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44話 難民と金貸し
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パァン!と言う破裂音、一瞬銃声かと僕は思った。
今回僕らは全員護身用に拳銃を所持している。よもやセリアさんショートソードを捨てて拳銃を撃ったんじゃないかと。
銃声にしては音が軽い?
けど、音の発生元はセリアさんの拳銃ではなかった。
ちなみにこの拳銃は、ザムのサバイバルキットの中にあったものだ。送還する前にザムから回収したもので、数十丁ほど確保してある。フォニアさんを含め今回の旅に来ているメンバーは全員が所持している。
音に驚き、全員が身を固くし手居た時、天幕内に女性の声が響いた。
「落ち着いてくださいませ。セリア様」
静かな声だったが、有無を言わせぬ圧力があった。
声のした方を見るとそこには表情の無い給仕をしていた女性が平手をあわせた姿で立っていた。今の音を出したのは彼女だろう。
僕らが大慌てでセリアさんを止めようとしていたのに対し、彼女はただ一人だけ、何事も無いかの様に無表情だった。
「メリナ…」
「罰を与えるのは我々の話を聞いてからにして下さいませ。それからでも遅くは無いかと…」
フー!フー!と猫のように、興奮していたセリアさんがそこで幾分冷静さを取り戻した。
「…いいわ聞いてあげる。話なさい」
セリアさんは抜いていた剣を納め、荒い息を吐きながら言った。それでも彼女の怒りは仮面の上からでも十分分かる。
「では、会議室までご案内いたします。こちらです。ライツナー様も早く立ってくださいませ」
メリナと呼ばれた女性は、天幕の外へと続く布を開いた。
良かった。それにしてもメリナって呼ばれていたけど彼女は何者だ?セリアさんを一発で落ち着かせちゃったけど…。彼女も以前にセリアさんの部下だったのかな?
会議室とは言われたものの、案内されたのは、最初に入った天幕とは別の天幕だった。
最初に入った天幕の先にあり、完全に柵で囲まれた場所だ。天幕の周りにはさらに別の天幕が設営され外からは見る事はできない。
「ここでなら外部の者に聞かれる心配はありません。ライツナー様も存分にご説明下さいませ」
天幕の中には、コの字型にテーブルが置かれており、それによりかろうじてここが会議室であることを示していた。
セリアさんは迷うことなく、コの字の縦線の中心にあたる場所、議長席にどっかりと座った。僕はその隣の席をメリナと呼ばれた人に勧められたのでそこに座る。
ライツナー伯爵達は、まるで法廷に立つ容疑者のようにセリアさんの正面に立ち並ぶ。
「さぁ説明して頂戴。何であなたあんなことしているの?」
ライツナー伯爵は、お白州で白状する罪人のようにゆっくりと話し始めた。
「はい。我々が金貸しをやっているのは、セイラン王国の民を救うためにございます」
「あれのどこが!我が国の民を救っていると言うのだ!」
ダン!
