52 / 75
50話 暗雲晴れて
しおりを挟む
セリアさんが操縦するザムの手に乗り僕は、演習場に到着した。
演習場は広く、豪奢な観客席が作られていた。つくりからして、それなりの身分の人間がその席に座るのだろう。観客席の反対側にはちょっとした目隠しの木々があり、その先に格納庫と思われる施設がある。よく訓練だけはしているのか演習場の地面は地面がむき出しで、演習場を一周する形で大量のザムノ足跡があった。
これは行進の練習の跡かな?
ラガツにきた時に上から見た時、演習場に駐機状態のカニンガムが整列してたが、今その場所には、ザムのマシンガンにより、ばらばらになったカニンガムの残骸が散らばっているだけだ。
演習場にはザムが二機立っており、うち一機は演習場の奥にある格納庫と思われる大きな建物に向けて銃を構え、もう一機は、演習場の外から来る増援を警戒していた。
『ご無事で何よりです陛下、アマタ様』
増援を警戒していたザムのパイロットが言う。
「暴れたようですね…。状況は?」
『はっ!演習場の制圧を完了しました!まもなく迎えのトブタイが来ます』
フォニアさんが聞く。その声は威厳にあふれ、最初に会った頃のお姫様然としていた頃とは、印象が変わっていた。
これが、良かったのか悪かったのは分からない。けれど変わる必要があったのは確かなのだろう。
「そうですか。よくやりました」
「…被害はありませんか?」
思わず僕は聞いてしまった。ザムを見れば無傷で被害は皆無だという事は分かりきっているのに…。
『ご安心ください。ここに駐機していたカニンガムを破壊しましたが周囲には人が居ませんでした。人的損害は無いはずです』
察しが良すぎるザムのパイロットは、僕が本当に聞きたかった事を答えてくれた。
「そうですか」
そう言った時、僕はあからさまにほっとしていた。
正直別に人類同盟の兵士なんだから死んだっていいじゃないかと思いもあるが、今はなるべく人死には出したくないと言う思いのほうが強かった。
それに買う恨みは少ないほうが良いに決まっている。余計な恨みを買えば予想外の所から復讐されるリスクもある。
そこへ僕達の護衛を救出しに行ったザムと合流した。ザムの手には護衛のブラットさん達が乗っている。
「ブラットさんそちらは大丈夫でしたか?」
僕は、ブラットさん達が持っているヘッドセットに通信を繋いだ。
彼らも、ザムのヘッドセットを持ち込んでおり、劇場の中と救出部隊の様子を確認していた。
通信に気が付いたブラッドさんがこちらに手を振りつつ答えた。
「それはこちらの台詞です。アマタ様。セリア様はかなり無茶をされたようでしたから…」
『うるさいわね。ついでに衛兵も片付けられたんだから結果オーライよ!』
確かにあの空挺降下には驚いた。本来ならもうちょっと穏やかに着地する予定だった。それが実際はズドン!のガッシャーン!だ驚きもする。
「あははは。派手にやってくれた分、相手が萎縮しましたから…。まぁ良かったんじゃないかと。そちらはどうでした?」
ブラッドさん達は、僕らを引き離された後本部の四階にある部屋に閉じ込められたそうだ。一応「開けろ!どう言う事だ!」とかやったそうだが、開くはずもなく。とはいえこの程度の事は予想の内。逆に扉の前に部屋の中に合った棚やらテーブルやらを置いて篭城していたそうだ。
人類同盟による僕らの拉致が実行に移されると、部屋の内側へと退避して救助を待ったそうだ。
部屋に監禁された時点でヘッドセットで外のザムに居場所を伝えていたのでセリアさんが劇場に突撃したのとほぼ同時に救助が来たそうだ。
この時の事をブラットさんは、「目の前の壁からザムの手が突き破って出てくるって思いのほか恐ろしかった」と感想を漏らした。
ブラッドさん達を救出したザムが歩いてきた方向を見ると本部の四階にぽっかりと壁に穴の開いている。その穴の大きさから、腕をガッツリ突っ込んだのが分かる。
壁を突き破ってきた巨大な拳が目の前を通ったのなら、そりゃ怖かっただろう。
空を見上げると、ちょうど上空から僕専用のザムを載せたトブタイを先頭に5機のトブタイが降りて来た。
トブタイが演習場のど真ん中に悠々と着陸すると、セリアさんは、僕らの乗った手のひらをトブタイの上にそっと置いた。
