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第三章
ほんのりと、火がついてしまいそう
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「本当にキミたち仲がいいんだから……」
ジークハルトはそう言いながら頬杖を突く。その様子にマーガレットが戸惑っていれば、彼は「あぁ、そう言えばなんだけれどね」と話題を百八十度変えてしまう。
「今度トマミュラー侯爵家で舞踏会が開かれるらしいよ」
彼の声音は何でもない風だが、表情は何処となく嫌そうだ。
「……あぁ、そうなんだ」
その言葉を聞いたクローヴィスは苦笑を浮かべている。……どうやら、彼ら二人にとってトマミュラー侯爵家は何かがある家らしい。……しかし、それよりも。
(トマミュラー侯爵家って……)
何だろうか。覚えのある名前だ。
一瞬そう思ったものの、すぐに思い出す。
何故ならば、マーガレットがクローヴィスと出逢ったのはほかでもないトマミュラー侯爵家なのだから。
(そもそも、あそこに行かなければ旦那様と接点を持つこともなかったのよね……)
父に半ば無理やり行かされた社交の場。そこでクローヴィスと出逢い、契約上の夫婦となった。
もしも、あそこに行かなければ。アストラガルス子爵家は貧乏なままであり、マーガレットはクローヴィスのことを男色家だと勘違いしたままだっただろう。
それがわかるからこそ、マーガレットにとってトマミュラー侯爵家は特別なのかも……しれない。まぁ、あくまでも『かも』の域なのだが。
「ねぇ、クローヴィスはマーガレット嬢にあのことは話したの?」
不意にジークハルトがそんな言葉をクローヴィスにかける。
……『あのこと』。何とも気になる響きの言葉である。そう思いマーガレットがクローヴィスに視線を向ければ、彼は「いや、まだ言っていないよ」と言いながら首を横に振る。
「そもそも、言えるわけがないよ。変な心配をかけてしまう」
「……まぁ、そりゃそうか」
そんな言葉で話題は打ち切られた。
クローヴィスもジークハルトもこの話の流れで納得しているようだ。……ただ一人、マーガレットだけが納得できていない。
(旦那様、私に隠し事をされていたのね……)
そう思って、マーガレットはそっと目を伏せる。
クローヴィスとの心の距離は明らかに縮まったと思っていたのに。もしかしたら、彼にとってマーガレットはそこまで信頼に値する人物ではないのかもしれない。そんな感情を抱いてしまい、マーガレットは一人不貞腐れてしまいそうになる。
けれど、それを誤魔化すかのように水を口に含んだ。
(……私、旦那様のことを何でも知りたいんだわ)
冷えた水を飲みこんだあと、マーガレットはそう思ってしまった。
マーガレットは自分でも思う以上にクローヴィスのことを大切に思い、尚且つ惹かれている。……それを、嫌というほど実感してしまう。
(……旦那様)
心の中でクローヴィスのことを呼び、彼に視線を向ける。彼は楽しそうにジークハルトと会話をしていた。……そんな姿に、一抹の不安を覚えてしまう。
クローヴィスとジークハルトは仲が良すぎるがゆえに男色家だと噂されたそうだ。
確かに二人の距離感はマーガレットから見ても近い。
もしかしたら、その所為なのかもしれない。……こんなにも、胸がざわめいてしまうのは。
(って、なにを男の人に嫉妬しているのよ。……しっかりしなさい、マーガレット)
ジークハルトに嫉妬したところで、仕方がないというのに。それはわかっているのに、嫉妬してしまう気持ちが止まらない。
「ねぇ、クローヴィス。次は一週間後に来るから、僕の好みのメニューにしておいてね」
「はいはい。……ったく、ジークハルトは本当にうちに来てばっかりだな」
二人のそんな会話は、男女ならば恋仲を疑われても仕方がないような言葉だ。そんなことを思いながら、マーガレットはカットフルーツを口に運ぶ。
(そもそも、私と旦那様はまだまだ新婚なのに……)
一瞬だけそう思ってしまい、マーガレットは自分自身で驚いてしまう。二人の関係は契約から始まったとはいえ、時期的にはまだまだ新婚である。
しかし、マーガレットは新婚だと意識をしたことがほとんどなかった。始まりが始まりだったためか、新妻という感覚がなかったのだ。
「……なぁ、ジークハルト」
そんなとき、不意にクローヴィスの真剣な声が聞こえてきた。だが、その声を向けられているのはマーガレットではなくジークハルト。……やはり、嫉妬心に火がついてしまいそうだ。
「なぁに、クローヴィス……って言いたいところなんだけれど、そろそろキミの愛しの奥さんが拗ねちゃいそうだから、帰るよ」
ジークハルトのその言葉をきっかけに、クローヴィスの視線がマーガレットに注がれる。それに気が付き慌てて表情を正すものの、彼は「……マーガレット」と名前を呼んでくれる。
「キミがマーガレット嬢に熱を上げているように、どうやらマーガレット嬢もキミに熱を上げているようだね」
楽しそうに笑いながらジークハルトは立ち上がった。その姿をマーガレットはにらみつける。
(……余計なことをっ!)
