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第9章 冬の……アナタ、どなた?

エピソード56-60

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保養施設内 宿泊棟 『デルフィニウムの間』

 隣の部屋の利用者がニナとルリだった事が判明し、しかも同伴するレプリカたちには本物の七本木ジンこと荻原朔也と、ラチャナの契約精霊である弥七がそれぞれ宿っていた。

「あぁ静流ぅ……この時をどれだけ待っていたか……」

 ジンは静流を空いているベッドに押し倒し、静流の胸に顔をこすりつけて頬ずりしている。

「さ、朔也さん!? 少し落ち着きましょう、 どうどう」
「お願いだ……もう少しこのままでいさせてくれ……」

 ここまでの自然過ぎる流れに、周りの者はただ見守る事しか出来なかった。

「感動の再会? なのかな?」
「それはおかしいでしょ? ジン様が姿をお隠しになられてどれだけの月日が流れているか……」
「それにしても、 絵になりますねぇ……むほぉ」

 ひとしきり静流を堪能したジンはゆっくりと顔を上げ、静流の顔を真っ直ぐに見つめた。

「あぁ静流……もっと良く顔を見せてくれ……」 
「こ、 こうですか?」シュン

 ジンに促され、静流は防護メガネをステルスモードにしてジンに鳶色の瞳を見せた。

「あぁ……素敵だよ静流……ボクはキミの『初めて』になりたい……ダメかい?」
「え? えぇ!?」

 静流の手を握り、グイグイと迫るジンに、静流の顔は次第に青くなっていった。
 周りの者たちは、あるワードに過敏に反応した。

「静流様の……『初めて』?」
「ちょっと待って! ソレって『攻め』なの『受け』なのどっち?」
「ジン様が『初めて』のお相手かぁ……静流クンはやっぱ器が違うね……」

 目の前で繰り広げられているジンと静流の駆け引きを、やはり周りの者はただ見守る事しか出来なかった。

「フフ。 怖がらないで静流……全てをボクにゆだねるんだ」
「は、 はわわわ……」

 ジンの手慣れた手つきで、あれよあれよと浴衣を脱がされてしまう静流。

「大丈夫だよ。 痛くしないから……」 
 
 静流に跨り、ゆっくりと自分の浴衣を脱ぐジン。
 基本的に華奢なつくりのジンが、物凄い力で静流を押し付けている。

「ふぐっ、 ふぐぅぅ~」
「力を抜くんだ……もうすぐ楽になるからね……」

 ジンがそう言うと、静流の目がトロンと潤み、急に従順に変わった。

「さ、朔也さん……」 
「さぁ、 始めるよ……ボクがキミに『祝福』をあげよう……」

 ジンがゆっくりと静流の足を広げようとしたその時、ジンの背後に物凄い殺気が放たれた。

「ナウマクサンマンタ……『悪霊退散』! えいっ!!」スパコーン
「はひゅぅぅぅん……」

 何者かが唱えた呪文の後に何かで後頭部を殴打され、ジンは静流に覆いかぶさった。

「朔也兄様っ! みんなの前でふざけるのは止めなさい!」

 ジンの背後にいたのは、朔也の従妹であり、静流の伯母であるモモであった。
 顔を真っ赤にして憤慨しているモモは、手に持っているハリセンを握りしめ、吐き捨てる様にジンに言った。

「全く……昔からアンタのそう言う所が嫌なのよ!」
「モモぉ……会いたかったよぉ♡」
「気持ち悪い声出さないで!」

 今までのやり取りを固唾を呑んで見守っていた一同は、モモにじゃれつこうとして避けられるジンを見て、呆然としていた。
 フリーズから回復したニナは、恐る恐るジンに聞いた。

