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第七十五話【目覚め】後1
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次の日の朝、目を覚ませば珍しく力也がしがみついたままだった。すっかり本来の体温を取り戻したおかげでしがみつかれている部分が熱い。
長い足まで離すまいというように絡みついている。ここまでくるとしがみついていると言うより、こちらが抱きしめられている状態だ。
幸い今日は力也は仕事が入ってなく、冬真は演技指導があるだけだった。
(風邪って事にしとくか)
スマホを取り出し、マネージャーと演技指導の教師宛にメッセージを入れる。所謂仮病だ。
喉が痛いと書いておいたから、電話しなくてもいいだろう。
次にスマホに入っていた神月と彰からのメッセージを確認する。二人ともうまくケアを終えたようで、力也の事を心配する言葉が入っていた。こちらもなんとかなったと返事をする。
「力也、起きれる?」
できる事ならこのまま寝かせておいてあげたいが、神月が話があると言っていた。予想が正しければ、神月に会いに行かなくてはならない内容だ。
「りーきや、朝だよ」
寝ぼけているのか、いつもよりも甘えたのようにすり寄ってくる様子に、愛おしく思いながら、軽くその背をポンポンと叩く。
「おきろ」
そう言えば、力也は目を開けた。ぼんやりした様子で、冬真をみると顔をほころばせる。
「おはよう」
「おはよう」
ちゃんと起きたご褒美というように撫でれば、嬉しそうに笑みを浮かべた。
「傑さんに電話したいんだけど起きれるか?」
「起きる」
すぐに冬真から手を離すと力也は体を起こした。あくびと伸びをすると、ベッドから立ち上がる。
「ご飯」
朝食を作りに行く力也を見送り、体勢を整え神月に電話をかけた。何度か呼び出し音が鳴り、神月が通話に出た。
「おはようございます!」
「ああ、おはよう。力也の様子はどうだ?」
「無事サブドロップのから復活できました。今は朝食作ってくれてます」
「そうか。お前達今日はこっちこれるか?」
自分の意思で動けるならば、大丈夫だろうと思ったのだろう。安心したような返事の後に問いかけられた。
「はい、二人とも用事がないのでいつでもいけます」
「そうかわかった。なら支度も含めて二時間後、こっちにこい」
「わかりました。結衣とマコさんは大丈夫ですか?」
「あー、マコは大丈夫だが、結衣はしばらく目を離せなそうだ。フラッシュバックを起こしているからな、時間がたてば大丈夫だろう」
今回のことで必死に蓋をしていた恐怖が蘇ってしまったのだろう、可哀想にと思いながらも相づちを打つ。
「そうですか。ところであの男達どうなりました?」
「あの後執行部がたどり着いて、とりあえず監禁してあるらしい」
「よかった」
執行部が動くのはいいとして、そのまま片付けられてしまう可能性もあったが、ちゃんと止めておいてくれたらしい。
「後で、監禁場所に連れて行ってやるよ」
「ありがとうございます」
どこか明るい返事をする冬真が、相手を始末することだけを考えているなど、同じ立場のDomでなければわからないだろう。今回のことは彰も神月も無論許すはずもなく、己の手で男達を始末することを望んでいた。
「冬真、話し終わった?」
「ああ、もう終わるとこ」
ひょいと顔を出した力也は、熱かったのか上着を脱ぎ上半身裸のまま、冬真の傍に寄ってきた。
「結衣とマコさんは大丈夫?」
「ああ、まだちょっと不安定なとこあるけど心配いらないって」
「よかった」
それが聞きたかったのだろう、安心したように笑った。
「あ、朝ご飯コロッケパンでいい?」
「ああ。では傑さんまた後で」
昨日の残りのコロッケを使おうとしているらしい力也に頷き、電話を切った。
「二時間後に来いってさ」
「二時間後なら十分時間あるな。冬真はとりあえず着替えちゃえよ」
「その格好のお前にいわれたくねぇけど、了解」
散々体を重ねてきているのに、恥じらう様子がないのは仕方ないが、目の毒だなと思いつつところどころ色が違う体を見る。
「怪我、痛くねぇ?」
「あー、たいしたことねぇよ。本当は防御とれればよかったんだけど、動けなくて」
そもそも本来の力也なら、あんな攻撃などすぐに受け止めてやり返していただろうが、あの時は動けなかった。ただ蹴られることしかできなかったが、それでも鍛えられた力也の体にはあれぐらいの蹴りではそれほどの衝撃ではなかったらしい。
