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第9章 冬の……アナタ、どなた?

エピソード52-10

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ポケクリバトル会場 11:48時――

「三回戦からはバトルルームを使用します。 東Aブロックの選手は、直ちにバトルルームに入って下さい!」

 バトルルームとはゲーム内の部屋で、プレイヤーがアバターとして中に入るようだ。
 シロミの指示で蘭子がコントローラーを操作すると、大型スクリーンにアバターが出現した。


「「「「わぁぁぁぁ!!」」」」


 『ツンギレ』とでかでかと表示された蘭子のアバターは、赤いスカーフの紺色のセーラー服で、ヒダ多めの床すれすれ超ロングスカートだった。
 いわゆる『スケバン』風だった。

「おい、いつの時代のスケバンだ?」
「スカートの中にヌンチャク隠してるヤツだぜ? アレは」
「ペチャンコのカバンがあれば無敵じゃん? プレイヤーキル狙えるぜ?」

 観客に散々な言われ方をしているが、腕を組んで全く動じない蘭子のアバター。
 程なく相手の『ソロ充』と表示されたアバターが出現した。


「「「「お? おぉぉぉ!!」」」」


 ソロ充のアバターは、肌面積多めの白いフリフリのワンピースに羽がついており、頭上には天使の輪が浮いている。
 いかにもな天使コスをまとったアバターであった。 

「か、カワイイ……けど王道過ぎてつまらんな……」
「ツンギレとやり合うなら、モーニングスターかチェーンソーを持たせないと分が悪すぎるぜ」

 画面内で見合っている二人。ツンギレは腕を組んで微動だにしない。
 対するソロ充は宙に浮き、一回転して頭を下げた。

「では、互いのポケクリを表示し、30秒以内に三体選んでて下さい!」
「演出上申し訳ありませんが、ここでCMを挟みまーすっ!」

『提供は、 ゾウが踏んでも壊れない、 ジュンテンドースイッチ』
『おはようからおやすみまで、アナタの暮らしの全てを見守る ストーカー』
『わんぱくでもイイ。 たくましく育て! カクダイハム でお送りしますっ』

 クロミたちが提供を読み上げている間に、両者ともポケクリの選択が終わったようだ。

「それでは発表です! オープン!!」

 二人の持ってきたポケクリが、一斉に開示された。

 
「「「「わぁぁぁぁ!!」」」」
 

 ツンギレ ギランバレ(電気/地面) ギシアン(フェアリー/毒) ブルーアイズレッドドラゴン(炎/ドラゴン/レジェンド) 

 ソロ充  パープリン(フェアリー/草) シャボンディーヌ(フェアリー/水) キチマム(フェアリー/エスパー/レジェンド) 


「ソロ充選手は一回戦から全てフェアリー系で統一されています。ポリシーでしょうか?」
「おっとツンギレ選手、惜しげもなくレジェンド級『ブルーアイズ』を出すようです!」
「今回選ぶと一回休みとなりますので、次の準決勝には選出出来ませんが、大丈夫でしょうか?」
「ツンギレ選手は決勝戦に的を絞っているようですね、 成程」

 シロミはプレーヤーにコメントを求めた。
 プレイヤーはインカムを装着開いており、プレイヤーの声に合わせてアバターが動くようになっている。

「それではソロ充選手、一言お願いします!」

 機械音声っぽい声をアバターが発している。ソロ充がツンギレを指さし、ドヤ顔で言い放った。

『ホーッホッホッホ! ワタクシの策にまんまとおハマりになりましたね? 先ほど送ったDMを真に受けて、 ギシアンちゃんを連れて来てくれてありがとう! 地獄に送って差し上げますわ!』

 クロミが蘭子にコメントを求めた。

「ツンギレ選手、一言どうぞ!」
『上等だ。 かかって来やがれ!』

 スクリーンに対決する二人のアバターが映し出された。


「「「「わぁぁぁぁ!!」」」」


 一転して別のバトルルームが映し出された。

「えー、次の東Bブロックは――」

 シロミたちは、それぞれのバトルルームにいる他の三組を、同じ要領で紹介した。



              ◆ ◆ ◆ ◆



インベントリ内 休憩スペース VIP席 11:49時――

 今までの成り行きをモニターで見ていた静流たち。

「アバターも使ってるし、個人戦は凝った演出してるなぁ」

 そう呟きながら感心して見ている静流に、真琴が話しかけた。

「それにしても蘭ちゃんの格好、マンガに出て来るイタい子そのものよね?」

 真琴の言葉にピンと来た雪乃が、ニヤリと微笑みながらリナに聞いた。

「そう言えばリナ、中学の頃のアナタの制服、あんな恰好だったわよね?」
「う、うるせぇな、ほっとけ」

 その会話を聞いた素子は、天井の方を見ながら、ボソッと呟いた。

「リナお姉様……きっと可憐だったのでしょうね? やさぐれた男どもをばっさばっさと蹴散らし、凛とたたずむ一輪の花……素敵ですぅ」
「コラ! 勝手に妄想すんな! 大体アタイは物理的な攻撃は好かないんだ!」
「……と、言いますと?」
「勝負事は全て、『ゲーム』で決着をつけてたからな……」
「あぁ……素敵っ」

