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こんな時に夏生の名前を出される。



「なにが?」



「夏生さんは、宗に男の子の格好をしてほしいとか言わないの?」



その言葉に、俺は乾いた笑い声が出た。



「言うわけないじゃん、夏生が。
夏生はそんなこと絶対に言わない。」



「あなた達・・・身体の関係はあるの?」



神崎社長の言葉に、俺は少し悩み・・・



「ないよ。」



俺の返事に、神崎社長は驚いた顔をした。



「夏生さんは、宗のことを女の子として接してるの?」



「それも違う。」



「どういうこと・・・?」



「夏生は、俺のことを男とも女とも見てない。」



「・・・宗、もっと分かりやすく。」



「口では説明できない。
でも、夏生はそういう子だから。
そういう子なんだ・・・」




だから、俺は夏生と一緒にいたい。
少しでも長く、1日でも長く・・・。




男でも女でもないような、こんな俺を、“何でもない、ただのシュー”として見てくれる、そんな夏生と。




「でも、夏生さんの“彼氏”になりたくないの?好きなんでしょ?」




神崎社長の言葉に、俺は固まり、大笑いしてしまった。




「俺が夏生の“彼氏”?無理でしょ!
だって、俺、こんなだよ?」




「だったら、男の子の格好を・・・」



「神崎社長。」



神崎社長の言葉を途中で止める。



「ごめんね、俺のことをすごく考えてくれてるのに。
でも、俺は・・・女の子の格好が好きなんだ。」




泣きそうになりながら、神崎社長を見る。




「俺は、好きな子に男として見てもらえないって分かっているけど、どうしても女の子の格好が好きなんた。
俺は、“普通”じゃないんだ。
俺は・・・“普通”には、なれなかったんだ・・・。」



神崎社長が、俺の目の奥、涙が溜まっている目の奥を覗いてくる。



「そう・・・。
今後、もしも気が変わったら教えて?
それまでは宗の好きにしなさい。
ただし、やるからには徹底して男の娘でいること。」



「うん、分かってる。ありがと。」



神崎社長が立ち上がる。



「それと、夏生さんに一度会わせて?」



「夏生と?」



「宗にお金や家事までさせて、正直信用はしていない。」



「それは、俺がやりたくてやってるだけ。
俺は、夏生のためなら何でもする。」



「そうしたいなら、一度夏生さんに会わせなさい?」



「絶対に嫌だ。
会ったら、神崎社長は絶対に夏生を気に入る。」



「・・・どういうこと?」



「言葉のままの意味だよ。
夏生は、俺なんかよりずっと人を惹き付ける。」



神崎社長が珍しく、今日は2回も驚いた顔になる。



「夏生は、そういう子なんだ。
だから、こんなに夢中になってる。
“彼氏”になれなくても“お嫁さん”になれなくても、出来るだけ長く傍にいたい。」



「“お嫁さん”?」



神崎社長がまた睨んでくる。
俺は咄嗟に目を逸らした。
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