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第8章 冬が来る前に

エピソード47-35

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ダーナ・オシー駐屯地内 第九格納庫――

 ココナたちは、シズルーたちを格納庫に案内した。
 ココナが正気を保っていた時に取り組んでいた計画、『プロジェクト・モビル・ドラグーン』の試作機の頭部コックピットがある場所に着いた。

「一度説明は受けていると夏樹に聞きましたが」
「ええ。概要は聞いたわ」

 万里が開閉ボタンを押し、キャノピーを跳ね上げた。

「姫様、驚かないで下さいよ? て言っても無理か。へっへっへ」ピッ、プシュー

 万里が得意げに操縦席に乗り込み、計器をチェックする。

「おい、万里? ソイツはまだ……」 
「イイですから、見てて下さいよ♪」

 万里が操縦桿を引くと、異音が響いた。

 ブゥゥ……ン

「起動した!? まさか、リアクターとは接続していない筈では?」

 次にメインパネルに電源が入った。ブンッ

〔御機嫌よう、大江軍曹〕
「な、何で万里がシクハックと交信出来るんだ?」

 ココナは、AIであるシクハックと交信する為のナノマシンが、自分しか投与されていないにもかかわらず、自分以外の万里がシクハックと交信出来ている事に驚いた。

「この間、シズルー大尉がこの子を起こしてくれたんスよ」

 万里はココナにシズルーとのやり取りを説明した。

「……で、生体スキャンとかうんぬんかんぬんで、シズルー大尉がパスしちゃったッス」
「どうしてそんな事が……にわかには信じ難いな」
「どうもコイツが言うには、自分のマスターは『五十嵐和馬カズマ』という人らしいッス。大尉の御先祖様とかでしょうか?」
「何だって? コイツの持ち主が静流殿の家系の者だと?」
「ええ。確かに私も聞いたわ」

 ココナがアマンダをチラッと見ると、アマンダも肯定した。
 ココナは右手の拳を強く握りしめ、小さめの声で呟いた。

「その様な事が……クックック、やはり、これは女神様が導いて下さった……運命なのだ!」
「どうしてもソッチに持って行きたいのね?」
「当然だ! この私の命を救ってくれたのだからな。私は残りの生涯全てを静流殿に捧げるのだ!!」

 ココナはそう言ってシズルーの方を向こうとしたが、肝心のシズルーが見当たらない。

「あれ? 静流……殿?」
「あそこよ。ほら」クイッ
 
 アマンダが親指で後ろの方を指した。

「フム。操縦系は他の物と変わらんようだな」
「僕でも、操縦出来ますかね?」
「問題無い。コーチに佳乃を付けよう」
「わぁ。それは心強いな」パァァ

 シズルーたちは、少し先に駐機してあるMTを見ていた。全高6m程のミドル級MTで、絶滅した小型の肉食恐竜に似たフォルムであった。
 万里はこの機体が、ドラゴン計画の初期試作型だと言っていた。

「郁ちゃん? 勝手にいじっちゃダメでしょう? メッ、ですよ?」
「カタい事言うなルリ。大体この機体は静流めの物になるのだろう?」

 向こうでやいのやいのやっている連中を見て、アマンダはニヤついた顔で嫌味ったらしくココナに言った。

「今の渾身の告白、聞こえてなかったみたいよ? 残念だったわね」
「フッ、何度でも言うさ。脳内で何回振られたと思う? 数えるのもバカらしい数だぞ!」
「たしかに、あの子をモノにするなら、その位の覚悟は必要よね……」

 アマンダは、ココナ愚直なまでの静流への想いに、呆れを通り越しむしろ感心していた。
(私も、アナタくらい若ければなぁ……)

 万里が説明を続ける。

「そのあと、私ともナノマシン無しで交信出来る様に最適化をかけて、今日に至るって感じッス! 動力は魔素バッテリーを使ってるッス」
「概要は把握したわ。それで、差し当たって何が問題なの?」
「それはッスね、以前お話しした『ブラックボックス』を修復出来れば、この子の自己修復機能が復活する筈なんスが……」

 今まで自慢げに説明していた万里が、急にトーンダウンしたのを見て、アマンダは余裕で答えた。

「なぁんだ、そんな事? ちょっとオチビ、来なさい!」
「なんじゃい! 力仕事ならお断りだぞ?」

 アマンダが郁を呼び寄せ、万里の所に行った。

「これッス。コレが『ブラックボックス』と呼んでいる物ッス」
「オチビ、【復元】して頂戴!」
「出来るんスか!? 是非ともお願いするッス」ズイ

 万里は目をキラキラさせ、郁に詰め寄った。

「ええいオイルが付く。わかった、やってやる」

 両脇をパタパタさせ『ワクワク』のポーズをしている万里。
 郁は万里に見られているのを意識してか、魔法を放つ前に発動には必要ない大袈裟なポーズをとった。

「行くぞ!レストレーション【復元】!!」パァァ

 郁の掌から金色のオーラが放出され、ブラックボックスに照射される。
 数十秒で照射が終わり、アマンダがボックスを覗き込んだ。

「ん? 何にも変わってないみたいよ? アンタ、手ぇ抜いた?」
「そんな事するか! 私は渾身の魔法を放ったぞ?」

 少し静寂があったのち、異変は起こった。
 コクピットから警報が鳴り響いた。

 ビーッ! ビーッ! ビーッ!