それでも、大事な人を傷つけられたことに怒りがこみあげる。
「ごめんなさい」
「なんでお前が謝んだよ」
「怪我するなって言われてたのに」
「お前の所為じゃねぇよ。何度も言ったろ、よく頑張ったって」
「うん」
あれほどのグレアと生死に関わるコマンドを受けて、自分の元へ戻ってきただけでも凄いことだと褒めるに値する内容だ。
「力也はすげぇよ。かっこいい」
少し褒めれば嬉しそうな笑みを浮かべる力也に、今はそれだけでも安心できる。両手を広げれば、意図が伝わったのか仕方なさそうに体を寄せてきた。
「いいこ、俺の力也」
よしよしと撫でれば、苦笑を浮かべる力也になんとなく耳のあたりを舐める。
「くすぐったいってか、朝食作ってる途中なんだけど」
「いいじゃん。まだ時間あるし」
もう少しこうしてイチャイチャしていたいと思えば、俺の真似をするように、耳に口を寄せ、カプっと噛んだ。
「俺は腹減った」
「わかりました」
わかりやすい理由に、背中に回していた両手を離し、苦笑しながら体を離す。昨日はなんだかんだで、あまり食べられなかったから、余計に空腹なのだろう。
「着替えたら洗濯よろしく」
「了解」
手を離せば、あっという間に離れていくそのいつも通りの様子に、敵わないと思いながらも自分も支度をした。
約束通りの時間の数分後に冬真と力也は神月のマンションを訪ねた。少し早く行った方がいいのではないかという力也に対し、遅く行った方がいいと冬真が返し、結果ぴったりより少しだけズレることになった。
「冬真傑さんのこと怖がってんのに、なんで遅刻なんだよ」
「相手が遅ければ遅い分Subとイチャつけるだろ?」
「そんな理由!?」
予想以上に変な理由だった事に力也は思わず声を上げた。どうやら、できるだけSubとの時間を邪魔をしないようにとの配慮らしいが、それなら早く帰ればいいだけじゃないのだろうか。
「それなら早く終わって帰ればいいんじゃ」
「いや、相手が来るまでの短時間と、終わった後の長時間じゃまた違うし」
「どこがどう」
「モチベーションとかドキドキ感とかテンションとか」
「ちょっと何言ってるかわからない」
通じるだろうと思っていったのか、不思議そうにする冬真をおいてインターフォンをならせば神月がでた。
「力也と冬真到着しました」
「今開ける」
オートロックが外され、二人はマンションの中に入るとエレベーターに乗り込んだ。
部屋につくとマコがドアを開けてくれた。
「おはよう二人とも」
「おはようございます。マコさん大丈夫そうでよかった」
「うん、傑にたっぷり甘えたからね。もう平気だよ、りっくん助けてくれてありがとう」
「いえ、それで結衣は?」
「結衣は見ればわかるかな」
そう言うマコに案内され、中に入るとリビングのソファーに神月と結衣が座っていた。こちらに向けて挨拶する神月とは違い、結衣は身動きせずにべったりと張り付いている。
「悪いな、こんな状態で」
「いえ、怖かったんで仕方ないですよ」
「力也も大丈夫そうだな」
「お騒がせしました」
張り付いている結衣の頭を撫でる神月に言われ、力也は頭を下げた。べったり張り付いてはいるが、神月の様子を見る限り、問題はないのだろう。
「いや、マコと結衣を助けてくれてありがとう。お前がいなかったら二人は無事じゃなかっただろう」
「りっくんかっこよかったよ。ありがとう」
「いえ」
「それで、本題なんですけど」
この状態で話はできるのだろうかと思いつつ切り出せば、神月が片手で冬真を制止した。
「結衣」
優しく名前を呼ぶと共に、大量の愛情を込めたグレアを発しその体を包み込む。
「マコも」
呼ばれて体を寄せたマコもグレアシールドで包み込み、二人から手を離す。
「結衣、ちょっと冬真と力也と話をするからマコと一緒に別の部屋行けるか?」
そう言われた瞬間、不安そうな瞳を浮かべる結衣に、神月は困ったように微笑むと言い聞かせるように頭を撫でる。
「そんな顔をするな。俺はお前を絶対手放したりしない。いいこだからマコと待ってろ」
「はい」
「マコ、結衣を頼むな」
「うん、傑の寝室にいるね。いこ、結衣」
にっこりと微笑むマコに手を差し出され、その手を握ると、二人は寝室へ向かった。
「改めて、力也お前に確かめたいことがある」
「はい」
真剣な瞳を浮かべる神月にそう切り出され、力也も真剣な表情で見つめ返した。
「今から俺がグレアを出す。耐えきれるとこまで耐えてみろ」
