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余韻
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鳥のさえずりが聞こえた。まだ眠いのにそれでも目が勝手に開いた。
体が思った以上に怠い。疲れが全く取れていないのか、くたくたのままだ。だけど心だけはどこか清々しい。
髪まで汗で重くなっている気がする。汗を流したいが、まだここに居たい。
すると寝ぼけている私の前髪が誰かの指で払われた。顔をあげると、同じく汗で髪が乱れている彼が微笑んでいた。
「おはよう」
おでこにキスの挨拶をする。くすぐったい。
「おはようございます。今日はお寝坊なのですね」
いつも朝起きたら彼は訓練に出かけている。だから朝起きたら彼が側に居ることはほとんどなかった。
「こんなに妻の寝顔が可愛いと離れたくなくてな。寝言も可愛かったぞ。クリス……クリスって」
「もう!……いつもクリスの方が早く起きるからこっちは寝言聞けないのに!」
「聞きたいならいくらでも聞かせてあげるさ。ソフィー、ソフィー」
それはもう寝言ではない。おかしくて笑ってしまった。
腕を伸ばして彼の首の後ろに回した。そして自分から唇を重ねた。彼ほど上手くはないが、今度は自分から積極的にやってみた。
絡み合うキスをした後に、ブランケットが肌から落ちた。
すると彼の視線が顔より下に下がった。
「あっ……」
するとお互いに肌が丸見えの状態で、昨日は暗かったからあまり気にしなかったが急に意識してしまった。
「じろじろ見ないでください!」
慌ててブランケットを被りなおした。すると不満そうな顔をする。
「よいではないか。もっと見せてくれ」
「ダメです!」
ブランケットを剥ぎ取ろうとしたが必死にそれを阻止する。
もちろんそこまで強く引っ張ってこないが、簡単に引き下がってもくれない。
「なぜそれほど意地になるのだ」
「だって……楽しみはとっておきたいし……」
彼は虚を突かれたようなか顔をする。やっと何やら納得したようで「着替えるからあちらを見ていてくれ」と着替えを始めた。
私も彼が後ろを見てくれているうちに服を着直した。すると急に背中に気配を感じたと思ったら体が浮いた。
「ちょっとクリス!」
抱きかかえられ、にこりとした彼がテーブルまで運んでくれた。
「昨日は結局何も食べなかったからな。今日は食べられるだろ?」
ぐーっとお腹が鳴った。恥ずかしくてお腹を押さえたら、彼はさらに笑い出す。
「そんなに笑わないでくださいよ……」
「其方は色々と正直過ぎてな。昨日はそこが愛らしかったぞ」
「はいはい……」
嬉しくて頬が勝手に上がろうとする。
このままだと彼の褒め言葉で、恥ずかしさのあまり死んでしまいそうだ。
椅子に座って、バスケットの中にあるパンにバターを塗って食べる。
食べると自分が本当にお腹が空いていたと実感した。
「美味しい……」
これぞ生きている証拠だ。どうして幸せなときに食べる食事はこうも美味しいのか。
隣にいる彼は足を組んで、香りを楽しみながら紅茶だけ口にする。
「クリスは食べなくてもいいですか?」
「食べさせてくれるのか?」
急に甘えん坊になった彼に「仕方ありませんね」とバターを代わりに塗って彼の口に近づけた。
すると彼はぱくっと食べた。だがそれだけで終わらず、彼は腕を掴んで、私の指ごと舐めた。
「ちょっと! そこは食べ物じゃない!」
だが彼は意地悪な顔をする。慌てる私で楽しんでいるのだ。
なんだか自分ばかり意識している気がする。
「バターの匂いがしたのでな」
「そうやって誤魔化す……」
ふんっと顔を背けたら今度は彼がバターを塗ったパンを差し出す。
「すまなかった」
「本当に思っていますか?」
「ああ。そなたもこうされると分かるぞ」
バターの香りのせいでとうとう我慢できなくなって彼から差し出されたパンを食べた。すると思わず下が彼の指を舐めてしまった。
「あっ……」
「そうなるであろう?」
彼はナイフとリンゴを手に取って皮をむき始める。そして綺麗にカットしたリンゴを皿に盛ってフォークを置いた。
「食べるといい」
彼とリンゴを交互に見て、今度は上目遣いでおねだりしてみた。
