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67話 個人戦第2試合

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 第1試合が終わり観客席に戻ってくると、皆からおめでとうと賞賛された。
 あまり戦ったような気がしていないのだが……
 なにより4人まで減るのが早すぎたのと、試合中全てに言えるのだが、セシルとの戦いに集中していたのもあり、遠くの方を見れていなかったのだ。

「ミツキ、自分の周辺にしか意識が回せなくて遠くの方が見れていなかったんだ、どうしてあんなに人が減るのが早かったんだ?」
「それはですね、生き残った4人の内2人……このノイシュを治めてる国、ガリスタ国の騎士団団長ノシュタールと、彼の右腕であるマッチョ騎士団隊長ゴリスラーの2人が約7人ずつくらい仕留めていました」
「し、7人も!?」

 周りをよく見れていない自分に落ち度はあるとはいえ、そんなやばいやつと同じステージに居たなんて……しかし、あまりステージが騒がしかったような記憶が無い……何故だ?

「でも、あまりドッタンバッタンやってなかったように思うが?」

 そう、俺の周りでも武器同士がぶつかり合う音や魔法の音はすれど、ド派手な衝撃音や魔法はなかったように思う。

「はい、単純にスキル発動無しで斬って殴ってしただけです、なので戦闘音があまり聞こえなかったのかと」
「嘘だろ……」

 やはり、このバトルロイヤルは前座……本番はトーナメントか。

「今回、たまたまかもしれませんが、1人1人の強さが控えめかもしれませんね……なので強い人が実力を隠したまま当たり前に残り、見所のあまりない試合になったのかも」
「なるほどな……」

 実際俺自身も、避けてカウンター入れただけで2人倒し、そしてタンクも俺が気を逸らせた所をセシルに仕留めて貰っただけだ……別に大した事はしていない、こんな簡単に勝っていいのか?と思う程だ。

「トーナメントからはティナ達のような強い人と当たるようになるので、退屈しませんよ!」
「そうだな、さっきの試合の最後に戦ったあの刀使い……セシルとまたやってみたい」

 どうしてもセシルの事が気になってしまう、刀……そして尻尾が。

「あの人も強かったですね、コウガさんのアイスウォールを真っ二つにしましたよね?」
「あぁ、冷や汗かいたよあれは……」
「むぅ……私でもあれを砕くのに2撃必要だったのに」

 ティナが少し悔しそうにする。
 少しすると、ステージにぞろぞろと選手が集まってきた。

「さぁー!第2試合に挑む選手達がステージにやってきました!ここからトーナメントへ勝ち進むのは誰か!?」

 1番最後に入場してきたのがカエデだった、じっと視線を真っ直ぐにして集中している。
 そしてカエデの身体が何かに包まれていた、俺に宣戦布告した時のやつだ、しかし……あの時よりハッキリと色濃く見える。

「こ、コウガ様!カエデの周りに何かが!」

 メイランが目を見開いて驚いているようだ、そして声に出していなかったがソルトも驚愕の顔をしていた。

「あぁ、俺は昨日の寝る前に見せてもらったが、凄い迫力だったぞ……一体どんな特訓をしたのやら……」

 何をしたらああなるのか……全くもって分からない。
 特訓で身に付けたにしろ、あそこまで強くなって力を身に付けたカエデは凄いと思う。
 その存在感を醸し出すカエデに、近くに居た選手達が汗を垂らしてカエデを見ていた、やはり近くにいると凄い圧力があるのだろう。

「……」

 カエデのそれをじっと見つめる厳しい目をしたクロエ、カエデにあれを仕込んだのはクロエだ……カエデにあれを出来るように仕込んだクロエの目には一体何が見えているのだろうか……?
 今気付いたが応援席にシェミィが居ない、昨日カエデが個人戦中シェミィは預かると言っていたが……控え室に居るのだろうか?

「全員揃いました!これより第2試合開始致します!全員構えてください!」

 各々武器や盾を構えて準備するが、カエデは動かない。

「レディーーーッ、GO!!!」

 カエデが出場している第2試合、開始だ。

 試合が始まってもカエデは動かない、周りはカエデの相手をするのはマズいと感じているのか戦いを挑んでこないようだ。

「誰もカエデに寄ってこないわね」
「そりゃ4人生き残りのバトルロイヤルっすからね、誰と戦うか決められるこのルールだと、危険因子に近付きたくないのは当たり前っす、自分が強いって思ってる人以外は……っすけどね」

 ソルトがそう言うと、1人の男がカエデに近寄ってくる。

「あっ!アイツ!!」

 メイランがその男を知っているようだ。

「知ってる奴か?」
「忘れたのコウガ様?ノイシュに来た時にボロクソに言ってきたやつよ!」
「……あぁ!奴隷やら何やらでメイランとカエデが怒った時の3人組の1人か!」

 思い出した、アイツらか……
 団体戦だけじゃなくて個人戦にも出ていたみたいだな。

「お前、あん時の奴隷だな?」
「……だったら何?私達を見た瞬間言いたい放題言って、私許さないんだからね」

 カエデはその男を睨みつけるように見る。

「おお怖、でも事実なんだろう?あんなださい男にやりたい放題されてんだろう?奴隷の首輪で命令されてさぁ!お前を包んでるそれだって、どうせ見た目だけのハッタリなんだろう?」
「……」

 遠目からでも分かる、カエデがこれまでになく怒りに震えている。
 俺も駆け寄りたい所だが、今は試合中なので割り込んだりは出来ない。
 俺達全員を侮辱したあげく、努力の結晶である今のカエデのあれを貶されたのだ、怒りを覚えない方がおかしいだろう。

