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第9章 冬の……アナタ、どなた?

エピソード53-9

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五十嵐家 静流の部屋―― 


 腐中のゲーセンから帰って来た静流と真琴。

 玄関で美千留に帰りが遅かった事を叱られ、静流は真琴を伴って自分の部屋に行く。


「さぁ、 何があったか説明してもらおうか?」

「大丈夫。 美千留ちゃんが考えてるような事、 なかったし」


 部屋に入ると、床に丸くなっていた豹モードのロディが、お座りのポーズをとった。 


「お帰りなさいませ、 静流様」

「ロディ、 ソッチはどうだった?」

「滞りなく。 これは今日の戦利品です」


 ロディは体の中から数枚のゲームソフトらしきものを出すと、シズムの姿に変わった。


「実はね、 ある仕事でこのソフトを使う事になったの♪」


 シズムは5枚のゲームソフトを静流たちの前に置いた。


「あっ! 『あつ森』だ!」


 ソフトを見た瞬間、美千留の顔がぱぁーっと明るくなった。

 シズムが持って来たソフトは、美千留の『ほしいものリスト』にあった『あつまれ! 恫喝の森』だった。

 このゲームは、ある都市で起こるファミリー同士の抗争を描く言わば『国盗り物語』の現代版である。

 プレイヤーには最初に与えられた勢力範囲である『シマ』を、謀略や暗殺などを駆使し、いかに広げていくかを競うゲームである。


 静流が首を傾げながらシズムに聞いた。


「同じのが何枚もあるのは?」

「あと最低5人、 友達を誘わないとダメみたいなの」

「友達……ねぇ」

 

 ソフトを手に取り、鼻息を荒くしている美千留。


「そんなの簡単じゃん! 私としず兄、マコちゃんとシズム。 あとはオシリスにでも頼めばイイでしょ?」


 ドヤ顔でそう言う美千留に、静流は呆れながら言った。


「そんな閉鎖的な空間じゃダメなんだよ。 それに多分モニターって事だろ? ウチの家族を晒す事になるんじゃないか?」

「うぅ……確かに。 しず兄の分際でマトモな事言ってる……」


 静流はさらに付け加えた。 


「あと、 それだとソフトは5枚要らないだろうに。 多分、 ハードの数だけユーザーを増やすって事だろ?」

「そうなの! そこが肝心な所♪」

「うぅ……ややこしい」

 

