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◇第一部◇

第四話 軍曹は正しく益虫?

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「チッ、蜘蛛だけにゾンビ化してもすばしっこい! 何処へ逃げやがった!」

 長槍の代わりに手にしている鉄パイプを握りしめ、周囲の天井などを注視していくも、痕跡などは見当たらない……。

「鈴木さんはゾンビとは言え、俺の大切な友人に等しい存在だからな……絶対に助け出す!」

 世界が崩壊した直後、何も解らない俺と出逢い、助けてくれた優しいゾンビな鈴木さんだから。


 まぁ、当時、既にゾンビだった鈴木さんだけに、ものすげぇ警戒して俺が殺し――潰し掛けたんだけどな?


 そんなことも水に流して懇意にしてくれる人柄――ゾンビ柄だからこそ、俺も鈴木さんをゾンビだからと言うだけで、忌み嫌ったりはしないんだけど。

「あそこまで高い天井なんかにへばりつかれでもしたら手が出せん。――ならば」

 鉄筋剥き出しの天井は、結構な高さがあって普通には届かない。
 なので飛び道具代わりに、近くにあった電動ガンタッカーセットを手にした俺だった。

 ガンタッカーと言う工具は、分厚い針や釘を撃ち出して壁材などを固定する道具だ。
 簡単に言えば巨大なホッチキスに等しい。

 俺の手にしているガンタッカーは、釘を電動で撃ち出す仕様になっている。
 手動式とは比べ物にならないほどに、強力に撃ち出し固定できる優れた工具だ。


 こいつを銃のように使えば、充分な殺傷能力が期待できる筈!


 早速、専用ホルスターを腰に巻き、ガンタッカーを抜き放って試し撃ちをする。
 天井に吊り下がる照明を、見事に木っ端微塵に粉砕した!

「良し! 充分に届くし威力もある! 流石に業務用だけのことはあるのな」

 ガンタッカーを油断なく構え、天井は無理だが、行ける所を徹底的に探し回る俺。


 従業員が出入する事務所か倉庫の入口付近に、蹲る何かが目に入る。


 それが微妙に動いていた――。


 凄い量の返り血塗れの鈴木さんだった!


「す、鈴木さん⁉︎ 無事ですか⁉︎」

 大慌てで駆け寄って、蹲る鈴木さんの容体を見る――。

「こ、これはっ⁉︎ ――めっさ腐ってるじゃないですかっ⁉︎」

「――酷っ! 腐ってるのは元からですよ!」

 御体満足で無事っぽかったので、軽く巫山戯てみたり――本当に無事で良かったよ、うん。

「僕が担いでた犬猫のお肉が目当てだったようで……僕には見向きもしませんでした。お陰で九死に一生を得ました――ホント、死ぬかと思った」
 

 鈴木さん、アンタ既に死んでるから。


「俺も今まで一度も襲われなかったし、それで間違いなさそうですね。あとはこの残骸……どう見てもゴキブリ? 益虫らしく掃除してくれてるとか?」

 鈴木さんが蹲る入口から見える奥の倉庫に、ゴキブリの残骸らしき殻が撒き散らされていたのが伺えた。


 要は餌を喰ってるから野良ゾンビ化していないってことか。

 ナリはゾンビだけど、正しく益虫として活動しているってことになるな……。


「ええ。恐らく……と言うか、確実にそんな感じなんでしょうね」

「だとすると、あの軍曹アシダカクモが明らかに俺らを襲い始めるまで、見逃しておいた方が無難かも……。俺らに害なす可能性のある物を駆除してくれてるんだし。まぁ、餌のゴキブリが居なくなったら、どっかに行くかもしれませんけど。最悪は撒き餌をして難を凌ぐってのも手かも?」

 野良ゾンビ化して脅威になるんなら、予め餌になる犬猫さえ用意すれば、基本は安全だろう……餌付けできれば言うことないけどさ。
 それに軍曹はゴキブリ以外にも、ネズミなんかも捕食してくれるしな。

「今後はそうした方がより安全でしょう。僕、嫌ですよ? ゴキブリのゾンビの群れとかに襲われるの」

「うぇ――連想した! 俺も絶対に嫌ですよ!」

「御馳走は奪われてしまったけど、命あっての物種ですから……」


 だからアンタは既に死んでるんだって。


「鈴木さん、帰りにスーパーに寄るんで、奪われた御馳走代わりに腐った高級肉でも拾って行きましょうよ」

「ええ。散々な目に遭いましたから……。今日は自分にご褒美ってことで、強烈に良い肉をゲットして帰ります……ホント、怖かった」

 腰が抜けたのか、立てずにゴソゴソしていた鈴木さんに肩を貸して抱き起こす。


 文字通り、腰が抜けていた。


 変な角度になっていた鈴木さんを羽交い締めにする格好で担ぎ、腰の位置を調整して嵌め込むと、元通り動けるようになった。

「お手間掛けてすいません、山田さん」

「どう致しましてですよ。取り敢えず、スーパーの方へ向かいましょうか」

 荷物が一杯になったカートを押しながら、ホームセンターを後にして、調味料などの具材を仕入れにスーパーへと向かった――。



 ――――――――――
 退廃した世界に続きはあるのか?
 それは望み薄……。
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