「何事?」

 万里は急いでコクピットに戻り、AIに話しかける。

「どうしたシクハック! 状況を説明しろ!」
〔自爆モード、開始しました。 爆発まであと三分、直ちに脱出して下さい〕

「ぬわにぃ~!?」

 AIからの予想外の解答に、一同は困惑した。

「オチビ? アンタ何かやったわね?」
「な、何もしとらんぞ!? 大体お前があの箱を直せと言うからやったんだぞ!」
「はわわわ、解除コードは!?」

 アマンダたちがワタワタとしている中、ブラムはノートPCの中にいるメルクに話しかけた。

「ねぇメルク、何とかならないの?」
「ふむ……どれ、やってみるか」

 ブラムがノートPCからUSBメモリーを抜き取り、万里のいるコックピットに持って行った。

「コレをどっかに挿して!」
「え? わ、わかったッス」

 万里はブラムに言われるまま、USBメモリーを計器の横にあるスロットに挿した。
 すると、今までは真っ赤な画面だったが、黄色に変わった。

〔起爆装置、解除シークエンス開始。 フェーズ2に移行……起爆装置、解除確認〕

 AIがそう言うと、画面が元に戻った。

「停まった……のか?」
「……そうらしいッス」


「「「うぉー!!」」」


 いつの間にか野次馬に来ていた隣の格納庫の者たちからも歓声が上がった。

「やったねメルク! お手柄、お手柄♪」

 ブラムが画面に向けてそう言うと、画面からメルクが出て来た。

〔焦らせおって、他愛ない〕
「何スか? このポケクリみたいなの?」
「この子はメルクリア。前にキミんとこの隊長さんに討伐されたドラゴンだよ♪」
「あの義足の!? 実に興味深いッス」
 
 万里はメルクをキラキラした目で見ている。

〔大したことはしとらん。そもそも爆発などせんわい〕


「「「はぁ~!?」」」


 一同は驚きと呆れが入り混じった声を上げた。

「どう言う事? メルク?」 
〔簡単な事。これは頭部のみで、爆薬は胴体にあるからじゃ〕

 メルクの発言のあと、一同は万里を睨んだ。

「あ、そうっだったッスね。いやぁ、失敬?」ペロ

 一同から大ひんしゅくを買った万里は額から冷汗を流し、自分の頭を叩いて舌を出した。 

〔恐らく、この機体が撃墜された際に、最期に受け付けた命令だったのじゃろう。あの箱の機能が回復したお陰でコマンドが復活したんじゃろうな〕
「成程。という事は、コマンドログも残っていると?」
〔うむ。そいつはドライブレコーダーも兼ねているようじゃから、調べれば何かわかるじゃろう〕
「そんな事もわかっちゃうんだ。メルクって器用なんだね? 硬いだけしか取り柄が無かったのに」
〔おいブラム? お主は今までワシをそんな目で見とったのか?〕
「見た目がそうなんだから、しょうがないじゃん」

 ブラムとの掛け合いを遠くに聞きながら、万里はメルクの万能ぶりに感嘆するばかりであった。

「ブラムさん、この子、暫くウチで預かりたいんッスけど、ダメッスか?」
「え? どうする? メルク」
〔困ったのう。ワシはヤツの傍を離れとうない〕
「そこを何とか、お願いッス!」

 万里の懇願に、メルクは腕を組み、考えている。

〔フム。要するに、コイツをまともに動くようにすれば良いのだな?〕
「そうッス。その為にはアナタ様がこちらに残って下さらないと……」
〔数時間くれ。あとコイツの部品をありったけ持って来い〕
「何を始めるの? メルク?」
〔この人工知能に知恵を授ける〕
「そんな事が出来るの?」
〔まぁな。さすれば自己修復機能で修復出来よう〕

 ディスプレイの中のメルクは、うんうんと頷きながらそう言った。

「そう言えばメルク、さっきココナちゃんと約束してたのって、最初っからそのつもりだったの?」
〔まぁそうだな。でも本当の理由は、アッチの機体じゃ〕

 メルクが差したのは、静流がもらい受ける機体だった。

〔アレをカスタマイズする。万里、協力してくれ〕
「そう言う事なら、合点承知の助ッス!」

 万里とメルクの交渉は、どうやら成立したようだ。
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