 美千留は正直、ネットやゲームの事はあまり詳しくない為、踏み込んだ会話には付いて行けない。

 真琴が思いつくままに静流に聞いた。


「じゃあ、どうやって友達を増やす? 通信で全然知らないユーザーを勧誘するのはあたしは反対!」

「そうだな。 手練れのハッカーとかだったら、 家バレとかもあるかもだし……」

「家バレ!? ヤダ! ただでさえ変なのがうろついてるんだから……」



「「「う~ん……」」」



 静流たち三人が腕を組んで何やら唸っていると、シズムが微笑みながら言った。 


「役者仲間に頼めばイイから、そんなに悩まなくてもイイよ♪」

「それもマズいんじゃない? 相手は有名人なんでしょ?」

「そうだな。 相手に迷惑がかかるんじゃ、 責任問題になるかも……賠償とか?」

「損害賠償!? ヤダ! そんなお金ない!」



「「「う~ん……」」」



 またまた静流たち三人が腕を組んで何やら唸っている。 

 暫くして、静流が苦し紛れにひねり出した案を提示した。


「身近にハードがあるとしたら……取り敢えず一枚は学校の部室に、 もう一枚はお蘭さんに貸すってのはどうだろ?」

「何ソレ!? 誰得!?」


 あまりにも自分勝手過ぎる静流に、美千留は激高した。


「しょうがないだろ? ハードが無いんだから。 美千留も誰か誘えばイイじゃん」

「それが出来たら苦労しない!」


 結局イイ案が出ないまま、この件については保留となった。

 居心地の悪い雰囲気となり、静流は本来の作戦を実行に移した。


「美千留、 今日腐中に行ったのは、コレを捕りに行ってたんだ! ジャーン」シュル


 静流は頭に手を突っ込み、得意げに『やさぐれウォンバット』を引っ張り出した。


「あ! ああーっ! 『やさウォン』だ!」ガシッ


 美千留は目の前のぬいぐるみを静流からふんだくると、ぎゅうっと抱きしめて頬ずりした。

 幸せそうに頬ずりしている美千留を見て、静流は安堵しながら言った。


「お前、ソレ欲しかったんだろ? 苦労したんだからな?」


 静流の発言に、美千留の動きがピタッと停まった。


「何で、 知ってるの?」ジロ

「ごめん、 あたし見ちゃった。 『ほしいものリスト』」


 真琴が手を合わせ、美千留に頭を下げた。

 美千留はため息をつきながら、静流に言った。


「ふぅーん。 それで、 しず兄が捕ったの?」

「うん。 大変だったよな? 真琴?」

「うんうん。 結局最後の最後でやっと捕れたの」

「おカネ、 相当つぎ込んだんじゃないの? ネットで『鬼ムズ』って書いてあった」

「それはお蘭さんが何とかしてくれた。 実質タダに近いよ」

「え!? そうなの?」


 静流はメダルの件をかいつまんで美千留に説明した。


「だからな、 お蘭さんにはお礼したいんだ。 スイッチの件、 許可してくれよ」


 静流はここぞとばかりに話をねじ込んだ。

 静流はスイッチの初期設定まではやったが、ログインについては美千留の許可待ちだった。

 その件もあって、今回のミッションに繋がるのだが。

 ぬいぐるみを抱きながら、少し考えたあと、美千留が呟いた。


「……わかった。 許す」

「そうか! わかってくれたか!」

 

 スイッチのログイン権と、蘭子とのフレンドコード交換について、美千留の許可が下りた。

 ほっとした静流は、今日の出来事を振り返った。


「いやぁ大変だったんだぞ? ソレ狙ってるのにこんなのが掛かってさ」シュン


 そう言って頭から取り出したのは、最初に捕った『断末魔ウサギ』だった。


「え!?『断ウサ』だ! やったぁ♪」ガシッ


 美千留は目の前のウサギを見るや、さっきまで抱きしめていたウォンバットを放り投げ、ウサギを静流からふんだくった。

 

「ん? どう言う事?」

「さぁ? あたしにもさっぱり……」


 『ほしいものリスト』にあったのは、間違いなくウォンバットだった。

 しかし、この喜びようはどうだろう?


「美千留さん? ひょっとして、コレも欲しかったりして?」シュン


 静流は複雑な顔で、もう一つのぬいぐるみを引っ張り出した。


「え!?『ばとイル』じゃん! コレ、 一番欲しかったの♪」


 美千留は目の前のイルカを見るや、さっきまで抱きしめていたウサギを放り投げ、イルカを静流からふんだくった。


「嬉しい! しず兄、 ありがと♡」


 美千留は『罵倒イルカ』を抱きしめ、頬ずりをしながら静流にお礼を言った。


「おまけで捕れた物が一番喜ばれるなんてね……たはは」


 静流は放り投げられた他のぬいぐるみを見て、美千留に聞いた。


「イルカだけでイイの? 他のは真琴に――」

「ダメ! 全部いるの!」ガバッ


 静流が言い終わる前に、美千留は他の二体も抱き寄せた。


「だってさ。 真琴、 それでイイか? そのウサギ気に入ってたみたいだから……」


 静流が真琴を見ながらそう言うと、 真琴は手をブンブンと振りながら否定した。


「だ、大丈夫! もし欲しくなったら静流に捕ってもらうから♪」

「お前なぁ、 簡単に言うなよ……」




              ◆ ◆ ◆ ◆




国分尼寺魔導高等学校 2-B教室 次の日――


 いつも通り、時間ギリギリ目に教室に入って来た静流、真琴、シズム。


「よぉ静流! どうだった?」

「おはよ。 結果は……バッチリ!」


 達也に開口一番に夕べの結果を聞かれた静流は、少し間を置いて親指を立てた。


「そうか! 頑張った甲斐があったな?」

「どうも、その節は大変お世話になりました」ペコリ


 それを聞いた蘭子が、席を立って静流たちに近付いて来た。


「じ、じゃあ、ログイン出来るんだな? お静?」

「うん。 あ、 それでねお蘭さん。 これ、 やって見ない?」


 静流がスイッチのソフトを蘭子に渡した。


「こ、これって、『あつ森』じゃねぇかよ!?」
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