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第9章 冬の……アナタ、どなた?
エピソード52-30
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インベントリ内 休憩スペース VIP席 15:35時――
VIP席に左京が来て、今回の収支決算の報告を聞く為に部室に集合する事となった静流たち。
「収支決算が出て部室に戻るって事は、 会場はもう撤収作業が終わってるって事?」
「はい静流様。 その点はぬかり無く」チャ
静流は左京に聞くと、左京は得意げにそう言い、メガネの位置を直した。
「おーい静流キュン! ちょっとコッチ来てくれんか?」クイクイ
奥からカナメがひょいっと顔を出し、静流を手招きした。
「カナメ先輩? 何でしょうか?」
「エエからコッチコッチ」クイクイ
「は、はぁ……」
静流は首を傾げながらカナメに近寄った。
「あのな、 頼みがあんねん。 ちょいと耳貸しいや」
カナメの言われるがままに耳を貸す静流。
「このあとの決算報告のあとな、 ごにょごにょごにょ……」
「え、ええ! ええ~っ!!」
静流の声が三段階に大きくなった。
「……ってワケなんや。 疲れとるとこホンマ堪忍やけど、 頼むわぁ」
「ヒドいなぁ……それじゃあ、 やるしかないじゃないですかぁ……」
カナメは静流に手を合わせ、下手なウィンクをした。
「ふぅ……わかりました。 それで済むんならやります」
「よっしゃ! ムっちゃんに報告や!」
静流は観念したのか、カナメの要求を呑む事にしたようだ。
上機嫌なカナメは、睦美のいる所に戻ろうとして立ち止まり、くるっと反転して静流たちの元に戻って来た。
「おっと、部長と副部長はオレとコッチ来い、あと、お姉様方は……」
カナメはソファーに座っているリナと雪乃に近寄り、小声で指示を送った。
「……でお願いしまっさ」
「わかったわ。 交渉はその時にするわね」
「よぉし、そんじゃあ帰るか」
リナは伸びをして、ソファーから立ち上がった。
「じゃ、あと頼むで左京、 素ちゃんも」
「「御意!」」
そう言い残すとカナメは、白黒ミサと静流を連れ、プレイルームの方に行った。
それを見送った左京が、残された面々に告げた。
「それではひとまず解散します! シズムンたちは私に付いて来て下さい。 あとは素子先輩、お願いしても?」
「承知!」
左京は真琴とシズム、それに蘭子を部室に引率するようだ。
素子はリナたちを送り出し、後片付けをするらしい。
「ほら、 リリィさぁん、 起きて下さぁい!」
ソファーで居眠りをしていたリリィを揺り起こす素子。
「んぁ!? あれ? みんなは?」
「もう撤収ですよ? このあとリリィさんとお姉様方は、 『塔』に行くご予定です」
「ギャラの相談するんだと。 アタイは関与してねぇからどうでもイイんだけどよ」
インベントリから【ゲート】を使って塔に帰ろうとしているリナたち。
「アネキィ!」
「お姉様ぁ!」
蘭子と素子がリナたちに近付いた。
二人は顔を歪め、涙をこらえていた。
「お前たち、今日はお疲れさんだったな」ニカ
「もう、何ウルウルしてるのよ? 今生の別れってワケじゃないでしょ?」
「ひぃーん……」
お姉様たちは二人を抱き寄せ、頭を撫でてやった。
「そうそう。静流クンがぜーんぶ解決してくれるから、 もうちょっと持っててね♪」
リリィはそう言って親指を立てた。
そして三人は塔へ向かった。
◆ ◆ ◆ ◆
インベントリ内 プレイルーム――
カナメに案内され、プレイルームに着いた面々。
「やあ! お疲れ様、 静流キュン」
「睦美先輩!?」
睦美は右手を上げて静流に近付いて来た。
その後ろにはレプリカたちがいた。
「さっきカナメに伝えたんだが……」
「わかってます。 もうしばらくレプリカは残すんですよね?」
「話が早くて結構。 では打合せを始める」
◆ ◆ ◆ ◆
桃魔術研究会 第一部室 16:00時――
撤収作業を終え、膜張メッセから部室に戻って来た部員たち。
