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52. 移動開始

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 市役所に戻った俺達を待っていたのは予想外の光景だった。

 ペコペコ頭を下げ、窓拭きをする四人の男達の姿。
 なぜこんな状況になったのか理解できない。

「なんで生きてるよのよ……」

「スキルで生き返らせたとか……?」

 だとしたら大迷惑な話である。

「驚かないでください。あれは私の隷属スキルで、気絶していた彼らを奴隷に仕立て上げただけですから」

「そうですか……」

 なんだその恐ろしいスキルは。
 俺達はとっさに声をかけてきた人物から距離を取った。

「やっぱり、相応の行いをした人間は罰を受けるべきだと思いましてね。この場にいる全員で奴隷のように扱う話になったわけです」

 言いたいことは分かるし、割と人手が欲しい今の状況を考えると必要なことかもしれない。
 正直、罰とかどうでもいいから死んでてほしかった。

 レナさんも同じ考えのようで、すごーく嫌そうな顔をしている。

「仮にの話ですが、奴隷にしなければ……生きていた彼らは復讐に訪れたでしょうね」

「だろうな。だからトドメを刺しておくべきだった」

「知っていますか? 咄嗟の防衛以外で直接人間を殺した者には『同族殺し』のデバフスキルが付与されることを」

「なんだそれは?」

「まず安全地帯に入れなくなり、他のスキルも使えなくなります。ステータスは少し上がるようですが、病気に弱くなります。貴方はこれを望みますか?」

 マジか。間違っても三下達を殺そうとしなくて良かった。
 そして殺さずに防衛出来る手段がある今、それほど恐れることでもないだろう。

「ちなみに、HPが自然減少する効果もあるようです」

「マジですか?」

「マジです」

 真偽は確かめようが無いが、殺人はこの世紀末な世界でも禁忌とされているようだ。

「レナさん、一旦テントに戻ろう」

「うん……」

 今は頭の中を整理したい。
 だからテントに戻ることにした。

 それにこの男のスキルについても考えないといけない。
 今の状態は余りにも危険すぎる。



 数分後。
 俺達はテントを撤収し、長距離を移動する準備を終えた。

 考えた結果、ここにとどまるのは危険だと判断したからだ。
 ついでに俺の両親もレナさんの両親も、神奈川にある安全地帯にいると分かった。

 もう移動しない手は無いだろう。

「じゃあ行くか」

「うん」

 武器の剣だけを持ち、結界を出てすぐに隠密スキルを起動させる。
 そして俺がレナさんを背負い、睡眠スキルを使った。

 交互に寝ながら進めば常に警戒は出来るし、お互いにひどく疲れることもない。
 背中の柔らかい感しょ……じゃなくて、ステータスのお陰で背負っていても苦にならない。

 片手で足りるのは普通に腕ゴリラすぎる。
 いくらレナさんが太ってないとはいっても、体重は40くらいあるだろうからな……。


 そして道中、面白いものを見つけた。

「車あるじゃん、ラッキー」

 ドアが開けっぱなし、ガソリン半分、鍵刺さりっぱなしの車が道のド真ん中に止まっていた。
 そして近くには持ち主らしき人の遺体。

 少し申し訳ないが、ここは利用するしかないだろう。
 仏さまに合掌してから、レナさんを助手席に乗せてから運転席に座った。

 さあ、一気に移動タイムだ。
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