激高したセリアさんが拳をテーブルに叩き付けた。
まぁ。お金を貸して、返せなかったら子供を借金の形に奪うなんて、普通の救うとは言わないよな。
「ライツナー様!先に我々の現状を殿下に説明すべきです!」
するとセリアさんからアーカムと呼ばれていたチンピラが言った。
「分かった。では、我々がここラガツへと到着した時の事から話しましょう」
ライツナー伯爵は息を吸うとゆっくりと話し出した。
伯爵を含むセイラン王国の難民たちは、スベン公国から出た後、何とかここラガツへと到着することが出来たそうだ。
人類同盟の本拠地に着くことが出来て安堵していたセイラン王国の避難民だったが、先に来ていた他国の難民達の様子を見て彼らは愕然とした。
そこには、ぼろぼろのテントでぎりぎりの生活を強いられている難民達がいたのだ。
「ぎりぎりって、たしか、人類同盟は、炊き出しもしているし、仕事の斡旋もしていたはずよ。しかもそれは、結構賃金が高いって聞いたけど…」
「炊き出しは、日に一度。それも大人が働くには到底足りぬ量。仕事も賃金が高くとも、物価が高ければ意味はありませぬ。ここは、物価がかつての我が国の5倍ほどにもなっているのです」
「「5倍!?」」
人類同盟により難民の保護は万全とされていたが、実際は日々生活していくのがやっと。難民が怪我や病気になれば、働く事が出来ず、炊き出しで飢えて死ぬのを待つばかり。難民達が必死で持ち出した金品も、お金は国家が無くなり地金以上の価値は無くなり、宝飾品も人類同盟出入りの業者が足元を見て安く買い叩いていたそうだ。
「何でそんなことが…」
「決まっております。奴らが…人類同盟のハゲタカ共が儲ける為です」
言葉はセリアさんを前にしているため静かだが、ライツナー伯爵の瞳は憎悪に燃えていた。
物価が高い理由が最悪だ。
理由は、人類同盟の高官達が多額の賄賂を受け取る為なのだそうな。
難民キャンプで商売するには、人類同盟の許可が要る。
商人達は人類同盟の高官に賄賂を支払い人類同盟に許可を貰い商売を始めた。彼らは、絶対に売れる食料や生活必需品の価格に賄賂に使った金額を転嫁し、さらに儲けるために金額を上乗せした。
その商人の儲けから、さらに人類同盟の高官が上前をはねる。
人類同盟(組織)→避難民→商人→人類同盟高官(個人)という金の流れが、この難民キャンプには、出来ていた。難民は、碌に抗議もできず、もやは逃げ出す気力も無く、日々鬱々としながら生活していた。
物価が上がるわけだ。こう言うのなんて言ったっけ?汚職だっけか?
あんまりな避難民の生活に、ライツナー伯爵は人類同盟に抗議しようとした、だが伯爵は人類同盟の本部に着くことすらできなかった。
何故なら彼は内壁の門兵に止められたからだ。
自身がセイラン王国の貴族であると言っても門兵は、鼻で笑い取り合わなかった。
そこでライツナー伯爵は知った。
亡国の貴族は、難民は平等に扱うと言う名の下に、貴族扱いされないという事を。
一見正しそうに見えるが貴族は、民のまとめ役であり、亡国の貴族は、難民の代表者でもあるのだ。その亡国の貴族を貴族として扱わず、普通の難民として扱うという事は、難民の不平不満を上へと伝えることが出来ないという事。
母国が人類同盟に毎年分担金を払ってきたのにも係わらずこの扱い。
屈辱により悪人顔がさらに凶悪になったライツナー伯爵は、それでもどうにかしようと知己であった他国の貴族の伝を使い抗議した。
それを知った他国の貴族も、いずれは我が身に降りかかるかもしれないと思い、難民となった貴族の扱いを直すように人類同盟に訴えた。
おかげで人類同盟の議会は、亡国の貴族の扱いについて何とかしようと言う気運が生まれたそうな。
とはいえ変わる事になっても、実際に変わるまでには、それなりに時間が掛かる。それまでの間、避難してきたセイラン王国の民の生活を支援すべく、ライツナー伯爵が始めたのが金貸しだった。
「普通に支援金として渡せばよかったんじゃないですか?何で金貸しを?」
僕が疑問に思った事を言った。
「持ち出す事に成功した資金にも限りがあります。ただ渡すだけでは、無駄に浪費し、また貰おうとする者が出てくる可能性がありました。貸すと言う形になれば、いずれその金は返さなければなりません。借りた者は返す為に働きますから。もちろん貸し出しは低金利で行い、支払期限も長く設定していました。それにお金を返してもらえれば、そのお金をまた別の難民に貸すことが出来ます」
助けるけど、堕落はさせないという事かな。そして長く支援し続ける為に与えるのではなく貸すという形を取ったと。良く考えてるなぁ。
だが、勇者が召還された事により事態は変わる。
他国の者達は、勇者によって人類は救われるのは確定事項だと思った。思ってしまった。
自分の身に降りかからないのなら、他国の貴族がどう扱われようと知ったことではなくなった。それより、亡国の貴族の扱いに関する規約の改正が立ち消えになってしまった。
さらに悪いことに、戦後の世界で自国を優位に立たせる為に亡国の貴族の力をより削ごうという動きすら出てきていた。
そして人類同盟もそれに乗るように次の手に出た。
とある娯楽の解禁だ。
「娯楽?それはいいんじゃないの?難民の生活でも楽しみは必要でしょ」
「人類同盟が用意した娯楽は賭博です」
「なっ!?」
「はぁ?」
「奴らは言葉巧みに、亡国の貴族を賭場へと集め、負けさせ土地の権利書などを巻き上げているのです」
亡国の貴族達は、金品や宝飾品のほかに土地の権利書なども一緒に持って逃げてきたものが多い。
何故、奪われた土地の権利書を持って逃げる貴族が多いのか?
