ダンジョンシーカー

サカモト666

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2巻

2-1

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 プロローグ 大賢者の憂鬱 ▼ ▼ ▼ ▼ ▼ ▼




「外に出してくれる……だと?」

 ドリアードの階層を抜けた武田順平たけだじゅんぺいは現在、一面が白色の謎の空間に立っていた。
 眼前には、順平達を気まぐれでこの異世界に召喚したよわい三億歳、不老不死のショタ神様。
 長い年月を死ぬ事も出来ず暇を持て余し、それはもう持て余すに持て余して、無限に生き続けるという拷問に耐えかね、ちょっぴり頭がアレになっちゃった神様である。
 そんな彼は黒のレザージャケットにピチピチのレザーパンツという相変わらずの出で立ちだった。

「せっかちだなあ……それは後述するにして……まあ、言うなれば君はプレイヤーになったんだ」

 いぶかしげな順平に対し、神は不敵な笑みを浮かべながらそう告げた。

「プレイヤー……?」

 神は順平を手で制し、首を左右に振った。

「この話はまだ早いか……どうせ説明したところで、そこに辿り着くまでに死ぬ確率のほうが遥かに高い……忘れてくれ」
「教えろと言っても無駄みたいだな」
「理解が早くて助かるよ。要するに、まあ、早い話が君は規格外になったって事だよ。考えてごらんよ、君がほふってきた魔物はそれぞれが外の世界では魔王、あるいはその眷属けんぞく以上の力を持っていた。それを君はたった一人で次々と撃破してしまった」

 そこで順平は渋面じゅうめんを作り、不愛想に言い放った。

「……まあ……どれもこれも褒められた手法ではなかったけどな」
「へぇ……」

 唇をすぼめると、神はヒュウと口笛を鳴らした。

「ん? 何だ?」
「既に開き直ってしまって……ただのどうになっているのかと思いきや、これは面白い。血をすすり、クソと臓物にまみれた地獄を這いずり回って生き延びてきながら……キミには未だに品性が備わっているようだ。なかなか出来る事ではないと思うよ」

 神は順平の肩をポンポンと叩いて何度も頷いた。
 順平は露骨に表情を崩し、鬱陶うっとうしそうに神の手を振り払いながら、ぶっきらぼうに尋ねる。

「それで一体何だっていうんだよ? 外に出すっていう話を進めてくれたほうがこちらとしては非常にありがたいんだが?」
「つれないなあ……久しぶりの再会だというのにもう少し僕に愛想良く出来ないのかい?」
「愛想良くだと? ……お前の暇潰しで俺はこんな目に遭ってんだぞ?」
「つまり、僕の事が嫌いと?」

 睨み付けながら順平は大きく頷いた。

「本当に君って男は……。僕が指を鳴らすだけで君の体は爆散するんだよ?」

 あの日、共に召喚された木戸きど翔太しょうたのスプラッター現場を思い出した順平は、一瞬ひるんだ表情を浮かべるも、再度、神を睨み付ける。

「俺は、不死者の王ノーライフキングの腐肉を喰った時……決めたんだよ」
「決めた?」
「もう、暴力を背景にしたやからには……誰であろうと頭を下げない。木戸にも……そしてお前にもだ」

 一瞬だけ、神はポカンとした表情を浮かべる。
 そして破顔はがんすると、せきを切ったように笑い始めた。

「はは……ふふふ……はははっ! ははははははははははっ!」

 その場でうずくまり、そして倒れる。
 神はのたうち回り腹を押さえながらゴロゴロと転がり、目の端には笑い涙まで浮かべていた。

「ははははっ! ふふっ! ひゃはっ……お腹が……痛いっははっ!」

 完全に置いてけぼりを喰らっている順平だが、おかまいなしで神は笑い続ける。
 転げまわる事、数分。
 ようやくそれが収まると、立ち上がり大きく深呼吸をして口を開いた。

「いや、うん。本当にいいよ君――気に入ったよ」
「だからお前は何のためにここに来たんだよ?」
「ああ、そうそう、その事なんだ。バッドニュースがまず一つ」

 淡々とした神の、妙に軽い口調。
 ――人間の命を等しくどうでもいいと思っているこの輩が、『バッドニュース』だと告げたのだ。
 嫌な予感に、順平の背中に冷や汗が走る。

