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勇者に選ばれた恋人が、王女様と婚姻するらしいので、
待つ恋人アデルミラの話(5)
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「お、お、お兄ちゃん……? どうして……?」
アデルミラがようやく発した言葉は、そんな言葉だった。戸惑いをはじめとしたさまざまな感情がアデルミラの中を交錯し、心を支配する。ただわかるのは、今自分を抱きしめているこの男性がロレンシオで間違いないということだけ。
「……アデルミラ、会いたかった」
でも、どうして彼はそんなにも切なそうな声でそんなことを言うのだろうか。そう思いながら、アデルミラはただ硬直する。アデルミラからはロレンシオもセレナも、どんな表情をしているかが見えない。それでも、セレナはきっと……先ほどのような笑みを浮かべているだろう。それだけは、容易に想像が出来た。
「どうして、俺との約束を破った」
しかし、次にロレンシオが発した言葉は、驚くほど冷たくて。アデルミラは、心が冷え切っていくのを実感した。……ロレンシオは、怒った際にとても声が低くなる。今、間違いなく彼は怒っている。それを実感するものの、アデルミラからすれば先に裏切ったのはロレンシオなのだ。怒られる筋合いはない。
「お兄ちゃんがっ! お兄ちゃんが、私のことを捨てたから……!」
ロレンシオの胸を力いっぱいポンポンと叩きながらそう言えば、ロレンシオは「俺は捨てたつもりなんて一切ない!」と言う。でも、アデルミラは目にしたのだ。勇者と王女の婚姻の話が、新聞に載っていたのを。
「お兄ちゃん、私のことよりも――」
そして、ロレンシオに文句を言おうとアデルミラが顔を上げた時だった。唇に、なにやら温かいものが触れる。それに驚いて目を見開いて数秒後、アデルミラは、今口づけをされているのだということを理解した。……三年前の別れ際にした口づけとは違い、角度を変えて何度も何度も行われる口づけは、何処となく心が痛む。
(お兄ちゃんは、王女殿下と婚姻するのでしょう……?)
だから、自分に口づけなんてしない方が良いのに。脳内ではそれを理解している。だけど、喜んでいる自分も確かにいて。そんな自分に戸惑い、怯え、怒りの感情を覚える。様々な感情にアデルミラが支配されていれば、ロレンシオはようやくアデルミラの唇を解放してくれた。……行われた口づけの回数は、到底両手でも足りない回数だろうか。
「……セレナ。悪かったな」
「いえ、特には。私はお仕事をしただけですので。……では、後はお二人で」
ロレンシオは一旦セレナに視線を向け、そんなことを告げていた。その言葉を聞いたセレナは、目を細めながらそう答え部屋を出て行ってしまう。最後に、パタンと言う扉の締まる音と、ガチャリという鍵がかけられたような音も聞こえてくる。……どうして、彼女は鍵をかけたのだろうか?
そんな風に疑問を抱き、アデルミラがロレンシオに声をかけようとした時だった。
「あ、あの、おにい、ちゃ、んー―ひゃぁっ!」
不意に、アデルミラの身体が荒々しくソファーに押し倒される。突然のその衝撃に怯えていれば、ロレンシオはアデルミラに覆いかぶさってきた。……その目は怒っているのか、何処となく狂気が宿っている。……怖い。そう思いながら、アデルミラはロレンシオの身体を押す。それでも、力では全く敵わない。
(もしかして――!)
嫌な予感が、アデルミラの脳内と心を駆け巡る。こんな体勢になって、成人した男女がやることなど一つしかないじゃないか。その可能性を思い浮かべ、アデルミラは逃げようともがく。なのに、ロレンシオはアデルミラの両腕を掴み、簡単にひとまとめにするとアデルミラの頭上で固定してしまった。
「……お兄ちゃん、なに、するの……?」
上目づかいで一応とばかりにそう問いかければ、ロレンシオは「やることなんて、一つだろ」と端的に言葉を返してくる。もちろん、その目には何処となく狂気が宿っているし、声は低い。……やっぱり。脳内ではその言葉の意味を理解してくれるが、心は理解をしてくれない。こんな気持ちの通じ合わない行為は、ごめんだった。
「い、や、嫌だよ……! こんなの、嫌……!」
「拒否など聞くか。……アデルミラが悪いんだからな。約束を、破ったりして」
最初に約束を破ったのは、そちらじゃないか。アデルミラはそう言おうとするものの、ロレンシオはそんな彼女の唇をもう一度塞いできた。また数回触れるだけの口づけを施され、アデルミラの開いた唇を割るようにロレンシオの舌が口内に入ってくる。その感覚に驚き、アデルミラは目を見開いたもののすぐに閉じた。……やはり、とても怖かったのだ。
「んんっ……! んぅ……!」
こんなの、口づけじゃなくて捕食だ。そんなことを心の隅で思いながら、アデルミラはただ与えられる荒々しい口づけを受け入れることしか出来ない。どうして、ロレンシオがこんなにも怒っているのかが自分には全く分からない。
(だって、先に裏切ったのはお兄ちゃんなのに……!)
