58 / 76
第3章 『水とともに生きる:前編』
第15話 佇む少女
しおりを挟む
母の話を聞いてから、早一週間程が経とうとしているけれど――未だ、私はその少女や怪現象に遭遇することはないまま過ごしている。
クリスさんも、やっぱり話は常連さんから聞いているらしかったけれど、その常連さんを含め、未だ出会ったことはないという話だ。
それでも、常連さんからいくつか追加の話は聞いたというが、それも、何だかおかしな話。
平日に見かけるのは大体夕刻、土日に見かけるのは日中が多い、とのこと。
ますます以って不思議な話。やっぱりただの噂と言うか、集団幻覚のようなものの一種なんじゃないのかな。
そんなことを思いながら、私は今日も淡海へと向かう。バイトではないけれど。
今日の予定は、淡海にある倉庫の大掃除。
何でも、しばらく開けていないから整理しないと、ということらしく、大学も終わって暇だった私は自ら手伝う旨を申し出た。
最近、たまにではあるけれども、ランニングコースを逆から回って淡海へと行くことがある。
図書館側から日牟禮八幡宮、そしてお堀へと抜けて行くコースだ。
今日も風が気持ちいい。通行人さえいなければ、両手を大きく広げて歩いてしまいそうなくらい。
「ん……?」
八幡堀にかかる橋の上――丁度、母が言っていた場所に、一つの人影を見つけた。
慎重はスラリと高く大人びて見えるけれど、捉えた横顔は幼さを残している。十代半ばかそのくらいだと思う。
橋の縁から、お堀の方を熱心に見つめている。
(何してるのかな)
少女はお堀の方を見つめたままで動かない。
どこか愁いを帯びたようにも見える瞳で、ただお堀を眺めているだけだ。
今は舟も動いていない。こう言っては何だけれど、特別見つめるに足るようなものはない。
それでも少女が好奇心にも似たような感情であったなら話は別だけれど、どうもそういう風には見えない。悲しそう、それか寂しそうにも見える程だ。
それに――
(髪、綺麗なブロンド……彫も深いし、瞳も青色だ。それに、あの右手……)
小さな切り傷のような痕がある。榎さんの話にあった。
けれど、どうも幽霊や妖怪の類ではなさそうだ。
外国人、だよね、どう見ても。
ハーフにしては、分かり易く想像する日本以外の要素が濃すぎる。観光客だろうか。
ここいらでは珍しい風貌が故に、あのような噂が立ってしまったのだろうか。
「…………?」
思わず見惚れていたところ、少女と目が合ってしまった。
「あっ、えと……」
何か言わなければ。そんなことを考え始めた矢先、
「……Non sono un fantasma」
「えっ……?」
何か呟くと、聞き返すより早く、少女はさっさと走り去って行ってしまった。
言い知れない衝動に駆られた私は、慌てて後を追い角を曲がった。けれど。
そこに、あの少女の姿はなかった。
クリスさんも、やっぱり話は常連さんから聞いているらしかったけれど、その常連さんを含め、未だ出会ったことはないという話だ。
それでも、常連さんからいくつか追加の話は聞いたというが、それも、何だかおかしな話。
平日に見かけるのは大体夕刻、土日に見かけるのは日中が多い、とのこと。
ますます以って不思議な話。やっぱりただの噂と言うか、集団幻覚のようなものの一種なんじゃないのかな。
そんなことを思いながら、私は今日も淡海へと向かう。バイトではないけれど。
今日の予定は、淡海にある倉庫の大掃除。
何でも、しばらく開けていないから整理しないと、ということらしく、大学も終わって暇だった私は自ら手伝う旨を申し出た。
最近、たまにではあるけれども、ランニングコースを逆から回って淡海へと行くことがある。
図書館側から日牟禮八幡宮、そしてお堀へと抜けて行くコースだ。
今日も風が気持ちいい。通行人さえいなければ、両手を大きく広げて歩いてしまいそうなくらい。