「バッドニュース……?」
「うん。君にとっても僕にとってもバッドニュースだ。なんせ、僕にしたら、君の延命は暇潰しにつながる――つまりは至上命題なんだ」
「……早く要件を言えよ」

 意地悪く神は微笑んだ。

「ここの迷宮に潜った者で、一番最初の階層でノーライフキングの肉を喰った人間は何人いると思う?」
「んなもん知るか、ボケが」

 神は大袈裟に肩をすくめ、悪戯っぽくチロリと長い舌を出した。
 一挙一動がいちいち美術館に飾られた絵画や彫刻のようにサマになるのが無性に腹立たしい。

「迷宮に挑んだ冒険者、あるいは無理矢理ここに落とされた生贄いけにえ……その総数は四十万とんで八百八十二名。その内……君を除いて、あの肉を喰った者は十五名存在したんだ」

 おい……と順平も流石に狼狽ろうばいした声で応じた。

「でも、あの肉を喰うには状態異常耐性のスキルが必須なはず……普通は無理だ。そもそも倒す事すら難しいのに……そう、通常ならあの毒の効果は得られない……。だからこそ、その希少性で俺はここまで生き残れたんじゃねーのか?」

 ピシャリと神は言い放った。

「状態異常耐性のスキルを元から持っていた者がいたとして、それはそんなにおかしい事なのかい?」
「いや……」

 そこでしばし考え、順平は続けた。

「で、どうなったんだ……そいつらは? 踏破、出来たのか?」

 すると今日の天気を予報するかのような軽い口調で神は言った。

「全員死んだよ? あっさりとね」
「え……?」
「確か、君は最初に説明を受けてなかったっけ? ここは生還率0パーのダンジョンだってさ」
「十五人いて……全員? この毒がどれほど強烈な効果を持つか……それは俺が身をもって知っているんだが……?」
「話は単純さ、ここから先の迷宮は……神経毒がさほど通じないんだ。ただそれだけの話。そもそも、ボス格のケルベロスに状態異常が効いただけで僥倖ぎょうこうだと思わないとね?」

 ――神の言葉はつまり、順平にとっては死刑宣告だった。

「おいおい待てよ……毒が……通じないだと……?」

 悲鳴にも近いような順平の問いに、神はコクリと頷いた。

「そうだよ? でも……君は馬鹿じゃないよね? そんな君が、それを想定していなかったとは……僕にはとても思えないんだが?」
「いや、確かにそうだ。気になってはいたんだが……こう、面と向かって断言されるとさすがにちょっと……」
「ショックだった?」

 しばし溜めた後、順平は素直に認めた。

「平たく言えば、そういう事になるな」

 ふむ……と少し考え、神は言った。

「とはいえ、あくまで毒が効きにくくなるという程度の話だよ? 今、君が持っている毒の利点の全てが消える訳でもないんだ」

 少しだけ順平の表情が弛緩しかんするものの、すぐさま再び曇った。

「でも、毒のスキルを持っている奴はみんな……死んだんだよな?」

 ハハっと神は楽しげに笑う。

「そりゃあ、中には毒が無効の魔物もいるからね?」

 つい今しがた、毒の利点は消えないと、神は言ったのだ。
 その舌の根の乾かぬうちに、無効という発言。
 順平自身も状態異常耐性のスキルを持っているが、耐性と無効とでは全く意味合いが違う。
 のらりくらりとした神の言い回しに、順平は苛立ちを募らせる。

「テメエ……ふざけてやがんのか? 俺の利点が消える訳じゃねえって……さっき言ったじゃねえか……?」
「こりゃあまた心外な。事実嘘はついていない。これから先は基本的に毒が通じにくい。そして、無効の者もいる。通じる者もいれば、通じない者もいる。言語として破綻はしていないよね?」
「……?」
「まあ、ケルベロスの時みたいに、腕一本喰わせて……みたいな戦法は今後、敵に毒が無効なのか否か分からないから……出来ないだろうけどね。あれをまたやるとなれば、下手したら腕だけじゃすまないよ?」
「やっぱお前ふざけてるだろ? 基本、俺の戦法はそっち系だ。で、それしか出来ない……。それくらい、知ってんだろ?」
「ふざけてるって……そりゃあ、楽しむためなら何でもやるよ? 君をおちょくるのも、その一環だ」

