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第9章 冬の……アナタ、どなた?

エピソード56-37

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宴会場『プロメテウス』の間

 シレーヌはある一角を指さし、ワナワナと震えていた。

「さささ、 朔也ぁーっ!」

 シレーヌは、ジルの隣に座っているジンのレプリカに近寄り、話しかけた。

「ん? 何だい? 子ネコちゃん?」
「何って!? 私よ!? シレーヌ!」
「……疲れてるみたいだね? マッサージでもしようか?」

 ジンのレプリカは、あらかじめ用意されたアクションを繰り返すだけだった。
 レプリカの出来の良さに、素直に感心している薫だった。

「へぇ……母さん、 朔也さんだろあれ? 俺も写真しか見た事ねぇんだけど」
「ええ。 姿だけじゃなく声もそっくり。 何でも静流が言うには、 朔兄様が夢枕に立ったらしいの……」
「って事は、 どっかでアイツの夢に干渉して来た可能性もあるな?」
「私もそう思ってるわ……朔兄様は、 きっとどこかに。 アホ庵と静クンも一緒だとイイんだけど……ね」

 モモはそう言って、天井の方を見た。
 
「……違う。 朔也じゃない!」

 ジンがレプリカだとわかり、シレーヌは絶叫した。

「どうしたんだい子ネコちゃん? 怒るとしわが増えるよ♪」
「さ、 朔也ぁぁん」

 レプリカにそう言われ、顔を緩めるシレーヌだったが、直ぐに鋭い眼差しを隣にいるジルに向けた。

「アナタ! ジルベール・ハクトーね? 知ってるわよ?」
「奇遇ですね。 私も存じ上げていますよ? シロウ・ミフネ様?」

 二人は睨み合い、敵意を丸出しにした。

「学生時代にちょーっと仲良かったからって、 朔也と馴れ馴れしくしないで頂戴!」
「マネージャーだか何だか知りませんが、公私混同は止めて頂きたいですねっ!」
「私は、 マネージャーであり人生のパートナーなの!」
「でも事実婚ですよね? 【禁忌】である性転換魔法まで使って……なんと罪深い事か……」
「知った風な事言わないで! そうでもしなくちゃ朔也のメンタルは崩壊してたわ!」
「アナタが仕事ばかりさせて朔也を追い詰めたのでしょう?」

 男と元男は、感情をむき出しにして睨み合った。  


「「きぃ~!!」」


 一触即発のこの状況を見かねて、睦美が二人の間に入った。

「まぁまぁ三船代表、 これは余興の一つなんです。 このジン様は静流キュンが作成した【レプリカ】でして……」
「静流さんが?」

 状況を睦美が説明し始めると、シレーヌに落ち着きが戻って来た。
 
「そうだったの……でも朔也、 七本木ジンはウチのトップスター。 勝手に使用しては困るわ!」
「その件については、 誠に面目ありませんです、 はい……」ペコペコ

 ジンの所属する『ミフネ・エンタープライゼス』の代表であるシレーヌにそう言われると、睦美はただ謝るしかなかった。

「すいません、 ジン様のレプリカはビンゴゲームの景品から外しま――」
「いいえ。 続行するわよ」
「えっ!?」

 睦美がしゃべり終わる前に、シレーヌが言った。

「ただし……私も入れなさい!」


「「「えぇ~!!」」」 


 この一言に、一同が驚いた。ひと際大きい声を上げたのは、ジルだった。

「今から参加するのですか!? 何と厚かましい……」
「何とでも言いなさい! 私に断りなく、こんな羨ましい事をしてるなんて……許せないわ!」

 ゲーム続行が決まり、睦美はホッとした。

「ではこれを。 それと、 今までに抽選した番号はこちらです」

 睦美は余っていたビンゴカードをシレーヌに渡し、抽選済みの番号が書いてあるメモを渡した。

「フムフム……リーチだわ、 ん? ここもリーチ……つまり、 ダブルリーチよ!」

 余りの急展開に、アダルト勢はどよめいた。

「ダ、ダブルリーチですって!?」
「うっそぉ!? 私まだイーシャンテンなのに……」

 アマンダは驚愕し、カチュアは落胆した。

「どぉ? 勝機は私にあるみたいね?」

 シレーヌはドヤ顔でジルにビンゴカードを見せた。

「何と言う強運……おお神よ……」

 ジルはそう言って、天井を』仰ぎ見た。
 『男体盛り』の残りとは知らずに、様々な種類の刺身を食べながら達也は薫と談笑していた。

「島だけに、色んな刺身があるな?」
「確かに。 見た事ねぇモンがありますね?」

 達也は一番近くにいた朋子に聞いた。

「なぁ朋子、 コッチはどんな出し物で盛り上がったんだ?」
「え? 今それ聞く?」
「何だよ? 聞いちゃマズかったか?」
「いや……知らない方がイイかも」
「何だよそれ? 気になるじゃんか」

