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しおりを挟む叔父さんを馬車の中からメアリ嬢に会わせた次の日………
学園へ行った僕の前に、メアリ嬢が立った。
訝しげな顔つきで「お話があります」そう言った。
「シュン、あれが王宮だ。モリスとはここで再会して恋に落ちたんだ。建物も変わってない。いや、少し門辺りが変わったか」
「叔父さん、モリスさんの実家は近いのですか?」
「あぁ、調べたらここから北へ向かうのだが、モリスが1人で娘を育てているのなら、実家近くで暮らしているのかもしれないな」
「……叔父さん、ちよっと寄りたいところがあるのです。でも、北へ向かってもらって大丈夫です」
「そうか?なんだ?薬草か?」
「ええ、ここからそう遠くはないですが、アシュレインの丘というところです。丘の上には季節の花が咲いていて、その先には薬草もかなりあるらしいです。」
「まぁ、僕も気持ちを落ち着けないといけないからな。」
「叔父さん、見てください」
「あぁ凄いな。花だらけだ。
あの先には何があるんだ……」
「行ってみましょう」
「んっ?あっ、墓地なのか……入って良かったのか?」
「叔父さん、良く見てください」
「花か?僕はそんなに花……………」
そこには墓標があり
[モリス、サナーシュここに眠る
没 25歳]
と掘ってあった
「はっ?はっ、あっ、あ、あぁ~
そっ、そんな、そんなこと………
うわぁ~、うわぁ~、モリスー」
リュドはモリスの墓を抱きしめ泣き叫んでいた。
シュンはずっと、ずっと黙ってそれを見ているしかなかった。
ガサッ
シュンが振り返ると、そこにはメアリの立つ姿があった
「エトリガット公爵様、こんにちは。今日は母に会いに来てくださり、ありがとうございます。」
リュドは泣きながら振り返る
「私は……君のお母様に酷いことをしてしまった」
「それは仕方がなかった事でしょう?母も納得していたようです。
ここからもう少し北の方へ降りて頂くと母の実家、今は弟の叔父様が継いでおられますが、サナーシュの邸がございます。そこでお話しませんか?当主の叔父様には連絡してありますので……」
「わかりました。向かいます」
呆然としているリュドの代わりに、シュンがそう返事をした
「どうぞ、お入りください。
叔父様を呼んで参ります」
メアリ嬢から許しをへて、邸へ入らせてもらう
応接間へ通され、リュド叔父さんと呆然としていると、そこへ当主のサナーシュ様とメアリ嬢が入ってきた
「どうぞ、お掛けになってください」
「ありがとうございます。」
「はじめまして、私がモリスの弟のアレンと申します。そして、私の隣にいるのがモリスの娘、メアリです」
「私は、リュド、エトリガットと申します。そして隣にいるのは、私の養子となってくれたシュンです。
申し訳ありませんでした。モリスが、いや、モリス嬢が……なのに僕は……事故で長いこと記憶を無くしてしまい、他の女性と婚姻しモリスを裏切りました。記憶が戻ってもモリスに会うことは許されないと、自国からモリスの幸せを祈っていました。
まさかモリスが………お聞きして良いですか、何故モリスは?」
「母は、私を産んでから身体が弱くなってしまったんです。きっと私を無理して産んでくれたんです。とても優しい母でした。母は、私が4歳の時に儚くなってしまいました。きっと私を産んだせいで母は「メアリ、それは違うよ。」」
「でも叔父様……」
「メアリ、姉さんは君が産まれた時「無事に産まれてくれてありがとう。私が貴女のお母様よ。これからよろしくね」と、両親と私の前で嬉し涙を流しながらメアリの誕生を喜んでいたよ。元々身体に弱い所があったからだが、それでも起きれるときはメアリを見ていたし、ベッドにいてもメアリに本を読み、お母様として楽しそうに面倒を見ていたよ。だから、そんな寂しい事を言ったら姉さんが悲しむ。今でもきっと見ていてくれているよ」
「叔父様……」
「姉さんは僕から見ても素晴らしい女性でした。小さい時から自慢の姉で、学生の時は子息から追いかけられ大変な騒ぎでしたよ。ふっ。
エトリガット公爵と会ったのは、学園の一年生でしたか?
きっと姉さんなりに、貴方には想うところがあったのでしょうね。
ある時、姉さんがヒマワリの種を撒いて咲かせはじめました。それは今でも見事に咲きますよ。エトリガット公爵から渡された種だったのですね」
「はい。留学を終えて帰る前にモリスに渡しました。そして、今僕が付けているカフスボタンは、モリスから頂いた物です。馬車の事故に会った時、握りしめてました。」
「今日お会いして、メアリは姉さんにそっくりだと思っておりましたが、貴方様にも良く似ているのですね」
「メアリさんを見ているとモリスを思い出せます。でも、私にも似ているところがあり……モリスと私の子なんだなと嬉しくて……くっ」そう言いながらリュドは涙ぐんだ。
「あの、母の日記を読んでもらえますか?あの時の母の気持ちがとてもわかると思います。私達は少し席を外しますから」
「ありがとう」そう伝えて、机の上に置かれた日記をリュドは時間をかけて読んだ。
リュドの目からは止めどなく涙が流れ、シュンも日記を読みながら目頭が熱くなるのを感じた。
その中には
「これは……父上からの手紙?」
……………………………………
はじめまして
私はリュドの父親です
あなた様から送られてくる手紙で、あの時リュドが心に誓った人がいることを知りました。
何故貴女からの手紙を勝手に読んだか?
