二者択一で転移した令嬢は2つの月の狭間で揺れる。

館花陽月

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異世界。

失墜のアルベルト。

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あの日の記憶が蘇る・・。

暗く、湿った場所に閉じ込められた私が目を覚ましたのは夜の月が差し込む刻限。
病院での楽しい時間に、学校であった嫌な事を忘れて夕暮れに染まる空を見上げていた。

「藤君は、今日はかなり体調良さそうだったから・・。明日も、お見舞いに行こう。
差し入れ買って持って行けば、喜ぶかな・・。」

私は、全く背後の事など気にしていなかった。

大病院の玄関先は、夕方でも人が賑わいを見せていた。
こんな人だかりの中で自分が、まさか誰かに連れ去られるなんて思ってもみなかった。

気が付いた時には、冷たい床の上に倒れていた。
不思議だったのは、縛られていたロープが解けていたこと・・・。

「・・なんで??あれ・・。ここは何処!?・・・今、何時?」

鉄の扉が頑丈に聳え立っていた。
どんなに開けようと、引っ張ってもそのドアは開かない。

ただそこに冷たく、外界とを隔てる扉が存在していた。

「開けてよ!!!・・・誰かっ・・。何でよ・・。どうしてこんな目に・・・。」

涙が溢れてきた。
何処か分からない場所で、私は気がついてから3時間以上も経過していた。

覚えているのは、最後に嗅いだ香り。
ムスクのような・・。誰かが好んでつけていた香水の匂いだけを記憶していた。

カリカリ・・。
頭上からの音に固まる。
天窓には、黒い影が現れて私はビクリと体を揺らした。

「ニャァ・・。」

窓の外から、猫がカリカリと音を立てている。
嵌め込みの窓を開けることは出来ない私は、その暗がりの中に月の光を背後に受けて
頭上に黒い影を帯びた猫を見つけた。

「あなた・・。まだ、居たの・・?お願い・・。助けて・・。」

涙目でその猫を見上げる。

その時、背後のドアが開けられた音がして、固まった。

物陰に隠れてうずくまって震えていた私は、頭を丸めて小さくそこで丸まっていた。

肩を掴まれて、驚きの形相で振り向いた瞬間に、私の体は重心が傾いて倉庫の段ボールの上に
投げられるような形になった。

 ドサッ・・。

「い・・いたっ・・。」

腕を打ち付けて痛みに眉を顰めた。

スラリとした肢体のサングラスをかけた男が近づいて来る。

怯えた顔で起き上がろうとすると、意識を失う前に嗅いだ香水の香りがした。
ビクリと体が震えた。

・・その時だった。

ガラッと大きな音がした。

ギギギギ・・・。

鉄の大きな扉が、ゆっくりと全開に開かれてライトが照らされた。

ライトの先に、外の明かりに照らされた大好きな人が見えた。
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