一瞬だけ脳内でそう思うが、すぐに息が苦しくなり現実に引き戻されてしまう。口づけで、殺される。そう思い、アデルミラが目に涙を浮かべていれば、ようやく唇が解放された。
「っはぁ……! はぁ……!」
アデルミラは必死に息を吸い、ロレンシオのことを睨みつける。しかし、彼はそんなものを気にした素振りもなく、ただアデルミラの身体を見下ろしていた。その目は、何処となく欲情しているようであり、異性に免疫のないアデルミラからすればとても怖いものだった。
アデルミラがようやく発した言葉は、そんな言葉だった。戸惑いをはじめとしたさまざまな感情がアデルミラの中を交錯し、心を支配する。ただわかるのは、今自分を抱きしめているこの男性がロレンシオで間違いないということだけ。
「……アデルミラ、会いたかった」
でも、どうして彼はそんなにも切なそうな声でそんなことを言うのだろうか。そう思いながら、アデルミラはただ硬直する。アデルミラからはロレンシオもセレナも、どんな表情をしているかが見えない。それでも、セレナはきっと……先ほどのような笑みを浮かべているだろう。それだけは、容易に想像が出来た。
「どうして、俺との約束を破った」
しかし、次にロレンシオが発した言葉は、驚くほど冷たくて。アデルミラは、心が冷え切っていくのを実感した。……ロレンシオは、怒った際にとても声が低くなる。今、間違いなく彼は怒っている。それを実感するものの、アデルミラからすれば先に裏切ったのはロレンシオなのだ。怒られる筋合いはない。
「お兄ちゃんがっ! お兄ちゃんが、私のことを捨てたから……!」
ロレンシオの胸を力いっぱいポンポンと叩きながらそう言えば、ロレンシオは「俺は捨てたつもりなんて一切ない!」と言う。でも、アデルミラは目にしたのだ。勇者と王女の婚姻の話が、新聞に載っていたのを。
「お兄ちゃん、私のことよりも――」
そして、ロレンシオに文句を言おうとアデルミラが顔を上げた時だった。唇に、なにやら温かいものが触れる。それに驚いて目を見開いて数秒後、アデルミラは、今口づけをされているのだということを理解した。……三年前の別れ際にした口づけとは違い、角度を変えて何度も何度も行われる口づけは、何処となく心が痛む。
(お兄ちゃんは、王女殿下と婚姻するのでしょう……?)
だから、自分に口づけなんてしない方が良いのに。脳内ではそれを理解している。だけど、喜んでいる自分も確かにいて。そんな自分に戸惑い、怯え、怒りの感情を覚える。様々な感情にアデルミラが支配されていれば、ロレンシオはようやくアデルミラの唇を解放してくれた。……行われた口づけの回数は、到底両手でも足りない回数だろうか。
「……セレナ。悪かったな」
「いえ、特には。私はお仕事をしただけですので。……では、後はお二人で」
ロレンシオは一旦セレナに視線を向け、そんなことを告げていた。その言葉を聞いたセレナは、目を細めながらそう答え部屋を出て行ってしまう。最後に、パタンと言う扉の締まる音と、ガチャリという鍵がかけられたような音も聞こえてくる。……どうして、彼女は鍵をかけたのだろうか?
そんな風に疑問を抱き、アデルミラがロレンシオに声をかけようとした時だった。
「あ、あの、おにい、ちゃ、んー―ひゃぁっ!」
不意に、アデルミラの身体が荒々しくソファーに押し倒される。突然のその衝撃に怯えていれば、ロレンシオはアデルミラに覆いかぶさってきた。……その目は怒っているのか、何処となく狂気が宿っている。……怖い。そう思いながら、アデルミラはロレンシオの身体を押す。それでも、力では全く敵わない。
(もしかして――!)
嫌な予感が、アデルミラの脳内と心を駆け巡る。こんな体勢になって、成人した男女がやることなど一つしかないじゃないか。その可能性を思い浮かべ、アデルミラは逃げようともがく。なのに、ロレンシオはアデルミラの両腕を掴み、簡単にひとまとめにするとアデルミラの頭上で固定してしまった。
「……お兄ちゃん、なに、するの……?」
上目づかいで一応とばかりにそう問いかければ、ロレンシオは「やることなんて、一つだろ」と端的に言葉を返してくる。もちろん、その目には何処となく狂気が宿っているし、声は低い。……やっぱり。脳内ではその言葉の意味を理解してくれるが、心は理解をしてくれない。こんな気持ちの通じ合わない行為は、ごめんだった。
「い、や、嫌だよ……! こんなの、嫌……!」
「拒否など聞くか。……アデルミラが悪いんだからな。約束を、破ったりして」
最初に約束を破ったのは、そちらじゃないか。アデルミラはそう言おうとするものの、ロレンシオはそんな彼女の唇をもう一度塞いできた。また数回触れるだけの口づけを施され、アデルミラの開いた唇を割るようにロレンシオの舌が口内に入ってくる。その感覚に驚き、アデルミラは目を見開いたもののすぐに閉じた。……やはり、とても怖かったのだ。
「んんっ……! んぅ……!」
こんなの、口づけじゃなくて捕食だ。そんなことを心の隅で思いながら、アデルミラはただ与えられる荒々しい口づけを受け入れることしか出来ない。どうして、ロレンシオがこんなにも怒っているのかが自分には全く分からない。
(だって、先に裏切ったのはお兄ちゃんなのに……!)
一瞬だけ脳内でそう思うが、すぐに息が苦しくなり現実に引き戻されてしまう。口づけで、殺される。そう思い、アデルミラが目に涙を浮かべていれば、ようやく唇が解放された。
「っはぁ……! はぁ……!」
アデルミラは必死に息を吸い、ロレンシオのことを睨みつける。しかし、彼はそんなものを気にした素振りもなく、ただアデルミラの身体を見下ろしていた。その目は、何処となく欲情しているようであり、異性に免疫のないアデルミラからすればとても怖いものだった。
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