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第22話 美少女が金を握りしめている。
しおりを挟む柊木が食堂に来たことにより、ヘリヤのパーティー(+1)が勢ぞろいすることになった。
全員がテーブルについて食事を摂っており、時折、琥珀に対しても餌付けを行ってくる。
「それにしても……一晩で元気になったみたいで良かったわ、柊木さん」
後から食堂にやってきた柊木に、揚羽が口を開く。
「昨日、ダンジョンから帰ってからずっと臥せっていたから……正直、このままリタイアしてしまうかと思ったぞ」
「うーん……アタシも二度と復帰できないかなって思ってたんだけどね。何でかわかんないけど、一晩経ったらスッキリしてたわ」
柊木が手を伸ばしてきて、琥珀の頭を撫でる。
「やっぱアニマルセラピーって大事だわ。人生で癒しって必要みたいねー」
「ふうん? 何があったかは知らないけど、その様子だと復帰も出来そうね……他のグループからは脱落者が出ているようだけど」
揚羽が食堂を見回すと、そこにはクラスメイトの何人かが欠けていた。
「坂井君と須藤君が『もうダンジョンなんて行きたくない』って部屋に閉じこもっているらしい。昨日、手酷いやられ方をしたみたいだな」
「……ダンジョンで命を落とすことはないそうだけど、痛みは普通にあるものね」
甘井が腕を擦りながら言う。
甘井は昨日のダンジョン探索で死ぬことこそなかったものの、腕を怪我していた。その時の痛みを思い出しているのだろう。
「軟弱よねー。アタシみたいに生きたまま食べられて消化されたわけじゃないでしょうに」
「そういう柊木だって、昨日はずっと泣き崩れていたじゃないか」
「それはそれ。終わったことは気にしないの」
柊木が皿に盛られたベーコンを口に放り込んで、偉そうに言う。
「坂井も須藤も男子じゃん。こんなときに男子がギブとか情けなくない?」
「生物学的には男子よりも女子の方が痛みや血に強いという説もあるわ。生理や出産などを経験する分、男よりもタフでなければやっていられないということね」
「甘井っちも難しいこと知ってるよねー。そういうのって、どこで仕入れてくんの?」
そんな会話をしていると、食堂に一人の女性が入ってきた。
白い鎧を着た女性の騎士……ダンジョンでヘリヤ達を引率していたシャーロットである。
シャーロットは軽く食堂内を見回し、ヘリヤらを認めると近づいてきた。
「みなさん、揃っているようですね?」
「シャーロット教官、おはようございます」
「おはよう。ミス・ヒイラギも体調が良くなったようですね」
「まーね。元気元気」
柊木が軽く手を振った。
昨日は廃人直前までに精神が崩れていた柊木の回復を見て、シャーロットが安堵の溜息をつく。
「それは何よりだ。持ち直してくれたようで良かったよ」
「きょーかんもアタシの後で食べられたんでしょ? そっちの方こそダイジョブなの?」
「私は慣れているから問題ありませんよ。一度や二度死んだくらいで折れていては、ダンジョン探索者としては保たないですから」
ほがらかに言うシャーロットであるが、その言葉にヘリヤを除いた三人がわずかに表情を固くさせた。
それはつまり、彼女達もこれから同じような目に遭って、なおも探索を続けないといけないということである。
「さて、今日の予定なんですが……昨日はあんなことがあったばかりなので、お休みにしましょう。ゆっくりと身体と心を休めると良いですよ」
「いいんですか、休みにしてしまって。私達は遅れているのだろう?」
揚羽が食堂にいるクラスメイトらに視線を巡らせる。
「何人かがギブアップしてしまったようだけど、早いグループはすでに第三階層まで足を踏み入れていると聞きました。私達はまだ第一階層を踏破できていない。昨日は第二階層に進むのではなく、脱出ポートを選んでしまいましたから。後れを取ってしまったら、シャーロットさんも叱られてしまうんじゃないですか?」
「……私のことならば気にしなくても大丈夫です。上官には上手く伝えておきますから。それに国王陛下にも君達にあまり無理をさせないように言い含められています。この国は異世界人を使い潰すつもりはないから、安心してください」
「そうですか……それでは、お言葉に甘えてさせていただきます」
「そうしてくれ。昨日、ダンジョンから持ち帰ったアイテムの売却代金を置いておきます。城下町にショッピングにでも行くといいですよ」
シャーロットはテーブルの上に手のひらほどの大きさの布袋を置いて、「それじゃあ」と手を振って去っていった。
揚羽が布袋に手を伸ばすが、柊木が先に掠め取る。
「あ!」
「ひーふーみーよー……銀貨が八枚入ってるじゃん。これって日本円でいくらくらいだっけ?」
「八万円ね。銀貨一枚あたりがおおよそ一万円くらいだから」
甘井が無感情な口調で答えると、柊木が「うわっ!」と大袈裟に両手を挙げた。
「すごいじゃん! 一日でそんなに稼げるのなら、アタシも死んだ甲斐があるわー」
「おい、柊木。その報酬は……」
「わかってるって。みんなでびょーどーに分けるんでしょ?」
柊木がバラバラと布袋の中身をテーブルにぶちまけ、袋を上下に振って空であることをアピールする。
「アタシだって独り占めなんてしないし。そこまでがめつくないっての」
「あ、ああ。そうだな。すまない」
昨日と比べて妙に毒気の無い柊木の様子に、揚羽が目を白黒と焦る。
一方で柊木は銀貨を二枚ずつに分けて、テーブルにつく仲間達に分配した。
「はい。一人当たり二万円のお小遣いでーす。これで何を買っちゃおっかなー?」
「ゲームだと稼いだ金で装備品や回復役を購入するのがお決まりだが……それらは国から支給されるからな」
「アレ? 揚羽っちってゲームとかするんだ。以外―」
「私だってゲームくらいするさ! 別に珍しくなんてないだろう!」
揶揄う柊木に揚羽が憮然として腕を組んだ。
ヘリヤは差し出された銀貨をポケットにしまうや、チマチマと小さな口で食事を再開させている。
「洋服やアクセサリーを買ったら良いでしょう。城下町に店があるって聞いたわよ」
甘井が口を開いて、三人に向けて言う。
「それとスイーツね。ダンジョンで採れるフルーツや牛乳を使ったお菓子を売っているスイーツ店があるそうよ。場所を聞いておいたから、皆で行ってみましょう」
「……あ、ああ。そうだな、甘井」
「……これまた以外―。甘井っちからショッピングに誘われるとは思わなかったわ。そういうの興味ないって思ってた」
「女の子なんだから、甘い物が好きなのも服やアクセサリーに興味があるのも当然でしょう? 何かおかしいかしら?」
「い、いや。おかしくないな……」
「おかしくないけどね……」
ジロリと睨んでくる甘井に揚羽と柊木がたじろいだ。
どうやら、今日の予定が決まったようである。
城下町に下りてショッピングとスイーツ。いわゆる『女子会』と呼ばれるものを開くようだ。
「キュイ」
一人だけ場違いになっている琥珀は、とりあえず皿の上にある生魚を飲み込んでおいた。
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