「はい」
いきなりそんなことを言われた意味がわからないが、Domらしい威厳に満ちた口調で言われ、頷くとグレアに耐えるために気合いを入れた。
気合いを入れた次の瞬間、神月から重いグレアが発せられた。
いつも包み込んでくれるような冬真のグレアとは全く違う、支配力に満ちあふれたグレアが、力也が立っていることを許さないと言うように上から押さえつけられる。
「くっ」
思わず膝をついてしまえば楽になると思うが、耐えられるとこまで耐えろと言われているから、押しつぶされないように力を入れ耐える。
(やっぱりか)
二人の姿を少し離れたところで見ていた冬真は、声には出さずにそう呟くように思った。
耐えられるとこまで、耐えてみろと言った神月は、耐える力也に少しずつグレアの量を増やしていく。
すでに同じDomである冬真も、顔をしかめたくなるほどの強いグレアは、AランクのSubが耐えられないところまで来ていた。
それでも、力也は辛そうにするも平然と立っていた。その様子に更に、神月はグレアを強めていく。
それでも長時間あてられている事で、足が震えだした力也に、とどめのようにグレアを一気に強めた。
そのグレアに耐えきれなくなったのだろう、力也がガクッと体勢を崩し、膝をつく。
「冬真」
「はい。力也よく頑張ったな」
苦しそうな様子の力也にすぐに駆け寄り、優しく抱きしめ褒める。支配力はあっても攻撃力がなかったからか、苦しそうな様子はすぐに落ち着いてくる。
「力也、お前のランクだが、もうAじゃない。Sだ」
「え?」
一瞬言われた意味がわからず、聞き返す力也に神月は笑みと共にもう一度、はっきりと言った。
「お前のSubランクはSになった。おめでとうランクアップだ」
通常、DからAまではランクが上がることはない。それは元々持っている資質であり、何度経験を重ねても上がることはない。しかし、Sだけは違う。Sは明確な基準がなく、元々Sなどという人はいない。
その為、Sは元々Aだった者が色々な積み重ねで上がることを言う。力也はAの中でも耐性があり、Domとも対等に話していた。
更にSub達を惹きつける力も持っている。神月も冬真もわかっていた、力也は近い将来Sに上がる。
そうなったら、AランクのDomである冬真では力也のご主人様にはふさわしくなくなってしまう。Subよりもランクが低いDomでは満足させることはできない。
長い足まで離すまいというように絡みついている。ここまでくるとしがみついていると言うより、こちらが抱きしめられている状態だ。
幸い今日は力也は仕事が入ってなく、冬真は演技指導があるだけだった。
(風邪って事にしとくか)
スマホを取り出し、マネージャーと演技指導の教師宛にメッセージを入れる。所謂仮病だ。
喉が痛いと書いておいたから、電話しなくてもいいだろう。
次にスマホに入っていた神月と彰からのメッセージを確認する。二人ともうまくケアを終えたようで、力也の事を心配する言葉が入っていた。こちらもなんとかなったと返事をする。
「力也、起きれる?」
できる事ならこのまま寝かせておいてあげたいが、神月が話があると言っていた。予想が正しければ、神月に会いに行かなくてはならない内容だ。
「りーきや、朝だよ」
寝ぼけているのか、いつもよりも甘えたのようにすり寄ってくる様子に、愛おしく思いながら、軽くその背をポンポンと叩く。
「おきろ」
そう言えば、力也は目を開けた。ぼんやりした様子で、冬真をみると顔をほころばせる。
「おはよう」
「おはよう」
ちゃんと起きたご褒美というように撫でれば、嬉しそうに笑みを浮かべた。
「傑さんに電話したいんだけど起きれるか?」
「起きる」
すぐに冬真から手を離すと力也は体を起こした。あくびと伸びをすると、ベッドから立ち上がる。
「ご飯」
朝食を作りに行く力也を見送り、体勢を整え神月に電話をかけた。何度か呼び出し音が鳴り、神月が通話に出た。
「おはようございます!」
「ああ、おはよう。力也の様子はどうだ?」
「無事サブドロップのから復活できました。今は朝食作ってくれてます」
「そうか。お前達今日はこっちこれるか?」
自分の意思で動けるならば、大丈夫だろうと思ったのだろう。安心したような返事の後に問いかけられた。
「はい、二人とも用事がないのでいつでもいけます」
「そうかわかった。なら支度も含めて二時間後、こっちにこい」
「わかりました。結衣とマコさんは大丈夫ですか?」