 そして、神はおどけた様子を改め、神妙に頷いた。

「おちょくるって……」
「あるいは――君自身の運命すらもね」
「俺の運命を……?」

 少しだけ首を左右に振り、神は何かを考えているような難しげな表情を作る。

「いや、改変すると言ったほうが正しいのだろうか……」

 一人で話を進めてしまっている形。
 順平は彼の意図が全く理解できないが、神とはそういう人物なのだから仕方がない。
 それでも、コミュニケーションを取ろうと質問を投げかける。
 何しろ、この少年の発言の一つ一つに……恐らく聞き流せば即死級の情報が紛れている可能性があるのだから。

「すまない、俺にも分かるように教えてくれ……どういう事だ?」

 その言葉には取り合わないという風に神は首を左右に振った。

「わりと真面目な話、この迷宮には僕すらも逆らえないルールが幾つかあってね。そのルールの中の一つである『クリア不可能である事』は……今現在の君をあてはめると、ルール違反になっちゃうんだよ」
「ルール? さっきから本当に何を言っているんだお前は……?」

 神は困ったように首を傾げた。

「もう少し分かりやすく言おう。いいかい? 君に限らず、この迷宮は一定年齢以上の人間全てに門戸もんこが開かれている。いや、この迷宮の性質上、開かれていなければならないんだ……っと、これ以上説明してもパニックになるだろうから、君はこれだけ覚えていればいい。この迷宮はどこの誰にでもクリア可能でなければならない。その可能性がほぼゼロであっても、完全にゼロであっちゃあいけないんだ。ところが……実際に一つ問題が生じている。端的に言うとね……君のステータスでは次の階層はどうあってもクリアできないんだ」
「クリアできない?」
「君のステータスは偏りすぎているんだよ」
「……?」
「例えばさ、階層が深くなればなるほど魔物も更に規格外になっていく。そうなると、設備全体……壁や、あるいは出入り口のドアも頑丈な物にしないといけないんだ。だからここから先、君の腕力ではドアが重すぎて開かないとかいう笑えない事態も真面目に起きるんだよ。そもそも、人間の枠外に位置する連中向けに作られたダンジョンだ。普通の人間より非力なものがそこまで行けるなんて想定されていないってお話なんだよ」
「つまり?」
「この迷宮を作った者の想定に、君ほどの極端なステータスの割り振りを行うっていう発想がなかったんだよ。そこで僕が助け舟を出しに現れた」

 少しだけ怒気を込めて順平は口を開いた。

「回りくどいのはあまり好みじゃねえ。結論から言ってくれると助かるんだが?」

 神は順平にメモを手渡した。

「これが、ドアを開くとか、部屋の中の地形――例えば、遠くのマグマの熱気に耐える事が出来るとか、そういった意味でのクリアに必要な最低限のステータスデータだ。どれだけ頭を使おうが、何をしようが――装備品による補整なしの基礎値で……このステータスがないと無理だ。ここをクリアしていないと、これから先の階層で室内の空気を吸うのが無理とかそういうレベルだと思ってくれて構わない」

 そこで順平は眉をひそめた。

「このメモの通りステータス数値を必要最低限に割り振ろうとしても、レベルにして数百は足りないな……神様の御力でステータスの底上げをしてくれるっていうなら非常にありがたい話だ」

 神はそこで首を左右に振った。

「そこまで直接的な協力は出来ない」
「知ってるか? 口だけ出して何もしないってのは最低の下種げすっつーんだぜ?」

 神は楽しげに笑う。

「ははっ。ま、スキルハンターの職業を更に上位のモノにすればいいだけの話だよ」
「職業の底上げ? 俺の適性は無職……」
「生まれ持った適性、すなわち向き不向きで最初に職業は決定されるけれどね? それはあくまで最初期での設定であって、そこから先は条件さえ満たせば転職や上位職への昇進も可能だよ。例えば、今の君のスピードのステータスなら盗賊系の最上位職に就く事も可能なはずだよ」
「そういえば木戸の取り巻きが……ギルドでAランク冒険者になって一定のステータスに達すれば上位職への条件解除……とかそんな話もしてたっけかな」
「そう。冒険者ギルドっていうのは、職能ギルドの意味合いもあるからね。条件さえ満たせば転職の手助けもしてくれる。だからこそ、みんなAランク冒険者、あるいはその先を目指すんだからね」