それは、人類同盟の規約によって、失地回復後もその土地の権利は保障されているからだ。人類同盟加盟国が、たとえ滅ぼされた国の土地を確保したとしても、そこが確保した国のものにはならず、滅ぼされた国の民又は、その土地の権利書を持つものへと返却される。
人類同盟の高官達は、戦後をにらみ失地を回復し、再興した国家への強い影響力を持とうと権利書を集め始めたのだ。
「さらに事態は悪化しました。多くの一般の難民が賭場へと通うようになってしまったのです。その中にはセイラン王国の民も…」
「奴ら…。最初はチョコチョコ勝たせていい気になったところで一気に負けさせるイカサマしてやがるんだ!」
「しかも、負けの込んだ奴に子供が居れば、子供を奉公に出せば負けをチャラにしてやると言い。子供を差し出させるんだ!」
「ありゃあ奴隷として売られるのと同じだ!」
チンピラたちが口々に言う。
「「はぁ!?」」
あまりの所業に、僕らは声を上げた。
「我々が気づいた時には、何人もの子供が奴らの手に渡っていました」
「何とか…ならなかったの?」
悲痛な顔をしてセリアさんが聞いた。
「まがりなりにも人類同盟が認めた正式な契約でした。契約が結ばれた以上我々が口を出す事は出来ません」
チンピラもとい、ライツナー伯爵の部下が言った。
うわえげつねぇ。
「賭博をやめろとやっている人に警告しなかったのですか?」
「しました。でも、どっぷりはまった奴は聞きゃしませんよ」
「それで、はじめたのが先のような悪徳金貸しです」
えっ?そこで何で悪徳金貸し?
「賭場で負け込んでいる親に我々が人類同盟より先に金を貸す。始めた頃には、この顔ですので根も葉もない悪評が広まってました。なので、子供が本当に大事なら、親は賭博などせずまじめに働き、借金を返そうとするでしょう。しかし、墜ちるとこまで墜ちていたなら、我々が借金の形名目で子供を取り上げる。つまり奴らに取られる前に、こちらで保護していました」
ライツナー伯爵は"この顔"と言ったところで、苦笑していた。
「いいじゃない!じゃあ何であんなにガラ悪くやってたわけ?」
「我々が金を渡して子供を保護していると知られれば、多くの親が内から金を借り、そして子供を差し出すでしょう。それは健全とは言えません。私は、親が子を責任を持って育てるべきだと思っています。それに子が居れば親は、死に物狂いでがんばるでしょう?もし、子供が安全な場所に保護されていると思えば、自身は堕落してしまうかもしれない。私のところは最後の最後、子供が死ぬよりマシという選択肢でなければならないのです」
つまり、助けるけど、それは自分が最後までがんばってから、まずは自助努力しろとそういう事か。
良く子供がいるからがんばれると言う話を聞くけど、逆言えば子供がいなければがんばれないと言うか、自身を諦めれば、がんばる必要すらなくなる。
最初は自分で何とかしろ、やるだけやって駄目なら助けてやる。ライツナー伯爵はそう言うスタンスなのだろう。
「ゆえに周辺には、我らは借金の形に連れて来た子供をこの敷地の中でこき使っているという事になっています」
「じゃあ、あの貴方が天幕で呼んだ女性達は、怯えた演技をしていたと?」
「はい。どこに耳があるか分かりません。我々は恐れられなければならないのです」
「セイランの人達に嫌われますよ?」
せっかく守ってここまで導いてきたのに。
「覚悟の上です。我々は救うのが目的であって、敬われるためではありません」
僕の質問にライツナー伯爵は胸を張って答えた。
「だそうですよ」
横を向いて先ほどからピクリともしなくなったセリアさんを見ると、彼女は仮面の下で滂沱の涙を流していた。
「すまぬ!すまぬ!私はあなたを誤解していた!」
オイオイと泣きながら謝罪をはじめたセリアさん。今度はそれを見たライツナー伯爵達は、また慌て始めた。
セリアさんが泣き止んだのはそれからしばらくたってからだった。
誤解も解けたので全員会議室の椅子に座りなおしている。
はぁようやく本題に入れるな。
「それで今日は何用で?殿下は今、スベン公国で義勇軍に参加していたのでは?」
「今日用事があるのは私じゃなくて。私のボスよ。彼が新生スベン公国軍を勝利に導いた将軍。デアフレムデのヒデユキアマタ様よ」
すんすんとまだ少し鼻を鳴らしながらもセリアさんが僕をライツナー伯爵に紹介した。
このガキが?という表情で僕に視線が集まる。
セリアさんから様付けで呼ばれるのは、なんか気恥ずかしいな。
僕は、席から立ち上がり頭を挨拶をした。
「私は新生スベン公国軍で将軍を任されていますアマタと申します」
「このような姿で申し訳ない。ライツナーと申します。では用向きをお伺いしましょう。アマタ殿」
「今日は、挨拶とスベン公国公王フォニア陛下より、手紙を預かっています。これを…」
「しかと受け取りました。拝見させていただきます。…これはっ!?」
ライツナー伯爵は、僕の手渡した手紙を読み驚愕の声を上げた。
今回僕らは全員護身用に拳銃を所持している。よもやセリアさんショートソードを捨てて拳銃を撃ったんじゃないかと。
銃声にしては音が軽い?
けど、音の発生元はセリアさんの拳銃ではなかった。
ちなみにこの拳銃は、ザムのサバイバルキットの中にあったものだ。送還する前にザムから回収したもので、数十丁ほど確保してある。フォニアさんを含め今回の旅に来ているメンバーは全員が所持している。
音に驚き、全員が身を固くし手居た時、天幕内に女性の声が響いた。
「落ち着いてくださいませ。セリア様」
静かな声だったが、有無を言わせぬ圧力があった。
声のした方を見るとそこには表情の無い給仕をしていた女性が平手をあわせた姿で立っていた。今の音を出したのは彼女だろう。
僕らが大慌てでセリアさんを止めようとしていたのに対し、彼女はただ一人だけ、何事も無いかの様に無表情だった。
「メリナ…」
「罰を与えるのは我々の話を聞いてからにして下さいませ。それからでも遅くは無いかと…」
フー!フー!と猫のように、興奮していたセリアさんがそこで幾分冷静さを取り戻した。
「…いいわ聞いてあげる。話なさい」
セリアさんは抜いていた剣を納め、荒い息を吐きながら言った。それでも彼女の怒りは仮面の上からでも十分分かる。
「では、会議室までご案内いたします。こちらです。ライツナー様も早く立ってくださいませ」
メリナと呼ばれた女性は、天幕の外へと続く布を開いた。
良かった。それにしてもメリナって呼ばれていたけど彼女は何者だ?セリアさんを一発で落ち着かせちゃったけど…。彼女も以前にセリアさんの部下だったのかな?
会議室とは言われたものの、案内されたのは、最初に入った天幕とは別の天幕だった。
最初に入った天幕の先にあり、完全に柵で囲まれた場所だ。天幕の周りにはさらに別の天幕が設営され外からは見る事はできない。
「ここでなら外部の者に聞かれる心配はありません。ライツナー様も存分にご説明下さいませ」
天幕の中には、コの字型にテーブルが置かれており、それによりかろうじてここが会議室であることを示していた。
セリアさんは迷うことなく、コの字の縦線の中心にあたる場所、議長席にどっかりと座った。僕はその隣の席をメリナと呼ばれた人に勧められたのでそこに座る。
ライツナー伯爵達は、まるで法廷に立つ容疑者のようにセリアさんの正面に立ち並ぶ。
「さぁ説明して頂戴。何であなたあんなことしているの?」
ライツナー伯爵は、お白州で白状する罪人のようにゆっくりと話し始めた。
「はい。我々が金貸しをやっているのは、セイラン王国の民を救うためにございます」
「あれのどこが!我が国の民を救っていると言うのだ!」
ダン!
