ぞんびぃ・ぱにつく 〜アンタらは既に死んでいる〜

されど電波おやぢは妄想を騙る

文字の大きさ
4 / 23
◇第一部◇

第四話 軍曹は正しく益虫?

しおりを挟む
「チッ、蜘蛛だけにゾンビ化してもすばしっこい! 何処へ逃げやがった!」

 長槍の代わりに手にしている鉄パイプを握りしめ、周囲の天井などを注視していくも、痕跡などは見当たらない……。

「鈴木さんはゾンビとは言え、俺の大切な友人に等しい存在だからな……絶対に助け出す!」

 世界が崩壊した直後、何も解らない俺と出逢い、助けてくれた優しいゾンビな鈴木さんだから。


 まぁ、当時、既にゾンビだった鈴木さんだけに、ものすげぇ警戒して俺が殺し――潰し掛けたんだけどな?


 そんなことも水に流して懇意にしてくれる人柄――ゾンビ柄だからこそ、俺も鈴木さんをゾンビだからと言うだけで、忌み嫌ったりはしないんだけど。

「あそこまで高い天井なんかにへばりつかれでもしたら手が出せん。――ならば」

 鉄筋剥き出しの天井は、結構な高さがあって普通には届かない。
 なので飛び道具代わりに、近くにあった電動ガンタッカーセットを手にした俺だった。

 ガンタッカーと言う工具は、分厚い針や釘を撃ち出して壁材などを固定する道具だ。
 簡単に言えば巨大なホッチキスに等しい。

 俺の手にしているガンタッカーは、釘を電動で撃ち出す仕様になっている。
 手動式とは比べ物にならないほどに、強力に撃ち出し固定できる優れた工具だ。


 こいつを銃のように使えば、充分な殺傷能力が期待できる筈!


 早速、専用ホルスターを腰に巻き、ガンタッカーを抜き放って試し撃ちをする。
 天井に吊り下がる照明を、見事に木っ端微塵に粉砕した!

「良し! 充分に届くし威力もある! 流石に業務用だけのことはあるのな」

 ガンタッカーを油断なく構え、天井は無理だが、行ける所を徹底的に探し回る俺。


 従業員が出入する事務所か倉庫の入口付近に、蹲る何かが目に入る。


 それが微妙に動いていた――。


 凄い量の返り血塗れの鈴木さんだった!


「す、鈴木さん⁉︎ 無事ですか⁉︎」

 大慌てで駆け寄って、蹲る鈴木さんの容体を見る――。

「こ、これはっ⁉︎ ――めっさ腐ってるじゃないですかっ⁉︎」

「――酷っ! 腐ってるのは元からですよ!」

 御体満足で無事っぽかったので、軽く巫山戯てみたり――本当に無事で良かったよ、うん。

「僕が担いでた犬猫のお肉が目当てだったようで……僕には見向きもしませんでした。お陰で九死に一生を得ました――ホント、死ぬかと思った」
 

 鈴木さん、アンタ既に死んでるから。


「俺も今まで一度も襲われなかったし、それで間違いなさそうですね。あとはこの残骸……どう見てもゴキブリ? 益虫らしく掃除してくれてるとか?」

 鈴木さんが蹲る入口から見える奥の倉庫に、ゴキブリの残骸らしき殻が撒き散らされていたのが伺えた。


 要は餌を喰ってるから野良ゾンビ化していないってことか。

 ナリはゾンビだけど、正しく益虫として活動しているってことになるな……。


「ええ。恐らく……と言うか、確実にそんな感じなんでしょうね」

「だとすると、あの軍曹アシダカクモが明らかに俺らを襲い始めるまで、見逃しておいた方が無難かも……。俺らに害なす可能性のある物を駆除してくれてるんだし。まぁ、餌のゴキブリが居なくなったら、どっかに行くかもしれませんけど。最悪は撒き餌をして難を凌ぐってのも手かも?」

 野良ゾンビ化して脅威になるんなら、予め餌になる犬猫さえ用意すれば、基本は安全だろう……餌付けできれば言うことないけどさ。
 それに軍曹はゴキブリ以外にも、ネズミなんかも捕食してくれるしな。

