長い夜、蒼い月

五嶋樒榴

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夜明けの蒼い月

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祖母は、皇居近くのラグジュアリーホテルのスイートに泊まっていた。
指定された部屋に向かいドアを開けて驚いた。会議が出来そうな広いダイニングテーブルと大きなソファがあってもまだゆとりがあり、壁はガラス張りで夜景が美しかった。

「いらっしゃーい!アンソニー、由紀子!」

80には見えないほど若々しく可愛いおばあさんに由紀子はドキドキした。
そして祖母は綺麗なクイーンズイングリッシュだった。

「はじめまして、福士由紀子です」

由紀子は祖母にお土産を渡した。

「開けてもいい?」

祖母は目を輝かせている。
リボンを解いて箱の中を開ける。
日本製の絹のスカーフだった。嬉しそうに祖母は直ぐに首に巻いた。

「まぁ、とっても素敵!ありがとう!すごく趣味がいいのね、お前の由紀子は」

祖母が一夜にウインクする。一夜は照れ笑いをした。

「せっかくだから、このまま食事に行くわ。和食の懐石料理を予約したんだけど良かったかしら?」

祖母が由紀子に尋ねる。

「はい。私好き嫌いないので」

由紀子がそう答えると、祖母は由紀子と腕を組んでどんどん部屋を出てしまう。

「ちょっと、二人して僕を除け者にしないでよ」

一夜は一人振り回されていた。   
食事が済み、部屋に戻ると祖母はルームサービスでチーズの盛り合わせとワインを頼んだ。
祖母の秘書のマークがワインを注いでくれた。

「では、もう一度乾杯!」

祖母はずっと上機嫌だった。由紀子がアメリカに行くことも大賛成してくれた。

「私も、自分のやりたいことをやるためにイギリスに行ったわ。由紀子も秘書の仕事を極めるためにアメリカに行くことはとても素晴らしいわ!私は応援するわよ!」

頼もしい味方が出来て由紀子は嬉しかった。

「あーあ、どっちが孫なんでしょうね。さっきから僕を蚊帳の外にして」

拗ねる一夜に祖母は笑う。

「だって由紀子はそのうち私の孫になるのよ。ひ孫も見れるかもしれないわね!」

ひ孫と言われて一夜と由紀子は顔を見合わせて笑った。

「あー、本当に楽しみだわ!アンソニーがいつアメリカへ帰るかわからないけど、もう由紀子は私の孫よ」

祖母はそう言って由紀子を抱きしめた。由紀子は嬉しくて涙が出てきた。

「ありがとうございます、おばあさま」

二人の抱擁を見て、嬉しいやら、嫉妬するわで、一夜はほぼ悶々と過ごした。
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