長い夜、蒼い月

五嶋樒榴

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夜明けの蒼い月

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次の日、両親と実家で過ごす夕飯はいつもと同じ食卓だった。
ただ結婚した兄家族も来てくれて、姪っ子と甥っ子のお陰で賑やかな夕飯になった。

「まさか離婚したと思ったら今度はアメリカ行くだなんて、本当にびっくりよ」

母親に言われて由紀子は苦笑いをした。

「でも、それで由紀子が幸せになるならもう何も言わないわ。身体だけは気をつけてよ」

心配してくれて由紀子は嬉しかった。
今回の離婚では両親を悲しませたが、いつかまた両親を喜ばせたいと思っている。
いつか一夜と結ばれて、姪っ子や甥っ子達のような、可愛い子供も欲しいと思った。

「嫌になればまたいつでも戻ってくれば良いだけだ」

ポツリと父親が言った。その優しさが由紀子には嬉しかった。
この家で、この両親に育ててもらって本当に幸せだったと由紀子は感慨深かった。
その頃一夜はマンションで一人飲んでいた。
明日は仕事が終わったら、そのまま由紀子が宿泊する成田のホテルに一緒に泊まる事になっていたので、会えるのは嬉しいが、離れる寂しさで心は押しつぶされそうだった。


 明日、由紀子と一緒に過ごしたら、出発の朝に由紀子を笑顔で見送る自信がない。
 僕も一緒に行ってしまいたくなる。


身体が引き裂かれるほど悲しかった。
今すぐにでも会いたかったが、実家で過ごす夜を邪魔してはいけないと思い我慢する。
インターホンが鳴って一夜はビクッとした。モニターを見るとジェイクが立っていた。

「よお。寂しがってると思ってきてやったぞ」

ジェイクの笑顔に一夜は笑った。 

「優姫は?」

一夜が聞くと一夜のキッチンでジェイクは水割りを自分で作った。

「ユーキが行ってやれって言ったんだよ。お前がきっと泣いて寂しがってるってね」

笑いながらジェイクは言う。一夜も笑い二人はグラスを重ねた。

「日本に来た時は、こんな日が来ると思わなかった。離婚してから不眠症になって、僕の体を心配したCEOが日本へ送ってくれた。もう仕事だけに生きようと思っていたのに、由紀子と愛し合ってしまった。まさか彼女が先にアメリカに行くとは思わなかったけどね」

ジェイクは一夜を見つめて肩を叩いた。

「今だけだよ、そんなにシンミリするのも。いつまでも日本にいるわけじゃないだろうし、しばしのお別れって思えばいいじゃん」

ジェイクなりの励ましに一夜も嬉しかった。
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