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地下三階
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「あの、ミコさん。ここは・・・」
タケルは地下三階の暗い廊下を歩きながら、前を歩く年配の女性に聞いた。廊下の壁際には棚が設えられており、そこには段ボールなどが沢山積まれていた。タケルはさっきまでいた最上階とのギャップに戸惑っていた。
女性はミコさんといい、タケルが配属された真霊課で働いているとのことだった。
「うちは特別な部署だから、ここにオフィスがあるの」
ミコはそう言うと、どんどん先に進んでいった。
「え、ここ地下三階ですよね。確か地下二階は駐車場で、それよりも下なんですか」
タケルは段ボールの棚に挟まれた廊下を進みながら、まるで倉庫の中にいるような錯覚に陥っていた。本当にこんなところにオフィスがあるのか信じられなかった。
「ええ、そうよ。うちは色々特別なのよ」
ミコが振り返り、笑顔で言った。
「何が特別なんですか」
タケルは嫌な感じがして、聞いた。
「え、特別って、特別でしょ。貴方にも見えるんでしょ」
ミコは廊下の突き当たり手前にある鉄の扉に手を掛け、ウィンクをして言うと扉を開けた。
「えっ、何が・・・」
タケルはミコの言葉に驚き、足が止まった。
タケルには子供の頃から、普通の人には見えない色々なものが見えていた。だが、物心がついてからは、その事は表には出さず、他の人と同じように何も見えないふりをしてきた。昔から普通になりたいと思っているタケルにとって、自分の能力は、普通の生活を送る上で邪魔でしかなかった。勿論、就職活動では自分の能力のことは全く触れずに、普通の学生として活動したのだった。
「さあ、どうぞ、入って」
背中で扉を支え、ミコが促した。
「あ、はい」
タケルは何か言おうとしたが、結局何も言えず、取り敢えず部屋に入った。
部屋は思った以上に広く、向かい合わせになった六つの机が一つの島を作り、部屋の左奥にはソファーセットが置かれていた。机の上にはデスクトップのパソコンが置かれ、そこだけ見れば確かにオフィスに見えたが、壁はコンクリートがむき出しになっており、当然ながら窓もなく、タケルがイメージしていたオフィスとは全く違っていた。
「じゃあ、山村さんはその机を使って。パソコンを立ち上げたら、人事のシステムで自分の個人情報が正しく入力されているかを確認して、問題がなかったら自宅からここまでの通勤経路を入力してね。そしたら月末までには通勤定期代が振り込まれますから。あ、そうだロッカーは隣の部屋なので、後で荷物をしまいましょう。それが終わったら案内しますから」
ミコは早口で言うと、隣のロッカーがあると言っていた部屋に入っていった。
タケルは言われるがまま目の前の席につき、パソコンの電源を入れた。パソコンが立ち上がるまでの間、部屋の中を見回したが、部屋には誰もいなかった。
タケルはパソコンで作業しながら、どこか落ち着かなかった。今やっている作業は、タケルが求めた普通のオフィスでの仕事っぽいが、部屋に入る前にミコが言った言葉が引っ掛かっていた。
「え、ミコさん、その格好は・・・、ミコさんですよね」
暫くすると、隣の部屋の扉が開いた。タケルは入ってきたミコを見て、思わず立ち上がってしまった。
ミコは上が白で下が紅い、神社でよく見る巫女の格好をしていた。長い髪を後ろでまとめ、眼鏡を外し薄化粧をしていると、黒目がちの綺麗顔立ちが映え、さっきよりも全然若く見えた。
「ああ、やっぱりこっちの方が楽だわあ」
ミコは口を開け呆然とするタケルの方を見てニヤリと笑うと、そのままソファーのところに歩いていった。
「さあ、そろそろ起きて下さいね。課長、阿満野課長、課長ったら、ほら」
ミコはいきなり、ソファーの背もたれ越しに声を掛け、ちょうどタケルからは背もたれで見えないところに向かって手を伸ばしていた。誰かを揺すっているようだった。
「う、ううん。・・・うへ、ミコか。うん、今何時」
そう言いながら、男が体を起こした。その男の髪ははね、ワイシャツの上のボタンは外されており、見るからに寝起きの様子だった。
「ふぁれ、だれ」
男が伸びをしながら立ち上がり、タケルを見てミコに言った。立ち上がった男はタケルと同じ位の普通の背丈だったが、その体は鍛えられ、締まっているのが一目で分かった。
「彼、新人君ですよ。今日配属になった」
ミコがそう言うと、男は少し考えてから、急に明るい声で言った。
「いやあ、君かあ。新人君は。そっか、そっか、よろしくな」
男はタケルに近づき、タケルの手を取った。
「僕は阿満野、阿満野透。アマノトオルです。課長です。いやあ、本当によく来てくれたよ。いや、ありがとう」
課長の異常なまでの感激ぶりに、タケルは困惑した。
「はあ、あの、その山村武尊です」
タケルは挨拶し手を離そうとしたが、課長は手を離そうとせず、真っ直ぐタケルの目を見てきた。何かを探っているようだった。暫くそのままの状態でいた。
「よし、合格だ。うん。これだけの力があれば十分だ」