「お疲れ。 どうだったブースの方は?」
「大盛況だったよ♪ 個人サークルじゃ五本の指に入るんじゃないかな?」
「ま、当然ですよね。 いずれ企業ブースに出展する予定なんですから」フンッ
頒布担当の部員がドヤ顔でそう言った。
「イベの方はどうだったの?」
「いやぁ、それはそれは何と言うか……」
イベント担当の部員が、様々なエピソードを披露した。
「え? 失禁!? マジなのそれ?」
「でも、流石はGMよね。 あらかじめ配ってたの。 大人用の紙オムツ」
「うへぇ。 処分に困ったんじゃないの?」
「それがねぇ……軍の施設だからか、 使用済みの紙オムツは発電に使うとかで幾ら出てもイイって」
「バイオ燃料かな? ある意味『永久機関』ではあるよね?」
するとイベント担当の部員が、ポツリと呟いた。
「でも羨ましかったな……あんなに幸せそうに帰って行くユーザー様たちを見てるとつい、 ね」
「私たちって、 脳内でしか静流様とイチャイチャ出来ないのが、ちょっと辛いよね……」
「「「はぁ~っ」」」
部員たちは大きくため息をついた。
部員ではない真琴たちは、隅っこの椅子に座って各々くつろいていた。
「ええと、『フレンドコード』とは……?」
蘭子はポケクリ個人戦で貰った『ジュンテンドースィッチ』の取説を読んでいた。
「蘭ちゃん、やけに熱心ね? スィッチの初期設定?」
「ん? ああ。 ややこしいったらねぇわ……」
「わたし、少しならわかるよ?」
「おお。 助かるぜシズム。 ココなんだけどよ……」
そんな事をやっていると、部員の一部が騒ぎ出した。
元静流派の部員が、何かを察知したようだ。
「おい! GMが御着きだ。 整列しろ!」ザッ
部員たちが片膝を突き、床を見つめていると、【ゲート】がある位置から出て来た睦美の声が聞こえた。
「あとは手はず通りに。 では……」
【ゲート】から出て来たのは、睦美、カナメ、白黒ミサだった。
「「「「お疲れ様です!!」」」
部員たちが声を揃えて言った。
それを見た睦美が大きく頷き、一同を見渡して言った。
「みんなご苦労だった。 楽にしたまえ」
部員たちが片膝から『気を付け』の姿勢を経て『休め』の姿勢をとった。
「早速だが結果を伝える」
睦美は一同を見渡し、ゆっくりと口を開いた。
「当初目標は4千部だった。 一日目に3千部売り上げ、運営と掛け合ってあと2千部重版が許可された」
「結局、 調達出来たのは千部だったので、総売り上げは5千部だ!」
「「「「きゃぁぁぁぁ!!」」」」
部員たちは立ち上がり、ハイタッチをして喜んだ。
コホン、と咳払いすると、部員たちは『休め』の姿勢に戻った。
「小売価格から売り上げは想像が付くだろう。 これにコストやら経費を引いた純利益については、 あえてここでは公言を控える。 知りたいものは個別に聞きに来るがイイ」
そう言うと睦美は、一同に向かい感謝の意を述べた。
「結果的に我らが『桃魔』は、 個人サークルでは上位に入る事は揺るがないだろう。 みんなの頑張りが実を結んだのだ。 ありがとう!」
それを聞いた部員たちは皆、目を潤ませていた。
「そんな……滅相もない」
「単なる悪戯書きが、ここまで昇華した背景には生徒会、 書記長の手腕あっての事……」
「そして何より、 想像の源、 静流様あっての快挙にございます」
古参の部員たちがそう言うと、睦美は大きく頷いた。
「諸君! そこで今回、 みんなの労を労う為、余興を用意した!」
睦美から予想外の発言があり、部員たちは戸惑った。
「余興……ですか?」ざわ…
「はて? 何でしょう?」ざわ…
困惑している部員たちをよそに、 白黒ミサが進行を始めた。
「静粛に! 先ずは我らが『桃魔』の象徴であらせられる五十嵐静流様より、あり難いお話を頂く!」
「静流様、どうぞこちらに」
白ミサが【ゲート】の方に向いて声をかけた。
すると静流が【ゲート】から現れた。
「「「!!!」」」
【ゲート】から出て来た静流は、黒を基調とした革のスーツに、襟に羽根をあしらったマントを身に付けている。
