破棄されたのは、婚約だけではありませんでした

しばゎんゎん

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ラングレイ家の応接室は、静寂に包まれていた。

外はすでに夕暮れ。

いつもよりも心無しか暗く感じる。

うっすらと光が差し込む中で一人の男だけが、落ち着きなく足を動かしていた。

レオン・ヴァルディア。

誇り高き伯爵家の嫡男。

かつての権勢を誇っていたその姿は、見る影もない。

乱れた衣服。隠しきれない焦燥。

その姿が憤りを増幅させる。

「エリシアはまだか?いつまで持たせるのだ!」

苛立ちを滲ませる。

「お嬢様はすぐに参ります、落ち着いてお待ちください」

控えていた使用人が淡々と答える。

その態度すら、どこか距離があった。

ここは子爵家だ。

自分は伯爵家の人間。

本来なら、もてなされて当然の立場。

それなのに。

まるで、客ですらないような扱い。

扉が静かに開く。

「お待たせいたしました」

エリシアが姿を現す。

いつもと変わらぬ佇まい、落ち着いた装い。

そして、一切の迷いを感じさせない表情。

「エリシア!」

レオンは立ち上がる。

「やっと来たか!」

その声には、焦りと苛立ちが混じっていた。

「本日はどのようなご用件でしょうか」

エリシアは席に着きながら問う。

まるで、初対面の客に対するような態度。

「何を言っている!」

レオンは机に手をつく。

「決まっているだろう!婚約だ!」

その言葉に。

空気が、わずかに止まる。

「婚約、ですか?」

エリシアは小さく首を傾げる。

あまりにも落ち着いた反応。

それが、逆にレオンを苛立たせる。

「元に戻すのだ!」

言い切る。

「一時の誤解だった、あの夜のことは忘れろ!謝ってやる!」

必死だった。

だが、一言。

「お断りいたします」

一瞬で、切り捨てられる。

あまりにもあっさりと。

「なぜだ!」

声を荒げる。

「お前にとっても悪い話ではないだろう!」

「そうでしょうか」

エリシアは静かに紅茶を口にする。

その仕草は余裕しかない。

「伯爵家との婚姻だぞ!それが結び直せるのだ!」

レオンは続ける。

「地位も名誉もある!」

「地位と名誉ですか?」

短い一言。

「何?」

理解できない。

「それが、何の価値になるのでしょうか」

淡々とした問い。

「な、何を言っている、伯爵家だぞ!?」

「はい」

エリシアは頷く。

「ですが」

カップを置く。

静かな音が響く。

「現在のヴァルディア伯爵家に、伯爵という地位以外に何かございますか?」

「地位も名誉も過去の栄華、今この時、何が残っているのでしょうか」

その言葉で、すべてが止まった。

「資金は枯渇し」

「信用は失われ」

「取引は消え」

「それでもなお、ヴァルディア家には価値があるとお思いですか?」

視線が、真っ直ぐに向けられる。

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