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1章.嘘つきたちの想い。
04.それをイメプレと人は呼ぶ
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公務員であるお兄ちゃんが夜勤でいない夜。
わたしとセキは、お兄ちゃんの服を着込み、お兄ちゃんのシーツを敷いたどちらかのベッドで、あるいはお兄ちゃんの部屋の前やリビングで、お互いの身体を使ってオナニーをする。
目隠しをしてお兄ちゃんの匂いの中で、お兄ちゃんが好きな音楽を聴きながら。
目隠しをしたセキに好きにヤらせてあげると、切なそうな吐息混じりの声で射精をする。それがわりとかわいい。って、10歳年上のセキをかわいいって思うのは少し変だけど。セキは30歳に見えないくらいの優しい顔立ちだし、若く見えるのだからしょうがない。
家でパソコンをにらめっこしながら仕事をしているのも若作りの一因か。フリーランスのIT系のエンジニアだかプログラマーらしく、パソコンに向かって英語やドイツ語で喋ったりしている。かと思えば、中国語みたいなのも話せるようだ。
ヒキコモリをしていてもパソコンをにらめっこしてお金がもらえる。世の中、そういう仕事もあるのだろう。
今夜もお兄ちゃんは夜勤で留守だ。
お兄ちゃんがしばらく使っていたシーツを、セキのベッドの上にのせるだけの簡単なベッドメイキングをした。どうせ汚れるのだから洗うのには変わりない。
代わりにお兄ちゃんのベッドには、アイロンがかかった新しいシーツをきちんと付けておいた。さすが主婦スキルのあるわたしだ。抜かりはない。
それからお兄ちゃんのカットソーを素肌の上に着る。
高校生までバスケをしていたお兄ちゃんは大きい。そんなお兄ちゃんの服をわたしが着ると、カットソーはぶかぶかのチュニック丈になる。生地の裏が乳首に当たって微かにくすぐったい。
ショーツはどうしようかな。履いてようかな。お兄ちゃんのトランクスを履くだけで濡れてきちゃうから、セキにとってはめんどくさくないよね。
とはいえ、お兄ちゃんのトランクスを履いてると、セキに変態扱いされてしまうのが不名誉および不服である。セキだってお兄ちゃんのトランクス履くだけでおっきするくせに。
ともあれ、どうしようか。セキがわたしのかわいいショーツを見ても興ざめであろうし。うーん。
悩んでいるうちに風呂上がりのセキがやって来た。
セキはお兄ちゃんのシャツとスラックスを着ている。身長は同じくらいだけど、お兄ちゃんより線が細いからダボダボだ。
「ネクタイ。セキ、ネクタイは?」
「どうせ目隠しするから要らないでしょ?」
「こういうのはナリキルのがだいじって、前にセキが言ったんだよ」
「そういうことは覚えてるんだね。義務教育の勉強を覚えてたらもっとえらかったのに。キユは残念な頭をしているよね。かわいそうに」
セキはよよよ、と泣くマネをする。可愛げのないおっさんだ。
「ほっといてよ。お兄ちゃんみたいにデキが良くなくて悪かったな」
残念な頭をしていようと、家事全般は主婦並みにできる。サトイモの煮っころがしと豚汁、ぶり大根などの茶系おふくろ料理は、〈お兄ちゃん食べブログ〉で好評を博している。
お兄ちゃんがホッとしてくれるような家庭をこれまで作ってきたのはわたしだ。セキが我が家に来なければ、今ごろこの家はふたりの愛の巣だったのだ。そしてお嫁さんなど見つけてこなかったのだ。べらんめぇ。
「キユにはキユのキャパシティがあるんだよ」
ヨシヨシ、なんて頭を撫でられてしまった。なんてことだ。
「なんかさぁ、今日のセキ、おかしくない?」
「おかしいのがいつも通りだから、いたって普通」
30歳♂にピースをされて威張られると、世代のギャップを感じる。
「ふーん。まあいいや。アイマスク、ちょーだい」
「つけてあげるよ」
「あっ、今日はゴムしなくていいよ。パッチ貼ってるからダイジョーブ」
近年ようやく認可された低用量ピルのスキンシールバージョン。名前をなんといったか忘れたけれど、決まった時間に薬を飲まなくても平気で、ずっと貼っとくだけで生理が軽くなるスグレモノ。高校生の時になんでなかったかなーとか思ったよね。重い生理も月経なんちゃら症候群だって軽減されて、身体も気分も楽だ。
日々進化している科学の恩恵をこうして受けることができる。人類と医学の進歩たるや、素晴らしきかな。
「最近、キユのちゃらんぽらんな所が心配でありますよ」
「ちゃらんぽらんはペルシャ語由来とかって説あるの、知ってる?」
「キユが大学で勉強してる内容に時々不安を持ちます」
「ははは。ブンカジンルイガクの猪沢ゼミはこんな感じだよ」
わたしは大学で文化人類学という、なんの役に立つかわからない勉強っぽいことをしている。とくにオカルト系の著作を何冊も執筆されている、その道のエキスパートたる猪沢教授のゼミは、ほんとうに生きる上でなんの役に立つのかわからないオベンキョをさせてくれる。
「将来的にどうなの?」
「なるようになる」
ちなみに再来年卒業の予定だが、就職の予定はない。3年生の夏を超えてエントリーシートすら見ていない。
どこの博物館にも学員の空きはない。と、噂でしか聞いていない。
「はいはい、威張らないでね」
「卒論のテーマは都市伝説と古代にしたいから、イギリスのフリーメイソンに行きたい」
「夢を壊しに行ってらっしゃい」
「セキも行くんだよ。誰が通訳してくれるの?」
「自分のやりたいことに他人を巻き込まない」
はたと気がつく。わたしは目をぱちぱちさせて、まじまじと優しげな面差しの、恵まれ整った顔を拝見する。セキの柔らかな色の瞳に、こけし系女のわたしがしっかり映っている。
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