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第9章 冬の……アナタ、どなた?

エピソード56-59

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保養施設 廊下

 ニナたちがデルフィニウムの間を目指しで移動を始めた時、鳴海やアマンダたち『アダルト勢』とすれ違った。
 ジンを見つけるや突進して来た鳴海たちを、ジンは嬉しそうに迎えた。

「やぁキミたち☆ 会えて嬉しいよ♪」キラーン

 ジンは鳴海たちの前にササッと立ち、ポーズを取った。
 それを目の当たりにした鳴海たちは、数秒間フリーズしたのち、奇声を上げた。


「「「「ほほほ、 本物ぉぉぉ!?」」」」


 4人は驚愕し、ほぼ同時に大きくのけ反った。

「また厄介な子たちが来たわね……」

 シレーヌは鳴海たちを苦虫を嚙み潰したような顔で見た。
 フリーズからいち早く回復した鳴海が、ジンを見て大粒の涙を流して絶叫した。

「透き通るような肌、 薄桃色の御髪、 アメジストの様に輝くその瞳……間違う筈がない……正真正銘、 アナタはジン様ぁ~♡♡」
「これが本物のオーラ!? 堂々たる佇まい……確かにレプリカとは明らかに違うわね……」

 アマンダが細部にわたってジンを観察している。

「学生の頃、 生徒手帳に忍ばせたブロマイドそのまま……です」チャ
「そうそう♪ 『平々凡々』とかのアイドル雑誌から切り抜いたりしてたなぁ~」

 ニナとジェニーは、点を仰いで思い出に浸っていた。
 そんな4人を見て、ジンは何度も頷いたあと、ゆっくりと口を開いた。

「嬉しいなぁ♪ キミたちの心の中で、長い間ボクは生き続けていたんだね?」


「「「「きゃっふぅーん♡♡♡」」」」


 ジンの素直な呟きに過敏に反応する4人。
 ジンはその4人に話しかけた。

「あそうそう、 キミたちの中に『五十嵐モモ』と同じ部屋の子はいるかい?」


「「「「きゃっふぅーん♡♡♡」」」」


 最早何を言っても反応してしまう4人。
 それに反応したのはカチュアだった。

「その方ならアタシとニニ先生が一緒だけど。 静流クンの伯母様よね?」
「そう。 モモはボクの従妹でね。 彼女に伝えたい事があるんだ……」

 カチュアとジンがそう話していると、ニニがフリーズから回復した。

「私、 ニニ・フジサワが同じ部屋ですっ!」チャ

 ニニは急にビシっと直立し、メガネの位置を直した。

「済まないが、 デルフィニウムの間まで来て欲しいと伝えてくれないか?」
「はっ! かしこまりましたっ! 私が責任をもってお連れ致しますっ!」

 ジンにそう頼まれたニニは、一礼して早足で部屋に戻って行った。



              ◆ ◆ ◆ ◆



宿泊棟 グロリオサの間

 宴会が終わって直ぐに部屋に戻って来たモモたち。

「少し早いけど、 寝ようか?」
「そうね……温泉も一通り入ったし、 ちょっと疲れたわ……」

 モモとネネがそう話していると、ムムが不満げに言った。

「えぇ~? 先輩たちもう寝ちゃうんですかぁ? まだ飲み足りないですぅ」
「ニニとバーにでも行けば? そう言えばあの子、 ドコに行ったの?」

 ネネはニニがいない事に、今更ながら気付いた。

「さあ? ジン様の元奥さんに、 昔の事を聞くって付いて行ったきりですね……」

 ムムが首を傾げてそう言うと、モモは溜息混じりに呟いた。

「あの人は、 とにかく人騒がせな人だったわね……」
「騒がせてナンボの仕事だったんだから、『有名税』ってヤツでしょう?」
「それにしても度が過ぎてるわよ。 破天荒と言うか何と言うか……」

 モモが思い出すままに語りだした。

「親戚のおばさんに聞いた話だけど、小学生の頃に同級生の母親を妊娠させたって騒ぎがあって……」
「うへぇ、 それはうらやま……実にけしからんですなっ!」

 ムムは一瞬トリップしそうになるが、首を振って正気を取り戻した。

「それがね、 その同級生は兄弟が欲しかったらしいんだけど、お母さんが不妊症らしいって相談を受けて、あの人がインキュバスの能力を使って父親との子を妊娠させたって事だったわ」
「成程、【遠隔受精】か」