 そこで順平は溜息をついた。

「だが、まあ、それが出来るにしてもナンセンスだな。なんせ俺はこの迷宮に閉じ込められて身動きが取れないんだから」

 そこで神は肩をすくめてこういった。

「さっきも言ったろう? この迷宮はこの世界に生きるいかなる者に対しても……たとえ可能性がどれほど低くても、一階層に降り立った時点では、クリア可能でなければならないんだ。そして、今回こういう状況が起きたのは君というプレイヤーの責任ではなく、上級職以外の者がここを潜るという想定をしていなかった――それは間違いなくダンジョン作成者の不手際だ。だから、君はここから出て外の世界で職業のグレードアップを行う必要がある」

 しばしの沈黙。いくばくかの逡巡しゅんじゅん。その後――
 順平はあっと思わず声を発してしまった。

「おい、それって……外に出る事が出来るって話なのか?」
「だから、さっきからそう言っているだろう? それに……外に出るにしてもあくまで一時的にだ。君の魂は迷宮に生贄として既に喰われていて、そこの因果については僕は干渉しない」
「喰われてるって一体……?」

 その質問には取り合わず、神は順平の肩に手を置いた。

「期間は半年だ。その時点で上級職になっていてもいなくても、あるいはクリア不可能な状態であっても、強制的に連れ戻される」
「もしもその時、上級職になっていなかった場合、お前は俺をどうするつもりだ?」
「ん? ああ、決まってるじゃないか。笑いながら『この迷宮で死ね』って言うよ? その後、僕が君に関与する事はないだろうね。所詮、君はその程度だったと……別の玩具を探すだけさ」
「……なるほどな」
「ああ、そうそう。それでね、僕が君の肩を持つのは……単純に気になる事があるからなんだよ」
「気になる事……?」
「――さっきも言ったけれど、僕は君の復讐劇が見たいんだ。今の僕の一番の関心はそこにある」

 キョトンとした表情で順平は、口を開けた。

「……?」

 うんうん、と神は何度も頷いた。

「繰り返しになるけどさ、別に僕は君が死んだって構わないんだ。迷宮で死のうが、で死のうが、あるいは外で奴らに殺されようが。面白ければ、そんなのはどれでも良い。でも、人外に達した今の君が、かつてのクラスメイトに、そして外の世界の一般人に対してどう接するのか――考えるだけでワクワクするじゃないか! これはもう、偽りなく本当に!」

 そして、続けた。

「――何よりも、僕はそれが見たいんだっ! その前に死ぬ事は許さないっ! 死ぬなら再度この迷宮に帰って来てから死んでくれっ!」

 ゴクリと順平は唾を呑みこんだ。

「で……どうすれば外に……?」

 そこで神はパンと掌を叩いて、ニッコリ微笑んだ。

「それはそうと、一旦その話は置いといて……」
「いや、置いとくなよ! そこは置いといちゃあダメだろう!」

 悲鳴に近い順平の抗弁を完全に神はスルーした。

「ねえ、君は知りたくはないか?」
「何をだよ」

 神は順平に顔を近付け、その耳元に唇を寄せる。
 吐息が順平の耳元をくすぐった時、神は意味深に呟いた。

「この迷宮の成り立ち、あるいはその存在意義を……ね」
「迷宮の成り立ち……だと?」

 耳元の不快感を断ち切るように神の胸を押しのけつつ、順平は神の言葉について考える。
 順平にとってこの迷宮は、地上最悪の罰ゲームという認識以外なかった。
 しかし、よくよく考えてみれば、いや、考えずとも確かにいろいろとおかしい事がある。
 そもそも、外の世界の生態系を完全に無視した異質な魔物が、何故にこの洞窟内にだけ存在しているのか。
 言われてみれば気になるのも道理という話だ。

「元々ね、ここの迷宮の難易度はこれほど異常ではなかったんだよ。とは言っても……うーん、どういう風に例えればいいかな」

 少し悩んだ後、神は掌をポンと叩いた。

「RPGゲームで言うところの、エクストラダンジョンって言えば分かりやすいかな?」
「ラスボスを撃破してクリアした後のオマケみたいなダンジョンの事か? しかし、この迷宮では魔王クラスの力じゃ雑魚相当……そして最強クラスのSランク冒険者が、一階層目でゴミみたいに大量に殺されてるんだろ? 普通のゲームのエクストラダンジョンなら、一発目のエンカウントでパーティがあっさり全滅……みたいな難易度には設定されてないはずじゃねーのか?」
「うんうん、その認識で間違いないよ。それでね……元々は難易度的にはその程度だったんだよ。外の世界で魔王と呼ばれる魔物を退治できる力があるなら、あるいは、Sランク冒険者なら……迷宮の浅い階層であればある程度通用するような、そして外の世界にも普通の手段で帰る事が出来るような……そういうダンジョンだね」
「何かが原因でこんなふざけたダンジョンに作り変えられた……と?」
「まあ、原因の半分以上は僕なんだけどね」
「なるほどな。まあそんな気はしてたよ」

 ニコリと神が笑ったところで、順平はケルベロスの犬歯を懐から抜き出し、完全に不意を突く形で神に向かって、殺意を込めて全力で放り投げた。
 突然の不意打ちですら楽しまなければもったいないとばかりに、笑みを浮かべたまま空中で神は犬歯を摘まみ取る。

「ケルベロスの牙の持つ神殺し属性がお前にも通用するのか、見たかったんだけどな……」
「そこについてはノーコメントとしておこうか……通用するにしろしないにしろ、もしも君が僕にそういった攻撃を加える事が出来たとして、その時の君の表情を見てみたい。……ところで聞きたい事がある」
「ん、何だ? 何故俺がお前を殺そうと思ったかって事か?」
「いや、違うよ。君が……隙さえあれば僕を殺したいという殺意を常にたぎらせているのは分かっている。そして僕がそこに油を注ぐような発言をした事もね。まあ、そんなどうでもいい事じゃなくて、僕が聞きたいのは――本当に君は僕を恐れていないんだね?」

 神は人差し指と親指を重ね合わせ、今すぐにも指を鳴らす事が出来る姿勢を作った。

「恐れる? 俺がお前を? 冗談きついぜ」

 ポカンとした表情を浮かべて、神は口を開いた。

「冗談を言った覚えはないんだが……僕が指を鳴らせば問答無用で君は……」

 そこで、順平もほうけた表情で応じる。

「お前にとっては、人間も含め、生物には等しく価値がないんだよな?」
「地球で……ゲーム製作に携わる人間達以外は……そうだろうね」
「その上で、わざわざ俺を観察してここまで会いに来ている訳だよな?」
「……何が言いたい?」

 要するにさ……と順平は神に向かってファックサインを決めた。


「そんな事にも気付いてないと思ってたのかこのスカタンっ! 俺はお前の暇潰しのための……その舞台の最高の演者って事だろう? そんな俺をお前が簡単に殺せる訳がないだろうがっ!」

 呆れたような、感心したような表情で神は呟いた。

「一歩間違えば殺されるこの状況で、あまつさえ僕に攻撃をしかけた上、その言葉……」
「ご不満かい、神様?」

 キラキラとした表情で、神は感嘆の溜息をらした。

「いいや、その逆だ。何故君がここまで生き残れたのかが分かったよ。確かに、僕が君を殺さないだろうという推測に至るまでなら、それほど難しい事でもないだろう。でも、普通の人間にはその読みに、己の命までベットできない……。全く……本当に君って男は……」

 そこで、神は順平に歩み寄り、彼を抱擁ほうようした。
 耳元をくすぐるような吐息を吹きかけ、さらに続ける。

「認めよう。確かに君の言う通りだ。僕は君に興味を持っている。君がこの迷宮を踏破できるのか、君が行う復讐の顛末てんまつがどうなるのか、そして君が全てを知った上でこの迷宮でプレイヤーとしてどう行動するのか……うん、非常に興味深い……ああ、今気付いたんだが、君の本当の力はギャンブラー的な気質にあるのかもしれないね」
「ギャンブラー……だと?」
「いや、破滅思考というのかな? とにかく、君の本当の特性、それは――他に選択肢がないのであれば、たとえ無謀であろうと……唯一の希望に、それでいて最も可能性の高い選択肢に、迷わず生命の全てをベットできるという事だ」

 そして、心の底から楽しげに神は続けた。


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