全く、彼は余計なことしかしないのではないだろうか? そう思ってしまうほどに、マーガレットにとってジークハルトは侮れない人物だった。
ジークハルトはそう言いながら頬杖を突く。その様子にマーガレットが戸惑っていれば、彼は「あぁ、そう言えばなんだけれどね」と話題を百八十度変えてしまう。
「今度トマミュラー侯爵家で舞踏会が開かれるらしいよ」
彼の声音は何でもない風だが、表情は何処となく嫌そうだ。
「……あぁ、そうなんだ」
その言葉を聞いたクローヴィスは苦笑を浮かべている。……どうやら、彼ら二人にとってトマミュラー侯爵家は何かがある家らしい。……しかし、それよりも。
(トマミュラー侯爵家って……)
何だろうか。覚えのある名前だ。
一瞬そう思ったものの、すぐに思い出す。
何故ならば、マーガレットがクローヴィスと出逢ったのはほかでもないトマミュラー侯爵家なのだから。
(そもそも、あそこに行かなければ旦那様と接点を持つこともなかったのよね……)
父に半ば無理やり行かされた社交の場。そこでクローヴィスと出逢い、契約上の夫婦となった。
もしも、あそこに行かなければ。アストラガルス子爵家は貧乏なままであり、マーガレットはクローヴィスのことを男色家だと勘違いしたままだっただろう。
それがわかるからこそ、マーガレットにとってトマミュラー侯爵家は特別なのかも……しれない。まぁ、あくまでも『かも』の域なのだが。
「ねぇ、クローヴィスはマーガレット嬢にあのことは話したの?」
不意にジークハルトがそんな言葉をクローヴィスにかける。
……『あのこと』。何とも気になる響きの言葉である。そう思いマーガレットがクローヴィスに視線を向ければ、彼は「いや、まだ言っていないよ」と言いながら首を横に振る。
「そもそも、言えるわけがないよ。変な心配をかけてしまう」
「……まぁ、そりゃそうか」
そんな言葉で話題は打ち切られた。
クローヴィスもジークハルトもこの話の流れで納得しているようだ。……ただ一人、マーガレットだけが納得できていない。
(旦那様、私に隠し事をされていたのね……)
そう思って、マーガレットはそっと目を伏せる。
クローヴィスとの心の距離は明らかに縮まったと思っていたのに。もしかしたら、彼にとってマーガレットはそこまで信頼に値する人物ではないのかもしれない。そんな感情を抱いてしまい、マーガレットは一人不貞腐れてしまいそうになる。
けれど、それを誤魔化すかのように水を口に含んだ。
(……私、旦那様のことを何でも知りたいんだわ)
冷えた水を飲みこんだあと、マーガレットはそう思ってしまった。
マーガレットは自分でも思う以上にクローヴィスのことを大切に思い、尚且つ惹かれている。……それを、嫌というほど実感してしまう。
(……旦那様)
心の中でクローヴィスのことを呼び、彼に視線を向ける。彼は楽しそうにジークハルトと会話をしていた。……そんな姿に、一抹の不安を覚えてしまう。
クローヴィスとジークハルトは仲が良すぎるがゆえに男色家だと噂されたそうだ。
確かに二人の距離感はマーガレットから見ても近い。
もしかしたら、その所為なのかもしれない。……こんなにも、胸がざわめいてしまうのは。
(って、なにを男の人に嫉妬しているのよ。……しっかりしなさい、マーガレット)
ジークハルトに嫉妬したところで、仕方がないというのに。それはわかっているのに、嫉妬してしまう気持ちが止まらない。
「ねぇ、クローヴィス。次は一週間後に来るから、僕の好みのメニューにしておいてね」
「はいはい。……ったく、ジークハルトは本当にうちに来てばっかりだな」
二人のそんな会話は、男女ならば恋仲を疑われても仕方がないような言葉だ。そんなことを思いながら、マーガレットはカットフルーツを口に運ぶ。
(そもそも、私と旦那様はまだまだ新婚なのに……)
一瞬だけそう思ってしまい、マーガレットは自分自身で驚いてしまう。二人の関係は契約から始まったとはいえ、時期的にはまだまだ新婚である。
しかし、マーガレットは新婚だと意識をしたことがほとんどなかった。始まりが始まりだったためか、新妻という感覚がなかったのだ。
「……なぁ、ジークハルト」
そんなとき、不意にクローヴィスの真剣な声が聞こえてきた。だが、その声を向けられているのはマーガレットではなくジークハルト。……やはり、嫉妬心に火がついてしまいそうだ。
「なぁに、クローヴィス……って言いたいところなんだけれど、そろそろキミの愛しの奥さんが拗ねちゃいそうだから、帰るよ」
ジークハルトのその言葉をきっかけに、クローヴィスの視線がマーガレットに注がれる。それに気が付き慌てて表情を正すものの、彼は「……マーガレット」と名前を呼んでくれる。
「キミがマーガレット嬢に熱を上げているように、どうやらマーガレット嬢もキミに熱を上げているようだね」
楽しそうに笑いながらジークハルトは立ち上がった。その姿をマーガレットはにらみつける。
(……余計なことをっ!)
全く、彼は余計なことしかしないのではないだろうか? そう思ってしまうほどに、マーガレットにとってジークハルトは侮れない人物だった。
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