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第9章 冬の……アナタ、どなた?

エピソード56-36

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宴会場『プロメテウス』の間

 ビンゴゲームの真っ最中に、薫たちと共にシレーヌが睦美たちの会場に来た。
 新しく用意された座卓に座った薫と達也。
 一方シレーヌは、血相を変えてジンの方に駆け寄っていた。

「成程な。行動を制限して魔力をセーブしてるのか……大したもんだぜ」

 レプリカのジンを見た薫は、レプリカの仕上がりを素直に褒めた。

「まぁ、アニキと違って、 静流は魔力を湯水のように使えないッスからね」
「そうでもねぇさ。 ほれ」

 薫は親指で、後ろに寝かされている二人を指した。

「お姉様たち? 酔い潰れて寝てるんじゃないんスか?」

 達也は寝ているリナと雪乃を凝視した。
 幸せそうな笑顔を浮かべ、スヤスヤと寝ている二人は、心なしか少しやつれて見えた。

「アイツらから結構な魔素を頂戴してた。 朝までは起きねぇだろうよ……」

 薫はそう言って、中ジョッキの生ビールをあおった。

「するってぇと、向こうも決着が?」
「ああ。 もうじき終わる」



              ◆ ◆ ◆ ◆



保養施設内 宿泊棟

 カオルと八郎は、エレベーターに乗った。
 二人だけの空間となり、カオルは先に仕掛けるべく、八郎に密着する。

「んふっ♡」
(さぁて仕上げだ。とっとと片付けるぞ!)

 カオルが3階のボタンを押し、扉が閉まった。
 扉が閉まるなり、先に仕掛けて来たのは八郎だった。
 八郎はカオルの尻を撫で、そして鷲掴みにした。

「むほぉ。 この張り! ぷりぷりじゃあ!」
「うぅん……焦らないで♡」

 3階のボタンを押し、扉が閉まると、エレベーターは上に上がり始めた。
 
『ポーン……3階デス』

 程なく機械音声が希望の階である3階に着いた事を知らせ、扉が開いた。
 しかし、二人は直ぐに降ずに、扉が閉まってしまう。
 カオルは八郎に尻を触らせながら、負けじと八郎の股間をまさぐった。

「アナタのココ、 もうこんなに硬くなってる♡ 早く気持ちイイ事したいの?」
「ムヒヒ。 そんなの、 言わんでもわかるじゃろう?」

 カオルは潤んだ瞳で八郎を見つめると、カオルの瞳が桃色に変わった。

「今だ! 【魅了】!」パァァ

 カオルの【魅了】を浴びた八郎の態度は、相変わらずであった。

(ん? 効いてない?)

 困惑した表情のカオルに、八郎は平然と言った。

「今のは魔法か? ならばワシには効かんぞ?」
「え? あっ……あの……」

 焦りだし、目が泳いでいるカオル。
 すると八郎がドヤ顔で言い放った。

「安心せい! ワシの心はもう、 とっくにお主のもんじゃ♡」
「あっ、あはっ……バレたぁ?」
(俺の【魅了】をはね返した……だと? マズいな、これじゃあ篭絡出来ねぇ……)

 カオルは恐らく、【魅了】により八郎を篭絡し、妻のいる308号室に誘導するつもりだったのだろう。
 必死に次の手を考えているカオルに、八郎が仕掛けた。

「むぎゅ!?」 
「わぁ。 やわらかぁーい♡」

 八郎が顔をカオルの胸にこすりつけると、カオルは変な声を出した。

「んほぉ……いかんいかん! もう暴発してしまいそうだわい」

 カオルの胸に顔をうずめていた八郎が、カオルの唇を奪うべく顔を近づけて来た。
 カオルはジタバタと抵抗した。

「ち、ちょっと待って! こんなトコじゃイヤ!」
「そんな事を言うてるが、 もう体は受け入れ態勢が出来ておるようじゃぞ? ん?」

 すると突然、エレベーターが下に降り始めた。
 誰かが下の階でエレベーターを呼んだのだろう。
 そんな事はお構いなしに、八郎の興奮度はMAXに達する寸前だった。

「むちゅう……カオルちゅわぁ~ん♡♡♡」
「お、おわぁぁぁ~!」

 カオルは動揺して、ドスの効いた声を張り上げた。
 その時、エレベーターが止まった。

『ポーン……1階デス』

 機械音声のあと、扉が開いた。
 扉の向こうには、先ほどの巻き毛美女が立っていた。

「えっ!?」 
「むっ!?」

 カオルと巻き毛美女の目が合った。
 八郎はカオルの胸をまさぐりながら、夢中でカオルの唇を奪おうと迫っている。

「きゃ、 きゃあぁぁ」
「むふぅ……たまらんのう、 この弾力♡」

 そんな八郎の首ねっこをがしっと掴んだ巻き毛美女。

「んぐっ!? な、 何をするんじゃ……ひ、 ひぃっ!?」

 無理やりカオルから引きはがされ、激昂した八郎。
 しかし、巻き毛美女をみるなり、八郎の顔がみるみるうちに青ざめていく。

「キャキャキャ……キャサリンちゃん!?」
「はぁちぃろぉう……クゥン? ダメでしょう? こんなトコで女のコ襲っちゃあ……」

 青筋を立てて激怒している巻き毛美女は、八郎の妻であるキャサリンだった。

「ち、 ちち、 違うんじゃキャサリンちゃん! これは事故……そう事故なんじゃ!」

 八郎はそんな事を苦し紛れに言っているが、キャサリンは次第に鬼のような形相に変わっていく。

「ふぁ・ちぃ・るぉう……クゥン?」
「ひ……ひぃぃぃ……」ガク

 キャサリンの逆鱗に触れ、白目をむいて気絶してしまう八郎。
 カオルはぺたんと腰を抜かし、口をパクパクさせている。

「……あ、 あの……私……」
(キャサリンって、コイツの奥さんか? 怖えぇ……)

 そんなカオルを見たキャサリンは、瞬時ににこやかな表情に変わった。

「怖かったでしょう? ごめんなさいねぇ。 この人、 酔っぱらうと見境なく女のコに飛びつく性癖があるの……」
「は、 はぁ……」
「折角の聖夜、 災難だったわね……だけど!」

 そこで言葉を切り、カオルの顔に瞬時にゼロ距離まで詰め寄った。

「この事は、 ぜぇーったいに、 内緒ね?」
「は、 はいぃ……」

 微妙に殺気を含んだ顔のキャサリンだったが、直ぐににっこりと微笑んだ。

「後の処理は私に任せて、 アナタは自分の部屋に帰りなさい。 イイわね?」
「は、 はい……危ない所を救って頂き、 ありがとうございました」ペコリ

 カオルはそう言って頭を下げ、エレベーターを降りた。
 扉が閉まり始めると、キャサリンはニコッと微笑んだ。

「さぁて、 今夜は長くなりそうね♡」

 そのキャサリンの右手には、子猫の様に首根っこを掴まれてうなだれている八郎がいた。
 扉が閉まり、カオルは大きく溜息をついた。

「おぉ怖っ……結構ヤバかったが、 まぁ結果オーライだろ……」

 そう呟いたカオルの身体が、足元からスーッと消えていき、やがて完全に消えた。
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