破棄されたのは、婚約だけではありませんでした

しばゎんゎん

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それから、数週間後。

社交界の話題は、一つで持ちきりだった。

「ヴァルディア伯爵家、ついに王家の監察がはいったようですわ」

 「ああ、事実上の破綻だろう」 

「表向きは存続しているけれどもう以前の力はないわね」

ひそやかな声。

だがその内容は、誰もが知る事実だった。

かつて勢いを誇った伯爵家は、今や見る影もない。

資金は底をつき。

信用は地に落ち。

取引先はすべて離れた。

残ったのは伯爵という爵位とヴァルディアという名前だけ。

「失礼いたします」

ラングレイ家の執務室。

新たな書類が運び込まれる。

「北方交易の件、正式に我がラングレイ家主導の体制へ移行となりました」

「ご苦労様」

エリシアは視線を落とし、淡々と目を通す。

「条件は?」

「こちらに有利な形でまとまっております」

「そう」

短い返答。

それだけで十分だった。

「見事なものだな」

レオナルドが笑う。

「ヴァルディア家が手放した市場を、ほぼすべて回収したか」

「自然な流れですわ」

エリシアはペンを走らせる。

「空いた場所には、別の誰かが入るだけのこと」

それが、彼女のやり方。

奪うのではなく、当然の結果として手に入れる。

「社交界の評価も一変したぞ」

クラウディアが続ける。

「今ではラングレイ家こそが実力者であったとまで言われているわ。ヴァルディア伯爵家はただの飾りだったと」

「評価は後からついてくるものです」

エリシアは顔を上げない。

「重要なのは、結果だけ」

その姿勢は、最初から変わらない。

一方で。

レオン・ヴァルディアは薄暗い部屋の中にいた。

かつての豪奢な屋敷。

だが今は、人の気配すらほとんどない。

「くそ」

机に突っ伏し、呟く。

何もかもが、消えた。

金も。

信用も。

人も。

すべてが離れていった。

それは、自分の選択が招いた結果。

あの夜。

あの言葉。

すべては、そこから始まった。

「エリシア」

名を呼ぶ。

だが、返る声はない。

もう二度と、届くことはない。

彼の周囲に残った者は、わずかだった。

その者たちもまた、離れていくのは時間の問題。

それが現実。

「はは」

乾いた笑いが漏れる。

かつての権勢は、今や何の意味も持たない。

空虚な肩書き。

それだけだった。

一方、アルシェ侯爵家は未だ動きを見せていない。

機を逃したのか、静観。

だが、交わるときはいずれ訪れる。

このままラングレイ家が発展を続ければ、否応なしに。



その頃、エリシアは。

有力商会との新たな取引をまとめ、屋敷へ戻る馬車の中にいた。

静かに目を閉じる。

ラングレイ家は、さらに発展していくだろう。

子爵という枠に収まらなくなるほどに。

だが、それすらも通過点に過ぎない。

迷いは、一切なかった。

エリシアが見るのは未来のみ。

過去に、価値はないのだから。


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