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第一章
第四話① ※「とても愛くるしい啼き声だ!クルトもそう思わないか?」
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「やめろ……絶対に」
「肛門や直腸に触れるわけではない。私はクルトにいい経験と学びを得てほしいだけだ。痛い思いはさせない」
(痛くはしない? 当たり前のことほざくな! 俺の盾だろが、テメエは! ……いや、吐きそうなくらいに乳首こねといてなに言ってやがる!)
ディートリヒは使命感を帯びて精悍だった。追い込まれたことへの腹立ちがある。だがクルトはそれ以上に焦っていた。
ペイジ時代のクルトは、医学や解剖学の課題をディートリヒに丸投げしていた。そんな不勉強なクルトにも前立腺の知識はある。夜の営みに精を出すような男たちが集まると、まあ1人くらいはその知識を披露するのだ。いわく、女のように気持ちよくなれる。いわく、よすぎて猫の子みたいな喘ぎ声を出してしまう。一度味わったら何度もやるようになるだの、はまりすぎて前立腺のことしか考えられなくなるだの。とにかく恐ろしい知識しかない。
唯一の救いは「一度目から気持ちよくなるのはムリ」という点だった。だからディートリヒに一回掘られても、ヤツに対する感情はさほど変化がないはずだった。さらに嫌いになるだけだ。新しく憎しみという感情が加わるかもしれない。しかし事情が変わった。ディートリヒならたった一度でクルトを前立腺漬けにできる。
(こんな確信いらねえ! 嫌だ……嫌だ……)
ディートリヒの体はぜひともなぶってみたい。見るからに気持ちよさそうな、ぶりんぶりんでふるふるしている筋肉。階段を降りるとき、ディートリヒの胸はたいてい揺れる。子供の胴回りより厚い太ももに、筋肉がつきすぎで閉まらない腕。なんといっても尻だ。クルトはディートリヒに気取られないような場面で常に注視していた。あらゆる筋肉で素股させろ、なんなら尻の奥にねじ込ませろと念を込めて見つめている。
あの「高潔な騎士でございます」とでもいいたげな面をだらしなく緩ませたら、クルトの股間は気持ちよくなるだろう。よがらせて、ねだらせたら――絶対に頭のほうまで気持ちいいはずだ。
だが、逆はダメだ。ディートリヒにしなだれかかり、甘ったるい声で媚を売る自分を想像してしまい、クルトの心臓は一瞬止まった。最悪を回避するためなら、この場は謝ってもいい。クルトは震える口をなんとか開けた。
「会ったばかりの頃の君は――よく腹を冷やしていたな」
クルトがなにかを言う前に、クルトの腹部は大きな手のひらでほとんど覆われた。ディートリヒは手を密着させ、苦しくならない程度の力で押してくる。軽く制されただけなのに、クルトは縫いつけられてしまった。ディートリヒの魔力がふたたび体に浸透する。
ゆるゆると肌を動かすように撫でられると、体の中心から甘くてふわっとしたなにかがこみあげる。これはクルトが体験したことのない感覚だ。あまりにもかすかで、いつものクルトなら気に留めないだろう。ディートリヒに焦らされ、強い痺れが残る胸や下腹部にはよくしみた。
うわさに聞く前立腺とやらもこんなものか。先ほどまでの激流とは違い、これならなんとか耐えられる。というよりは快適だ。
ディートリヒに抗う意思もふわふわとくるまれていく。いつものクルトならディートリヒに丸めこまれると焼かれるような悔しさと恥を感じる。それもない。
「クルト。君は前も後ろも捧げた経験がないようだが――」
「ん、ぁ……うるせぇ……は、あっ」
「それ以外は?」
ふわふわと甘いものはクルトの頭を満たしていく。考えも言葉もまとまらない。クルトは――クルトは気づかない。クルトの体も頭も心も、どれもが気づけないでいた。 クルトは前立腺の快感に深く傾倒していた。目元や口のまわりから力みが薄れる。ディートリヒはクルトの変化を、まじろぎもせず見つめる。