『我を呼び出したのは、お前か?』ギロ
防護メガネをかけていない、裸眼の静流が白ミサを見てそう言った。
VIP席に左京が来て、今回の収支決算の報告を聞く為に部室に集合する事となった静流たち。
「収支決算が出て部室に戻るって事は、 会場はもう撤収作業が終わってるって事?」
「はい静流様。 その点はぬかり無く」チャ
静流は左京に聞くと、左京は得意げにそう言い、メガネの位置を直した。
「おーい静流キュン! ちょっとコッチ来てくれんか?」クイクイ
奥からカナメがひょいっと顔を出し、静流を手招きした。
「カナメ先輩? 何でしょうか?」
「エエからコッチコッチ」クイクイ
「は、はぁ……」
静流は首を傾げながらカナメに近寄った。
「あのな、 頼みがあんねん。 ちょいと耳貸しいや」
カナメの言われるがままに耳を貸す静流。
「このあとの決算報告のあとな、 ごにょごにょごにょ……」
「え、ええ! ええ~っ!!」
静流の声が三段階に大きくなった。
「……ってワケなんや。 疲れとるとこホンマ堪忍やけど、 頼むわぁ」
「ヒドいなぁ……それじゃあ、 やるしかないじゃないですかぁ……」
カナメは静流に手を合わせ、下手なウィンクをした。
「ふぅ……わかりました。 それで済むんならやります」
「よっしゃ! ムっちゃんに報告や!」
静流は観念したのか、カナメの要求を呑む事にしたようだ。
上機嫌なカナメは、睦美のいる所に戻ろうとして立ち止まり、くるっと反転して静流たちの元に戻って来た。
「おっと、部長と副部長はオレとコッチ来い、あと、お姉様方は……」
カナメはソファーに座っているリナと雪乃に近寄り、小声で指示を送った。
「……でお願いしまっさ」
「わかったわ。 交渉はその時にするわね」
「よぉし、そんじゃあ帰るか」
リナは伸びをして、ソファーから立ち上がった。
「じゃ、あと頼むで左京、 素ちゃんも」
「「御意!」」
そう言い残すとカナメは、白黒ミサと静流を連れ、プレイルームの方に行った。
それを見送った左京が、残された面々に告げた。
「それではひとまず解散します! シズムンたちは私に付いて来て下さい。 あとは素子先輩、お願いしても?」
「承知!」
左京は真琴とシズム、それに蘭子を部室に引率するようだ。
素子はリナたちを送り出し、後片付けをするらしい。
「ほら、 リリィさぁん、 起きて下さぁい!」
ソファーで居眠りをしていたリリィを揺り起こす素子。
「んぁ!? あれ? みんなは?」
「もう撤収ですよ? このあとリリィさんとお姉様方は、 『塔』に行くご予定です」
「ギャラの相談するんだと。 アタイは関与してねぇからどうでもイイんだけどよ」
インベントリから【ゲート】を使って塔に帰ろうとしているリナたち。
「アネキィ!」
「お姉様ぁ!」
蘭子と素子がリナたちに近付いた。
二人は顔を歪め、涙をこらえていた。
「お前たち、今日はお疲れさんだったな」ニカ
「もう、何ウルウルしてるのよ? 今生の別れってワケじゃないでしょ?」
「ひぃーん……」
お姉様たちは二人を抱き寄せ、頭を撫でてやった。
「そうそう。静流クンがぜーんぶ解決してくれるから、 もうちょっと持っててね♪」
リリィはそう言って親指を立てた。
そして三人は塔へ向かった。
◆ ◆ ◆ ◆
インベントリ内 プレイルーム――
カナメに案内され、プレイルームに着いた面々。
「やあ! お疲れ様、 静流キュン」
「睦美先輩!?」
睦美は右手を上げて静流に近付いて来た。
その後ろにはレプリカたちがいた。
「さっきカナメに伝えたんだが……」
「わかってます。 もうしばらくレプリカは残すんですよね?」
「話が早くて結構。 では打合せを始める」
◆ ◆ ◆ ◆
桃魔術研究会 第一部室 16:00時――
撤収作業を終え、膜張メッセから部室に戻って来た部員たち。
「お疲れ。 どうだったブースの方は?」
「大盛況だったよ♪ 個人サークルじゃ五本の指に入るんじゃないかな?」
「ま、当然ですよね。 いずれ企業ブースに出展する予定なんですから」フンッ
頒布担当の部員がドヤ顔でそう言った。
「イベの方はどうだったの?」
「いやぁ、それはそれは何と言うか……」
イベント担当の部員が、様々なエピソードを披露した。
「え? 失禁!? マジなのそれ?」
「でも、流石はGMよね。 あらかじめ配ってたの。 大人用の紙オムツ」
「うへぇ。 処分に困ったんじゃないの?」
「それがねぇ……軍の施設だからか、 使用済みの紙オムツは発電に使うとかで幾ら出てもイイって」
「バイオ燃料かな? ある意味『永久機関』ではあるよね?」
するとイベント担当の部員が、ポツリと呟いた。
「でも羨ましかったな……あんなに幸せそうに帰って行くユーザー様たちを見てるとつい、 ね」
「私たちって、 脳内でしか静流様とイチャイチャ出来ないのが、ちょっと辛いよね……」
「「「はぁ~っ」」」
部員たちは大きくため息をついた。
部員ではない真琴たちは、隅っこの椅子に座って各々くつろいていた。
「ええと、『フレンドコード』とは……?」
蘭子はポケクリ個人戦で貰った『ジュンテンドースィッチ』の取説を読んでいた。
「蘭ちゃん、やけに熱心ね? スィッチの初期設定?」
「ん? ああ。 ややこしいったらねぇわ……」
「わたし、少しならわかるよ?」
「おお。 助かるぜシズム。 ココなんだけどよ……」
そんな事をやっていると、部員の一部が騒ぎ出した。
元静流派の部員が、何かを察知したようだ。
「おい! GMが御着きだ。 整列しろ!」ザッ
部員たちが片膝を突き、床を見つめていると、【ゲート】がある位置から出て来た睦美の声が聞こえた。
「あとは手はず通りに。 では……」
【ゲート】から出て来たのは、睦美、カナメ、白黒ミサだった。
「「「「お疲れ様です!!」」」
部員たちが声を揃えて言った。
それを見た睦美が大きく頷き、一同を見渡して言った。
「みんなご苦労だった。 楽にしたまえ」
部員たちが片膝から『気を付け』の姿勢を経て『休め』の姿勢をとった。
「早速だが結果を伝える」
睦美は一同を見渡し、ゆっくりと口を開いた。
「当初目標は4千部だった。 一日目に3千部売り上げ、運営と掛け合ってあと2千部重版が許可された」
「結局、 調達出来たのは千部だったので、総売り上げは5千部だ!」
「「「「きゃぁぁぁぁ!!」」」」
部員たちは立ち上がり、ハイタッチをして喜んだ。
コホン、と咳払いすると、部員たちは『休め』の姿勢に戻った。
「小売価格から売り上げは想像が付くだろう。 これにコストやら経費を引いた純利益については、 あえてここでは公言を控える。 知りたいものは個別に聞きに来るがイイ」
そう言うと睦美は、一同に向かい感謝の意を述べた。
「結果的に我らが『桃魔』は、 個人サークルでは上位に入る事は揺るがないだろう。 みんなの頑張りが実を結んだのだ。 ありがとう!」
それを聞いた部員たちは皆、目を潤ませていた。
「そんな……滅相もない」
「単なる悪戯書きが、ここまで昇華した背景には生徒会、 書記長の手腕あっての事……」
「そして何より、 想像の源、 静流様あっての快挙にございます」
古参の部員たちがそう言うと、睦美は大きく頷いた。
「諸君! そこで今回、 みんなの労を労う為、余興を用意した!」
睦美から予想外の発言があり、部員たちは戸惑った。
「余興……ですか?」ざわ…
「はて? 何でしょう?」ざわ…
困惑している部員たちをよそに、 白黒ミサが進行を始めた。
「静粛に! 先ずは我らが『桃魔』の象徴であらせられる五十嵐静流様より、あり難いお話を頂く!」
「静流様、どうぞこちらに」
白ミサが【ゲート】の方に向いて声をかけた。
すると静流が【ゲート】から現れた。
「「「!!!」」」
【ゲート】から出て来た静流は、黒を基調とした革のスーツに、襟に羽根をあしらったマントを身に付けている。
『我を呼び出したのは、お前か?』ギロ
防護メガネをかけていない、裸眼の静流が白ミサを見てそう言った。
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