『さぁ、最後に一発かましてきなさい!』
「了解です。では陛下。仕上げと参りましょう」
僕は、一足先にトブタイの上に降り、まだザムの手のひらに乗っているフォニアさんに手を差し出した。
「ええ」
フォニアさんは僕の手を取り、トブタイの甲板へと降りた。
帰る前に僕らには、最後にやることがある。
このままスベン公国に帰ったら、ラガツの街の人々にとっては僕らが突然ザムで人類同盟の本部を襲ったようにしか見えない。後で人類同盟にある事ない事触れ回られて本当に人類の敵にされかねない。
なので、この国の人達および難民の人達にこちらの事情を説明しておかなければならないのだ。
僕とフォニアさんは、僕専用のザムのコックピットへと乗り込んだ。
待望のコックピット二人乗りだ。だけど、状況が状況なだけに喜ぶことも出来ない。
『全機トブタイに搭乗せよ!最後の仕上げだ!』
僕の乗るトブタイを先頭にV字に編隊を組んだトブタイが上昇を開始した。そして来た時と同じようにラガツの街の上空を一周すると、人類同盟本部の上で静止した。
人類同盟本部の上空に居れば、人類同盟の奴らは、手を出す事は出来ない。下手に攻撃して人類同盟本部の上に落ちてきたら大変なことになるからだ。
ほかの四機のザムがトブタイの上で片膝を付いている中、僕は、ザムを立ち上がらせた。
「フォニアさん。どうぞ」
「ええ、では始めましょう」
コックピットの中で外部拡声機能をONにした。手で、外部拡声機能をONにした事を伝えるとフォニアさんは厳かに話し始めた。
「私はスベン公国女王フォニア・ダリル・スベンである!今私は、デアフムデ殿が操るこの紫の鉄巨人の中から話している。難民及びラガツの住民達よ。ザムが突然人類同盟本部を襲撃して驚いた事だろう。何が起きたか教えよう!」
フォニアさんは、ここで起きた騒動を説明した。
いきなり人類同盟によって呼び出された事
呼び出されて来て見ればスベン公国の窮地を救ってくれた僕の身柄を問答無用で引き渡せと要求してきた事。
人類同盟が最前線国家であるにもかかわらずスベン公国に碌な援軍も物資もよこさなかった事を理由に拒否した事
自国だけが良ければいいのかと批判された事
だから、人類同盟を脱退し、セイラン王国と協力し人類同盟に変わる新たな人類救済互助機関の設立を宣言した事
その新たな機関によりセイラン王国の奪還を目指す事
既得権益を奪われまいとした人類同盟が僕達を拉致しようとした事
ザムのパイロット達は、その危機を察知し即座に救出に動いたのが先ほどの騒ぎだという事
最後に、人類同盟が攻撃しなければ、これ以上ザムが暴れる事は無いと宣言した。
下を見れば、難民を含むラガツの街の人々が、宣言を聞いて外に出て空を見上げてザムを見ている。
ここでの僕の最後の仕事をしよう。
「では最後に、新たに仲間となるセイラン王国の方々へデアフレムデ様からお話があります」
そしてひざの上に座っているフォニアさんが僕の胸とポンと叩いた。僕はうなずくと声を張り上げた。
「新たな人類救済互助機関の最初の仲間になるセイラン王国の人達よ!そして、アポリオンと戦った勇敢なる兵士たちよ!僕は異世界からの召喚された天田 英行!あなた達の言い方であるならヒデユキ・アマタです!聞いてください!」
本来なら、僕が演説する予定は無かった。だけど、ライツナー伯爵から依頼があった。
母国を、故郷を守りきれなかったセイラン王国の兵士達がうつ病の様な状態になっており、人によっては自暴自棄になっている者も居るので、どうにか元気付けてやってはくれないかと。僕の言葉で元気付けられるか分からないけど。僕は依頼を受けた。僕だって殆どお飾りだけどスベン公国軍の将だ。出来る事はしたかった。
「あなた達を亡国の民、敗残兵だという人が居ました。ですが、僕はそうは思いません。確かにあなた方は、アポリオンに故郷を奪われ国を追われました。あなた方は戦った。戦った結果負けてしまった。其れは事実です。ですが、戦わねば敗北という結果すらありません。
守れなかった人々も多かったでしょう。しかし忘れないでください。あなた達が守れた人達がいます。あなた達がやった事は無駄ではありません。何故ならそこに生きる人々が居るからです!