「ん、ぅあ……なにが、言いたい?」
「恋愛……というものの話だよ」
声を出さないでいると、ディートリヒはまた胸に手を伸ばしてきた。振りほどく力はまだクルトにもどってきていない。
「ねえよ」
ディートリヒの鼓膜を破るような勢いで噛みついた。クルトの中ではそうなのだ。ディートリヒは目を潤ませ、頬も薔薇色にしている。デザートを待つ子供みたいに無邪気な笑顔だった。
(今度は蕎麦畑の近くでとれる蜂蜜だ……)
鉄分が多い蜂蜜は色が濃くなって、甘さも風味もコクとクセが強くなる。その味がクルトの口に湧いてきた。クルトは唾を飲み込んでニヤリと笑う。ディートリヒはまぶたをそっと伏せる。まぶたや目の周りは薔薇色だ。ディートリヒのやたらと長いまつ毛が徐々に近づいてくる。ほうけた顔で眺めていると、クルトの視界はディートリヒで埋めつくされた。ディートリヒの紅茶と花の香りは肺の中を満たす。
草花の蜜は色が薄いものが多く、木に咲く花は逆だ。この花はどっちだ。柔らかいものがクルトの口に当たり、唇がつままれる。ほんのわずかだが、蜂蜜の匂いもした。味はどうなんだ。クルトはやわらかいものに舌を伸ばした。期待した蜂蜜の味はなかった。だが爽やかだ。
突然、クルトの唇の隙間にぬるりとしたものが挟まった。厚みがあるのに柔らかく、うねっている。ふわふわしていて甘いものの次はこれか。クルトの口の中へ遠慮なしにどんどん差しこまれていく。押し戻すと、さらに侵入してくるのだ。やがて口の中がそれで満たされ、ぐねぐねと蠢く。
(苦しくはねえけどちょっと邪魔だ)
ディートリヒの腹をさする速度があがった。右手の親指の腹が胸筋の段差を越え、乳輪をなぞり、乳頭をゆっくり押しつぶした。クルトの脳裏で雷が走る。口の感覚すべてが“気持ちいい”に置き換わった。それとともに悟る。
「んん! む、ん、ううぅっ……ふ、ん、んん~~ッ!」
(舌、舌じゃねえかッ!)
「肛門や直腸に触れるわけではない。私はクルトにいい経験と学びを得てほしいだけだ。痛い思いはさせない」
(痛くはしない? 当たり前のことほざくな! 俺の盾だろが、テメエは! ……いや、吐きそうなくらいに乳首こねといてなに言ってやがる!)
ディートリヒは使命感を帯びて精悍だった。追い込まれたことへの腹立ちがある。だがクルトはそれ以上に焦っていた。
ペイジ時代のクルトは、医学や解剖学の課題をディートリヒに丸投げしていた。そんな不勉強なクルトにも前立腺の知識はある。夜の営みに精を出すような男たちが集まると、まあ1人くらいはその知識を披露するのだ。いわく、女のように気持ちよくなれる。いわく、よすぎて猫の子みたいな喘ぎ声を出してしまう。一度味わったら何度もやるようになるだの、はまりすぎて前立腺のことしか考えられなくなるだの。とにかく恐ろしい知識しかない。
唯一の救いは「一度目から気持ちよくなるのはムリ」という点だった。だからディートリヒに一回掘られても、ヤツに対する感情はさほど変化がないはずだった。さらに嫌いになるだけだ。新しく憎しみという感情が加わるかもしれない。しかし事情が変わった。ディートリヒならたった一度でクルトを前立腺漬けにできる。
(こんな確信いらねえ! 嫌だ……嫌だ……)
ディートリヒの体はぜひともなぶってみたい。見るからに気持ちよさそうな、ぶりんぶりんでふるふるしている筋肉。階段を降りるとき、ディートリヒの胸はたいてい揺れる。子供の胴回りより厚い太ももに、筋肉がつきすぎで閉まらない腕。なんといっても尻だ。クルトはディートリヒに気取られないような場面で常に注視していた。あらゆる筋肉で素股させろ、なんなら尻の奥にねじ込ませろと念を込めて見つめている。