それはリュドが今、記憶喪失になっているからなんです。
そちらの国へ視察に行き、帰りの馬車が道を誤り道下の川へ落ちてしまいました。
咄嗟に養子の子供を助け、リュドは酷い怪我をおいました。
そのせいでレントラン国へ留学していたことも、その後あなた様と恋仲になったことも覚えておりません。事故から半年経ちますが、いまだ記憶は戻っておりませんし、一生このままではないかと言われています。
なので、今回あなた様からの手紙を開けさせてもらい読みました。
貴女には酷な話なのですが、その事故の時に一緒に行動をしていた国のアリサ王女がおります。
王女がずっとリュドの側から離れず献身的に看病をしてくれております。
私どもは断ったのですが、リュドとは仲良く過ごしていたと言われ……信じてしまい邸に泊まり込みで看病をしている状況なんです。
そして、どうも2人は今想いあっていそうなんです。
私は手紙を見せ、王女に問いただしました。
王女は泣きながら本当の事を話してくれました。
自分がずっと恋していたリュドの側にいたかったと。
そして視察に行った時に、なんとなく貴女とリュドが恋仲であるというのともわかったと。
私はリュドを貶めたのか?と、非難しました。
王女が泣きながら私に謝っていたのですが、後から入室してきたリュドが、私を睨み「父上は何故アリサを泣かしているのですか?彼女は私の大切な人です」と、そう言ったのです。
私は伝えようとしましたが、記憶を無くしてしまったリュドにとって、彼女は、なくてはならない人になっていました。
貴女の気持ちを思うと、とても辛く、そしてリュドにとっても本意ではない事もわかっています。
記憶が戻って欲しいと思うのですが、今この時を幸せそうな2人を見ていると、このままでもと思ってしまうのです。
王女のしたことは、決して許されることではないのですが、ただリュドを想い看病をしてくれていただけ。
そしてそれに惚れたのはリュドです。
きっとこれからも記憶は戻らないでしょう。
会いにいらっしゃっても、傷つくのは貴女の方だと思います。
まだリュドと貴女は婚約したわけでもないです。
傷が浅いうちに、リュドの事を忘れてください。
お願いします。
貴女には謝っても謝っても納得してもらえないかもしれません。
酷いことを言っている、年老いた親に免じて、リュドを許してやって欲しい。
リュドを見ていると、本当に愛していた貴女と添い遂げられないのが、悔やまれます。
これは私の本心ですが、心の中に閉じ込め見守ることにしました。
リュドは他にも事故の後遺症があり、もう子供を持つことはできません。
これは王女が知らぬこと。
貴女とリュドを、思惑をもって離した王女への咎めです。
これは、私達夫婦で決めたことです。
これからも同じ邸で暮らす私達夫婦は、人を騙すようなアリサ王女を好きになることは出来ないでしょう。
これも、私達からのアリサ王女への咎めにしようと思います。
ただ、一緒に同じ邸にいるだけ……
どうか、あなた様のこれからが、辛いことばかりではないことを祈ります。
公爵閣下 ダミアン
………………………………………
手紙を読んでまた、リュドは自分のあの時の状況を知り、泣きながら「モリスごめん。」そう、呟くしかなかった。
コンコンッ
「姉さんの日記を読まれましたか?
今日はもう遅いですから、このままぜひ我が家にお泊まりください。
まだ聞きたいことがありますし。
リュド殿と呼んでよろしいか?
ぜひ、貴方には姉の部屋で今日は休んでもらいたいのです。姉さんがきっと、喜ぶと思うので」
「何故、姉上を裏切った私に優しくしてくださるのですか?私は恨まれても仕方ないことをしました」
「姉さんが愛した人ですからね。
意地悪したら。今度姉さんに会った時に叱られてしまいますよ。メアリも、貴方と会うのを躊躇っていましたが、貴方を見たら考えが変わったらしいです。お母様がきっと喜ぶと言っています」
「ありがとうございます。」
「食事をしながら、ゆっくりと今までの事を教えてください」
「はい!」
「ここが姉の部屋です。
使われていないですが掃除は怠っていませんので埃っぽくはないと思いますよ。
シュンさまの部屋は隣をお使いください。
食事になったら呼びます。
その時に、家族を紹介させてもらいます。では後程」
部屋にはモリスの絵姿が飾られていた。
まだ若い頃のモリス
微笑んでいるモリス
メアリ嬢を抱いて幸せそうな母の顔のモリス
「叔父さん、とても美しく優しそうな女性ですね」
「あぁ、初めて会った時は眩しくて見ていられなくてな。声をかけるのもできないでいたんだ」
「叔父さんが?」
「やっぱり、モリスが私にとって1番なんだとわかるよ。
モリス、私達の子供を産んでくれてありがとう。生きて会いたかった」
晩餐の時間になり、アレン殿が迎えに来てくれた
「紹介しましょう。
妻リーナ、娘マリア、そして姉の娘のメアリです。食べながら話しましょう」
「はい」
「サナーシュ家の皆さん、今日は突然押し掛けてきて、また泊まらせて頂けて、そして突然なのに食事まで、ありがとうございます。
モリスとは…………」
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