僕はカルナートで見ました。あなた達と同じように故郷で戦う人達を。彼らは、旧式のフォルスであるダロスを使い、そのダロスに乗れなければその身で人々を守らんとアポリオンを相手に、決死の覚悟で戦っていました。正直に言いましょう。僕にはザムがあったから戦えましたが、もし僕がダロスでアポリオンと戦えといわれたら、逃げ出していたと思います。だが彼らは僕と違った。勝ち目など無いに等しかったのにもかかわらず守る為に戦っていました。もしかしたら惰性で戦っていたのかもしれません。故郷を蹂躙したアポリオンを一匹でも多くの道連れにしたかっただけなのかもしれません。理由はそれぞれでしょうが、彼らは逃げる事も座して死を待つことをせず戦っていました。そんな彼らを僕は英雄だと確信しています。
そして同じくアポリオンと戦い残念な事に敗北したあなた達もまた英雄です。あなた達の中には国を守れなかったと悔いている人も居るでしょう。ですが同時に守りきれたものもある事を忘れないでください」
疲れて座り込んでいた男達が立ち上がり、涙を浮かべてザムを見上げているのが見えた。
「今ここにセイラン王国の人々が生き残っているのは、兵士であったあなた達が必死に戦い、セイラン王国の人々が逃げる時間を稼いだ結果です。
それを誇ってください。あなた達が戦わなければ、今日ここに生きているセイラン王国の人達は死んでいたのですから!そして、守られた人々にも言いたい。あなた達は英雄達により助けられた。それでも今なお、苦難の中にいる事は分かります。ですがどうか、英雄達の行為が無駄ではなかったと思えるように生きてください。戦わなくていい。逃げてもいい。ですが、英雄達にあなた達が助ける価値があったと思えるように生きてください。
セイラン王国の英雄達に僕は言います。
セイラン王国の英雄達よ。セイラン王国を取り戻すのには、あなた達の力が必要です。
あなた達は、アポリオンを恐ろしさを知っている。しかし、それでもアポリオンと戦う強さを持っている。
僕の力だけでも、あなた達の力だけでも、アポリオンには勝てません。ですが、僕らは力を合わせる事で初めてアポリオンと勝負することが出来るのです。
無理だと思う人も居るでしょう。そう考えてもなんら不思議ではありません。むしろ僕は共感できます。ですが、スベン公国の英雄達は勝ちました。奪われた故郷を取り戻しました。ならば同じく英雄であるあなた達に出来ないはずはありません!
アポリオンと戦うことが出来るこのザムを貸しましょう!
アポリオンと戦い勝つことが出来る新たな戦い方を教えましょう!
そしてあなた達が自分の手で、故郷を、そして誇りを取り戻すのです!」
そう言いきった時と同時に難民キャンプのほうから歓声があがった。
「そうだ!まだだ!まだ終わってない!」
「やってやる!故郷を取り返すんだ!」
「セイラン王国万歳!うぅぅ!」
「こんな場所で終わってたまるか!戦う!戦うぞ俺は!」
「やられっぱなしで終われるか!一発かましてやる!」
意気軒昂な歓声が響く中、人類同盟本部に入った時は曇りだった空は、いつの間にか晴れていた。
演習場は広く、豪奢な観客席が作られていた。つくりからして、それなりの身分の人間がその席に座るのだろう。観客席の反対側にはちょっとした目隠しの木々があり、その先に格納庫と思われる施設がある。よく訓練だけはしているのか演習場の地面は地面がむき出しで、演習場を一周する形で大量のザムノ足跡があった。
これは行進の練習の跡かな?
