長い夜、蒼い月

五嶋樒榴

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夜明けの蒼い月

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由紀子は大学の同級生で親友の内野しほなと待ち合わせをして、しほなが勧めるバーの入り口にいた。
しほなが重厚なドアを開けると、一夜が好きそうな佇まいのバーだった。
妖しい魅惑的なマスターが、美しい微笑みで出迎えてくれて、マイケルが見たら虜になるだろうと思った。
マスターは奥のソファ席に由紀子としほなを案内した。

「お飲み物はいかがしますか?」

隙のない、それでいて威圧感は一切ない素敵なマスターに由紀子も好感を持った。

「シャンパン開けちゃおうか。由紀子の前途を祝福しましょう」

しほなが言うと、マスターは二人に微笑みカウンターへ戻った。
しばらくして、マスターはシャンパンを運んで来て栓を抜くと、フルートグラスに注いだ。美しい泡を見つめながら由紀子としほなは乾杯した。

「あーあ、由紀子はアメリカ行っちゃうんだ」

寂しそうにしほなは言う。

「でも心機一転いいんじゃない。離婚したのは驚いたけど。原因はなんだったの?」

由紀子は尋ねられて悩んだ。でも、しほなになら正直に言えた。

「私、愛してる人がいるの。俗に言えば不倫の関係だった」

しほなは由紀子の告白にギョッとした。

「どうしても彼と結婚したくて、洋輔に離婚を切り出そうと考えてた時に、自宅のマンションで洋輔の浮気現場に出くわしたの」

しほなはあまりにディープな話に吹き出しそうになった。

「私はずるいから、彼の浮気を理由にして離婚したわ。もちろん、慰謝料も請求しないし、住んでたマンションも彼に渡したわ」

由紀子の話にしほなは笑った。

「真面目な由紀子らしいわね。自分にも後ろめたさがあったから、慰謝料も請求しなかったんでしょ?」

しほはが言うことに頷いた。

「その彼といつか結婚する気?」

しほなの問いに由紀子は頷いた。

「いつか彼もアメリカへ帰ってくるだろうから、それまで私がアメリカで待っているつもり。もちろんどれくらいかかるか分からないけどね。その時は結婚式呼ぶから」

にっこり由紀子は笑う。幸せそうだなとしほなは思った。

「しほなは?最近恋愛の話全く聞かなくなったから」

由紀子は心配そうに聞く。しほなはカウンターをチラッと見たが、フッと笑った。 

「んー、どうなのかな。私も分からないや」

不思議と楽しそうに言うしほなを見て、由紀子はカウンターにいるマスターの事にはわざと触れなかった。
大人になるとすべて赤裸々に語る必要も聞く必要もないからだ。

「いつアメリカへ行くの?」

寂しそうにしほなは言う。

「今週の土曜日よ」

クリスマス前に由紀子は旅立つ。
前日はもう成田のホテルを取っているので、実家で過ごすのは明日1日だけだった。

「しほなも仕事忙しいでしょうけど、日本に帰ってきたらまた会ってね。もちろん彼にも会って欲しいから」

幸せそうな笑顔で由紀子は言った。

「もちろんよ。いつまでも私達は親友だもん」

しほなの言葉に由紀子は嬉しかった。由紀子としほなは時間が許す限りバーで過ごした。
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