課長は手を離し、ミコに向かって嬉しそうに、そう言った。
タケルは地下三階の暗い廊下を歩きながら、前を歩く年配の女性に聞いた。廊下の壁際には棚が設えられており、そこには段ボールなどが沢山積まれていた。タケルはさっきまでいた最上階とのギャップに戸惑っていた。
女性はミコさんといい、タケルが配属された真霊課で働いているとのことだった。
「うちは特別な部署だから、ここにオフィスがあるの」
ミコはそう言うと、どんどん先に進んでいった。
「え、ここ地下三階ですよね。確か地下二階は駐車場で、それよりも下なんですか」
タケルは段ボールの棚に挟まれた廊下を進みながら、まるで倉庫の中にいるような錯覚に陥っていた。本当にこんなところにオフィスがあるのか信じられなかった。
「ええ、そうよ。うちは色々特別なのよ」
ミコが振り返り、笑顔で言った。
「何が特別なんですか」
タケルは嫌な感じがして、聞いた。
「え、特別って、特別でしょ。貴方にも見えるんでしょ」
ミコは廊下の突き当たり手前にある鉄の扉に手を掛け、ウィンクをして言うと扉を開けた。
「えっ、何が・・・」
タケルはミコの言葉に驚き、足が止まった。
タケルには子供の頃から、普通の人には見えない色々なものが見えていた。だが、物心がついてからは、その事は表には出さず、他の人と同じように何も見えないふりをしてきた。昔から普通になりたいと思っているタケルにとって、自分の能力は、普通の生活を送る上で邪魔でしかなかった。勿論、就職活動では自分の能力のことは全く触れずに、普通の学生として活動したのだった。
「さあ、どうぞ、入って」
背中で扉を支え、ミコが促した。
「あ、はい」
タケルは何か言おうとしたが、結局何も言えず、取り敢えず部屋に入った。
部屋は思った以上に広く、向かい合わせになった六つの机が一つの島を作り、部屋の左奥にはソファーセットが置かれていた。机の上にはデスクトップのパソコンが置かれ、そこだけ見れば確かにオフィスに見えたが、壁はコンクリートがむき出しになっており、当然ながら窓もなく、タケルがイメージしていたオフィスとは全く違っていた。
「じゃあ、山村さんはその机を使って。パソコンを立ち上げたら、人事のシステムで自分の個人情報が正しく入力されているかを確認して、問題がなかったら自宅からここまでの通勤経路を入力してね。そしたら月末までには通勤定期代が振り込まれますから。あ、そうだロッカーは隣の部屋なので、後で荷物をしまいましょう。それが終わったら案内しますから」
ミコは早口で言うと、隣のロッカーがあると言っていた部屋に入っていった。
タケルは言われるがまま目の前の席につき、パソコンの電源を入れた。パソコンが立ち上がるまでの間、部屋の中を見回したが、部屋には誰もいなかった。
タケルはパソコンで作業しながら、どこか落ち着かなかった。今やっている作業は、タケルが求めた普通のオフィスでの仕事っぽいが、部屋に入る前にミコが言った言葉が引っ掛かっていた。
「え、ミコさん、その格好は・・・、ミコさんですよね」
暫くすると、隣の部屋の扉が開いた。タケルは入ってきたミコを見て、思わず立ち上がってしまった。
ミコは上が白で下が紅い、神社でよく見る巫女の格好をしていた。長い髪を後ろでまとめ、眼鏡を外し薄化粧をしていると、黒目がちの綺麗顔立ちが映え、さっきよりも全然若く見えた。
「ああ、やっぱりこっちの方が楽だわあ」
ミコは口を開け呆然とするタケルの方を見てニヤリと笑うと、そのままソファーのところに歩いていった。
「さあ、そろそろ起きて下さいね。課長、阿満野課長、課長ったら、ほら」
ミコはいきなり、ソファーの背もたれ越しに声を掛け、ちょうどタケルからは背もたれで見えないところに向かって手を伸ばしていた。誰かを揺すっているようだった。
「う、ううん。・・・うへ、ミコか。うん、今何時」
そう言いながら、男が体を起こした。その男の髪ははね、ワイシャツの上のボタンは外されており、見るからに寝起きの様子だった。
「ふぁれ、だれ」
男が伸びをしながら立ち上がり、タケルを見てミコに言った。立ち上がった男はタケルと同じ位の普通の背丈だったが、その体は鍛えられ、締まっているのが一目で分かった。
「彼、新人君ですよ。今日配属になった」
ミコがそう言うと、男は少し考えてから、急に明るい声で言った。
「いやあ、君かあ。新人君は。そっか、そっか、よろしくな」
男はタケルに近づき、タケルの手を取った。
「僕は阿満野、阿満野透。アマノトオルです。課長です。いやあ、本当によく来てくれたよ。いや、ありがとう」
課長の異常なまでの感激ぶりに、タケルは困惑した。
「はあ、あの、その山村武尊です」
タケルは挨拶し手を離そうとしたが、課長は手を離そうとせず、真っ直ぐタケルの目を見てきた。何かを探っているようだった。暫くそのままの状態でいた。
「よし、合格だ。うん。これだけの力があれば十分だ」
課長は手を離し、ミコに向かって嬉しそうに、そう言った。
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