ラガツにきた時に上から見た時、演習場に駐機状態のカニンガムが整列してたが、今その場所には、ザムのマシンガンにより、ばらばらになったカニンガムの残骸が散らばっているだけだ。
演習場にはザムが二機立っており、うち一機は演習場の奥にある格納庫と思われる大きな建物に向けて銃を構え、もう一機は、演習場の外から来る増援を警戒していた。
『ご無事で何よりです陛下、アマタ様』
増援を警戒していたザムのパイロットが言う。
「暴れたようですね…。状況は?」
『はっ!演習場の制圧を完了しました!まもなく迎えのトブタイが来ます』
フォニアさんが聞く。その声は威厳にあふれ、最初に会った頃のお姫様然としていた頃とは、印象が変わっていた。
これが、良かったのか悪かったのは分からない。けれど変わる必要があったのは確かなのだろう。
「そうですか。よくやりました」
「…被害はありませんか?」
思わず僕は聞いてしまった。ザムを見れば無傷で被害は皆無だという事は分かりきっているのに…。
『ご安心ください。ここに駐機していたカニンガムを破壊しましたが周囲には人が居ませんでした。人的損害は無いはずです』
察しが良すぎるザムのパイロットは、僕が本当に聞きたかった事を答えてくれた。
「そうですか」
そう言った時、僕はあからさまにほっとしていた。
正直別に人類同盟の兵士なんだから死んだっていいじゃないかと思いもあるが、今はなるべく人死には出したくないと言う思いのほうが強かった。
それに買う恨みは少ないほうが良いに決まっている。余計な恨みを買えば予想外の所から復讐されるリスクもある。
そこへ僕達の護衛を救出しに行ったザムと合流した。ザムの手には護衛のブラットさん達が乗っている。
「ブラットさんそちらは大丈夫でしたか?」
僕は、ブラットさん達が持っているヘッドセットに通信を繋いだ。
彼らも、ザムのヘッドセットを持ち込んでおり、劇場の中と救出部隊の様子を確認していた。
通信に気が付いたブラッドさんがこちらに手を振りつつ答えた。
「それはこちらの台詞です。アマタ様。セリア様はかなり無茶をされたようでしたから…」
『うるさいわね。ついでに衛兵も片付けられたんだから結果オーライよ!』
確かにあの空挺降下には驚いた。本来ならもうちょっと穏やかに着地する予定だった。それが実際はズドン!のガッシャーン!だ驚きもする。
「あははは。派手にやってくれた分、相手が萎縮しましたから…。まぁ良かったんじゃないかと。そちらはどうでした?」
ブラッドさん達は、僕らを引き離された後本部の四階にある部屋に閉じ込められたそうだ。一応「開けろ!どう言う事だ!」とかやったそうだが、開くはずもなく。とはいえこの程度の事は予想の内。逆に扉の前に部屋の中に合った棚やらテーブルやらを置いて篭城していたそうだ。
人類同盟による僕らの拉致が実行に移されると、部屋の内側へと退避して救助を待ったそうだ。
部屋に監禁された時点でヘッドセットで外のザムに居場所を伝えていたのでセリアさんが劇場に突撃したのとほぼ同時に救助が来たそうだ。
この時の事をブラットさんは、「目の前の壁からザムの手が突き破って出てくるって思いのほか恐ろしかった」と感想を漏らした。
ブラッドさん達を救出したザムが歩いてきた方向を見ると本部の四階にぽっかりと壁に穴の開いている。その穴の大きさから、腕をガッツリ突っ込んだのが分かる。
壁を突き破ってきた巨大な拳が目の前を通ったのなら、そりゃ怖かっただろう。
空を見上げると、ちょうど上空から僕専用のザムを載せたトブタイを先頭に5機のトブタイが降りて来た。
トブタイが演習場のど真ん中に悠々と着陸すると、セリアさんは、僕らの乗った手のひらをトブタイの上にそっと置いた。
『さぁ、最後に一発かましてきなさい!』
「了解です。では陛下。仕上げと参りましょう」
僕は、一足先にトブタイの上に降り、まだザムの手のひらに乗っているフォニアさんに手を差し出した。
「ええ」
フォニアさんは僕の手を取り、トブタイの甲板へと降りた。
帰る前に僕らには、最後にやることがある。
このままスベン公国に帰ったら、ラガツの街の人々にとっては僕らが突然ザムで人類同盟の本部を襲ったようにしか見えない。後で人類同盟にある事ない事触れ回られて本当に人類の敵にされかねない。
なので、この国の人達および難民の人達にこちらの事情を説明しておかなければならないのだ。
僕とフォニアさんは、僕専用のザムのコックピットへと乗り込んだ。
待望のコックピット二人乗りだ。だけど、状況が状況なだけに喜ぶことも出来ない。
『全機トブタイに搭乗せよ!最後の仕上げだ!』
僕の乗るトブタイを先頭にV字に編隊を組んだトブタイが上昇を開始した。そして来た時と同じようにラガツの街の上空を一周すると、人類同盟本部の上で静止した。
人類同盟本部の上空に居れば、人類同盟の奴らは、手を出す事は出来ない。下手に攻撃して人類同盟本部の上に落ちてきたら大変なことになるからだ。
ほかの四機のザムがトブタイの上で片膝を付いている中、僕は、ザムを立ち上がらせた。
「フォニアさん。どうぞ」
「ええ、では始めましょう」
コックピットの中で外部拡声機能をONにした。手で、外部拡声機能をONにした事を伝えるとフォニアさんは厳かに話し始めた。
「私はスベン公国女王フォニア・ダリル・スベンである!今私は、デアフムデ殿が操るこの紫の鉄巨人の中から話している。難民及びラガツの住民達よ。ザムが突然人類同盟本部を襲撃して驚いた事だろう。何が起きたか教えよう!」
フォニアさんは、ここで起きた騒動を説明した。
いきなり人類同盟によって呼び出された事
呼び出されて来て見ればスベン公国の窮地を救ってくれた僕の身柄を問答無用で引き渡せと要求してきた事。
人類同盟が最前線国家であるにもかかわらずスベン公国に碌な援軍も物資もよこさなかった事を理由に拒否した事
自国だけが良ければいいのかと批判された事
だから、人類同盟を脱退し、セイラン王国と協力し人類同盟に変わる新たな人類救済互助機関の設立を宣言した事
その新たな機関によりセイラン王国の奪還を目指す事
既得権益を奪われまいとした人類同盟が僕達を拉致しようとした事
ザムのパイロット達は、その危機を察知し即座に救出に動いたのが先ほどの騒ぎだという事
最後に、人類同盟が攻撃しなければ、これ以上ザムが暴れる事は無いと宣言した。
下を見れば、難民を含むラガツの街の人々が、宣言を聞いて外に出て空を見上げてザムを見ている。
ここでの僕の最後の仕事をしよう。
「では最後に、新たに仲間となるセイラン王国の方々へデアフレムデ様からお話があります」
そしてひざの上に座っているフォニアさんが僕の胸とポンと叩いた。僕はうなずくと声を張り上げた。
「新たな人類救済互助機関の最初の仲間になるセイラン王国の人達よ!そして、アポリオンと戦った勇敢なる兵士たちよ!僕は異世界からの召喚された天田 英行!あなた達の言い方であるならヒデユキ・アマタです!聞いてください!」
本来なら、僕が演説する予定は無かった。だけど、ライツナー伯爵から依頼があった。
母国を、故郷を守りきれなかったセイラン王国の兵士達がうつ病の様な状態になっており、人によっては自暴自棄になっている者も居るので、どうにか元気付けてやってはくれないかと。僕の言葉で元気付けられるか分からないけど。僕は依頼を受けた。僕だって殆どお飾りだけどスベン公国軍の将だ。出来る事はしたかった。
「あなた達を亡国の民、敗残兵だという人が居ました。ですが、僕はそうは思いません。確かにあなた方は、アポリオンに故郷を奪われ国を追われました。あなた方は戦った。戦った結果負けてしまった。其れは事実です。ですが、戦わねば敗北という結果すらありません。
守れなかった人々も多かったでしょう。しかし忘れないでください。あなた達が守れた人達がいます。あなた達がやった事は無駄ではありません。何故ならそこに生きる人々が居るからです!
僕はカルナートで見ました。あなた達と同じように故郷で戦う人達を。彼らは、旧式のフォルスであるダロスを使い、そのダロスに乗れなければその身で人々を守らんとアポリオンを相手に、決死の覚悟で戦っていました。正直に言いましょう。僕にはザムがあったから戦えましたが、もし僕がダロスでアポリオンと戦えといわれたら、逃げ出していたと思います。だが彼らは僕と違った。勝ち目など無いに等しかったのにもかかわらず守る為に戦っていました。もしかしたら惰性で戦っていたのかもしれません。故郷を蹂躙したアポリオンを一匹でも多くの道連れにしたかっただけなのかもしれません。理由はそれぞれでしょうが、彼らは逃げる事も座して死を待つことをせず戦っていました。そんな彼らを僕は英雄だと確信しています。
そして同じくアポリオンと戦い残念な事に敗北したあなた達もまた英雄です。あなた達の中には国を守れなかったと悔いている人も居るでしょう。ですが同時に守りきれたものもある事を忘れないでください」
疲れて座り込んでいた男達が立ち上がり、涙を浮かべてザムを見上げているのが見えた。
「今ここにセイラン王国の人々が生き残っているのは、兵士であったあなた達が必死に戦い、セイラン王国の人々が逃げる時間を稼いだ結果です。
それを誇ってください。あなた達が戦わなければ、今日ここに生きているセイラン王国の人達は死んでいたのですから!そして、守られた人々にも言いたい。あなた達は英雄達により助けられた。それでも今なお、苦難の中にいる事は分かります。ですがどうか、英雄達の行為が無駄ではなかったと思えるように生きてください。戦わなくていい。逃げてもいい。ですが、英雄達にあなた達が助ける価値があったと思えるように生きてください。
セイラン王国の英雄達に僕は言います。
セイラン王国の英雄達よ。セイラン王国を取り戻すのには、あなた達の力が必要です。
あなた達は、アポリオンを恐ろしさを知っている。しかし、それでもアポリオンと戦う強さを持っている。
僕の力だけでも、あなた達の力だけでも、アポリオンには勝てません。ですが、僕らは力を合わせる事で初めてアポリオンと勝負することが出来るのです。
無理だと思う人も居るでしょう。そう考えてもなんら不思議ではありません。むしろ僕は共感できます。ですが、スベン公国の英雄達は勝ちました。奪われた故郷を取り戻しました。ならば同じく英雄であるあなた達に出来ないはずはありません!
アポリオンと戦うことが出来るこのザムを貸しましょう!
アポリオンと戦い勝つことが出来る新たな戦い方を教えましょう!
そしてあなた達が自分の手で、故郷を、そして誇りを取り戻すのです!」
そう言いきった時と同時に難民キャンプのほうから歓声があがった。
「そうだ!まだだ!まだ終わってない!」
「やってやる!故郷を取り返すんだ!」
「セイラン王国万歳!うぅぅ!」
「こんな場所で終わってたまるか!戦う!戦うぞ俺は!」
「やられっぱなしで終われるか!一発かましてやる!」
意気軒昂な歓声が響く中、人類同盟本部に入った時は曇りだった空は、いつの間にか晴れていた。
1
あなたにおすすめの小説
わたしの下着 母の私をBBA~と呼ぶことのある息子がまさか...
MisakiNonagase
青春
39才の母・真知子は息子が私の下着を持ち出していることに気づいた。
ネットで同様の事象がないか調べると、案外多いようだ。
さて、真知子は息子を問い詰める? それとも気づかないふりを続けてあげるか?