「食べさせてくれないのですか?」
すると思った以上に彼の顔がにやけそうになり、我慢しているのかすごい顔になっている。
「其方……それは反則だろ」
と、いいつつリンゴを私の口に運んでくれた。しゃりしゃりとしてみずみずしい果実はとても美味しかった。
「へへっ」
思わず顔がにやける。
「クリス?」
「ん?」
「ずっと側にいてね」
彼はふっと笑う。
「もちろんだ」
軽食も食べ終わり、魔女の刻印がどこまで薄れたのか診てもらった。
「ふむ、これならあと一回だけ神聖術を掛けるだけで、明日の異端審問は乗り越えられるだろう」
「本当ですか!」
それなら一安心だ。一度疑いが取れたらあちらも下手にこちらを異端審問できないはずだ。
「ただ今日掛けたらしばらく時間をおこう。そうしないと体に毒だ」
彼曰く中毒性のある治療のようなので、出来るならあまり掛けたくないらしい。私の感情とリンクしているようなので、激しく怒るのはいけないことだ。
「早くガハリエを倒せたらいいのでしょうけど……難しいですよね?」
未来でも全く足取りを掴ませなかったあの男を捕まえる自信がない。
「そうでもない。あれほど怒りを覚えていたのだ。あれほど虚栄心が強ければ、俺が邪魔でしかないだろう」
彼のパンチによってガハリエの顔は元とは似ても似つかないほど骨格が変わった。
あの性格からして自分を殴る勇気はないだろうから、おそらくはあのままだろう。
「あの者の家もすでに押収されているはずだ。そこから芋づる式に組織を潰していける」
ガハリエの家はなんだかんだ名家だ。その分家はかなりあるはずなので、内部からどんどん国を腐らせていたのだろう。
貴族がバックにいれば、組織が拡大できるのも納得できる。
「でもクリスは大丈夫ですか? 一応は親代わりだったのに……」
彼は本当に家族の全てを失ったのだ。だけど彼の顔はそこまで悲観したものではなかった。
「其方をあんな目に遭わせた男をもう身内とは思わん。それにソフィーが側に居てくれるなら俺は独りではない」
もっと彼に何かしてあげたい。そこで一ついいことを思いついた。彼にサプライズをしてあげよう。
今日はとても最適な日でもあった。
体が思った以上に怠い。疲れが全く取れていないのか、くたくたのままだ。だけど心だけはどこか清々しい。
髪まで汗で重くなっている気がする。汗を流したいが、まだここに居たい。
すると寝ぼけている私の前髪が誰かの指で払われた。顔をあげると、同じく汗で髪が乱れている彼が微笑んでいた。
「おはよう」
おでこにキスの挨拶をする。くすぐったい。
「おはようございます。今日はお寝坊なのですね」
いつも朝起きたら彼は訓練に出かけている。だから朝起きたら彼が側に居ることはほとんどなかった。
「こんなに妻の寝顔が可愛いと離れたくなくてな。寝言も可愛かったぞ。クリス……クリスって」
「もう!……いつもクリスの方が早く起きるからこっちは寝言聞けないのに!」
「聞きたいならいくらでも聞かせてあげるさ。ソフィー、ソフィー」
それはもう寝言ではない。おかしくて笑ってしまった。
腕を伸ばして彼の首の後ろに回した。そして自分から唇を重ねた。彼ほど上手くはないが、今度は自分から積極的にやってみた。
絡み合うキスをした後に、ブランケットが肌から落ちた。
すると彼の視線が顔より下に下がった。
「あっ……」
するとお互いに肌が丸見えの状態で、昨日は暗かったからあまり気にしなかったが急に意識してしまった。
「じろじろ見ないでください!」
慌ててブランケットを被りなおした。すると不満そうな顔をする。
「よいではないか。もっと見せてくれ」
「ダメです!」
ブランケットを剥ぎ取ろうとしたが必死にそれを阻止する。
もちろんそこまで強く引っ張ってこないが、簡単に引き下がってもくれない。
「なぜそれほど意地になるのだ」
「だって……楽しみはとっておきたいし……」
彼は虚を突かれたようなか顔をする。やっと何やら納得したようで「着替えるからあちらを見ていてくれ」と着替えを始めた。
私も彼が後ろを見てくれているうちに服を着直した。すると急に背中に気配を感じたと思ったら体が浮いた。
「ちょっとクリス!」
