくお休みになりましたか)
僕はそんな多恵子の姿を、遠くからぼーっと眺めていた。
「上間先生」
振り向くと、向こうから美樹先生が歩いてくる。
「美樹先生、おはようございます」
「何ぼーっとしてたの?」
僕は話題をすりかえた。
「あ、今日のカンファですけど、美樹先生が担当ですよね?」
「今日は私だけど、来週から上間先生にも受け持ってもらうわよ」
「どうも自信がないんです。患者さんの症状を簡潔に最初の十秒間で表現するってのが」
「私だって最初からできたわけじゃないんだから。応援するわ」
「はい、できれば添削お願いします」
「もちろん、喜んで」
美樹先生はそう言いながら僕の顔を怪訝そうに覗き込んだ。
「今日の上間先生、なんか元気ないわねぇ」
「そ、そうですか?」
「悪魔に魂を奪われましたって顔」
「は、はあ……」
僕は咳払いをしてみた。
「夏風邪かな? うがいしてきます」
そそくさとその場を去ると、僕は洗面所へと向かった。蛇口をひねり、流れ出た水でうがいをし、顔を洗った。
そして僕は鏡に写った自分の顔を見つめた。
悪魔に魂を奪われた顔、ねぇ。
ああ、いかん、いかん。もっと気を引き締めなくては!
顔を両手で挟んでバシバシ叩き、洗面所を後にした。
でも、戻ってきて、僕は確信した。やっぱり、そうだ。
僕の目は絶えず、多恵子を探していた。
そして、病棟に来るたび、僕は、ナースステーションを、廊下を、階段を、一つ一つの病室にいたるまでなぞるように視線を這わせ、多恵子がいないことを確認すると妙に安心を覚えた。仕事に集中し、彼女の姿を脳裏から追い払って、良きドクターであろうと努めた。
でも、胸の奥には穴が開いていて、彼女の姿を求めて絶えずピューピューと悲しい音を立てていた。
もしも、彼女の姿を見つけたとしよう。そうさ、すぐにわかる。彼女は僕の目に今までとは全然違う輝きを帯びて映ったから。僕の目は彼女に吸い寄せられ、彼女の声以外は耳に入らなくなる。だけど、そこから呼び起こされる感情はうれしさではない。むしろ、切なさだった。
どうして、今まで気がつかなかったのか。
どうして、今まで何もしてこなかったのか。
何も知らない彼女はもちろん人懐っこく話しかけてくれるけど、そのたびに僕の心は揺すぶられ、まともな返事すらできない。お互いを知って二十年以上も経つのに、僕にできることはただ彼女の姿を遠くから眺めることだけだ。
間違いない。この人だ。この人なんだ。僕がずっと探していたのは。
僕は十代の少年のように眠れぬ日々を過ごし、彼女の幻を追い続けた。
どこまでも続く高く凛とした冬の星空のように僕の心は果てなく広がり、胸がギューッと締め付けられ、とてつもない孤独が僕を襲った。
どうすればいいのか、僕にはもうわからなかった。
次章へTo be continued.
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