 美味そうに刺身をつまんでいる二人に、朋子は明言を避けた。
 すると突然、薫の様子が変わった。

「うっ!?」
「アニキ? どうしたんスか?」
「まさか……お刺身に当たったとか!?」
「何ぃ!?」

 朋子が意味深なワードを口走った。

「ヤベェ……マズった」
「やっぱ刺身ッスか?」
「違ぇよ。 向こうの方」

 薫は首をふり、慌てる達也を落ち着かせた。

「ああ、爺さんの相手ですか? 何かトラブルでも?」

 余裕のなさそうな薫は、達也の問いには答えずに小声で独り言を言っている。

「俺の【魅了】が効かねぇ!?……こんな奴、 初めてかもしれねぇ」ブツブツ
「ケツまくってトンズラするか? ん? 待てよ……」ブツブツ

 突然黙った薫は、暫く真顔になったあと、ニヤリと笑った。

「ふぅ。 今終わった。 やれやれ……一応ミッションクリアだぜ♪」
「お疲れッス! で、 どうだったんスか?」
「邪魔が入ってヤバかったが、 何とか軌道修正出来たぜ」

 薫は、事の顛末を達也に説明した。

「あの爺さんの奥さんと鉢合わせしたんスか!?」
「その奥さん、 超美人なんだが超おっかなかった……向こうが勝手に勘違いしてくれたお陰で助かったぜ……」
「結果オーライッスよ。 お疲れした!」カチン
 
 達也は薫のジョッキにグラスをぶつけ、労をねぎらった。
 ふと我に返った薫が、ボソッと呟いた。

「そう言やぁ……これって報酬とかって無ぇの?」



              ◆ ◆ ◆ ◆


エントランス ロビー

 成り行きでジョアンヌの上官にシズルーを紹介する事になった静流。

「それでは呼んできますんで、 お店で待っていてもらえます?」
「はい喜んでっ! いつまでもお待ちしています!」

 静流にそう言われ、ジョアンヌは満面の笑顔でそう言った。

「まるで、 アナタがシズルー様に会いたがっているみたいですね?」
「え? あ、 あはは……」

 フジ子がジト目でジョアンヌをイジると、ジョアンヌは我に返り、顔を赤くて照れ笑いした。
 ジョアンヌを店に行かせ、ロビーにはフジ子と静流だけになった。 

「あーもう! 次から次と、 トラブルばっかじゃんか……」

 静流は動物園のマレーグマの様に、頭を抱えて唸った。

「すいません、見通しが甘かったです……」
「フジ子さんが謝る事じゃないですよ。 で、今から会う中尉さんってどんな方なんです?」
「フィッシャーマン中尉ですか……」

 フジ子は自分の知っている限りの情報を、静流に与えた。

「ど、『DTハンター』だって!? 結構ヤバい方じゃないですか!?」

 静流は背筋に悪寒が走った気がして、 ぶるっと震えた。
 フジ子は真剣な顔になり、静流に忠告した。

「ですから、常に警戒していて下さい。 シラフならまだしも、 泥酔に近い状態らしいです。 くれぐれも気を付けて下さいね?」
「その言い方、 フジ子さんは付いて来てくれないんですか?」
「私は……前に結構やらかしているので、 顔を合わせると即戦闘になる恐れが……」 
 
 何か隠している様で、フジ子の目が泳いでいる。

「そうですか……とにかく行ってきます」
「お力になれずに済みません……」

 気を遣って多くを聞かなかった静流に、フジ子は感謝し、謝罪した。

「大丈夫ですよ。 ヤバくなったら寝てもらいますから」

 静流は周囲を見渡し、誰もいない事を確認すると、腕のガジェットを操作した。
 瞬時にシズルーの姿となり、真っ直ぐに自分を見つめる姿にフジ子は頬を染めた。

「……では、 行って来る」
「ご武運を……」

 きびすを返し、コツコツと軍靴を鳴らしながら、シズルーは店に向かって行った。

「事が済んだら……結果を教えて下さい!」
「わかった」

 背中越しに声をかけたフジ子に、シズルーは右手を挙げて応えた。
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