抱きかかえられ、にこりとした彼がテーブルまで運んでくれた。
「昨日は結局何も食べなかったからな。今日は食べられるだろ?」
ぐーっとお腹が鳴った。恥ずかしくてお腹を押さえたら、彼はさらに笑い出す。
「そんなに笑わないでくださいよ……」
「其方は色々と正直過ぎてな。昨日はそこが愛らしかったぞ」
「はいはい……」
嬉しくて頬が勝手に上がろうとする。
このままだと彼の褒め言葉で、恥ずかしさのあまり死んでしまいそうだ。
椅子に座って、バスケットの中にあるパンにバターを塗って食べる。
食べると自分が本当にお腹が空いていたと実感した。
「美味しい……」
これぞ生きている証拠だ。どうして幸せなときに食べる食事はこうも美味しいのか。
隣にいる彼は足を組んで、香りを楽しみながら紅茶だけ口にする。
「クリスは食べなくてもいいですか?」
「食べさせてくれるのか?」
急に甘えん坊になった彼に「仕方ありませんね」とバターを代わりに塗って彼の口に近づけた。
すると彼はぱくっと食べた。だがそれだけで終わらず、彼は腕を掴んで、私の指ごと舐めた。
「ちょっと! そこは食べ物じゃない!」
だが彼は意地悪な顔をする。慌てる私で楽しんでいるのだ。
なんだか自分ばかり意識している気がする。
「バターの匂いがしたのでな」
「そうやって誤魔化す……」
ふんっと顔を背けたら今度は彼がバターを塗ったパンを差し出す。
「すまなかった」
「本当に思っていますか?」
「ああ。そなたもこうされると分かるぞ」
バターの香りのせいでとうとう我慢できなくなって彼から差し出されたパンを食べた。すると思わず下が彼の指を舐めてしまった。
「あっ……」
「そうなるであろう?」
彼はナイフとリンゴを手に取って皮をむき始める。そして綺麗にカットしたリンゴを皿に盛ってフォークを置いた。
「食べるといい」
彼とリンゴを交互に見て、今度は上目遣いでおねだりしてみた。
「食べさせてくれないのですか?」
すると思った以上に彼の顔がにやけそうになり、我慢しているのかすごい顔になっている。
「其方……それは反則だろ」
と、いいつつリンゴを私の口に運んでくれた。しゃりしゃりとしてみずみずしい果実はとても美味しかった。
「へへっ」
思わず顔がにやける。
「クリス?」
「ん?」
「ずっと側にいてね」
彼はふっと笑う。
「もちろんだ」
軽食も食べ終わり、魔女の刻印がどこまで薄れたのか診てもらった。
「ふむ、これならあと一回だけ神聖術を掛けるだけで、明日の異端審問は乗り越えられるだろう」
「本当ですか!」
それなら一安心だ。一度疑いが取れたらあちらも下手にこちらを異端審問できないはずだ。
「ただ今日掛けたらしばらく時間をおこう。そうしないと体に毒だ」
彼曰く中毒性のある治療のようなので、出来るならあまり掛けたくないらしい。私の感情とリンクしているようなので、激しく怒るのはいけないことだ。
「早くガハリエを倒せたらいいのでしょうけど……難しいですよね?」
未来でも全く足取りを掴ませなかったあの男を捕まえる自信がない。
「そうでもない。あれほど怒りを覚えていたのだ。あれほど虚栄心が強ければ、俺が邪魔でしかないだろう」
彼のパンチによってガハリエの顔は元とは似ても似つかないほど骨格が変わった。
あの性格からして自分を殴る勇気はないだろうから、おそらくはあのままだろう。
「あの者の家もすでに押収されているはずだ。そこから芋づる式に組織を潰していける」
ガハリエの家はなんだかんだ名家だ。その分家はかなりあるはずなので、内部からどんどん国を腐らせていたのだろう。
貴族がバックにいれば、組織が拡大できるのも納得できる。
「でもクリスは大丈夫ですか? 一応は親代わりだったのに……」
彼は本当に家族の全てを失ったのだ。だけど彼の顔はそこまで悲観したものではなかった。
「其方をあんな目に遭わせた男をもう身内とは思わん。それにソフィーが側に居てくれるなら俺は独りではない」
もっと彼に何かしてあげたい。そこで一ついいことを思いついた。彼にサプライズをしてあげよう。
今日はとても最適な日でもあった。
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