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◇第一部◇

第二十話 衣食住の解決は難問題。

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「しかし……水や食糧は、当面、保存食や缶詰、ミネラル水で補えるほど充分な量が残ってはいる。暫くは大丈夫っぽいけど……生野菜とか、自給自足でなんとか解決したいな」

 貨物トラックを運転しながら、濁った雨が燦々と降り注ぐ外の景色を見て、ちょっとげんなりしつつ呟く俺だった。

 貨物トラックが思った以上に荷物が積めたので、給湯機にポリタンク、浄水器にミネラルウォーターなどなどを、ありったけ掻っ攫ってはきた。

 何せ退廃したこの世界では、食糧などは新しく作り出すことはできないからな。

 ただ、今のところは俺一人分が必要なわけなので、腹一杯に食べようが、充分な量以上には残っているので、食べ尽くせずに余ってはくるだろう。

 水にしても飲料水以外に、風呂水とか洗濯水と言った無駄に利用しても、実際は充分過ぎるほどにはある。


 だがしかし、全ての食糧やミネラル水には、消費期限と言うものがある。

 つまり、いくら残っていようとも無限ではなく、いつかはなくなる有限なのだ。


 長期保存の物で約数年……。
 最低でもその数年で食糧問題を解決しなければ、深刻な問題となるのだ。

 最悪は、ホームセンターに残っている肥料や土壌などを用い、何処か広い屋内で畑を拵え、種籾などを植えて農作物などを栽培し、飲料水にできない古いミネラル水から、家庭菜園に回して急場を凌ぐ算段だ。

 土壌に含まれる微細菌や種籾などが、変異の影響を受けてなければの話。
 もしも、それらが影響を受けていて、肝心の水までもが尽きてしまったら?


 それはつまり、俺の最期を意味する結果に繋がるってことだよ――。


 自給自足を試すにせよ、やはり、どう考えても水だけは必要不可欠――なんとかできないものかな。

「雨水をすすろうにも……この毒雨じゃな……」

 ここまで汚染物質を含む濁った天然資源である水を、綺麗な真水に濾過する方法が、相変わらず思いつかないのだ……。

「数年も経てば、河川や湖、或いは地下水脈が綺麗になっていることを、ただひたすら願うばかりだな――無理だろうけど」

 そんなすぐ先に訪れる最期の時に、頭を痛め考えてる内に、ボロアパートに到着したのだった――。


 ◇◇◇


 貨物トラックから降りて、素早く軒下に駆け込む俺と同じく、七三式を降りて駆け戻ってくる鈴木さん。

「お疲れ様。一旦、お開きにして、雨が止んでから皆で積み下ろし作業としましょうかね」

「うひー、雨に濡れると最悪だ」

「確かにな。――儂もこれ以上、筋肉が衰えるのは嫌だ。醜くなりたくもないしな」

 少し遅れて、七三式のオープンな荷台でブルーシートに包まって毒雨を凌いでいた田中さんが降りてきた。
 全身を覆っていたブルーシートを傘代わりにして、軒下にのっそり歩いてくる。

 実のところ毒雨とは言ってはいるが、俺については飲まない限り、全くと言っていいほどに害はない。


 だがしかし、ゾンビたる住人には、この雨は猛毒の雨……強酸に等しい劇薬となる。


 ゾンビな住人らは少々濡れるくらいはさして問題はない。

 だがしかし、毒雨に打たれ続けると、火傷を負ったように、腐った皮膚や肉が爛れて溶け崩れてしまうのだ。

 毒雨に含まれるなんらかの成分が、人を生きたままに腐らせる細菌に作用し、増長させるのか活性化させるのかだろう。

 正しい答え――原因については、専門家ではない俺には、到底、解らん。

 痛みこそないゾンビなので、爛れ溶け崩れたところで活動停止に至ることはないが、見た目が更にと言うか……些か醜く悍しい姿になってしまう。


 しかも、肉体は腐って既に死んでいる身なので、俺のように自然治癒などしない。


 爛れ溶け崩れたが最後、ずっとそのままで活動が停止するその時まで、過ごさねばならないのだ。

 だからゾンビら住人は雨は避け、出掛ける際には、必ず、雨合羽を羽織っていると言うわけだよ。

 俺にしても今のところは平気だが、確実に無害とは言い切る自信がないので、念の為に雨合羽を羽織っていたりするんだな。


「今日で二度目の毒雨。せめてこの雨が、死ではなく恵みの雨だったらな……」

 軒下から空を見上げ、愚痴を零す俺。


 ちなみに世界が廃退してから、砂漠のようにほぼ降らないってのが、僅かばかりの救いだよ。


「さて、雨が止んだら積荷を下ろして、明日以降で電気を通す作業に入ります。田中さんは力仕事、鈴木さんは雑用を手伝って下さい」

「任せておきたまえ。儂の力を存分に発揮して差し上げよう!」

 腐った顔で謎の白い歯をニッカリ、香ばしいポーズと共に力強く返事する田中さん。

「僕は雑用か……仕方ないね、うん」

 所々禿げた頭をぽりぽりと掻いて、申し訳なさそうに返事する鈴木さん。

「設置や宅内配線、機材の組み上げなんかは、俺が全て引き受けるんで大丈夫です。要は支えたり引き込みの受けを手伝ってくれればおっけですよ、鈴木さん」

「儂も電工は覚えがある。少しは手伝える筈なので、遠慮なく言ってくれ」

「流石。お言葉に甘えて、僕はパシリを主に頑張ります!」

「資材はまだまだ大量にあるし、足りなければ他所に調達しに行けば良い。このボロッボロのアパートを、この際、徹底的に皆で力を合わせて、住み易い環境にしてしまいましょう!」

 握り拳で力説する俺。

「おう!」「頑張ります!」

 田中さんと鈴木さんが腐った顔で大きく肯き、其々が部屋に戻っていた――。



 ――――――――――
 退廃した世界に続きはあるのか?
 それは望み薄……。
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