「おお?図星か?吐け口にされて困ってるなら俺が貰ってやろうかァ?大事にしてやるよォ?」
「……」

 カエデの周りを包んでいた物が大きくなっていく、カエデの我慢の限界みたいだ。

「……いい加減に」
「え?」

 カエデを包む物が形を変えてシェミィの形になる……

「しなさいよこのクソ野郎!!」

 カエデは踏み出す足に力を入れてステージを抉りながらクソ野郎に駆け出していく。

「なっ!」

 シェミィの形になったカエデを包む物がカエデと一体となり、カエデ単体以上の力と速度を生み出す。
 シェミィの形をした物が口を開いて牙が生み出された。

「あ、あれって……まさか!」

 あれには見覚えがある、あの技だ……!俺はその使用者であるクロエを見る、クロエはこちらをチラッと見てニヤッと笑った。

「貴方は許さない!私のご主人様を侮辱した事、後悔させてあげる!!」

 カエデは素早くクソ野郎の前に詰め寄り、腹に思いっきり殴って空中へと打ち上げる。

「ぐぶおぁっ!!」

 口より大量の汚物と血を撒き散らしながら空中へと浮き上がるクソ野郎……そして。

「喰われなさい!!被憑猫・双牙!!」

 カエデは姿が消えたと錯覚する程素早く飛び上がり、クソ野郎を双牙で噛みちぎった。
 一瞬身体がちぎれたかのように見えたが、魔法が働いて身体が何も無かったかのように元通りになっていてクソ野郎はエリア外へと弾き出された。
 弾き出されたクソ野郎は意識を失って……股間を液体で濡らしていた。
 それを見ていた応援席の観客が騒然となる、第1試合はそれ程見所なく終わってしまったので、今のカエデの攻撃が衝撃だったようだ。

「「「……」」」

 俺とメイランとソルトは言葉を失っていた、勿論クソ野郎に対しての怒りもあったのだが、カエデの攻撃で少し気分は晴れたような気はしている。
 しかし、今はクソ野郎の事ではなく、カエデがあんな技を使えるようになっている事に驚いている……しかし、あれはクロエの技の筈だが。

「クロエ、あれを……なんであれをカエデが使えるんだ……?」
「……詳しい事はカエデ自身から聞いた方がいい、カエデと戦った後で話してくれるはず。でもあれは私だけの技じゃない、素質があれば使える」

 クロエはこちらを見ず、カエデを見ながらそう言った。

「……そうか」
「ん、カエデとシェミィは凄い子……2人が力を合わせたら、多分私並に強くなれる」
「……本当か?」
「ん、要するに素質はあるって事、活かすか殺すかはカエデ次第」
「……なるほどな」

 俺は視線をカエデに戻す、あんなのを見せ付けられてカエデを襲おうと考える人はあのステージには居なかったようだ。
 カエデはまたしてもステージから動かず周りをじっと見つめる、来る者拒まず来たら倒す……って事だろうな。
 威圧して誰も寄せ付けなかったら後は周りの人間が勝手に人数を減らしてくれる、恐らくそれが主な狙い。
 あのクソ野郎が予定外で思わず力を解放したが、あれさえなければ力を隠したまま進めたはず、という事だろう。

「あの作戦もクロエが?」
「んーん、カエデ本人がそうするって言ってた、威圧だけしてなるべく力を隠したままでいきたいって。でもあの男のせいで少し見せちゃったみたい」

 俺も、もしアイツが相手になっていたらカエデと同じく力を振るっただろうな……
 案の定、あれ以降カエデに攻撃する人が現れず、カエデはトーナメント出場決定した。

 暫く応援席で待っていると、カエデがシェミィを連れて帰ってきた。

「ただいまー!」
「おかえりカエデ、トーナメント進出おめでとう」
「ご主人様もね!」

 俺はカエデどグータッチをする。

「ご主人様の方の3人、凄く強そうだったね。私の方は全く手応えなさそうだったよ……」

 確かに俺からしても、カエデの出た第2試合ではセシルのような強い人が見受けられなかった。

「カエデの方はたまたまだよ、俺の所に3人強い人が固まっただけさ」
「そうなのかな?まっ、私はご主人様と戦えたらそれで良いからね」

 カエデは俺の隣へ座る、少しだけ距離が近い気がした。
 よく見るとカエデの顔が少し悲しげだった。

「ご主人様、私……アイツ許せなかった」
「あの男か」
「うん……思わずご主人様の前で披露しようとした技を見せちゃった……でも、それよりもご主人様やみんなを侮辱したアイツが、許せなかった……」

 カエデの目から涙が溢れ出す。

「違うのに……ご主人様はそんな人じゃないのに……」
「カエデ……」

 俺はカエデの頭を撫でる、そして優しく肩を抱いた。

「ありがとうな、怒ってくれて」
「……うん」

 カエデは俺の身体に体重を掛けて、静かに泣く。
 そしてカエデは、自分の尻尾を俺の尻尾に絡ませてきた。

「ねぇご主人様、私の心は、ずっとご主人様の物だから……でも、私だけじゃなくてみんなを……大事にしてね?」
「もちろんだ、全員責任持って大事にするよ。だからカエデも俺に誓ってくれるか?俺とシェミィ、メイランにソルトを大事にするって」
「誓います、私はみんな大好きだから!」

『加護、託された想いが強化されました』(カエデ)
『加護、カエデとの絆が強化されました』(コウガ)

「「!」」

 加護が強化された、メイランに続き2人目だ。
 今の所メイランも俺も変わった様子はないが、この絆にレベルがあるって事は何か意味があるはずだ。
 でも、今は絆が強くなった事を喜ぼう。
 普通は見えない絆がこうして可視化してる、それが強化されるって事はそれくらい絆が強くなってる証なのだから。
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