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13話 武人による拳外交
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「脅す気か!」
「いいえ。現在のまま主張を続けられた場合の起こりうる結果を述べただけですが」
こういった場で話すことではないけど、この手の人間には簡単に伝えた方がいい。してることが相当まずいんだよってね。
自然災害はソッケ王国東の隣国キルカス南西部からソッケ王国南東部まで広く起きた。キルカスも自国の復興に手を焼いているからソッケへの支援はできない。
海賊対策は三国と海を渡った大陸の数国と連盟した上で対応しているので、我が国ドゥエツと不和があるとその連盟から追放される選択肢が出てくる。海賊対策の仲介役はドゥエツだから尚更だ。
独自で大陸各国と協力したくても、その大陸へ渡るには我が国所有の諸島を経由しないと渡れない。ここで拗れたら我が国ドゥエツはその諸島でソッケ王国の船を一切受け入れなくなる。貿易の面でも影響が出るだろう。
けどこの辺はシャーリーが担っていた仕事だから知っている人少なそうだな。
「ええい、さっさとあの女を出せと言っている!」
「出来かねます。お引き取り下さい」
そして公的な手続きを踏んで下さいと改めて言うと顔を赤くして怒った。この人外交向かないなあ。
「うるさい! こんな紙きれ! ないものも同然だ!」
バシッと私の手を叩いて書類が宙に舞った。手の甲が赤くなる。
うん、やろっかな。そろそろ、いいよね?
「いい加減にしなよ」
「え?」
「自分たちの不始末をシャーリーに押し付けるなって言ってる」
「な! ぶ、無礼だぞ!」
「どっちが無礼かしらあ?」
ぐっと拳を握り腕を後ろに引くと動かなくなった。斜め後ろにヴォルムが立っている。私の腕を手にとり、視線をしっかり私に向けた。
「ディーナ様、先に手当てを」
「無理無理。優先事項こっちだよ。もう叩かれたから」
物理的にね! 敢えて赤くなるよう当てさせたんだよ? 証拠物件だからね!
「それにテュラが来たからいいでしょ」
入ってきたテュラに視線を向けた隙に掴まれた手を振りほどく。
「ディーナ様」
「歯食いしばれ」
「え」
右ストレートをお見舞いした。
ゴッといういい音と共に謁見の間の壁にめり込む。
テュラが噴き出しながら魔法をかけていた。
優しいよね。怪我を治してあげるんだもの。まあ受けた痛みはなかったことにならないけど。
「さてさて」
「ヒッ!」
ゆっくり近づく私に腰を抜かして見上げてくる男。ちょろいなあ。
「ソッケ王国国王陛下から何も聞いていないんですね?」
「え?」
我が国ドゥエツの外交担当である私と、その外交スタイルについてだ。
テュラが少し遠くから大笑いしている。
「いいなあ、拳外交。久しぶりだわ~!」
その言葉にさっと顔を青褪める目の前の外交大使。
「白金の髪に黄緑の瞳……まさか、武人」
「武人じゃないです」
でもその言葉を知っているという事は少なからず政務に携わっているのね。
「先に手を出したのはそちら。状況証拠はここにいる人間が証言しますし、先に謁見の間に入り不敬な行動をとったソッケ王国が宣戦布告したと判断できます。私が殴り返さなくても戦争を起こす理由はできていました」
私の今の行動を訴えることは難しい。
謁見の間に不当に入った時点で力を持って排除可能な状況の中、対話でお引き取り願おうとしていたのを拒否され、先に暴力をふるったのはソッケ王国側からだ。
それはあっちも分かっているようだった。何も言わない。無言は肯定とよくいったものね。
「公的な書類等を揃え、真っ当な理由を持って、正式な手続きの末で申し入れて下さい」
今回の訪問は不問にしますので、と笑うと腰を抜かしたまま青褪めた顔を縦に振る。
ちょろくて助かった。
「ディーナ様」
「ん?」
ヴォルムが近づいてきた。眉根を僅かに歪めて少し呆れが混じる心配顔……これは私の拳について咎めるのではなく、別件でなにかきたってことね。
テュラが入って来た時点で気づくべきだった。この程度の人物相手に顔を出すなんてことをしないもの。大穴で私の拳外交見にきただけってのがあるけど、ヴォルムの表情がそうではないと言っている。
「話して」
「ソッケ王国の王子殿下とその婚約者がお見えだそうです」
「わお」
アポなしで来るの? なんで?
「念の為きくわ。どの王子と婚約者?」
「ソッケ王国第二王子殿下とルーラ・エネフィ公爵令嬢です」
悪役令嬢の元婚約者と正ヒロインで悪役令嬢の義妹の登場……ゲームのシナリオ通りってことね?
テュラに視線を向けると楽しそうに笑って頷いた。
対応するの私なんだけど?