「ん……?」
八幡堀にかかる橋の上――丁度、母が言っていた場所に、一つの人影を見つけた。
慎重はスラリと高く大人びて見えるけれど、捉えた横顔は幼さを残している。十代半ばかそのくらいだと思う。
橋の縁から、お堀の方を熱心に見つめている。
(何してるのかな)
少女はお堀の方を見つめたままで動かない。
どこか愁いを帯びたようにも見える瞳で、ただお堀を眺めているだけだ。
今は舟も動いていない。こう言っては何だけれど、特別見つめるに足るようなものはない。
それでも少女が好奇心にも似たような感情であったなら話は別だけれど、どうもそういう風には見えない。悲しそう、それか寂しそうにも見える程だ。
それに――
(髪、綺麗なブロンド……彫も深いし、瞳も青色だ。それに、あの右手……)
小さな切り傷のような痕がある。榎さんの話にあった。
けれど、どうも幽霊や妖怪の類ではなさそうだ。
外国人、だよね、どう見ても。
ハーフにしては、分かり易く想像する日本以外の要素が濃すぎる。観光客だろうか。
ここいらでは珍しい風貌が故に、あのような噂が立ってしまったのだろうか。
「…………?」
思わず見惚れていたところ、少女と目が合ってしまった。
「あっ、えと……」
何か言わなければ。そんなことを考え始めた矢先、
「……Non sono un fantasma」
「えっ……?」
何か呟くと、聞き返すより早く、少女はさっさと走り去って行ってしまった。
言い知れない衝動に駆られた私は、慌てて後を追い角を曲がった。けれど。
そこに、あの少女の姿はなかった。
0
あなたにおすすめの小説
烏の王と宵の花嫁
水川サキ
キャラ文芸
吸血鬼の末裔として生まれた華族の娘、月夜は家族から虐げられ孤独に生きていた。
唯一の慰めは、年に一度届く〈からす〉からの手紙。
その送り主は太陽の化身と称される上級華族、縁樹だった。
ある日、姉の縁談相手を誤って傷つけた月夜は、父に遊郭へ売られそうになり屋敷を脱出するが、陽の下で倒れてしまう。
死を覚悟した瞬間〈からす〉の正体である縁樹が現れ、互いの思惑から契約結婚を結ぶことになる。
※初出2024年7月
後宮の手かざし皇后〜盲目のお飾り皇后が持つ波動の力〜
二位関りをん
キャラ文芸
龍の国の若き皇帝・浩明に5大名家の娘である美華が皇后として嫁いできた。しかし美華は病により目が見えなくなっていた。
そんな美華を冷たくあしらう浩明。婚儀の夜、美華の目の前で彼女付きの女官が心臓発作に倒れてしまう。
その時。美華は慌てること無く駆け寄り、女官に手をかざすと女官は元気になる。
どうも美華には不思議な力があるようで…?
あやかし警察おとり捜査課
紫音みけ🐾書籍発売中
キャラ文芸
※第7回キャラ文芸大賞にて奨励賞を受賞しました。応援してくださった皆様、ありがとうございました。
【あらすじ】
二十三歳にして童顔・低身長で小中学生に見間違われる青年・栗丘みつきは、出世の見込みのない落ちこぼれ警察官。
しかしその小さな身に秘められた身体能力と、この世ならざるもの(=あやかし)を認知する霊視能力を買われた彼は、あやかし退治を主とする部署・特例災害対策室に任命され、あやかしを誘き寄せるための囮捜査に挑む。
反りが合わない年下エリートの相棒と、狐面を被った怪しい上司と共に繰り広げる退魔ファンタジー。
美味しいコーヒーの愉しみ方 Acidity and Bitterness
碧井夢夏
ライト文芸
<第五回ライト文芸大賞 最終選考・奨励賞>
住宅街とオフィスビルが共存するとある下町にある定食屋「まなべ」。
看板娘の利津(りつ)は毎日忙しくお店を手伝っている。
最近隣にできたコーヒーショップ「The Coffee Stand Natsu」。
どうやら、店長は有名なクリエイティブ・ディレクターで、脱サラして始めたお店らしく……?
