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43. 余命6日①

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「信じられないかもしれないが、聞いてほしい」

 そんな風に前置きする殿下。
 続けて出てきた言葉は、前置き通り信じ難い内容のものだった。


   ◇  ◇  ◇


 最初の人生では、ジグルド王太子はレティシアと婚約を結んでいた。
 お互いに愛など感じていない状態ですらなく、ほとんど話したこともない状態での婚約だった。

 貴族の婚姻では愛する人と結ばれる方が稀な上に、恋心を抱く前に婚約が決まることの方が普通になっている。
 だから、王太子もレティシアも受け入れ、幸せな将来を送れるように仲を深めようと努力していた。
 学院に入る頃にはお互いに好意を感じていて、永遠すら誓っていた。

 しかし、運命は残酷なものだった。
 レティシアが王宮に来た時、運悪く何者かによって爆発が起こされてしまった。
 多くの者が無事だったが、爆発の中心近くにいたレティシアは命を落としてしまった。

「俺が招待しなければ……ッ!」

 ジグルドはひどく後悔したが、運命は変えられない。
 自死すれば逆行出来るという典型もあったが、王太子であるが故に死ぬことは許されない。

 だから、自分だけでも生き続けようと覚悟を決めたのだが……レティシアの死から5日目、どういうわけか婚約する前に逆行していた。



 そうして始まった2度目の人生。
 今度はレティシアを亡くさないためにと、全力で婚約を回避した。

 だが、彼女を愛する気持ちに変わりはなく、無理な接触を試みてしまい……避けられるようになってしまった。
 当然と言えば当然の結果だったが、レティシアが生きていればそれでいいと思っていた。

 しかし……レティシアは何者かに刺殺されてしまう。

 今度は犯人を見つけてから逆行しようとするジグルドだったが、何故かレティシア死から5日目に目を覚ますと逆行していた。


 そうして今度は3度目の人生を送ることになる。

 今回は側にいて守ることに決め、当然のように護衛を付けた。
 レティシアとの仲を深めることも出来、このまま守り切れれば幸せになれる。

 そう信じて疑わなかった。

 だが、運命はやっぱり残酷で、武装集団の襲撃から守り切ったと思えば、目の前で毒矢に射られて命を落としてしまう。
 崩れ落ちるレティシアに「私のことは置いて逃げて」と言われたが、当然そんなことなど出来なかった。

 必死で救おうと出来る限りのことをした。
 しかし解毒薬が分からない以上、レティシアの身体を蝕む毒を止めることは出来ず、この人生で2度と会えなくなってしまった。

 そして今回も犯人を突き止めようとして……今までと同じタイミングで逆行してしまった。
 しかし、犯人の糸口を掴むことは出来ていた。


 そして迎えた4回目の人生。
 今度は誰とも婚約せずに、レティシアを殺めた犯人を突き止めるために行動することを決意する。

 幸いにも前回の人生で掴んだ糸を辿ることが出来、サザンバーグ家が黒幕だと突き止めることが出来た。
 ……が、レティシアはその黒幕サザンバーグ家のアドルフと婚約していた。

 凶行を止めようと権力を使い、断罪しようと試みるが、結果は国王に止められ失敗。
 結局レティシアはアドルフに暴行され命を落としてしまう。


 再び同じタイミングで逆行し、5度目の人生を迎える。

 今回も誰とも婚約せずに、レティシアを運命から救うことを第一に行動した。
 幸いにもアドルフが浮気していることには前回で気付けていたので、それを口実にレティシアから引き離した。

 しかしそれだけでは不十分だと感じていたため、逆行していることを打ち明けて国王である父に協力依頼し、王家全体が動くことになる。
 当然のようにこのことは隠し通され、知っているのは王族と王族1人1人に加護を与えている精霊のみとなっている。

 その結果、新たに明らかになったことがある。

 レティシアが火の精霊の加護持ちで、アドルフは水の精霊の加護持ちであること。
 火の精霊が王家に加われば1人ぼっちにってしまう水の精霊が、レティシアを殺めようとアドルフを唆していること。

 現在、アドルフの行方が分かっておらず、レティシアを殺めようと動いていること。

 ちなみに、ジグルドは王家全員が精霊の加護持ちだと数日前に知ったばかりである。


 だが、これだけ明らかになっていても本人の協力無しに守り切ることは不可能。
 そう考えた国王に助言され、ジグルドはレティシアに分かっていることを全て告げる決断をしたのだった。


   ◇  ◇  ◇


「……ということがあったから、俺はなんとしてでもレティシアを守りたいと考えている。精霊達の協力の約束も得ている。
 君のためにもなることだ。どうか協力してくれないだろうか?」

 たっぷり1時間以上かけて、あったことを語ってくれた殿下はそう締めくくった。

 今ので察しがついたけど、天啓にあった馬車の事故。あれは意図的に起こされるものなのね……。

「私のためにそこまでしてくださるのですね……。運命を変えるために、手を貸して頂けませんか?」

 殿下は私に協力を求めてきたけど、それは私の台詞なのよね。
 だから、問いかけに問いかけで返してみた。

「ああ、もちろんだ」

 すると殿下はしっかりと頷いてくれて、そのまま私を抱きしめようとしてきた。
 でも、それは手で制した。

「今の私は殿下に好意を抱いてはいないので、そこは勘違いしないでください」
「す、済まない……」

 そう口にする殿下は、少し悲しそうな表情を浮かべていた。
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