激高したセリアさんが拳をテーブルに叩き付けた。
まぁ。お金を貸して、返せなかったら子供を借金の形に奪うなんて、普通の救うとは言わないよな。
「ライツナー様!先に我々の現状を殿下に説明すべきです!」
するとセリアさんからアーカムと呼ばれていたチンピラが言った。
「分かった。では、我々がここラガツへと到着した時の事から話しましょう」
ライツナー伯爵は息を吸うとゆっくりと話し出した。
伯爵を含むセイラン王国の難民たちは、スベン公国から出た後、何とかここラガツへと到着することが出来たそうだ。
人類同盟の本拠地に着くことが出来て安堵していたセイラン王国の避難民だったが、先に来ていた他国の難民達の様子を見て彼らは愕然とした。
そこには、ぼろぼろのテントでぎりぎりの生活を強いられている難民達がいたのだ。
「ぎりぎりって、たしか、人類同盟は、炊き出しもしているし、仕事の斡旋もしていたはずよ。しかもそれは、結構賃金が高いって聞いたけど…」
「炊き出しは、日に一度。それも大人が働くには到底足りぬ量。仕事も賃金が高くとも、物価が高ければ意味はありませぬ。ここは、物価がかつての我が国の5倍ほどにもなっているのです」
「「5倍!?」」
人類同盟により難民の保護は万全とされていたが、実際は日々生活していくのがやっと。難民が怪我や病気になれば、働く事が出来ず、炊き出しで飢えて死ぬのを待つばかり。難民達が必死で持ち出した金品も、お金は国家が無くなり地金以上の価値は無くなり、宝飾品も人類同盟出入りの業者が足元を見て安く買い叩いていたそうだ。
「何でそんなことが…」
「決まっております。奴らが…人類同盟のハゲタカ共が儲ける為です」
言葉はセリアさんを前にしているため静かだが、ライツナー伯爵の瞳は憎悪に燃えていた。
物価が高い理由が最悪だ。
理由は、人類同盟の高官達が多額の賄賂を受け取る為なのだそうな。
難民キャンプで商売するには、人類同盟の許可が要る。
商人達は人類同盟の高官に賄賂を支払い人類同盟に許可を貰い商売を始めた。彼らは、絶対に売れる食料や生活必需品の価格に賄賂に使った金額を転嫁し、さらに儲けるために金額を上乗せした。
その商人の儲けから、さらに人類同盟の高官が上前をはねる。
人類同盟(組織)→避難民→商人→人類同盟高官(個人)という金の流れが、この難民キャンプには、出来ていた。難民は、碌に抗議もできず、もやは逃げ出す気力も無く、日々鬱々としながら生活していた。
物価が上がるわけだ。こう言うのなんて言ったっけ?汚職だっけか?