神の舌を持つ定食屋の娘×クリエイティブ界の神と呼ばれた男 2人の出会いはやがて下町を変えていく――?
定食屋とコーヒーショップ、時々美容室、を中心に繰り広げられる出会いと挫折の物語。
過激表現はありませんが、重めの過去が出ることがあります。
私の守護霊さん
Masa&G
キャラ文芸
大学生活を送る彩音には、誰にも言えない秘密がある。
彼女のそばには、他人には姿の見えない“守護霊さん”がずっと寄り添っていた。
これは——二人で過ごした最後の一年を描く、かけがえのない物語。
花嫁御寮 ―江戸の妻たちの陰影― :【第11回歴史・時代小説大賞 奨励賞】
naomikoryo
歴史・時代
名家に嫁いだ若き妻が、夫の失踪をきっかけに、江戸の奥向きに潜む権力、謀略、女たちの思惑に巻き込まれてゆく――。
舞台は江戸中期。表には見えぬ女の戦(いくさ)が、美しく、そして静かに燃え広がる。
結城澪は、武家の「御寮人様」として嫁いだ先で、愛と誇りのはざまで揺れることになる。
失踪した夫・宗真が追っていたのは、幕府中枢を揺るがす不正金の記録。
やがて、志を同じくする同心・坂東伊織、かつて宗真の婚約者だった篠原志乃らとの交錯の中で、澪は“妻”から“女”へと目覚めてゆく。
男たちの義、女たちの誇り、名家のしがらみの中で、澪が最後に選んだのは――“名を捨てて生きること”。
これは、名もなき光の中で、真実を守り抜いたひと組の夫婦の物語。
静謐な筆致で描く、江戸奥向きの愛と覚悟の長編時代小説。
全20話、読み終えた先に見えるのは、声高でない確かな「生」の姿。
愛された側妃と、愛されなかった正妃
編端みどり
恋愛
隣国から嫁いだ正妃は、夫に全く相手にされない。
夫が愛しているのは、美人で妖艶な側妃だけ。
連れて来た使用人はいつの間にか入れ替えられ、味方がいなくなり、全てを諦めていた正妃は、ある日側妃に子が産まれたと知った。自分の子として育てろと無茶振りをした国王と違い、産まれたばかりの赤ん坊は可愛らしかった。
正妃は、子育てを通じて強く逞しくなり、夫を切り捨てると決めた。
※カクヨムさんにも掲載中
※ 『※』があるところは、血の流れるシーンがあります
※センシティブな表現があります。血縁を重視している世界観のためです。このような考え方を肯定するものではありません。不快な表現があればご指摘下さい。
小さなパン屋の恋物語
あさの紅茶
ライト文芸
住宅地にひっそりと佇む小さなパン屋さん。
毎日美味しいパンを心を込めて焼いている。
一人でお店を切り盛りしてがむしゃらに働いている、そんな毎日に何の疑問も感じていなかった。
いつもの日常。
いつものルーチンワーク。
◆小さなパン屋minamiのオーナー◆
南部琴葉(ナンブコトハ) 25
早瀬設計事務所の御曹司にして若き副社長。
自分の仕事に誇りを持ち、建築士としてもバリバリ働く。
この先もずっと仕事人間なんだろう。
別にそれで構わない。
そんな風に思っていた。
◆早瀬設計事務所 副社長◆
早瀬雄大(ハヤセユウダイ) 27
二人の出会いはたったひとつのパンだった。
**********
作中に出てきます三浦杏奈のスピンオフ【そんな恋もありかなって。】もどうぞよろしくお願い致します。
**********
この作品は、他のサイトにも掲載しています。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる