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第9章 冬の……アナタ、どなた?

エピソード53-8

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 紆余曲折の末、待望のターゲット『やさぐれウォンバット』を含んだ大物のぬいぐるみををゲットした静流たち。
 捕れた景品をまじまじと見つめる一同。

「しかしよぉ、なんだってコイツらこんなにブサイクなんだ?」

 ウォンバットについてはずんぐりと太っており、とにかく目つきが悪い印象を受けた。
 ウサギは名前の通り、今にも絶命しそうな苦悶の表情を浮かべている。
 イルカに至っては、目の下にクマが出来ており、眉間に血管が浮いていた。

「見た目は置いといて、 毛並みと言うか、 抱き心地は最高だよ♪」

 真琴がそう言ってウサギに頬ずりした。

「一部のマニアには刺さるんだろうね? 『ブサカワ』ってヤツ?」
「ふぅん。 そんなもんかね……」

 すっかり夜になり、蘭子が一同に告げた。

「さぁて、そろそろずらかるか……」
「大漁大漁。 久々にスカッとしたな♪」

 蘭子が軽く伸びをして、首をコキコキと鳴らした。
 ヤス子は今日の成果を見て、大きく頷いた。
 床に置いた大物のぬいぐるみを見ながら、達也が静流に聞いた。

「ところで静流さん? こんなデカいヤツどうやって持って帰るんだ?」
「確かに。 帰りの電車、 混んでたらヤダなぁ……」

 達也の意見に真琴が同意した。

「それなら大丈夫♪ 真琴、 それもちょっと貸して」
「え? 大丈夫なの?」

 静流は真琴から受け取ったぬいぐるみを頭に押し付けた。

「よいしょっと」シュルルル
「は? えぇ~!?」

 頭に押し付けたぬいぐるみは、吸い込まれるように頭の中に入った。
 続けざまに三体、ぬいぐるみが頭の中に入った。

「ね? 大丈夫でしょ? 伊藤さんのも預かっておこうか?」
「うぇ!? どういう構造なの?」

 静流の提案に、いぶかし気に景品を強く抱き抱え、拒絶する朋子。

「前にロディに作ってもらったんだ。『アイテムボックス』みたいなもんだよ。 ほら」

 そう言って静流は、頭からぬいぐるみを出し入れしたり、少し前に見せた小さいがま口財布を出して見せた。

「あ、 その財布、 さっきの?」 
「なるほどな。 もう驚くのも疲れたぜ」

 朋子は驚いていたが、 達也は呆れた顔で『オーマイガー』のポーズをとった。
 真琴が眉間にしわを寄せ、静流に聞いた。

「静流、それってまさか、『インベントリ』に繋がってるの?」
「ええとこれはね、『塔』の『宝物庫』に繋がってるみたい」
「そんなのあるの? あの塔に?」
「ブラムも言ってたけど、ほとんどガラクタ置き場で、『お宝』って言う程の物は無いっぽいね」

 静流の説明に、真琴は不機嫌そうに言った。
 静流に関して自分の知らない事があったからだろう。
 
「ふうん。 どっかの部屋と繋がってるって事は、 無限ではないんだね?」
「まぁね。 どこまで入るかはわからないけど、 結構入るんじゃないかな?」

 二人のやり取りを聞いていた朋子は、安全だと確信したのか静流に景品を突き出した。

「そう? じゃあお願い♪」
「調子イイなぁお前、 ぐぼっ」
 
 朋子は達也に対して終始、不機嫌な態度であった。
 帰り支度が済んだ静流は、ヤス子にお礼を言った。

「師匠! 今日はありがとうございました!」ニパ
「きゃうん♡ いやぁ、 結果が残せてホッとしたよ……」

 不意打ち気味にニパを食らったヤス子は、後頭部を搔いて照れまくった。

「師匠がいなかったら、 今日は多分ボウズだったと思う。 ね? お蘭さん?」
「あ? ああ。 結果的に召喚して正解だった。 不本意ではあるがな」

 蘭子は目の前でデレデレしているヤス子を、冷ややかな目で見ながらそう言った。

「そう褒めるなよ? 照れるじゃんか♪」
「別に褒めてねぇよ!」

 息の合った二人のやり取りを見ていた静流は、はっと何かに気付いた。

「そうだ! 何かお礼しなくちゃ……」
「イイってイイって。 お静ちゃんに会えただけで御の字なんだからよぉ……」

 ヤス子は手をブンブンを振り、慌てて弁解した。

「おいヤス子、さっきサチコ先輩から何か頼まれてたよな?」
「あ! そうだった……」

 蘭子にそう言われ、途端にモジモジしだしたヤス子。

「じゃあ、一個イイかな? お願い」
「どうぞ。 僕の出来る範疇なら何でも?」

 静流の返答に、一瞬で顔が赤くなるヤス子。

「なな、 何でも?」
「うん。 何でも♪」ニコ

 聞き返すヤス子に、静流は即答した。

「おいヤス、 わかってんだろうな?」ギロ
「師匠? 『公序良俗に反する行為』はご法度ですからね?」ギロ

 すぐさま蘭子たちに睨まれるヤス子。

「わ、わかってるって! そう言うのはもっとお近づきになってからでごにょごにょ」

「「わかってない!」」

 口をとんがらせて小さめの声でそう言うヤス子を、二人がぴしゃりと叱った。

「うん? どうしたの?」

 不思議そうにヤス子たちのやり取りを見ていた静流が、首を傾げながら聞いた。

「な、何でもねぇよ。 そうだ! 連絡先交換しようぜ?」
「え? そんなのでイイの?」
「ああ! それで充分だ!」

 静流はメッセンジャーバッグからメモ帳を出し、ペンでさらさらと書いたあと、そのページを破ってヤス子に渡した。

「これ、メアドなんだけど。 携帯とかはワケアリで持ってないから……」
「サンキュ! うわぁい! お静ちゃんのメアド、 ゲーット!」

 ヤス子は紙切れを両手で持ち、高く挙げながらピョンピョン跳ねている。

「おいヤス! そのアド、 サチコ先輩に教えるつもりだろ?」ギロ
「ギクッ、 バレてますぅ?」

 蘭子はヤス子の背後を取り、関節技をかけた。

「バレバレだ! コイツめぇ!」
「痛っ! ギブギブ!」 
 
 蘭子は技をかけたまま、静流に聞いた。
 鬼気迫る蘭子の態度に、静流は後ずさった。

「お静、サチコ先輩にはアド、教えてもイイか?」
「か、構わないよ。 二人の先輩で、リナ姉の友達なんでしょ?」

 それを聞いた蘭子は、すぐさま技を解除した。

「ふぅ。 大袈裟だなぁ蘭の字。 たかがメアドだろ?」

 ヤス子の言い草に、今度は真琴がキレた。

「師匠? 静流のメアドは、アメリカの大統領のホットライン並みに貴重なの。 取扱いに注意してよね?」ギロ
「そうだぞヤス! アタイだってアドもらうのに、どれだけかかったか」
「わ、わかったよ二人とも、 厳重に管理しますっ」

 真琴の迫力に気おされ、ヤス子は何度も頷いた。
 腐中本町駅で太刀川に帰るヤス子と別れ、西国分尼寺駅で達也、朋子と別れた。

「はい、 預かってたぬいぐるみ」シュン
「ありがとう! ホント便利ね?」

 ぬいぐるみを受け取り、ホクホク顔の朋子。

「みんな、 今日はありがとう!」

 静流は達也たちに礼を言った。

「おう! じゃあな静流、お疲れ」
「お疲れ様ぁ。 行こ! 達也♪」
「アイツらって、 仲イイんだかワリいんだかわかんねーな……」

 朋子は達也を引っ張り、自宅の方に帰って行った。
 途中まで一緒だった蘭子は、ある交差点で立ち止まった。
 
「今日はありがとう。 お蘭さん」
「妹ちゃんによろしく。 お静、 それでちゃんと説得しろよ?」
「そうか、 まだやる事があったんだ……」

 蘭子にそう言われ、静流の顔が次第に曇っていく。

「大丈夫だよ蘭ちゃん。 あたしが上手くフォローするから」
「頼んだぜ? 真琴 じゃあな」

 そう言って蘭子は後ろ向きで右手を上げ、静流たちと違う方向に去って行った。



              ◆ ◆ ◆ ◆


五十嵐家 玄関―― 

「イイ? 手はず通りやるのよ?」
「わかった。やってみる」

 そう言って静流は、玄関の前で深呼吸してから中に入った。

「ただいまぁ」 
「お邪魔しまぁーす」

 玄関の声を聞いた美千留が、バタバタと派手な足音を立てながら玄関にやって来た。

「遅い! ドコで油売ってたの?」
「ちょっと、 腐中……まで?」

 美千留に尋問され、言い辛そうな静流。

「腐中? 何でそんなトコに? しず兄じゃウザい! マコちゃん、 説明して!」
「話せば長くなるよ? ね? 静流?」
「まぁまぁ美千留さん、 立ち話も何ですから……」

 静流はそう言って、美千留と真琴を自分の部屋に上げた。
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