上 下
53 / 74

53. 川渡り

しおりを挟む
 車を走らせること十数分、俺達は大きな川の手前で足止めを食らっていた。
 父さん達が言っていた通り、車が通れる橋が全滅しているからだ。

 電車の橋も崩落していた。
 その犯人と思われる大型モンスターの影が都心の方に浮かんでいる。

「なんだよあれ……」

「倒せるわけないよね……」

「ああ……」

 怪獣映画を彷彿とされるそれは、高層ビル群よりも存在感を示している。
 ここからだとよく分からないが、ビルの20階くらいの高さはありそうだ。

 ただ、遠距離攻撃をしていないのが唯一の救いだろう。

「早く安全地帯に行かないと……」

「だな」

「川の上、走れたりしない?」

「流石に無理だろ」

 レナさんの問いかけに即答してみたが、案外行けるような気もする。
 試しに、堤防を駆け降り水面を蹴った。

 激しく上がる水飛沫。
 落ちていく俺の身体。

「やっぱり無理だな」

 独りごちながら、全力で水面を蹴って川岸に戻った。
 幸いなことに服は濡れていない。

「すごい! 川の上走れるんだね!」

「いやいや無理だろ!」

「今出来てたよね!?」

 ん? 言われてみれば、濡れずに川から戻れている。
 しかし、このまま走れる気はしない。

「一歩だけだから無理だろ。そもそも走ったというより飛び跳ねただけだよ」

「それだけ出来れば中洲まで行けるよ!」

 テンション高いのは結構ですけど、レナさんは川を越えられるんですか?

「俺だけ行けても意味ないだろ」

「確かに……」

「てことだから、船探そう」

「うん……」

 というわけで、俺達は川上の方に向かって移動を始めた。
 しかし船は見つからず、渡れそうなところといえば一部が滅茶苦茶に壊れた堰くらいなものだった。

「ここを渡るしかなさそうだな」

「そうみたいだね……」

 ここなら支柱を足場に飛べば問題なさそうだ。

「でも、私は渡れないと思うよ……?」

「じゃあ失礼するぞ」

 レナさんを抱き抱えていても行けると判断し、早速行動に移す。

「え、ちょっと……大丈夫なの?」

「多分。よっと」

 うん、余裕だった。
 止まらずにそのまま次の足場へと飛び移っていく。

 数秒後、無事に川を渡り終えた俺はレナさんにしがみ付かれていた。
 色々と柔らかいものとかが当たっているような気がするが、気にしないでおこう。

「大丈夫?」

「怖かった……」

「ごめん」

「うん。でも、無事だったから大丈夫だよ」

 そう口にすると、レナさんは堤防の上まで走っていった。
 かなりの速さで。

 あれは陸上選手なんて目じゃないレベルだ。
 ステータス恐ろしや。

「そろそろお昼にしない?」

「もうそんな時間か」

「うん」

 ちょうど近くにベンチがあるから、このまま川岸で昼食をとることになった。
 だが、その直前。

 川の水面が不自然に盛り上がり始めていた。
しおりを挟む
1 / 5

この作品を読んでいる人はこんな作品も読んでいます!

初恋の還る路

恋愛 / 完結 24h.ポイント:149pt お気に入り:302

もう一度あなたに会えたなら

恋愛 / 完結 24h.ポイント:35pt お気に入り:279

俺を裏切り大切な人を奪った勇者達に復讐するため、俺は魔王の力を取り戻す

ファンタジー / 連載中 24h.ポイント:5,248pt お気に入り:91

呪われ姫の絶唱

ファンタジー / 連載中 24h.ポイント:320pt お気に入り:101

君に残してあげられるもの

恋愛 / 完結 24h.ポイント:0pt お気に入り:5

目が覚めるとそこは異世界でおじさんはどう思うのか

ファンタジー / 連載中 24h.ポイント:7pt お気に入り:68

どうやら異世界転生しても最強魔法剣士になってしまった模様

ファンタジー / 連載中 24h.ポイント:14pt お気に入り:217

異世界転生雑学無双譚 〜転生したのにスキルとか貰えなかったのですが〜

ファンタジー / 連載中 24h.ポイント:1,002pt お気に入り:33

処理中です...