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第1章
1-7「投稿の決意」
しおりを挟む「この記事…僕のことですよね?」
「そりゃそうだろ~暗神なんてほかにいねーよ」
「ですよね…」
僕はスマホの画面に書かれた記事と睨めっこしていた。
記事には【突如現れた新生!】とデカデカと書かれていた。
しかも、そんなトピックが1つや2つではない。
何十という単位で存在していた。
僕の頭の中は真っ白になっていた。
やっと次の投稿の決心がついていた矢先にこの出来事。
なんで僕なんかがこんなに記事になっているのだろう。
何かの間違いじゃないのだろうか?
色々な気持ちが僕の中に流れ込んでくる。
「優里、次の曲は何を歌うんだ?」
「…え?」
何も考えられなかった僕に、急に健太が話しかけて来た。
「…え?じゃねーよ。次の曲は何を歌うんだって聞いてるんだが?」
「な、何を歌う?」
自分でも何が何だか分からなくなっていた。
健太の言っていることも、記事のことも。
そんな僕の様子を見てため息をつきながら健太が次の言葉を発した。
「はぁ、優里。何のためにアカウント名変えたんだよ?
正体がバレないようにだろ?心配しておどおどしてる方が自分が暗神ですって言ってるようなもんだぞ」
「た、確かにそうですけど」
健太の言っていることはもっともだった。
アカウント名は変えたし、他の情報はなにも書いていない。
バレる心配なんてないんだ。
…あ、理事長にはバレてた気がするけど。
「まぁ、とりあえず一回落ち着け、じゃないと歌えないぞ」
「…分かりました。では少し水を貰ってもいいですか?」
そう言って健太から水を少し貰い、自分を落ち着かせる。
落ち着かせるために自己暗示をかけよう。
そうだ、情報は何もない。バレるはずがない。
アカウント名だって変えたんだ。
このあだ名だって、昔のことだ。みんな忘れてるはずだ。
何度も自分に言い聞かせながら一呼吸置いて覚悟を決めた。
「健太、大丈夫です。始めましょう。」
「おっ!投稿の決意がついたか!んで?何歌うんだ?」
「そうですね、決めてはいませんでしたが…」
「ならさ!ラブソングでも歌ったら?」
「ラブソングですか?」
僕の知っているラブソングなんて数少ない。
強いて言うなら、有名な歌手が歌っている歌だけだ。
「お前確か、有名歌手の柊 ひとみって人の曲覚えてなかったか?」
「確かに、その人の曲調が好きで覚えていますよ。」
柊 ひとみ。今、テレビやラジオで引っ張りだこな有名歌手。
2年前に出した初のシングルCDでオリコン1位を叩き出し、
その翌年には、初アルバムが発売から1週間で50万枚を売り
1ヶ月では200万枚のダブルミリオンを達成した超新星である。
「なら、その曲でいいんじゃないか?」
「でも、著作権を調べないとダメじゃないですか?」
「そうだな。ちなみに曲名分かるか?」
「確か…【純愛】だったはずです」
そういうと、健太がアプリの検索で著作権に引っかからないか調べ始めた。
この曲は確か、柊 ひとみが最初に出したシングルの曲だったはずだ。
近くにいるのに会えない、でも心が繋がっていれば
2人の恋は終わらない…みたいな内容の歌詞だったな。
「調べたぞ~著作権は大丈夫そうだ。きちんとこの会社とも契約してた。」
「そうですか。ならこの曲にします」
曲を決めると僕は、イヤホンをして準備した。
健太も音源をパソコンから流す準備をしてくれていた。
「こっちの準備はokだ。そっちは?」
「大丈夫です。いけます」
僕と健太は、タイミングを揃えて、録音・再生ボタンを押した。
「♫~~♫~~」
歌を歌うときはなにもかも忘れられる。
さっきまでのバレるバレないの緊張は何処へやら。
健太が励ましてくれたこともあり僕は歌に集中することができた。
曲が終わって、同時に停止ボタンを押す。
ふぅ~と一息ついて健太を見る。
健太も僕の方を見ていた。
「どうでしたか?音外れてませんでした?」
「俺はこの曲あんまり聞いたことないから音程はわかんねーけど、優里の歌い方はすごく良かったと思うぜ!」
「そうですか…」
健太はこういう恥ずかしいことも平気で言える人間なのだ。
単純というか、素直というか。
その後アプリ内で曲の編集・調整をし、僕の2回目の投稿が終了した。
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