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兄弟

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 ──時は、少しさかのぼる。

 中庭に立つ男が、フードをとった。鮮やかな金髪が、ゆるりと揺れる。目の前には、眠る四人の子どもたち。地面に横たわるリオンの頬を舐めていたアリが、怒ったように男に飛びかかった。それを、男が風の魔法で空に浮かせた。

「どうやらお前には、少なからず魔法耐性があるみたいだね。なら、強めに魔法をかけてあげるよ」

 男がアリの頭を掴み、手のひらから神力を注ぎ込む。やがてアリも、リオンたちと同じようにこてんと深い眠りについてしまった。

「──パーン様」

 つい先ほどまで誰もいなかった空間に、第二の男が現れた。同じく艶やかな金の髪の男は、自分よりも一回りも年下の男──パーンに跪いた。

「こいつらの見張りは、ちゃんと始末してきた?」

「はい」

「そ。たかが人族が、神族に刃を投げつけるとか、殺されても文句は言えないよね。しかも、王子であるこの僕にだよ?」

 ──そう。パーンがリオンたちを魔法で眠らせた直後、短剣が矢のような勢いでパーン目掛けてふってきたのだ。それを護衛が弾き、陰の者の居場所を短剣がきた方向から見抜いた護衛の男が、陰の者を殺害したのだ。

「しかし、いくら人族は数が多いとはいえ、むやみに殺生するのはどうかと……」

「うっさいなあ。むやみに、じゃないだろ? 僕は命を狙われたんだから、正当防衛だ」

 護衛の男は諦めたように「……これからどうなさるおつもりですか?」と、早々に話題を切り替えた。パーンが「うーん」とうなる。

「用があるのは、二人だけなんだけど。どれかわかんないんだよね。人族のわりに強いらしい王様はいないらしいし、なんか拍子抜けだな。わざわざ姿が見えなくなる神具まで持ってきたってのにさあ」

 ぶつぶつぼやくパーンに、護衛の男はたまらず口を挟んだ。

「パーン様。メガイラ様が王妃様に叱られたわけはご存知ですよね?」

「知ってるよ。人族にちょっかい出して、神具を勝手に持ち出したからでしょ?」

「いま、この状況そのままだとは思いませんか?」

「姉様は、何日も留守にしてたからバレたんだ。僕は日帰りで帰るし、大丈夫。そんなへまはしないよ。それに──」

 まだ続きそうな話しに護衛の男はため息をつき「……とりあえず、他の人族に見つかる前にこの城を出ませんか?」と提案してみた。パーンはようやくはっとしたように「そうだね」と、近くに横たわるリオンとアリを風で浮かせ、両手に抱えた。

「僕はこいつらを運ぶから、あとのやつらはよろしく」

 パーンは懐から取り出した大きな布を風で広げ、頭から被った。布が周囲の景色に溶け込み、パーンの姿が消える。同じく風でシリルたちを持ち上げた護衛の男が、同じように布を被り、中庭から姿を消した。

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