あんまりな避難民の生活に、ライツナー伯爵は人類同盟に抗議しようとした、だが伯爵は人類同盟の本部に着くことすらできなかった。
何故なら彼は内壁の門兵に止められたからだ。
自身がセイラン王国の貴族であると言っても門兵は、鼻で笑い取り合わなかった。
そこでライツナー伯爵は知った。
亡国の貴族は、難民は平等に扱うと言う名の下に、貴族扱いされないという事を。
一見正しそうに見えるが貴族は、民のまとめ役であり、亡国の貴族は、難民の代表者でもあるのだ。その亡国の貴族を貴族として扱わず、普通の難民として扱うという事は、難民の不平不満を上へと伝えることが出来ないという事。
母国が人類同盟に毎年分担金を払ってきたのにも係わらずこの扱い。
屈辱により悪人顔がさらに凶悪になったライツナー伯爵は、それでもどうにかしようと知己であった他国の貴族の伝を使い抗議した。
それを知った他国の貴族も、いずれは我が身に降りかかるかもしれないと思い、難民となった貴族の扱いを直すように人類同盟に訴えた。
おかげで人類同盟の議会は、亡国の貴族の扱いについて何とかしようと言う気運が生まれたそうな。
とはいえ変わる事になっても、実際に変わるまでには、それなりに時間が掛かる。それまでの間、避難してきたセイラン王国の民の生活を支援すべく、ライツナー伯爵が始めたのが金貸しだった。
「普通に支援金として渡せばよかったんじゃないですか?何で金貸しを?」
僕が疑問に思った事を言った。
「持ち出す事に成功した資金にも限りがあります。ただ渡すだけでは、無駄に浪費し、また貰おうとする者が出てくる可能性がありました。貸すと言う形になれば、いずれその金は返さなければなりません。借りた者は返す為に働きますから。もちろん貸し出しは低金利で行い、支払期限も長く設定していました。それにお金を返してもらえれば、そのお金をまた別の難民に貸すことが出来ます」
助けるけど、堕落はさせないという事かな。そして長く支援し続ける為に与えるのではなく貸すという形を取ったと。良く考えてるなぁ。
だが、勇者が召還された事により事態は変わる。
他国の者達は、勇者によって人類は救われるのは確定事項だと思った。思ってしまった。
自分の身に降りかからないのなら、他国の貴族がどう扱われようと知ったことではなくなった。それより、亡国の貴族の扱いに関する規約の改正が立ち消えになってしまった。
さらに悪いことに、戦後の世界で自国を優位に立たせる為に亡国の貴族の力をより削ごうという動きすら出てきていた。
そして人類同盟もそれに乗るように次の手に出た。
とある娯楽の解禁だ。
「娯楽?それはいいんじゃないの?難民の生活でも楽しみは必要でしょ」
「人類同盟が用意した娯楽は賭博です」
「なっ!?」
「はぁ?」
「奴らは言葉巧みに、亡国の貴族を賭場へと集め、負けさせ土地の権利書などを巻き上げているのです」
亡国の貴族達は、金品や宝飾品のほかに土地の権利書なども一緒に持って逃げてきたものが多い。
何故、奪われた土地の権利書を持って逃げる貴族が多いのか?
それは、人類同盟の規約によって、失地回復後もその土地の権利は保障されているからだ。人類同盟加盟国が、たとえ滅ぼされた国の土地を確保したとしても、そこが確保した国のものにはならず、滅ぼされた国の民又は、その土地の権利書を持つものへと返却される。
人類同盟の高官達は、戦後をにらみ失地を回復し、再興した国家への強い影響力を持とうと権利書を集め始めたのだ。
「さらに事態は悪化しました。多くの一般の難民が賭場へと通うようになってしまったのです。その中にはセイラン王国の民も…」
「奴ら…。最初はチョコチョコ勝たせていい気になったところで一気に負けさせるイカサマしてやがるんだ!」
「しかも、負けの込んだ奴に子供が居れば、子供を奉公に出せば負けをチャラにしてやると言い。子供を差し出させるんだ!」
「ありゃあ奴隷として売られるのと同じだ!」
チンピラたちが口々に言う。
「「はぁ!?」」
あまりの所業に、僕らは声を上げた。
「我々が気づいた時には、何人もの子供が奴らの手に渡っていました」
「何とか…ならなかったの?」
悲痛な顔をしてセリアさんが聞いた。
「まがりなりにも人類同盟が認めた正式な契約でした。契約が結ばれた以上我々が口を出す事は出来ません」
チンピラもとい、ライツナー伯爵の部下が言った。
うわえげつねぇ。
「賭博をやめろとやっている人に警告しなかったのですか?」
「しました。でも、どっぷりはまった奴は聞きゃしませんよ」
「それで、はじめたのが先のような悪徳金貸しです」
えっ?そこで何で悪徳金貸し?