「あー、マコは大丈夫だが、結衣はしばらく目を離せなそうだ。フラッシュバックを起こしているからな、時間がたてば大丈夫だろう」
今回のことで必死に蓋をしていた恐怖が蘇ってしまったのだろう、可哀想にと思いながらも相づちを打つ。
「そうですか。ところであの男達どうなりました?」
「あの後執行部がたどり着いて、とりあえず監禁してあるらしい」
「よかった」
執行部が動くのはいいとして、そのまま片付けられてしまう可能性もあったが、ちゃんと止めておいてくれたらしい。
「後で、監禁場所に連れて行ってやるよ」
「ありがとうございます」
どこか明るい返事をする冬真が、相手を始末することだけを考えているなど、同じ立場のDomでなければわからないだろう。今回のことは彰も神月も無論許すはずもなく、己の手で男達を始末することを望んでいた。
「冬真、話し終わった?」
「ああ、もう終わるとこ」
ひょいと顔を出した力也は、熱かったのか上着を脱ぎ上半身裸のまま、冬真の傍に寄ってきた。
「結衣とマコさんは大丈夫?」
「ああ、まだちょっと不安定なとこあるけど心配いらないって」
「よかった」
それが聞きたかったのだろう、安心したように笑った。
「あ、朝ご飯コロッケパンでいい?」
「ああ。では傑さんまた後で」
昨日の残りのコロッケを使おうとしているらしい力也に頷き、電話を切った。
「二時間後に来いってさ」
「二時間後なら十分時間あるな。冬真はとりあえず着替えちゃえよ」
「その格好のお前にいわれたくねぇけど、了解」
散々体を重ねてきているのに、恥じらう様子がないのは仕方ないが、目の毒だなと思いつつところどころ色が違う体を見る。
「怪我、痛くねぇ?」
「あー、たいしたことねぇよ。本当は防御とれればよかったんだけど、動けなくて」
そもそも本来の力也なら、あんな攻撃などすぐに受け止めてやり返していただろうが、あの時は動けなかった。ただ蹴られることしかできなかったが、それでも鍛えられた力也の体にはあれぐらいの蹴りではそれほどの衝撃ではなかったらしい。
それでも、大事な人を傷つけられたことに怒りがこみあげる。
「ごめんなさい」
「なんでお前が謝んだよ」
「怪我するなって言われてたのに」
「お前の所為じゃねぇよ。何度も言ったろ、よく頑張ったって」
「うん」
あれほどのグレアと生死に関わるコマンドを受けて、自分の元へ戻ってきただけでも凄いことだと褒めるに値する内容だ。
「力也はすげぇよ。かっこいい」
少し褒めれば嬉しそうな笑みを浮かべる力也に、今はそれだけでも安心できる。両手を広げれば、意図が伝わったのか仕方なさそうに体を寄せてきた。
「いいこ、俺の力也」
よしよしと撫でれば、苦笑を浮かべる力也になんとなく耳のあたりを舐める。
「くすぐったいってか、朝食作ってる途中なんだけど」
「いいじゃん。まだ時間あるし」
もう少しこうしてイチャイチャしていたいと思えば、俺の真似をするように、耳に口を寄せ、カプっと噛んだ。
「俺は腹減った」
「わかりました」
わかりやすい理由に、背中に回していた両手を離し、苦笑しながら体を離す。昨日はなんだかんだで、あまり食べられなかったから、余計に空腹なのだろう。
「着替えたら洗濯よろしく」
「了解」
手を離せば、あっという間に離れていくそのいつも通りの様子に、敵わないと思いながらも自分も支度をした。
約束通りの時間の数分後に冬真と力也は神月のマンションを訪ねた。少し早く行った方がいいのではないかという力也に対し、遅く行った方がいいと冬真が返し、結果ぴったりより少しだけズレることになった。
「冬真傑さんのこと怖がってんのに、なんで遅刻なんだよ」
「相手が遅ければ遅い分Subとイチャつけるだろ?」
「そんな理由!?」
予想以上に変な理由だった事に力也は思わず声を上げた。どうやら、できるだけSubとの時間を邪魔をしないようにとの配慮らしいが、それなら早く帰ればいいだけじゃないのだろうか。
「それなら早く終わって帰ればいいんじゃ」
「いや、相手が来るまでの短時間と、終わった後の長時間じゃまた違うし」
「どこがどう」
「モチベーションとかドキドキ感とかテンションとか」
「ちょっと何言ってるかわからない」
通じるだろうと思っていったのか、不思議そうにする冬真をおいてインターフォンをならせば神月がでた。
「力也と冬真到着しました」
「今開ける」
オートロックが外され、二人はマンションの中に入るとエレベーターに乗り込んだ。
部屋につくとマコがドアを開けてくれた。
