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第9章 冬の……アナタ、どなた?

エピソード56-38

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保養施設内 バー『ジャムル・フィン』
 
 泥酔したキャリーは、管を撒いてカミラを困らせていた。

「ちょっとぉ! 完全無欠の超絶イケメンはまだ来ないのぉ?」
「だからぁ……今、ジョアンヌが必死に探してるから、 大人しく待とうよママ……」
「全くジョアンヌは交渉が下手なんだから、 もう……」

 そう言ってキャリーが口をとんがらせていると、入り口からジョアンヌが小走りで入って来た。

「やったわカミラ! シズルー様と連絡がついたの!」
「でかしたジョアンヌ! これでママの相手から解放される♪」

 ジョアンヌとカミラは手を取り合ってピョンピョン跳ねた。
 その様子を見たキャリーが、イラつきながらジョアンヌに話しかけた。

「ジョアンヌゥ? 状況を報告しなさい……早く!」
「はっ! 捜索の甲斐あって、 シズルー様との謁見が可能となりました!」
「ご苦労。 で? 肝心の超絶イケメンは何処にぃ?」
「はっ! 間もなく到着すると思われます」

 キャリーは周囲を見渡した。
 すると、入り口の扉が開き、誰かが入って来た。

「いらっしゃいませ……むふぁあ」
「連れがいる筈なのだが……」

 顔を赤くした店員と会話している、クラシカルな軍服姿の青年が目についた。

「「き、 来たぁ~!」」

 二人の声に反応し、シズルーが二人のいるテーブルの方を見た。

「む? いたようだ……」
「はい、 ではごゆっくり……はぅ」

 店員は呆けたように、遠い目をして厨房の方に下がっていった。
 シズルーと目が合った二人は即座に立ち上がり、シズルーを迎えた。

「シズルー様、 お忙しい所ご無理をお聞き下さり、 まことにありがとうございます!」ペコリ
「フム……今夜は特別だぞ?」

 うやうやしく頭を下げるジョアンヌとカミラに、シズルーは不機嫌そうにそう答えた。

「「ははぁーっ」」

 いささかオーバーに感謝を示した二人が、自分たちのテーブルにシズルーを連れて行く。

「大尉殿! ささ、 こちらです♪」
「うむ……」

 腰に吊ったサーベル軍刀の金属音を奏でながら、シズルーが近付いて来る。

「ぶほっ!? ゴホッ、 ゴホッ……」

 思わず酒を吹き出し、咳き込むキャリーだったが、ニヤついている部下たちを見て、直ぐに真顔になった。

「ふぅん……悪くないんじゃないの?」

 そう言うのが精いっぱいのキャリー。強がりにしか聞こえない。

 制帽からのぞかせる桃色のストレートヘアはサラサラであり、目は金と赤のオッドアイに、ざぁますメガネを着用している。
 そしてシズルーは、キャリーが座っているテーブルの前に立った。

「こちらにいらっしゃる方が、『ギャラクティカ・ミラージュ』のエース、シズルー・イガレシアス大尉でいらっしゃいますっ!」
「ワー! ドンドンパフパフ~!」

 ジョアンヌが紹介して、カミラが手をヒラヒラさせて場を盛り上げた。

「お初にお目にかかる、 フィッシャーマン中尉」

 シズルーは帽子を取り、上体を30°傾けた。
 文句の付け所がない敬礼に、キャリーは少し落ち着きを取り戻した。

「これはご丁寧にイガレシアス大尉殿。 お掛けになって」 
「失礼する。 これを」

 シズルーは帽子をカミラに渡し、サーベルを刀帯から外すとジョアンヌに渡した。

「君たちも、 座りたまえ」
「は、はいっ!」

 二人はそれぞれ、シズルーの持ち物を大事に預かりながら両隣に座った。

「中尉、 早速で悪いが、 今回の趣旨についてお聞かせ願いたいのだが……」

 そう言って真っ直ぐにキャリーの目を見つめるシズルーのオッドアイ。
 その吸い込まれそうな視線に、キャリーは数秒フリーズしていた。

(何だろう……この懐かしい感覚……久しく味わった事なかったわね……)

