二者択一で転移した令嬢は2つの月の狭間で揺れる。

館花陽月

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異世界。

取り戻した青い瞳。

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漆黒の髪を揺らして、青い瞳を向けた父王の登場。

その凛々しさに、アルベルトは震える瞳でその姿へと視線を向けた。

「・・・父上。来て下さったのですね。」

ドォォォオオォォン・・・。

アルバに向けて、離れた距離から神力の光の球を繰り出したカイザルは
その体を天井へと叩き付けると薄く笑った。

「お前は、誇り高きわが父と、親友アルベルトの名を継ぐ大切な王子だ。
お前だけは、死んでも守る・・・。
そして、お前が次の王となるべく力を目覚めさせる為に私は来たのだ!!」

・・・力を目覚めさせる??

驚いた表情で、見上げた父にアルバが苦し気に顰めた顔でふらりと立ち上がった。

「憎き・・。憎き男!!お前のせいで私たちは国を失った!!
あの日オルカの鏡を持って惨めな思いで国を出た日から・・・。
お前を倒しシェンブルグを・・。
この世界の全てを滅ぼし我が物にすることをだけを生きがいにしてきたのだ。
・・・お前の国の王子達に、「孤独」という名の呪い続ける事だけが
私の生きる糧となったのだ!!!こんな所で死ぬわけにはいかぬのだ!!!
立て・・!!兵たちよ、とっととあいつらを始末しろ!」

アルバの歪んだ表情と、憎しみで支配された心は救いがない・・・。

エミリアンは、その言葉に苦く笑う。

流れ込んでくる心は痛々しく、吐きそうになるような絶望の闇が心に在った。

自分の父を手にかけて、次は自分の母を・・・。

どんな気持ちで生きてきたのか。

そんな事、考えるまでもない!!

もう1人の父のように、読める心から孤独になっていた自分を励ましてくれていた優しく、思慮深い宰相・・。。

そんなエミリアンにこれ以上、苦しみを背負わせてはいけないんだ・・。

「父上、魔術師たちはいくら切っても起き上がります!!奴らを頼みました・・。
僕は、死にません。アルバは、この僕が魔術騎士団長の名に置いて討伐させて頂きます!!」

青い瞳は眇められ、アメジストの釣り目を睨み付けた。

瞳を揺らすエミリアンに、心で伝える。

エミリアンは、驚いて僕の横顔を瞳を揺らして黙って見つめていた。

「解った。無理はするなよ、アルベルト・・。」

口角を上げると、クレイドルとアレクシスと共に起き上がる敵に剣戟を浴びせていく。

アルベルトは、魔力が半分以上消失して重くなった体をゆらりと起こした。

さっきまでついていた肩の傷は消えていた・・・。

闇の魔術なのか、薬の力なのか分からない。
だけど、こいつは不死身のように傷や体の外傷の全てをコントロール出来る力を持っていた。

闇・・。

自分の隣にもいつもあったもの。

孤独の中が、心地よかった自分を変えてくれる出会い・・。

あの青く美しい金の光彩を持つ姫を想う。

「行くぞ・・!!」

黒い長剣を力強く構えて、マントを翻して腰を入れる。

ニヤリと口元に笑みを浮かべたアルバが、するりと起き上がり面白そうに笑った。

細身の長剣を胸の前で構えると急に胸元の黒いペンダントから光が現れた。

パァァァッ・・・。

「な・・なんだ!?どうした・・。」

一瞬その光に気を取られたアルバが、体勢を崩した瞬間に僕は力を込めて剣を振り下ろす。

次の瞬間、ペンダントの石にピシッとヒビが入りだした。

その瞬間に、天井に空いていた穴が小さく縮み出した。

ブシャッ!!!

肩から胸にかけて大きく切り裂くと、恐ろしい表情と低く醜い声を上げたアルバは漆黒の玉を僕の胸へと放つ。

それを、片手で吹き飛ばすと眉間を顰めて僕を睨みながら苦しそうに仰け反った。

僕だったら・・・。

大事な装置を何処に隠すか。

きっと、僕なら肌身離さずに身に着けているだろう。

「そこだぁぁぁぁああ!!!!」

黒い剣は胸のペンダントを突き刺し、石が割れて粉々に砕け散る。

「な・・なにを・・。」

アルバは瞠目して、胸元の形を失くしたペンダントを見下ろして青ざめた。

その瞬間

縮んでいた真っ黒い穴の奥から光が放たれる・・。

眩い光と共に、歌が耳に届いた・・・。

あの日、川のせせらぎと共に聞こえてきた愛しい人の歌。

幼い頃は飽きることなく、いつも素晴らしい音色を風に乗せ歌を口ずさむ大きな青い瞳の可憐な少女。

いくつになっても、その心を映すような透明で優しく、力強い歌だった。


アルバが、その歌に震え上がり顔を歪めていた。

「耳を・・耳を塞げ!!!お前たち、歌を聴いては・・・。」

・・・ドスッ。

心臓に剣が突き刺さり、アルバは驚きに目を見開いた。

信じられない表情でアルベルトの姿を見た。

「・・・お・・前。またしても・・。」

「憎み続ける事も辛かっただろう・・。ゆっくり眠れ。カディールの元へ逝くのだ。」

その言葉に、眉間に無数の皺が刻まれて頬には涙が伝った。

「・・・何も・・わからぬ・・くせに。本当の・・孤独を・・あじわ・・え。」

アルベルトは、表情を変えずその言葉を黙って聞いていた。

ブスリと、抜かれた剣に体をぐらりと揺らした。

大きな音と共に、その場に頽れたアルバはエミリアンを見た。

「本当にお別れですね。さようなら、・・・母上。」

痛みと共に、揺れる釣り目のアメジストがゆっくりとその輝きを失っていく。

魔術師たちも、耳を塞ぐ命の前に光輝く歌と共に金色の光を受けてその場へと倒れていった。

こと切れた人形のように、重なり倒れた兵たちは二度と起き上がることはなかった。

黒い穴が消え去る前に、光の玉が現れイムディーナと美月・・。

そしてアルベルディアの兵たちが無傷で現れた。
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