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28話
しおりを挟むそれにしても驚いた。
まさか王があんなことを言うなんて。
帰るときは誰にも見送られたくない。
だって悲しさが増してしまうから。
誰にも気付かれずにひっそりと帰りたいのだ。
「そうなると…帰るとしたら…すぐにでも、なのかな…」
やはり王は油断ならない。明日になったら気付かれてしまうかもしれない。毎日、相談は無いかと聞かれることを考えると胃が痛くなりそうだ。
元々チヨは隠し事が得意なタイプではない。
しかし、街には行きたい。
冥土の土産にそれくらいはいいだろう。
チヨはぎゅっと目を瞑り、もう一度考えた。
帰ろう。
日本に帰ろう。
もっとゆっくりと考えたい気持ちもあるが、そうなるとチヨの場合ずるずると長引いてしまうだろう。
王の所為で、決めてしまったのか。
王のお陰で、決まったのか。
決行は明日、街から帰ってきてすぐに祈りの間へ向かうことにしよう。
そしてそのまま帰るのだ。
それまではそんなことおくびにも出さず、楽しもうと心に決めた。
————————
「わぁ…ここが街なのね!」
「チヨ様!危ないですよ!」
ルーカスが慌てたように静止する。
—今日、チヨはルーカスと共に街へ来ていた。
黒髪は目立つからとフードを被っている。
当たり前だが、日本とは全然違う。
海外旅行は50代の頃に一度だけ、台湾へ行ったが欧米の方へは行ったことがない。
テレビや写真で見たことがあるだけだった。
どちらかというと、街並みは欧米よりだが、髪の色が色とりどりであるあたりは異世界感満載である。
チヨは思わず駆け出した。
「あ、あそこ!あそこ行ってみていいですか!」
果物が売っているようで、店先に行ってみる。
いくつか聖女宮で出たことのあるものを見つけたのだが商品名が読めない。
アルファベットくらいはチヨにも分かるのだが、そうではないのだ。
「?」
思わず首を傾げてしまう。
浄化の準備の際に読まされた書物は読めたのに何故、こちらは読めないのだろう。
それをルーカスに質問すると「あれは聖女さまにしか読めない書物なのです。勿論私達が読める方もありますよ」とのことだった。
こういうことも街に出てみないと分からないことだと感じる。
そのまま少し街を歩くとルーカスが休憩を提案した。
チヨも丁度喉が乾いていたところだったので、大きな木の下にあるベンチに座りフードを下ろして、果実水を飲んでいるときだ。
「ねぇ、おねぇちゃん!」
「………チヨ様」
「……私?」
1人の女の子がこちらを見て話しかけていた。
おねぇちゃんなんて呼ばれるのは何十年ぶりだろうか。
「おねぇちゃん以外におねぇちゃんいないよー」
「そ、そうね」
苦笑いして返すと、少女はキラキラした瞳で言った。
「おねぇちゃんは”黒の雫”なの?」
「え?なぁに?」
「黒の雫…チヨ様のことですよ」
ルーカスが小声で教えてくれる。
ああ、来たときにそんなこと言われたような気がする、だからフードを被らされていたのだ。
「ええ、そうよ」
「わぁ、やっぱり!綺麗な髪だもん!!」
「ありがとう」
思わず笑みが溢れてしまう。
可愛らしい。つい、孫のことを思い出してしまった。
ルーカスが秘密だよ、と少々に言っている。
「お母さんがね、黒の雫は聖女さまで王様を助けてくれるって言ってたの!私たちは聖女さまのことを見ることは出来ないし、いつ助けてくれるかも分からないんだって。でも聖女様のお陰でずっと幸せなんだってー」
少女は誇らしげだった。
直接的ではないが、こういう人達を守れたのだと思うとチヨも嬉しい。
さよならを告げ歩き出したところでルーカスが説明をしてくれた。
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