「いいえ。現在のまま主張を続けられた場合の起こりうる結果を述べただけですが」
こういった場で話すことではないけど、この手の人間には簡単に伝えた方がいい。してることが相当まずいんだよってね。
自然災害はソッケ王国東の隣国キルカス南西部からソッケ王国南東部まで広く起きた。キルカスも自国の復興に手を焼いているからソッケへの支援はできない。
海賊対策は三国と海を渡った大陸の数国と連盟した上で対応しているので、我が国ドゥエツと不和があるとその連盟から追放される選択肢が出てくる。海賊対策の仲介役はドゥエツだから尚更だ。
独自で大陸各国と協力したくても、その大陸へ渡るには我が国所有の諸島を経由しないと渡れない。ここで拗れたら我が国ドゥエツはその諸島でソッケ王国の船を一切受け入れなくなる。貿易の面でも影響が出るだろう。
けどこの辺はシャーリーが担っていた仕事だから知っている人少なそうだな。
「ええい、さっさとあの女を出せと言っている!」
「出来かねます。お引き取り下さい」
そして公的な手続きを踏んで下さいと改めて言うと顔を赤くして怒った。この人外交向かないなあ。
「うるさい! こんな紙きれ! ないものも同然だ!」
バシッと私の手を叩いて書類が宙に舞った。手の甲が赤くなる。
うん、やろっかな。そろそろ、いいよね?
「いい加減にしなよ」
「え?」
「自分たちの不始末をシャーリーに押し付けるなって言ってる」
「な! ぶ、無礼だぞ!」
「どっちが無礼かしらあ?」
ぐっと拳を握り腕を後ろに引くと動かなくなった。斜め後ろにヴォルムが立っている。私の腕を手にとり、視線をしっかり私に向けた。
「ディーナ様、先に手当てを」
「無理無理。優先事項こっちだよ。もう叩かれたから」
物理的にね! 敢えて赤くなるよう当てさせたんだよ? 証拠物件だからね!
「それにテュラが来たからいいでしょ」
入ってきたテュラに視線を向けた隙に掴まれた手を振りほどく。
「ディーナ様」
「歯食いしばれ」
「え」
右ストレートをお見舞いした。
ゴッといういい音と共に謁見の間の壁にめり込む。
テュラが噴き出しながら魔法をかけていた。
優しいよね。怪我を治してあげるんだもの。まあ受けた痛みはなかったことにならないけど。
「さてさて」
「ヒッ!」
ゆっくり近づく私に腰を抜かして見上げてくる男。ちょろいなあ。
「ソッケ王国国王陛下から何も聞いていないんですね?」
「え?」
我が国ドゥエツの外交担当である私と、その外交スタイルについてだ。
テュラが少し遠くから大笑いしている。
「いいなあ、拳外交。久しぶりだわ~!」
その言葉にさっと顔を青褪める目の前の外交大使。
「白金の髪に黄緑の瞳……まさか、武人」
「武人じゃないです」
でもその言葉を知っているという事は少なからず政務に携わっているのね。
「先に手を出したのはそちら。状況証拠はここにいる人間が証言しますし、先に謁見の間に入り不敬な行動をとったソッケ王国が宣戦布告したと判断できます。私が殴り返さなくても戦争を起こす理由はできていました」
私の今の行動を訴えることは難しい。
謁見の間に不当に入った時点で力を持って排除可能な状況の中、対話でお引き取り願おうとしていたのを拒否され、先に暴力をふるったのはソッケ王国側からだ。
それはあっちも分かっているようだった。何も言わない。無言は肯定とよくいったものね。
「公的な書類等を揃え、真っ当な理由を持って、正式な手続きの末で申し入れて下さい」
今回の訪問は不問にしますので、と笑うと腰を抜かしたまま青褪めた顔を縦に振る。
ちょろくて助かった。
「ディーナ様」
「ん?」
ヴォルムが近づいてきた。眉根を僅かに歪めて少し呆れが混じる心配顔……これは私の拳について咎めるのではなく、別件でなにかきたってことね。
テュラが入って来た時点で気づくべきだった。この程度の人物相手に顔を出すなんてことをしないもの。大穴で私の拳外交見にきただけってのがあるけど、ヴォルムの表情がそうではないと言っている。
「話して」
「ソッケ王国の王子殿下とその婚約者がお見えだそうです」
「わお」
アポなしで来るの? なんで?
「念の為きくわ。どの王子と婚約者?」
「ソッケ王国第二王子殿下とルーラ・エネフィ公爵令嬢です」
悪役令嬢の元婚約者と正ヒロインで悪役令嬢の義妹の登場……ゲームのシナリオ通りってことね?
テュラに視線を向けると楽しそうに笑って頷いた。
対応するの私なんだけど?
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