 【遠隔受精】とは、対象者に手を触れずに任意の相手との子を宿す事が可能な魔法である。
 
「それをまだ子供だったあの人は術式を理解しないまま使ったらしいの。 その母親にはとても喜ばれたみたいだったけど、 自分の親にはこっぴどく叱られたらしいわ」
「じゃあ、 今のジン様だったら……」
「『種付け』に関する、 ありとあらゆる能力を有しているでしょうね……」
「本当だったんだ……『目を合わせただけで妊娠しちゃう』って……おぉ~」

 聞き終わったムムは感嘆の声を漏らし、ネネは半分呆れながらモモに言った。

「人の生命にまで干渉出来るって、 インキュバスってある意味、 神様みたいなものよね……」
「【精神干渉】でせいぜいイイ夢を見てもらう位の私らとは大違いだわよ……」

 二人がそんな事を話していると、ムムがポツリと呟いた。

「むぅ?……って事は、 静流クンにもその能力が?」

 ムムの呟きに、モモはピクッと反応した。

「多分ね。 それはウチの薫も同じ……」


 ピーッ、カチャ


 突然カードキーの操作音が聞こえ、ドアが開いた。

「誰か帰って来た。 ニニかな?」

 ムムの予想通り、ニニが息を切らせながら入って来た。

「大変よムム! 『あの方』が降臨あそばされたのよ!」ハァハァ
「なぁに? 『あの方』って?」

「ジン様! ジン様よ!」


「「「えぇ~!?」」」


 ニニのタイムリーな発言に、3人は驚愕した。



              ◆ ◆ ◆ ◆



保養施設内 宿泊棟 『デルフィニウムの間』

 分割した隣の部屋に泊まる客が気になる、好奇心旺盛のエスメラルダ。
 その結果、客の顔を見るまで待つ事になった静流たちだった。

 ピンポォ~ン……

 チャイムが鳴り、静流たちが顔を見合わせる。


「「「来たぁ~!」」」


 エスメラルダとラチャナに顎でドアの方を指され、渋々出入り口に行く静流。

「はぁ~い」カチャ
 
 静流がドアを開けると、廊下には数人の男女が立っていた。

「静流クン! ホントにいた!」

 先ず目に入ったのはニナとルリだった。

「ニナさんに、 ルリさん!?」
「ど、 どうもぉ……」

 意外な珍客に面食らっている静流を、黒い塊が凄い速さで危険タックルをかましてきた。

「静流ぅぅぅ!!」
「げふぅ!」

 青い顔で苦悶の表情を浮かべ、抱き付いてきた者を見て驚愕する静流。

「やっと……やっと会えた! 嬉しい! 嬉しいよ静流!」
「ジン、 朔也さん!?」

 改めて見ると、自分が生み出したレプリカとは、瞳の輝き等が全然違っていた。

「本当に、 朔也さんなの!?」
「ああ。 僕だよ静流……ああ、 愛おしい」

 出入口がざわついているので、エスメラルダとラチャナが様子を見に来た。

「何だか騒がしいね、 どうしたんだい静流?」
「まさかの団体様? ってうわっ!?」

 ラチャナが顔を出した途端、またもや黒い塊が突進して来た。

「あ、 姐御ぉぉぉぉ!!」
「うぎゃぁぁぁ!」

 ラチャナに危険タックルをかましたのは、ダッシュ7の身体を借りた弥七だった。

「ち、 ちょっと何よアンタ!」
「姐御ぉ……怖かったよぉ姐御ぉ」

 男に抱き付かれ、パニックになっているラチャナ。

「だから誰よアンタ! 早く離れて!」
「あっしです姐御……弥七です!」

 名前を聞いて、ラチャナはピクリと反応した。

「弥七!? アンタが?」
「そうでやんす……紆余曲折有りましたが、 あっしは弥七です!」

 少し落ち着きを取り戻したラチャナが、頬を染めながら弥七に言った。

「わかった! わかったから。 とにかくその硬いやつ……引っ込めてくれない?」
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