【R18】気弱魔法使いはこのたび激重勇者に捕獲されました~最強の勇者さんは僕を愛してやみません~

すめらぎかなめ

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第1部 第6章 嘘と傷痕、そして墓標

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「二十年ほど前だったかな。彼女は前触れもなく姿を消したんだ」

 カップの持ち手を握りしめ、店主さんはうつむく。表情は見えない。

「みんなで、そこら中を捜した。だが、どれだけ捜しても彼女は見つからなかった」

 嗚咽が聞こえる。それだけ、辛かったのだろう。

 それでも、店主さんは僕にこのことをお話してくれた。

「あんたを見たとき、おぼろげになっていたクラーラさんの姿が一瞬でよみがえった。雰囲気は全然違うが、顔立ちはそっくりだ」

 ここまで言わせるということは、相当僕にそっくりなんだ。それこそ、見間違うほどに。

「クラーラさんのことを、もう少し詳しく話してくださいませんか?」

 身を乗り出した。店主さんはちょっと驚いたけど、穏やかに笑ってうなずく。

「あぁ、いいよ。彼女のことはたくさんの人に知ってほしいんだ」
「ありがとうございます」

 頭をぺこりと下げる。店主さんは僕の態度を見て口元を緩めた。

 店主さんの視線が窓の外に向く。見えるのは青々とした木々だけだ。

「そうそう。クラーラさんはいなくなる前に、一人の男と親しくしていたんだよ」
「男の人ですか?」
「そうだ。人間味のない不思議な男だったよ。誰とも深くかかわろうとしなくて、ひたすらアトリエにこもるような男だったさ」

 お茶を一口飲んだ店主さんの表情は、昔を思い出して懐かしんでいるみたいだった。

「ただ、クラーラさんは彼とよく一緒にいてね。街の外にもよく二人で出かけていたみたいだ」
「……ほぇ」
「だから、街ではクラーラさんとあの男が恋仲だってうわさまで出てきてね。若い男連中はそれはそれはがっかりしていたよ」

 ……クラーラさん、相当な美人さんだったんだろうな。

 僕にそっくりだと店主さんはいうけど、本当はそこまで似ていないんじゃないだろうか?

「あの男も、クラーラさんと同時期に姿を消していたんだ。そのこともあって、いなくなったのは街の外で事故にでも遭ったんじゃないか――というのが、一番有力な仮説になっていたよ」

 デートの最中に事故に遭ったということ、かな?

「まぁ、これもしょせんは仮説さ。真実は知らないよ」

 多分、店主さんからお話を引き出すのはこれが限界だろう。

 判断した僕は、お茶を飲み干して立ち上がる。

「お話、聞かせてくれてありがとうございました」

 もう一度頭を下げると、店主さんは手を横に振る。

「あんたに話せてよかったよ。クラーラさんに再会できたみたいで、こっちも嬉しかったし」
「お役に立てたなら光栄です」

 この返事で正しいのか。それは僕にはわからないけど……。

「あ、一つ言い忘れていたことがあった」

 僕が立ち去る準備をしていたときに、不意に店主さんが呼び止めてくる。

 きょとんとして視線を戻すと、店主さんは真面目な表情を浮かべていた。

「今、彼女の姓を思い出したんだ。それは確か――」

 店主さんがつむいだ家名に、僕は目を見開いた。

 だって、そうじゃないか。まさか、その姓をここで聞くなんて。

「――デルリーン」

 それは、僕が持つ姓と同じだった。
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