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一條さんとにじっぴ(と鷲尾)

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 一体どんなアドバイスをしたらいいか──。

 難しい顔をしたところで結局なんのアイデアも浮かばずじまい。


「あのー、そもそもクイズの答えが『啓蟄けいちつ』って激シブじゃないスか」

 こういうときはとりあえず、思いつくまま口が動くままに喋っていくのがいい。

 鷲尾はいままでそんな感じで生きてきた。のらりんくらりん。
 かっちりとした原稿を用意して一字一字を指でなぞるように読み上げる一條さんとは正反対。


「えっ、渋い!? そんなに渋いかな……?」

「鬼渋っす。正解にはやっぱり華がないと。なんだろなーって考えたくなるワクワクがないと」


 鷲尾は元お笑い芸人である。

 コンビを組んでいたイケメンマッチョの相方にうっかり惚れて、彼の筋肉に華をもたせるようなネタをせっせとつくり、練習に励んでいた。
 だが、舞台で大スベリした結果『お前ではオレの筋肉が輝くようなネタを作れない。おつかれ。バイバイ。元気でな。筋トレしろよ』とフられた。

 恋と芸の道を同時に挫折したのだ。


 それでもかろうじて『笑い』だけは諦めていない。

 テレビという時代遅れになりつつあるメディアでも『笑い』という花はいつまでも枯れることはないはずだ。
 むしろ時代遅れだからこそ必要。

 そう信じて、筋肉ではなくテレビと向き合っている。


「ワクワクが必要か……。確かにそうだね! ありがとう、参考になるよ!」

 一條さんはちっちゃなメモ帳にかじりつくようにアドバイスを書き取っている。
 にじっぴのイラスト入りメモパッド。

 局のロビーの片隅に無造作に置いてあるワゴンのなか、大量のにじっぴグッズが何年もホコリをかぶったまま売られている。

 あれをわざわざ買ったなんて──やっぱり一條さんは真面目だ。


「では、ここでオレからクイズっす!」


 クイズバラエティの司会者になった気持ちで鷲尾はえらそうに胸を張り、人差し指を宙にむける。「デデデンッ!」という口頭効果音も忘れない。


「我が社のアホ面マスコット・にじっぴはオレンジ色のウーパールーパーですがぁ……、天気予報のとき、にじっぴが一條さんの隣りにいる理由を答えなさい!」
 
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