「おはよう二人とも」
「おはようございます。マコさん大丈夫そうでよかった」
「うん、傑にたっぷり甘えたからね。もう平気だよ、りっくん助けてくれてありがとう」
「いえ、それで結衣は?」
「結衣は見ればわかるかな」
そう言うマコに案内され、中に入るとリビングのソファーに神月と結衣が座っていた。こちらに向けて挨拶する神月とは違い、結衣は身動きせずにべったりと張り付いている。
「悪いな、こんな状態で」
「いえ、怖かったんで仕方ないですよ」
「力也も大丈夫そうだな」
「お騒がせしました」
張り付いている結衣の頭を撫でる神月に言われ、力也は頭を下げた。べったり張り付いてはいるが、神月の様子を見る限り、問題はないのだろう。
「いや、マコと結衣を助けてくれてありがとう。お前がいなかったら二人は無事じゃなかっただろう」
「りっくんかっこよかったよ。ありがとう」
「いえ」
「それで、本題なんですけど」
この状態で話はできるのだろうかと思いつつ切り出せば、神月が片手で冬真を制止した。
「結衣」
優しく名前を呼ぶと共に、大量の愛情を込めたグレアを発しその体を包み込む。
「マコも」
呼ばれて体を寄せたマコもグレアシールドで包み込み、二人から手を離す。
「結衣、ちょっと冬真と力也と話をするからマコと一緒に別の部屋行けるか?」
そう言われた瞬間、不安そうな瞳を浮かべる結衣に、神月は困ったように微笑むと言い聞かせるように頭を撫でる。
「そんな顔をするな。俺はお前を絶対手放したりしない。いいこだからマコと待ってろ」
「はい」
「マコ、結衣を頼むな」
「うん、傑の寝室にいるね。いこ、結衣」
にっこりと微笑むマコに手を差し出され、その手を握ると、二人は寝室へ向かった。
「改めて、力也お前に確かめたいことがある」
「はい」
真剣な瞳を浮かべる神月にそう切り出され、力也も真剣な表情で見つめ返した。
「今から俺がグレアを出す。耐えきれるとこまで耐えてみろ」
「はい」
いきなりそんなことを言われた意味がわからないが、Domらしい威厳に満ちた口調で言われ、頷くとグレアに耐えるために気合いを入れた。
気合いを入れた次の瞬間、神月から重いグレアが発せられた。
いつも包み込んでくれるような冬真のグレアとは全く違う、支配力に満ちあふれたグレアが、力也が立っていることを許さないと言うように上から押さえつけられる。
「くっ」
思わず膝をついてしまえば楽になると思うが、耐えられるとこまで耐えろと言われているから、押しつぶされないように力を入れ耐える。
(やっぱりか)
二人の姿を少し離れたところで見ていた冬真は、声には出さずにそう呟くように思った。
耐えられるとこまで、耐えてみろと言った神月は、耐える力也に少しずつグレアの量を増やしていく。
すでに同じDomである冬真も、顔をしかめたくなるほどの強いグレアは、AランクのSubが耐えられないところまで来ていた。
それでも、力也は辛そうにするも平然と立っていた。その様子に更に、神月はグレアを強めていく。
それでも長時間あてられている事で、足が震えだした力也に、とどめのようにグレアを一気に強めた。
そのグレアに耐えきれなくなったのだろう、力也がガクッと体勢を崩し、膝をつく。
「冬真」
「はい。力也よく頑張ったな」
苦しそうな様子の力也にすぐに駆け寄り、優しく抱きしめ褒める。支配力はあっても攻撃力がなかったからか、苦しそうな様子はすぐに落ち着いてくる。
「力也、お前のランクだが、もうAじゃない。Sだ」
「え?」
一瞬言われた意味がわからず、聞き返す力也に神月は笑みと共にもう一度、はっきりと言った。
「お前のSubランクはSになった。おめでとうランクアップだ」
通常、DからAまではランクが上がることはない。それは元々持っている資質であり、何度経験を重ねても上がることはない。しかし、Sだけは違う。Sは明確な基準がなく、元々Sなどという人はいない。
その為、Sは元々Aだった者が色々な積み重ねで上がることを言う。力也はAの中でも耐性があり、Domとも対等に話していた。
更にSub達を惹きつける力も持っている。神月も冬真もわかっていた、力也は近い将来Sに上がる。
そうなったら、AランクのDomである冬真では力也のご主人様にはふさわしくなくなってしまう。Subよりもランクが低いDomでは満足させることはできない。
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