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兄弟

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「アルオ様。わたくしのわがままを聞いてくださり、ありがとうございました。城を出てから今まで、アルオ様を一人占め出来たようで、バーバラは夢のような時間を過ごさせてもらいました」

 昼の日差しが眩しい、海風が吹く港にて。ストレスのせいか、たった一日でげっそりと痩せてしまったアルオが「……それは何より」と、感情のこもっていない声音で答える。それをまったく気にした様子のないバーバラが、上機嫌で笑う。

「馬車の中では、ずっとアルオ様と二人きりでしたものね。アルオ様とわたくし、きっと互いの匂いが移ってしまったかもしれませんわぁ」

 ふふふ。ふふふ。
 不気味に笑い続けるバーバラ王女。さあ船が来ましたよと、強引に船をのせ、ようやく一息ついたとき。

『──陛下』

 アルオは、僅かに肩を揺らした。こういった時の陰の者の報告に、ろくなものはないからだ。

「何だ。まさかまた、リオンが拐われたとか言わんだろうな」

 だが。陰の者の報告は、それを上回っていた。

『リオン様だけでなく、おそらくはシリル様とレイラ様、フィル様も一緒に拐われたものと思われます』

 ぴし。
 アルオは一瞬、固まってしまった。人が賑わう港でアルオは「──どういうことだ!?」と、叫んだ。人の目を引きまくっているが、そんなことはお構いなしにアルオは「簡潔に説明しろ!!」とまた声を荒げた。


 一通りの報告を聞き終えたアルオは、膝から崩れ落ちそうになっていた。頼みの綱である魔石が、中庭で見つかったからである。こうなってしまった以上、手がかりは何もない状態に等しい。

「……モンタギューが捜索隊を出したんだな」

『はい』

「わかった。ひとまず、モンタギューと合流する。モンタギューが城をはなれたら、報告しろ」

『承知いたしました』

 アルオは一緒に来ていた城の者たちにざっくりと状況を説明すると、馬に飛び乗った。混乱する臣下たちに「うるさい、納得しろ。お前たちも後からついてこい。わたしは先に行く!」と叫び、城へと馬を走らせた。
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