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
凡人がおまけ召喚されてしまった件
根鳥 泰造
ファンタジー
勇者召喚に巻き込まれて、異世界にきてしまった祐介。最初は勇者の様に大切に扱われていたが、ごく普通の才能しかないので、冷遇されるようになり、ついには王宮から追い出される。
仕方なく冒険者登録することにしたが、この世界では希少なヒーラー適正を持っていた。一年掛けて治癒魔法を習得し、治癒剣士となると、引く手あまたに。しかも、彼は『強欲』という大罪スキルを持っていて、倒した敵のスキルを自分のものにできるのだ。
それらのお蔭で、才能は凡人でも、数多のスキルで能力を補い、熟練度は飛びぬけ、高難度クエストも熟せる有名冒険者となる。そして、裏では気配消去や不可視化スキルを活かして、暗殺という裏の仕事も始めた。
異世界に来て八年後、その暗殺依頼で、召喚勇者の暗殺を受けたのだが、それは祐介を捕まえるための罠だった。祐介が暗殺者になっていると知った勇者が、改心させよう企てたもので、その後は勇者一行に加わり、魔王討伐の旅に同行することに。
最初は脅され渋々同行していた祐介も、勇者や仲間の思いをしり、どんどん勇者が好きになり、勇者から告白までされる。
だが、魔王を討伐を成し遂げるも、魔王戦で勇者は祐介を庇い、障害者になる。
祐介は、勇者の嘘で、病院を作り、医師の道を歩みだすのだった。
魔王を倒した手柄を横取りされたけど、俺を処刑するのは無理じゃないかな
七辻ゆゆ
ファンタジー
「では罪人よ。おまえはあくまで自分が勇者であり、魔王を倒したと言うのだな?」
「そうそう」
茶番にも飽きてきた。処刑できるというのなら、ぜひやってみてほしい。
無理だと思うけど。
僕の秘密を知った自称勇者が聖剣を寄越せと言ってきたので渡してみた
黒木メイ
ファンタジー
世界に一人しかいないと言われている『勇者』。
その『勇者』は今、ワグナー王国にいるらしい。
曖昧なのには理由があった。
『勇者』だと思わしき少年、レンが頑なに「僕は勇者じゃない」と言っているからだ。
どんなに周りが勇者だと持て囃してもレンは認めようとしない。
※小説家になろうにも随時転載中。
レンはただ、ある目的のついでに人々を助けただけだと言う。
それでも皆はレンが勇者だと思っていた。
突如日本という国から彼らが転移してくるまでは。
はたして、レンは本当に勇者ではないのか……。
ざまぁあり・友情あり・謎ありな作品です。
※小説家になろう、カクヨム、ネオページにも掲載。
友人(勇者)に恋人も幼馴染も取られたけど悔しくない。 だって俺は転生者だから。
石のやっさん
ファンタジー
パーティでお荷物扱いされていた魔法戦士のセレスは、とうとう勇者でありパーティーリーダーのリヒトにクビを宣告されてしまう。幼馴染も恋人も全部リヒトの物で、居場所がどこにもない状態だった。
だが、此の状態は彼にとっては『本当の幸せ』を掴む事に必要だった
何故なら、彼は『転生者』だから…
今度は違う切り口からのアプローチ。
追放の話しの一話は、前作とかなり似ていますが2話からは、かなり変わります。
こうご期待。
大好きな幼なじみが超イケメンの彼女になったので諦めたって話
家紋武範
青春
大好きな幼なじみの奈都(なつ)。
高校に入ったら告白してラブラブカップルになる予定だったのに、超イケメンのサッカー部の柊斗(シュート)の彼女になっちまった。
全く勝ち目がないこの恋。
潔く諦めることにした。
俺を振ったはずの腐れ縁幼馴染が、俺に告白してきました。
true177
恋愛
一年前、伊藤 健介(いとう けんすけ)は幼馴染の多田 悠奈(ただ ゆうな)に振られた。それも、心無い手紙を下駄箱に入れられて。
それ以来悠奈を避けるようになっていた健介だが、二年生に進級した春になって悠奈がいきなり告白を仕掛けてきた。
これはハニートラップか、一年前の出来事を忘れてしまっているのか……。ともかく、健介は断った。
日常が一変したのは、それからである。やたらと悠奈が絡んでくるようになったのだ。
彼女の狙いは、いったい何なのだろうか……。
※小説家になろう、ハーメルンにも同一作品を投稿しています。
※内部進行完結済みです。毎日連載です。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる