男装伯爵は元男娼に愛される

秋乃 よなが

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第十章 男装伯爵と元男娼、想い合う

第四十七話「男装伯爵は元男娼に愛される」

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「ち、近い…っ」

「…少なくとも俺のこと、信頼して受け入れてはくれてるよな…?」

「ノア…っ」

「…その先は?それ以上の想いは、ない…?」

「…っ、そ、そんなの、私には分からな――」

「――嘘つき。今のロイド、色っぽい顔してる」

「……!」

 心臓をぎゅっと握りしめられた感覚と同時に、唇を掠めた柔らかい感触。

 その直後に、沸騰しそうなほどの熱が身体の底から湧き上がってきて、ロイドの空色の瞳は生理的な涙で潤んだ。

「…嫌だった?」

「っ、」

 ノアの吐息がロイドの唇をくすぐる。

「…俺とのキス、嫌だった?」

「っ、…嫌じゃ…なかった…っ」

「――知ってる。ロイドの目がもっとって、さっきから俺に訴えてる」

「な――」

 抗議の声はノアの唇によって奪われて。先程よりもしっかりと重なるそれに、ロイドは自然と強請るようにノアの服を掴んでいた。

「――イイコト思いついた」

「っ、は…っ」

 余裕のある笑みを浮かべたノアに、ロイドは余裕のない返事を返す。

「俺の子を産んでくれ、ロイド――いや、サラ」

「…は!?」

 驚くロイドをよそに、ノアは満面の笑みのまま口を開く。

「それで俺たちの子を育てよう。表向きは養子として」

「ちょ…、何を言って…」

「表立って親子とは言えないかもしれないけど、ちゃんと愛情を注げば伝わるだろ。な、いい考えだろ?」

「っ、わあ!」

 そう言うやいなや、ロイドを横抱きにして抱き上げたノア。

 その向かう先は、ロイドの寝室。

「ちょっと待て!ノア!」

「待たない。サラが欲しくて堪らない。だから黙って俺に愛されて」

「…っ、ノア!」

 足早に寝室へと移されて、優しくベッドの上に乗せられて、最後の抵抗と言わんばかりにロイドが声を上げる。

「こんなこと…だめだ!」

「どうして?俺はロイドが好き。ロイドは俺が好き。そこに何の問題がある?」

「わ、私はまだノアが好きかどうかなんて…」

「そんな顔してまだそんなこと言うわけ?心配しなくても俺に抱かれれば、嫌でも自分の気持ちに気づくだろ」

「だ、抱か…っ」

「例え気づかなかったとしても、好きにさせる自信、あるし」

「……っ、」

 ノアの強気な態度にロイドは返す言葉もなく、顔を赤くしたままその口を無意味に開閉させていて。

 いつから自分のことを、とか、男の格好をしているのに気持ち悪くないのか、とか。聞きたいことはあるはずなのに、どの言葉もロイドの口から出ることはなかった。

 そして、次の瞬間には肌触りのいいシーツの上に押し倒され、唇を奪われていた。

「…ノ、ア…っ」

「――ん、イイ子。今は俺だけを感じて」

 頬を、首筋を、肩を、ノアに優しく撫でられたところから熱が広がってゆく。

 そうして口づけを落とされるたびに心と身体が震えて、ロイドは今まで感じたことのない温かな幸福感に包まれていた。

 ――ああ、そうか。

 ノアから与えられる熱に浮かされながら、ロイドはふと気づいた。

 自分がノアに感じた仄暗い気持ちも、心から安心できると思える気持ちも全て。他の者には決して感じ得ない、ノアにだけ抱く、特別な感情だったのだ、と。

 そして、その特別な感情に名前があるとするなら――。

「――ノア…っ」

「どうした?」

 名を呼べば、優しい眼差しが返ってくる。それがあれば、自分はどこまでも強くいられそうな気がする。ノアと一緒なら、なんでも乗り越えられそうな気がする。

 ――二人なら、怖いものなど何もない。

「ノア…っ、好き…っ」

「……っ!」

「ノア、が…っ、好きだ…っ」

「…悪い、優しくできそうにない。――俺も、サラが好きだ」

 この日、ロイドは初めて女として愛される喜びを知り、ノアは初めて愛する女を抱く喜びを知った。
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