「今後はそうした方がより安全でしょう。僕、嫌ですよ? ゴキブリのゾンビの群れとかに襲われるの」

「うぇ――連想した! 俺も絶対に嫌ですよ!」

「御馳走は奪われてしまったけど、命あっての物種ですから……」


 だからアンタは既に死んでるんだって。


「鈴木さん、帰りにスーパーに寄るんで、奪われた御馳走代わりに腐った高級肉でも拾って行きましょうよ」

「ええ。散々な目に遭いましたから……。今日は自分にご褒美ってことで、強烈に良い肉をゲットして帰ります……ホント、怖かった」

 腰が抜けたのか、立てずにゴソゴソしていた鈴木さんに肩を貸して抱き起こす。


 文字通り、腰が抜けていた。


 変な角度になっていた鈴木さんを羽交い締めにする格好で担ぎ、腰の位置を調整して嵌め込むと、元通り動けるようになった。

「お手間掛けてすいません、山田さん」

「どう致しましてですよ。取り敢えず、スーパーの方へ向かいましょうか」

 荷物が一杯になったカートを押しながら、ホームセンターを後にして、調味料などの具材を仕入れにスーパーへと向かった――。



 ――――――――――
 退廃した世界に続きはあるのか?
 それは望み薄……。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。

MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。

妻からの手紙~18年の後悔を添えて~

Mio
ファンタジー
妻から手紙が来た。 妻が死んで18年目の今日。 息子の誕生日。 「お誕生日おめでとう、ルカ!愛してるわ。エミリア・シェラード」 息子は…17年前に死んだ。 手紙はもう一通あった。 俺はその手紙を読んで、一生分の後悔をした。 ------------------------------

冷遇妃マリアベルの監視報告書

Mag_Mel
ファンタジー
シルフィード王国に敗戦国ソラリから献上されたのは、"太陽の姫"と讃えられた妹ではなく、悪女と噂される姉、マリアベル。 第一王子の四番目の妃として迎えられた彼女は、王宮の片隅に追いやられ、嘲笑と陰湿な仕打ちに晒され続けていた。 そんな折、「王家の影」は第三王子セドリックよりマリアベルの監視業務を命じられる。年若い影が記す報告書には、ただ静かに耐え続け、死を待つかのように振舞うひとりの女の姿があった。 王位継承争いと策謀が渦巻く王宮で、冷遇妃の運命は思わぬ方向へと狂い始める――。 (小説家になろう様にも投稿しています)

愛された側妃と、愛されなかった正妃

編端みどり
恋愛
隣国から嫁いだ正妃は、夫に全く相手にされない。 夫が愛しているのは、美人で妖艶な側妃だけ。 連れて来た使用人はいつの間にか入れ替えられ、味方がいなくなり、全てを諦めていた正妃は、ある日側妃に子が産まれたと知った。自分の子として育てろと無茶振りをした国王と違い、産まれたばかりの赤ん坊は可愛らしかった。 正妃は、子育てを通じて強く逞しくなり、夫を切り捨てると決めた。 ※カクヨムさんにも掲載中 ※ 『※』があるところは、血の流れるシーンがあります ※センシティブな表現があります。血縁を重視している世界観のためです。このような考え方を肯定するものではありません。不快な表現があればご指摘下さい。

王子を身籠りました

青の雀
恋愛
婚約者である王太子から、毒を盛って殺そうとした冤罪をかけられ収監されるが、その時すでに王太子の子供を身籠っていたセレンティー。 王太子に黙って、出産するも子供の容姿が王家特有の金髪金眼だった。 再び、王太子が毒を盛られ、死にかけた時、我が子と対面するが…というお話。

番解除した僕等の末路【完結済・短編】

藍生らぱん
BL
都市伝説だと思っていた「運命の番」に出逢った。 番になって数日後、「番解除」された事を悟った。 「番解除」されたΩは、二度と他のαと番になることができない。 けれど余命宣告を受けていた僕にとっては都合が良かった。

そんなに義妹が大事なら、番は解消してあげます。さようなら。

雪葉
恋愛
貧しい子爵家の娘であるセルマは、ある日突然王国の使者から「あなたは我が国の竜人の番だ」と宣言され、竜人族の住まう国、ズーグへと連れて行かれることになる。しかし、連れて行かれた先でのセルマの扱いは散々なものだった。番であるはずのウィルフレッドには既に好きな相手がおり、終始冷たい態度を取られるのだ。セルマはそれでも頑張って彼と仲良くなろうとしたが、何もかもを否定されて終わってしまった。 その内、セルマはウィルフレッドとの番解消を考えるようになる。しかし、「竜人族からしか番関係は解消できない」と言われ、また絶望の中に叩き落とされそうになったその時──、セルマの前に、一人の手が差し伸べられるのであった。 *相手を大事にしなければ、そりゃあ見捨てられてもしょうがないよね。っていう当然の話。

処理中です...