「賭場で負け込んでいる親に我々が人類同盟より先に金を貸す。始めた頃には、この顔ですので根も葉もない悪評が広まってました。なので、子供が本当に大事なら、親は賭博などせずまじめに働き、借金を返そうとするでしょう。しかし、墜ちるとこまで墜ちていたなら、我々が借金の形名目で子供を取り上げる。つまり奴らに取られる前に、こちらで保護していました」
ライツナー伯爵は"この顔"と言ったところで、苦笑していた。
「いいじゃない!じゃあ何であんなにガラ悪くやってたわけ?」
「我々が金を渡して子供を保護していると知られれば、多くの親が内から金を借り、そして子供を差し出すでしょう。それは健全とは言えません。私は、親が子を責任を持って育てるべきだと思っています。それに子が居れば親は、死に物狂いでがんばるでしょう?もし、子供が安全な場所に保護されていると思えば、自身は堕落してしまうかもしれない。私のところは最後の最後、子供が死ぬよりマシという選択肢でなければならないのです」
つまり、助けるけど、それは自分が最後までがんばってから、まずは自助努力しろとそういう事か。
良く子供がいるからがんばれると言う話を聞くけど、逆言えば子供がいなければがんばれないと言うか、自身を諦めれば、がんばる必要すらなくなる。
最初は自分で何とかしろ、やるだけやって駄目なら助けてやる。ライツナー伯爵はそう言うスタンスなのだろう。
「ゆえに周辺には、我らは借金の形に連れて来た子供をこの敷地の中でこき使っているという事になっています」
「じゃあ、あの貴方が天幕で呼んだ女性達は、怯えた演技をしていたと?」
「はい。どこに耳があるか分かりません。我々は恐れられなければならないのです」
「セイランの人達に嫌われますよ?」
せっかく守ってここまで導いてきたのに。
「覚悟の上です。我々は救うのが目的であって、敬われるためではありません」
僕の質問にライツナー伯爵は胸を張って答えた。
「だそうですよ」
横を向いて先ほどからピクリともしなくなったセリアさんを見ると、彼女は仮面の下で滂沱の涙を流していた。
「すまぬ!すまぬ!私はあなたを誤解していた!」
オイオイと泣きながら謝罪をはじめたセリアさん。今度はそれを見たライツナー伯爵達は、また慌て始めた。
セリアさんが泣き止んだのはそれからしばらくたってからだった。
誤解も解けたので全員会議室の椅子に座りなおしている。
はぁようやく本題に入れるな。
「それで今日は何用で?殿下は今、スベン公国で義勇軍に参加していたのでは?」
「今日用事があるのは私じゃなくて。私のボスよ。彼が新生スベン公国軍を勝利に導いた将軍。デアフレムデのヒデユキアマタ様よ」
すんすんとまだ少し鼻を鳴らしながらもセリアさんが僕をライツナー伯爵に紹介した。
このガキが?という表情で僕に視線が集まる。
セリアさんから様付けで呼ばれるのは、なんか気恥ずかしいな。
僕は、席から立ち上がり頭を挨拶をした。
「私は新生スベン公国軍で将軍を任されていますアマタと申します」
「このような姿で申し訳ない。ライツナーと申します。では用向きをお伺いしましょう。アマタ殿」
「今日は、挨拶とスベン公国公王フォニア陛下より、手紙を預かっています。これを…」
「しかと受け取りました。拝見させていただきます。…これはっ!?」
ライツナー伯爵は、僕の手渡した手紙を読み驚愕の声を上げた。
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日常が一変したのは、それからである。やたらと悠奈が絡んでくるようになったのだ。
彼女の狙いは、いったい何なのだろうか……。
※小説家になろう、ハーメルンにも同一作品を投稿しています。
※内部進行完結済みです。毎日連載です。
勇者の隣に住んでいただけの村人の話。
カモミール
ファンタジー
とある村に住んでいた英雄にあこがれて勇者を目指すレオという少年がいた。
だが、勇者に選ばれたのはレオの幼馴染である少女ソフィだった。
その事実にレオは打ちのめされ、自堕落な生活を送ることになる。
だがそんなある日、勇者となったソフィが死んだという知らせが届き…?
才能のない村びとである少年が、幼馴染で、好きな人でもあった勇者の少女を救うために勇気を出す物語。
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