「あの……ジン様? 今までの静流クンとのやり取りって?」
「フフ。 冗談だよ冗談♪ どぉ? 楽しんでくれたぁ?」

 ジンはそう聞かれ、悪びれる様子もなく一同に言い放った。
 すると直後に、モモのハリセンが容赦なく振り下ろされた。

「問答無用! 成敗!」スパン!
「あいたぁ~っ!」

 後頭部を撫でながら、モモから逃げ惑うジン。

「一体何があったんです!? 詳しく説明を!」チャ

 モモたちを呼びに行っていたニニは、ポカーンと呆けているカチュアを揺り起こしている。

「アンタか。 残念だったわね……間に合えば超貴重映像をライブで観れたのに……」
「何ですって?」

 ムムは今一つ状況が把握出来ていなかった。

「ジン様と静流クンが!? 何てうらやま……実にけしからん!」
 
 モモによるジンへの追撃は、一向に収まらなかった。

「成敗! 成敗!」スパン! スパン!
「ゴメン悪かった! 強く殴らないでくれモモ! 依り代がこわれちゃうよぉ……」
 
 モモに叩かれて『スマン』のポーズを取っているジンを、遠い目で見ていた一同。

「う~ん……もうチョットだったのになぁ……」
「今のシーンは映像に残しておくべきだった……不覚!」
「大丈夫です。 バッチリ脳裏に焼き付いていますゆえ、【念写】で復元しましょう……ヌフ。 ヌフフフ」

 エスメラルダが溜息交じりに言った。

「何だい……隣の利用者はお前たちか?」
「か、 閣下!?」

 ひょいと顔を出したエスメラルダに、ニナたちは直立不動になった。

「ほけぇぇ……」

 トランス状態で酩酊している静流に、ネネが近寄った。

「静流クン? 大丈夫?」
「あ……ネネ先生……なんかフワフワした感じです……」
「フム……瘴気に当てられてるのかしら?」

 ネネが首を傾げていると、ラチャナが静流の所に来た。

「ちょっと失礼? フム……大丈夫だよ。 せーの、 はっ!」グキッ

 ラチャナは静流の肩に手を乗せ、一気に後方に引いた。

「はぐっ!? あれ? どうしたんです? 皆さん揃って……」
「え? 覚えて無いの? キミ、 結構ヤバかったんだよ?」

 トランス状態から覚めた静流は、数分前の記憶がすっぽりと抜けていた。

「え? ヤバいってどんな?」
「それは……恥ずかしくてあたしからは、 何も言えない」ポォ

 静流に状況を確認されたラチャナは、途端に顔を赤くして腰を捻った。

「でも……僕のレプリカに本当の朔也さんが入ってるんですね?」
「そうらしいわね。 アタシの契約精霊もこの人の中に入ってるみたいで……」

 ラチャナは弥七が入っているダッシュ7の顔を見上げた。

「静流坊ちゃん、 あっしは弥七と言いやす」ペコリ 
「ど、 どうも……」

 ダッシュ7がそう言って会釈すると、静流は訝しげに返した。

「いやはや……ハエにダイブしていた所を、 ジンのダンナが『術』を使ってこの身体に強制的に移されやしてね……」
「『術』って? 朔也さんが?」

 静流は首を傾げながらラチャナを見た。

「なかなかやるよあの人……確か芸能人だったよね? 最近見ないなぁとは思ってたけど」
「はい。 でも現在行方不明なんです。 こうしてる今も本体はどこかで助けを待っているんだと思います……」

 二人が話し込んでいると、ジンがひょいと顔を出して割り込んで来た。

「やぁ! キミだね? ハエ君の主様は?」
「そ、そうですけど? アナタ、【陰陽道】の心得があるようね?」
「昔チョットね。 これからも静流と仲良くしてくれると助かるよ♪」
「え? あ、 はい……」

 キラキラ輝いて見えるジンにそう言われ、はぐらかされたラチャナは口ごもった。

「静流、 この子に『式神』の使い方を教わるとイイ」
「実は、薫さん達と教わる事になってるんです」
「うはぁ! 薫も来ているのかい? それは吉兆だ♪」
「ですよね? ラチャナさん?」
「さっき約束したもんね。 オッケー任せて♪」

 静流は目を輝かせてラチャナに聞くと、ラチャナは親指を立てて肯定した。 

「そうか。 それは良かった♪【レプリカ】による自身の負担を軽減させられるかも知れないからね」
「成程。 いろいろと応用出来そうだな」

 するとジンがラチャナに向き直った。

「静流の力になって欲しい。 ボクからもお願いする」ペコリ

 ジンに頭を下げられ、たちまちテンパるラチャナ。

「あわわわ……わかったから、 そうかしこまらないでよぉ」

 手をブンブンと振り、困惑するラチャナに二人は告げた。

「「では、 よろしくお願いしますね? 『師匠』?」」
「へ? はわわわ……」

 二人に見つめられ、ラチャナはふらついて弥七にもたれかかった。

「おっと。 大丈夫ですかい姐御?」
「う、 うるさい弥七! 上等な身体を借りてるからって、イイ気になるなよ!」

 ラチャナは顔を赤くして、弥七をグーでポカポカと叩いた。
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