 リナの言葉に感銘を受け、乙女ポーズになる素子。

「おいズラ、コイツなんとかしてくれ……」
「薫の前以外で照れてるリナは貴重だわ。 ウフフ」



              ◆ ◆ ◆ ◆



ポケクリバトル会場 11:50時――

 時間となり、クロミが試合開始を宣言した。

「それでは個人戦三回戦、スタートします!」

 巨大スクリーンが四分割となり、懐かしいBGMと共にそれぞれに『START!』の文字が映し出された。


「「「「うぉぉぉー!!」」」」


 東Aブロックのバトルルームでは、ツンギレとソロ充がポケクリを召喚する所だった。
 

『行けっ! ギランバレ!』 キキー!
『お行きなさいっ! シャボンディーヌ!』 ピピー!

 
 ツンギレは黄色いキツネに近いポケクリを召喚し、ソロ充は体中に泡をまとった四つ足のポケクリを召喚した。

『シャボンディーヌ、【天使のキッス】をお見舞いしなさいっ!』チュー
『くっ!? しまった!』

 【天使のキッス】を受けたギランバレは、金縛り状態になり、技を発動出来ない。
 それを好機と見たソロ充が、次の技を発動した。

『シャボンディーヌ、【じゃれつく】を発動!』ドドド

 動けないギランバレに、シャボンディーヌが突進すると、土煙のエフェクトと共にギランバレのHPがみるみる減っていく。

『オーッホッホッホ! 効果は抜群のようね!』
『マズい、ギランバレ、 戻れ!』

 ツンギレはたまらずギランバレを戻し、次のポケクリを召喚した。

『行けっ! ギシアン!』キュウン
『来たわね? 待ってたわ、ギシアンちゃん!』

 淡い紫色をした不健康そうな天使が召喚された。
 すかさず技を発動するツンギレ。

『ギシアン、【毒吹雪】だ!』ゴォォ
『ギャァァァ』

 ギシアンの【毒吹雪】を受け、純白だったシャボンディーヌがみるみる紫色に変わり、HPはゼロになった。
 
『やった! 一体倒したぞ! 効果は抜群だ!』


「「「「わぁぁぁぁ!!」」」」


 一歩リードしたツンギレに、歓声が響いた。


『くっ! 流石は毒フェアリーね? 次はどうかしら?』

 ソロ充が次のポケクリを召喚した。

『お行きなさいっ! パープリン!』 プクゥ!

 愛嬌のある緑色の丸っこいポケクリが召喚された。
 すかさず技を繰り出すパープリン。

『パープリン! 【チェーンロック】ですの!』
『な、何ィ!?』

 パープリンが放った鎖にからめとられ、ギシアンは身動きが取れない。
 まだソロ充のターンなのか、ソロ充がさらに動いた。

『パープリン! 戻りなさい! お行きなさい! キチマム!』ギャゥゥ
『くっ! 特殊効果か!?』

 パープリンの特殊スキルなのか、鎖の効果が残っているうちに次のポケクリを召喚したソロ充。
 新たに召喚されたキチマムは、濃いグレーのカモシカに似たポケクリだった。
 さらにターンは続く。

『キチマム、【聖なる息吹】を発動!』ファァ

 キチマムの口から放出されたエネルギー波を受け、ギシアンは急激にHPを削られていく。
 ミリ残しの状態で、鎖から解放されたギシアン。
 ツンギレは瀕死のギシアンに技を発動させた。

『ギシアン、【デレる】を発動だ!』ボェェェ
『な、何ですって!?』

 ソロ充はてっきりギシアンを戻すと思ったのだろう。
 【デレる】を発動し、無数の青いハートマークを受けたキチマムは、たちまち戦意喪失に陥ってしまう。

『今だ! 戻れギシアン! 出て来いっ! ブルーアイズレッドドラゴン!』ギャォォン

 ギシアンとブルーアイズを入れ替え、戦意を失ったギシアンに向かって容赦なく技を放つ。 

『ブルーアイズ! 【メガ・ブラストファイヤー】発射!』ブワァァァ!
『ギャァァァァ……』
 
 団体戦でも見せた、ブルーアイズの規格外の火力に、キチマムは抵抗する隙を与えられずに倒れた。
 再び観客の歓声が響き渡った。


「「「「わぁぁぁぁ!!」」」」


 静寂が戻り、ツンギレはソロ充に聞いた。

『どうする? まだやるか?』
『クックック。 このワタクシをここまで追い詰めるとは……流石ね』

 大将格のポケクリを含む二体を失ったソロ充は、ニヤリと笑ってツンギレに言い放った。


『素敵な勝負をありがとう! 投了しますっ!』 


「「「「うぉぉぉー!!」」」」


 ソロ充が投了したので、勝利が確定し、ファンファーレが鳴り響いた。
 ツンギレがカットインし、『WINNER』の文字が表示された。

「勝者、ツンギレ選手!!」


「「「「わぁぁぁぁ!!」」」」


 今の結果を見た会場が、ひと際沸いた。
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