あの「高潔な騎士でございます」とでもいいたげな面をだらしなく緩ませたら、クルトの股間は気持ちよくなるだろう。よがらせて、ねだらせたら――絶対に頭のほうまで気持ちいいはずだ。
だが、逆はダメだ。ディートリヒにしなだれかかり、甘ったるい声で媚を売る自分を想像してしまい、クルトの心臓は一瞬止まった。最悪を回避するためなら、この場は謝ってもいい。クルトは震える口をなんとか開けた。
「会ったばかりの頃の君は――よく腹を冷やしていたな」
クルトがなにかを言う前に、クルトの腹部は大きな手のひらでほとんど覆われた。ディートリヒは手を密着させ、苦しくならない程度の力で押してくる。軽く制されただけなのに、クルトは縫いつけられてしまった。ディートリヒの魔力がふたたび体に浸透する。
ゆるゆると肌を動かすように撫でられると、体の中心から甘くてふわっとしたなにかがこみあげる。これはクルトが体験したことのない感覚だ。あまりにもかすかで、いつものクルトなら気に留めないだろう。ディートリヒに焦らされ、強い痺れが残る胸や下腹部にはよくしみた。
うわさに聞く前立腺とやらもこんなものか。先ほどまでの激流とは違い、これならなんとか耐えられる。というよりは快適だ。
ディートリヒに抗う意思もふわふわとくるまれていく。いつものクルトならディートリヒに丸めこまれると焼かれるような悔しさと恥を感じる。それもない。
「クルト。君は前も後ろも捧げた経験がないようだが――」
「ん、ぁ……うるせぇ……は、あっ」
「それ以外は?」
ふわふわと甘いものはクルトの頭を満たしていく。考えも言葉もまとまらない。クルトは――クルトは気づかない。クルトの体も頭も心も、どれもが気づけないでいた。 クルトは前立腺の快感に深く傾倒していた。目元や口のまわりから力みが薄れる。ディートリヒはクルトの変化を、まじろぎもせず見つめる。
「ん、ぅあ……なにが、言いたい?」
「恋愛……というものの話だよ」
声を出さないでいると、ディートリヒはまた胸に手を伸ばしてきた。振りほどく力はまだクルトにもどってきていない。
「ねえよ」
ディートリヒの鼓膜を破るような勢いで噛みついた。クルトの中ではそうなのだ。ディートリヒは目を潤ませ、頬も薔薇色にしている。デザートを待つ子供みたいに無邪気な笑顔だった。
(今度は蕎麦畑の近くでとれる蜂蜜だ……)
鉄分が多い蜂蜜は色が濃くなって、甘さも風味もコクとクセが強くなる。その味がクルトの口に湧いてきた。クルトは唾を飲み込んでニヤリと笑う。ディートリヒはまぶたをそっと伏せる。まぶたや目の周りは薔薇色だ。ディートリヒのやたらと長いまつ毛が徐々に近づいてくる。ほうけた顔で眺めていると、クルトの視界はディートリヒで埋めつくされた。ディートリヒの紅茶と花の香りは肺の中を満たす。
草花の蜜は色が薄いものが多く、木に咲く花は逆だ。この花はどっちだ。柔らかいものがクルトの口に当たり、唇がつままれる。ほんのわずかだが、蜂蜜の匂いもした。味はどうなんだ。クルトはやわらかいものに舌を伸ばした。期待した蜂蜜の味はなかった。だが爽やかだ。
突然、クルトの唇の隙間にぬるりとしたものが挟まった。厚みがあるのに柔らかく、うねっている。ふわふわしていて甘いものの次はこれか。クルトの口の中へ遠慮なしにどんどん差しこまれていく。押し戻すと、さらに侵入してくるのだ。やがて口の中がそれで満たされ、ぐねぐねと蠢く。
(苦しくはねえけどちょっと邪魔だ)
ディートリヒの腹をさする速度があがった。右手の親指の腹が胸筋の段差を越え、乳輪をなぞり、乳頭をゆっくり押しつぶした。クルトの脳裏で雷が走る。口の感覚すべてが“気持ちいい”に置き換わった。それとともに悟る。
「んん! む、ん、ううぅっ……ふ、ん、んん~~ッ!」
(舌、舌じゃねえかッ!)
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