「――中尉! 聞いているのか?」

 シズルーの呼びかけに、ハッとするキャリー。

「はぇ!? あ、 とと、 とにかく飲みましょう♪」

 不思議そうに見ているシズルーに、キャリーはパタパタと手を振った。

「照れちゃってママ、 カワイイ~♡」
「さしもの『アダマンタイト・ハート』も、融解寸前ですね? ママ♪」

 部下二人にイジられ、顔を赤くするキャリー。

「そ、 そんなんじゃないもん!」プー

 そう言って頬を膨らませる仕草は、完全に『恋する乙女』状態のキャリーであった。



              ◆ ◆ ◆ ◆



宴会場『プロメテウス』の間

 白熱したビンゴゲームだったが、未だ『特賞』が出ない状態であり、残った者は特賞に興味の無い者たちだった。
 用意した賞品は殆ど底を尽き、戦いに敗れた者たちは飲んだくれて寝ている始末だった。
 ほとんどやる気のない薫子が、ため息交じりに言った。

「はぁぁ。 もう止めない? 特賞はジャンケンでもやって決めてよ……」
「えっ!? それでは今までのお膳立てが台無しになるのでは?」
 
 薫子のあまりの言い草に、レヴィがツッコんだ。
 すると薫子に賛同する者が現れ、それは忍だった。

「私も降りる。 だってレプリカは所詮レプリカ。 生身には勝てない」

 今の忍の発言に、ピクリと反応する者たちが数人いた。
 
「それはつまり……『夜這い』と言う事ですか? ムフゥ」
「いやだなぁ! それを言うなら『寝起きドッキリ』でしょう? フヒヒ」

 レヴィとアンナが漫才の様な掛け合いをしていたが、冗談で済みそうになかった。

「ちょっとアンタたち!? 静流の寝込みを襲う気?」
「そんな野蛮な事しない。 一緒に楽しく聖夜を過ごすだけ」
「な……そんな事、 私が許さない!」

 薫子がキョロキョロと辺りを見渡して、静流がいない事に気付いた。

「ちょっと兄さん! 静流がいないんだけど!?」
「は? 今頃気付いたのか?」

 薫は呆れて薫子に言った。

「静流ならさっき、 知り合いを見かけたってどっか行きましたよ?」

 それを聞いて達也が補足した。

「ちょっと、 知り合いって誰?」ズィ

 薫子は身を乗り出し、達也に詰め寄った。  

「さ、 さぁ? 軍の関係者じゃねぇスか?」
「何よそれ? この中のメンバー以外に知り合いなんているの?」
「ん? ……そう言えば確か……」

 達也が唸りながら、先ほどのやり取りを思い出している。
 すると、薫がポツリと呟いた。

「そう言やぁ……フジ子、とか言ってたな……」


「「「「な、何ィィィィ!?」」」」

 
 それを聞いた何人かが、薫に注目した。

「何だよ? そんなにヤバいのか? ソイツ」

 そう言って首を傾げている薫に、代表してレヴィが答えた。

「フジ子さんと言えば、 かつて統合軍で五本の指に入る『DTハンター』で有名なんですよ!?」フー、フー

 なぜか興奮しながら訴えるレヴィに、薫は引き気味に言った。

「うぇ? マジかよ?」 

 レヴィはさらに補足した。

「しかも、 長い間『不感症』だったフジ子さんを【施術】で完治させたのは、 誰あろう静流様なのです!」
「何だと? そいつはヤベェな……」チラ

 薫はそう言って、モモとアイコンタクトをした。
 モモは数回小さく頷いた。
 薫が薫子と忍を見て命令した。

「お前たち、静流の貞操がヤバい。 連れ戻せ!」 
「わかったわ!」
「承知! 静流は私が守る!」

 薫子と忍はそう言って、宴会場を出て行った。

「ったく……そんな危険な奴がいたのかよ……迂闊だったぜ」

 出て行く二人を見た薫は、ため息混じりに小さく呟いた。
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