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第9章 冬の……アナタ、どなた?

エピソード52-11

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ポケクリバトル会場 12:00時――

 ツンギレこと蘭子が三回戦を突破したとほぼ同時に、他の三組も勝者が確定した為、これでベスト4が揃った。

「えー、準決勝は午後13:30時から行います」

 シロミがアナウンスすると、観客が昼食をとりに会場から去って行く。
 対戦用ボックスから控室に帰ろうとした蘭子を、誰かが呼び止めた。

「ちょっと待って、 ツンギレさん!」
「ん? ああ、アンタか」

 蘭子を呼び止めたのはソロ充であった。
 先ほど迄の振る舞いはキャラ設定だったのか、温厚そうなお姉さんっぽい女性だった。 
 ソロ充はニッコリと微笑みながら、蘭子の戦いぶりを称賛した。

「見事だったわ。完敗よ」
「アンタこそ、 フェアリー縛りで良くここまで勝ち進んだ来れたな。 アタイには無理だよ」

 ソロ充は少し躊躇したあと、蘭子に話しかけた。

「ついうっかり口が滑っちゃうんだけど、三回戦勝者の中にとんでもない奴がいるわよ。 HNは――」

 ソロ充が堰を切ったようにしゃべり出すと、蘭子はぴしゃりと制止させた。

「おっと! そこまで。 情報戦は今から始まってるんだ。 ソースはアタイ自身が決めるよ」
「そう、 わかった。 案外冷静で少し安心したわ。 頑張ってね?」
「ああ。 ヤバい奴がいるのはわかってる。 御忠告、感謝するよ」

 そう言って蘭子はきびすを返し、右手を上げ、控室に向かって歩いて行った。
(ううっ、 カッコつけちまった……聞くだけ聞いときゃよかったかな……)



              ◆ ◆ ◆ ◆



インベントリ内 食堂 12:10時――

 インベントリ内のにある食堂は、教室程の広さであり、ちょっとしたフードコートの様だった。
 受付には作業用ゴーレムが二体対応し、奥の厨房でも作業用ゴーレムがせわしなく働いている。
 桃魔の部員たちも、交代でここを利用している。
 静流たちが食堂を訪れると、コンシェルジュのロコ助が迎えてくれた。

「静流サマ、いらっしゃいニャ♪」
「やあロコ助、ご苦労様」

 ロコ助がカウンターに案内してくれた。

「ココは大概のモノなら用意してありますニャ。 遠慮なく注文して下さいニャ」

 今のロコ助の発言に、雪乃はピクリと反応した。

「料金設定はお幾らかしら?」
「そんなの、 気にしなくてイイのニャ♪ ロハなのニャ♪」
「ロハ……つまり只、無料って事ですの!?」

 雪乃は今の話を聞いて、驚愕に打ち震えていた。

「そうなのよユッキー。ココは少佐が管理してて軍のお偉いさん用の厨房ユニットを入れてるの」

 横からリリィがひょいと顔を出し、雪乃にこの施設を説明した。

「将校用の高級レーションをベースに、 大概のモノを再現出来るシステムなんだわさ。 あ! アタシ、おろしそバーグデイッシュランチね♪」

 リリィに続き、リナが物凄い種類のメニューから注文する。

「そうだな、モツ煮定食と天ざるをくれ。 ズラ、おめぇは何食うんだ?」
「……今、考え中ですのっ!」

 リナが雪乃に振ったが、雪乃は腕を組み、うんうんと唸っている。

「じゃあお先に。 僕はサンショウウオの刺身定食」
「うぇぇ……あたしは元祖オールスター天丼」
「はーい! 私、 オロチョンらーめん!」

 先に静流、真琴、シズムが注文した。
 
「おいズラ、まだ決まんねぇのか?」
「ちょっと待って……今三択まで絞ったから……」

 雪乃はまだ考え込んでいるので、素子が注文した。

「失礼して私が。 昨日と同じくチーズ牛丼キムチみそ汁セット、チーズだくでお願いしますっ」

 やっと決まったのか、雪乃が手を挙げて注文した。

「ヒレカツ定食キャベツ大盛り……でお願いします」
「ケッ、 つまんねぇの。 散々迷ってそれかよ?」
「う、うるさいですわね! ほっといて下さいな」

 リナが茶々を入れると、雪乃は顔を赤くして拗ねた。

 雪乃が注文した物が至極真っ当だったので、静流は意外そうに言った。

「へぇ……案外普通なんですね? 忍ちゃんたちはタランチュラの素揚げとか食べてましたけど……」
「アイツらと一緒にしないで下さい!」



              ◆ ◆ ◆ ◆



 各自テーブルに座り、出来上がった料理を食べながら談笑している。

「でも三回戦突破出来て良かったね、蘭ちゃん」
「ね? 心配無用だったでしょ? お蘭さんはちゃんと対策を講じていたんだ」
「どんな対策なの?」
「ええと、ポケクリに振る努力値、 とか?」
「何よ、努力値って?」
「うん、簡単に言うと『伸びしろ』みたいなもの、 かな?」

 努力値とは、ステータスの限界を上回る可能性を与えるもので、ロープレで言う『隠しパラメーター』の様なものである。
 そんなことを話していると、奥からお盆を持った誰かがこちらに近付いて来た。

「お静! ココにいたのか。探したぞ?」
「あ、お蘭さん!」

 近付いて来たのは蘭子だった。

「ロケ弁は味気なくてな。 昨日ココに来たのを思い出したんだ」

 お盆にはうな重が乗っていた。

「見てたよ三回戦! ベスト4進出だね?」
「お、おう。 サンキュウな」

 シズムが椅子一個横にズレてくれたので、蘭子は静流の横に座った。
 すると素子が興奮気味に話しかけて来た。

「蘭ちゃんお疲れ様。 私のギシアンちゃん、 役に立ったみたいで超絶嬉しいですっ」
「ん? ああ、 アイツの根性に助けられたぜ」

 雪乃が隣のリナを小突きながら言った。

「ねぇ……リナったら、 後輩ちゃんに労いの言葉とか無いの?」
「何だよ、うぜぇな……」

 いつの間にか一同が、神妙な顔つきでリナの顔を見つめていた。

「……悪くない勝ちっぷりだったぜ? 上出来だ」
「アネキ……うす。 あざっす」

 一気に緊張がとけ、一同に笑みがこぼれた。
 エビ天を頬張りながら、真琴が蘭子に言った。

「蘭ちゃん良かったね。 先輩に褒められたのが一番うれしいでしょ?」
「ま、まぁな。 でもあと二回勝つまでは、 手放しで喜んでいられないぜ」
「それって、優勝って事?」
「勿論。 出るからには狙ってる」

 蘭子は緩みがちだった顔を引き締め、リナに話題を振った。
 
「アネキ、ベスト4の中に『奴』がいます」
「『奴』って、何か因縁でもあるの?」
 
 真琴の問いには答えず、リナに確認する蘭子。

「あの中に、 ただもんじゃねぇオーラを放ってる奴がいる事には気付いてたけどよ……」
「奴を、 覚えていますか?」
「やっぱ関係者だったか? 雰囲気は感じ取ったんだが、どうも思い出せねぇんだ……」

 リナはそう言って後頭部を搔いた。

「思い出せねぇのも無理は無いッス。 あんな奴、 アネキに瞬殺されてましたから……」
「ん? そうなのか?」
「昔太刀川のゲーセンで、アイツと『バーチャファイターズ』で勝負した事がありまして……」
「ん? あっ! アイツか……確か片桐英二、だったか?」
「……そうッス。 当時は『ダーク・エイジ』と名乗っていましたね……」
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