【R18】男嫌いと噂の美人秘書はエリート副社長に一夜から始まる恋に落とされる。

すめらぎかなめ

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第2章

第4話

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「……本当、他を当たってください」

 が、今はこのナンパ男たちをなんとかしなければならない。

 そう思って、私はもう一度素っ気なくそう言う。……なのに、彼らは引いてくれない。

 ……こんな女の、なにがいいんだろうか。

(丞さんは、私のことをどう思っているの?)

 頭の中に浮かんだことに、自然と唇をかみしめる。

 男たちが、私に声をかけている。でも、もうなにを言っているのかわからない。耳にも、入れたくなかった。

「――だから、さぁ」

 その手が、私のほうに伸びてくる。

 咄嗟に身を縮めようとしたとき。別のほうから伸びて来た手に肩を掴まれた。そのまま、自身のほうに引き寄せられてしまう。

「悪いが、彼女は俺の連れなんで」

 頭の上から降ってくるその声に、私はきょとんとする。

 視線を上げれば、そこには少し焦ったような丞さん。……どうして、そんな表情をするのか。

 ……わからない。

「杏珠さん、行きますよ」
「え、あ、はい……」

 丞さんが、私の肩を抱いたまま、移動していく。私はぽかんとしつつも、彼に連れられて歩いた。

 そっと振り返れば、先ほどの男たちがこちらを見ている。ぽかんとしている姿は、私と一緒かもしれない。なんて。

「あの、丞さん」

 少し離れて、彼に声をかけた。そうすれば、丞さんが私の両肩に手を置かれる。

「その、ああいうことって、日常ですか?」
「……はい?」

 ちょっと言葉の意味がわからなくて、私は小首をかしげた。あぁいうこと、とは。

「ほら、その。男に声を掛けられるのって……」
「……昔は、割とよくありましたけれど」

 最近ではご無沙汰だった……と、伝える意味を見出せず。私は曖昧に笑ってごまかした。

「ですが、丞さんが来てくださって助かりました。……少し、しつこくて」

 私は彼らの言葉を流していたけれど、必死だったのは伝わってきた。必死なのはいいけれど、私はいやだと言っているのだから引いてくれればいいのに……と思ったのは、違いないけれど。

 そんなことを思いつつ、私が丞さんの顔を見つめていると。彼が、私の肩に指を食い込ませてくる。

 ちょっと待ってほしい。痛い。とても、痛い。

「今後は、車で迎えに行きます」
「……えぇっと」
「こんな人手の多いところで、一人には出来ないので」

 ……彼は一体、なにをおっしゃっているのだろうか?

「その、本当、杏珠さんが男に声をかけられるの、心臓に悪くて……」

 もごもごと口を動かして、丞さんがそう呟かれる。その姿は、大型犬みたいでちょっと可愛い。

(というか、私がほかの男性に声を掛けられて、心臓に悪いって……)

 それって、つまり――。

「あの、嫉妬、でしょうか……?」

 本当は、言うつもりなんてなかった。けど、自然と口から言葉が零れ出ていた。普段ならば、絶対にしないミスだ。

「って、あ、ち、違いますよね。……申し訳ございません、思いあがりました」

 ちょっとした沈黙が気まずくて、私は慌てて頭を下げる。丞さんは、なにも言わない。

(絶対、間違えた――!)

 社会人として、思ったことをすぐに口に出すのはいかがなものだろうか。

 今後の業務に支障が出てしまったら、どうしようか。

 頭の中で不安がぐるぐると回る中、小さく「です」という言葉が耳に届く。

「そうですよ……! 杏珠さんが危険な目に遭うのは、本当に無理なんで……!」

 真剣な眼差しが、私を射貫く。……とくとくと早足になる心臓。顔にカーっと熱が溜まる。

「その、俺は、あなたのことが――」

 彼がなにかをおっしゃろうとしたとき。タイミング悪く、私のスマホが鳴った。もちろん、マナーモードのままなのでバイブレーションだ。
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