大好きな母と縁を切りました。

むう子

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第二章

31話

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あまり気は進まないけどお義父様に話を聞いてみるかな。

ラミフォンを触ろうとするとまた掛かってきた。
あれ?今度はお義父様だ。
「もしもし?お義…「ナーシャ!!やっっと出た。ラミフォンも繋がらないし心配だったのよ!?まさか1週間も1人で別荘に泊まるだなんて。私はあなたのお父様と約束してるのよ。絶対にナーシャを見守るって「レアロナ…落ち着きなさい!!ナーシャはもう1人でなんでも考えられる年齢なんだよ。」「あなたは黙ってください!!」

見守るって……。どっちかって言うと監視じゃない…。
「……お母さま?お義父様の言う通り、私はもう1人である程度のことは考えられる年齢よ。心配しないで…」

「ナーシャ、心配しないわけが無いでしょう?聞けばドルーラ公爵との婚約も破棄するそうじゃない。お義父様が承諾しても私は絶対に許さないわよ」

「それは…どうしてですか?」

「どうしても何も。今まで外に出ることもなかったあなたを貰ってくれるという方なのよ?それもあの有名な公爵様が。これ以上にいい縁談は無いでしょ」

「……これ以上にいい縁談が無い?」

「ええ。そうよ。バルセ侯爵の子息なんかより全然いい縁談でしょう?それにあなたのためにジェノシーまで買い取って下さるのよ」


「…………お母さま。それ本気で言ってるの?」

「え?」

「お母さまはジェノシーが今どんな状況か知ってて言ってるの?」

「今は少し荒んでるんでしょう?あなたの叔父様から少しは聞いてるわ。でもそんなの直ぐに元通りになるでしょう」


「………。お母さまにとって結婚ってなあに?自分が裕福に暮らすこと?自分が裕福であれば他人は全て興味ないの?そもそもお母さまは何故そんなことを知ってるの?」

「ナーシャ……」お父様は私を心配そうに見つめる。
心配なのは私じゃないわ。お母様のおかしさやジェノシーのほうが何倍も心配よ。

「何故知ってるかって?ドルーラ公爵とお話した時にあなたが故郷のジェノシーを愛してることを伝えたからよ。それでドルーラ公爵があなたのために買い取ると仰ったの。こんな幸せなことは無いでしょう!?だから絶ッ対にこの縁談を断ってはダメよ。あなたのためなの。若いから結婚について分からないかもしれないけれどナーシャも結婚すれば直ぐに感謝することになるわ。」


「お母さまはドルーラ公爵とお知り合いなの?」

「ええ。確か…あなたが川で溺れた時、近くにあった馬車から出てきて心配して下さったのよ。確かグランデ公爵もあの時同じ馬車に居たわね。」

「なんですって……」

「どうかしたの?」

「…いや。なんでもないわ。もういい。とりあえずお母様の言いたいことはわかった。だけど私には私の人生があるのよ!当分は帰りません。また何かあったら私から連絡するわ。」
「ナーシャ!!」プツン

私は勢いよくラミフォンを切った。
こんなにもお母さまがおかしいとは思いもしなかったわ。
謙虚で優しくて家族思いなお母さましか見えていなかった分、ここまで典型的な"悪女"な部分を見せられ嫌気がさす。


それにしてもドルーラ公爵とお母さまが知り合いだったなんて…。
それもあの川で押されて溺れた時から…

「もしかして私が川で溺れる前の記憶にあった馬車って……奴隷にされた子を無理やり乗せていたのはドルーラ公爵…?ドルーラ公爵は奴隷を買っていたの?
どういうこと?ケルディア伯爵は売買で捕まった。けど一緒にいたのはグランデ公爵。

だとしたら私はそれを見てお父様に言った途端誰かに押されて溺れてメイシーが私を助けた……?
ふと記憶が鮮明になってゆく。

でもそれならまさか私のせいでお父様が……?
そんな…ジェノシーが今こんな状態なのも叔父様がどこにいるか分からないのも全て…全て私のせい…?
そんな…そんなことって……。」

"ナーシャ…"

「ティエラ…ティエラ…全部…全部私のせいなの?」

"違うわ。ナーシャは何も悪いことはしてない。"

ティエラは私のお腹に擦り寄り私が泣きながら抱きついた拍子に窓から外へ飛び出した。

「ひゃっ」

"ナーシャ。ちょっと散歩しましょう"

「……」

"ナーシャ、私が同じ立場でも一度は自分を責めてしまうと思うわ。だけど今責めてもどうしようもないの。それなら全てを知ってからの反省会にしない?"

「全てを知ってから…?」

"そうよ。全てを知ってから。実際私がその時見ていた訳でもないけどお父様が亡くなったのがもし奴隷を見たあなたとお父様を見てお父様が殺されたんだとしてもそれを見てしまったあなたが悪かったの?違うでしょう?ならこのジェノシーの状況は?あなたが頼んだの?違うでしょう。今ここで自分を責める必要はないのよ。責める前に全てを知らないと"

 
「それでも私が何も見ていなければ今頃お父様と笑ってたかもしれないって思っちゃうと思う」

"ならきっとケルディア伯爵が捕まることも無く奴隷売買を取り締まることも出来なかったかもね。もちろんそのためにお父様が犠牲になるのはおかしい事だけど。あなたのせいでは無いのよ。悪いのは悪いことをした人間。"

「……」

"見て、すっごい星。ここは私のお気に入りの場所なの。何も変わってないわ"

「うわあ…凄い星の数っ」

"ふふ。凄いでしょ?昔よくここに来たのよ"

昔…昔の契約者さんと来たのかな。人は死んでもティエラは生きてるんだものね……。それでもティエラは契約者との契約が終わっちゃうだけでその人を恨むことも裁くことも出来ないんだ…。ティエラも自分を責めたことがあったのかな…。今までたくさん乗り越えて来たのかな?

「ティエラは凄いね」

"???"

「だって…ティエラがいてくれるだけですごく心強いもん」

"ふふふ当たり前でしょ?そこらのお嬢様より女性だしそこらの王子より強いのよ。私こそが最強に相応しいんじゃない?"

「ふふふ」

"何かおかしなこと言ったかしら"

「ううん。私はティエラのおかげで前が向けそうだよ。ティエラは最強の精霊王よ」

"そうでしょう?私は最強の精霊王!その私と契約しているのがナーシャなのよ。胸を張って生きなさい"

「ふふふ。そうね。…あ、」

"今度はどうしたの"

「いや…グランデ公爵がドルーラ公爵を婚約者にと紹介して、先生やメイシーを私につけて記憶が戻らないように見張らせてたならでしょ?ならもし様子伺いにくるつもりなら令嬢とメイシーの行動をしらないのかなって」

"たしかにメイシーと先生をコテージに案内したのは令嬢なのに公爵が様子を見にくる(謝りに来たい)なんておかしいものね。ならあの令嬢は一体どういう立場なのかしら"

「令嬢……いつもメイシーの心配をしてたから……令嬢も騙されてるのかな……?」

"まあ、そうだとしても私はあの令嬢を好きにはなれないけど"

「私に敵対視してたのはメイシーのせいだから仕方ないわ」

"それにしても偉そうで好きになれなーい。ま、そろそろ帰りましょう。しっかり掴まってね"

「うんっ」


ティエラはさっきよりもゆっくり飛んでくれてすごく眠気が襲ってウトウトしながら宿屋へ戻った。

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